見えないコロシアム
釣ール
終わらない負
戦いと誤解。理解されない苦痛は
さっきまで久しぶりにいい夢を見ていたのに。
いつもは戦いばっかりで休みという休みはほぼなく、
ある研究者用端末に日々の記録が残っているのだ。
消滅可能性自治体がいくつか日本にある。
日本人が滅ぶのを阻止するために遺伝子を採取する必要が出てきた。
逆にこれを機に人類を滅ぼすため、人の遺伝子を怪物に変える研究も行われるようになった。
その研究員たちは社会にしいたげられた者ばかりで形成されており、世を捨てて隠れて生きる他の人間を守るために
かといって
限定的な人類の繁殖を成功させることが目的のマッドサイエンティスト集団だ。
自分も生身の人間なのにな。
と、つぶやきながら。
痛みはいつも誰からも理解されない。
なぜなら、他の人間の痛みも伝わらないものだから。
今日も世界の当然を疑って
-怪物無力化
相手をかばうつもりは
もう二十歳。
他の同世代は車に大学や専門、そしてそれぞれの道。
一方で
カップラーメンを食べ、コーヒーを飲む。
今は物価高で全てが高級品。
日本ならまだ安い方だ。
先人がもっと早い段階で幸せによる強制を改善していれば
ありえないタラレバなんてらしくないとは思いつつも怪物達と戦い遺伝子を採取することは、何年経っても慣れないものだ。
『なぜお前はそれだけの力がありながら従っている!
お前に…お前のような強者に俺たちの痛みが分かるものか!』
フラッシュバックは終わらない。
気絶させた怪物を研究所に送る。
簡単な戦いじゃない。
人が獣に変わる姿を現実で目の当たりにし、更に戦うのだから。
そんな戦いの後の日常にカップラーメンとコーヒーは息抜きにピッタリだ。
そこを一人の女性が接客している。
あの女性はテキパキと働いているがまえに通りすがった時に『あんな店辞めてやる!』と親しい相手らしき誰かとスマホで愚痴っていた。
それなのに仕事をしている彼女の姿が同世代らしき見た目もあって感情移入している。
なぜ俺だけこんな比較ばかりの毎日をし続けなければいけないのだろう。
怪物無力化に暴力は使うが一回も殺したことはない!
この武力は身を守るためのものと加減を知るためのもの。
綺麗事が言えない時に怪物を殺さざるを得ないこともある。
それがどれだけ罪悪感を産むことになるのか。
頭で考えてばかりでは辛い記憶ばかり広がってしまう。
「なんで今どき学歴社会よろしくあんな仕事を押し付けられなきゃいけないんだ。
やってられるか!って言ってやったよ。
そしたら辞表書く時間やるからって他の部屋に案内されてずっと俺だけ書いてたんだ。
それからのことは聞かないでくれ。
頼むから。」
通り過ぎようとした彼女は会話が聞こえたのか
じゃっ!と誰もいない相手に電源を切る動作をして去ろうとすると彼女が声をかけてきた。
「あなたも…未だに学歴で判断されて激務を押し付けられた経験があるんですか?」
ちょっとしたイタズラが彼女の行動をうながしてしまったようだ。
仕方がない。
こんな機会も無いからと
いや、思い出したとしても新しい記憶にあるのは怪物無力化の時だけ。
目の前の彼女とちゃんと話そう。
そう切り替えた。
「学歴あって働いてもさ、有名人や医者に社長って言われても幸せそうに見えたことないよね。」
彼女は確信に迫る話を紅茶に砂糖をしたいれながら話していた。
「冷静に考えれば誰かの幸せなんて一面でしかなくて羨ましいだなんて思えないはずなのにさあ、私は自分に自信がなくてずっと嫌な仕事を引き受けて暮らしてる。
世の中多様性とかフェミニズムがいるけれどあいつらは政治的な保護を受けたいだけ。
実際は男女問わず誰も助けてくれない。
家族や彼氏の一人くらいいないと人権が得られない恐ろしい世界でなんで働かないといけなんだろうって。」
思いのほか心境を初対面の男にゲロってくれた彼女に
「その通りだ。仕事が無くなった俺と喫茶店で話すだけある。」
「からかわなくていいのに。君は何も頼まないし、私も気を
砂糖を沢山つかって甘さを味わいたいのに健康第一で今の飲み物全部不味い。
そもそもこんなクソみたいな世界で長生きなんてしたくありません!」
「俺もそう思ってる。消滅可能性自治体や都市があると言われてるのに政治的な関わりがある奴らだけがプラス思考な時点で疑いだけが救いだ。」
ふふふ。
どこまでも気が合うなあ。
こんなひねくれた二十歳じゃ生きづらいだけかもしれない。
でも二人でいれば楽しく思える。
二人はいつの間にか外を笑い続けた。
見せかけの明るさなんて誰も信じていない。
みな演技力を野心のために磨いているだけだ。
でも
いつか二人だけの世界で何もかも許し合う…いや、永遠を目指さない関係を
演技力の高い連中には
そう誓いあった。
それから数日後。
彼女は何も告げずに職場から離れた。
何度も辞めるとは言っていたから不思議では無いがいつも喋る時はこの公園のベンチだったし、自慢じゃないが
「さよならか。誰かも言ってたっけ。
別れが人生だと。」
これでいい。
これでいいんだ。
*
人気のない山に既に研究員が隠れている廃墟。
ここで暴れ方が
性別は不明。
怪物は無数の兵力を持っていて、兵に指示を出した。
場所が場所なら銃を使うことも許可されている。
だが
この兵は実体がない生物。
本体を叩かないかぎりわき続けるかもしれない。
兵を倒しつつボスである怪物の元へ向かう。
怪物は楽しそうに笑いながら兵を
それでも
今回の怪物は戦闘になれていないようでずいぶんあっけなかった。
「これで仕事は終わりか。」
そう思い怪物が変身を解くと…
そこには前まで一緒に世の中の理不尽と生きていくと誓ったあの彼女の顔が現れた。
「お、おい!しっかりしろ!
なんでお前がここに!」
無力化しただけなので彼女は傷だらけでも無事ではあった。
「はぁ…やっぱり…金がなくて…はぁ…この仕事を…やれば…ストレス発散も出来るし…役に立てる…能力も…手に入るって…それに…君の顔が浮かんだんだよ…もし、君なら…貧乏な君なら…私の…収入でヒモになっても…全然時代にあってる…逆らい方ができるって…どうしても…力になりたくて…」
「まってろ。
今ここから…」
するの研究員が自分達に銃を向ける。
「血も涙もない
あの派閥は弱い者を
人間が怪物を産んだ。
つまり人間が怪物。
普通に考えれば分かることだろう?」
普通か。
お前たち外道も普通を口にするのか!
そして近くにあった機械でカメラの映像を書き換えながら二人は逃走することにした。
「なんで…君が…?」
「あれだけ不満を抱えながら共存の努力を俺たちは続けきたんだ。
これくらい余裕。」
「そう…じゃなくて…怖くないの?私が?」
ここはしばらく
だが返事は決まっている。
「むしろ俺の方が怖いだろ。あんだけアクションしたんだから。」
「そう…か…聞くまでもなかったね…」
彼女を抱きかかえ、
こんな二十歳いないだろ?と近くに同世代がいたら自慢したいくらいに
走る。
走る。
走る。
走る…走る!!!
追いつめられても戦って逃げてやる。
命はとりゃしないしむしろとられる側だ。
彼女は安心しきった表情で
逃げ切ってやる。
こんな現実から!
見えないコロシアム 釣ール @pixixy1O
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます