第41話テオドリックの作戦

 第一師団とラディアンス島部隊が魔族を押し返すために北上していたところ、魔王城では異変が起こっていた。魔王城が何者かに攻め込まれていたのだ。それも南側からではなく、北側から攻め込まれていた。


 人間たちが攻め込んでくるとすれば南側。ヴォルカニアス帝国は魔族領の真南に位置しているし、ミスティカル王国は南西、エーレシア神聖国は南東に位置している。もちろん、北上ではなく、南下して攻め込む可能性もなくはない。


 だが、そうなると防衛戦ではなく、侵略行為となる。人間同士で争っているのに、魔族領に攻め込む余力などどの国もないのである。もちろん、魔族は人間に仇なす存在ではあるので、滅ぼしたいというのが本心である。


 だが、大規模侵攻もなく当面は損害もないので、互いに干渉しないというのが実情であった。魔族領を支配したからといって、資源の恩恵があるかもわからず、他国との戦争に備えて戦力を温存しておきたいのである。


 その油断が仇となった。ほとんどの戦力は南下していて、魔王城の防衛は必要最低限しかおらず、何者かの攻撃を受け大打撃を受けている。大急ぎでヴォルカニアス軍と交戦している部隊を呼び戻すしかなかった。


「父上、母上、逆襲の時なのじゃ!」


「ああ、レドラ。我らの誇りを取り戻すのだ!」


「レドラ、油断しては駄目ですよ」


「お父様、お母さま、ご無事で良かったですわ」


「ああ、私も嬉しいよ、マーメ。折角助かったんだ、無理はしないように」


「そうよ、マーメ。無理はしないように。無理はせずに魔族を完膚なきまでにぶっ潰して差し上げるのよ、お~ほっほ!」


 レドラとマーメとホワイティである。テオドリックは、レドラたちを北側から攻めさせる作戦を立てていた。変身して攻めさせれば本来の力を発揮できると考えたからである。そうなってくるとテオドリックたちと一緒に行動は出来ない。


 何故ラディアンス島部隊が火竜族と一緒にいるのかという話になってくる。間違いなく混乱が生じるであろう。ラディアンス島部隊はレドラの存在を認めているが、第一師団や第十師団はそのことを知らない。無用な混乱や仲間割れを防ぐためである。


 魔族が北側から攻めてこないであろうという油断もテオドリックは考えて作戦を立てた。ラディアンス島部隊と第一師団が魔族と交戦しているうちに、レドラたちが魔王城を落とすという算段だったのだ。


 好材料がありながらも危険な賭けである。必要最低限の防衛しかいないとはいえ、魔族の本拠地を三人で落とすのは至難の業だ。そこで嬉しい誤算があった。領土を奪われた火竜族と人魚族が魔族領の北に集結していたのだ。


 領土を奪い返すためである。それと以前の借りを返すためだ。二度と火竜領と人魚領に攻め込んでこないようにするために徹底的に魔族を叩くことを決めたのだ。


 火竜族のブレスと人魚族の水魔法で魔族は防戦一方だ。魔王城に引きこもることしかできなくなったのだ。戦場から引き返してきた魔族も火竜族と人魚族の攻撃に耐えきれず、倒されるか、魔王城に逃げ帰るしか出来なかったのだ。


 テオドリックは初めから時間稼ぎをしていれば勝利は掴めると確信していた。情報通のオットー監査官から火竜族と人魚族が魔族領の北側に集結していると聞いていた。レドラがその場所に行けば合流できると考えたのだ。


 その作戦が実り、ヴォルカニアス軍、並びに火竜族と人魚族の勝利がもたらされたのだ。


「父上、母上、やったのじゃ。妾たちの勝利じゃ!」


「ああ、私たちの勝利だ。二度と火竜族領に魔族は攻めてこないだろう」


「レドキ様、ようやく我らの故郷に帰れるのですね」


「お父様、お母さま、やりましたわ。私たちの勝利です」


「頑張ったな、マーメ。良くやった」


「マーメ、無事で良かった。これで静かに暮らせますわね」


 人外部隊の活躍により貴重な勝利がもたらされたのであった。





「レドラ、ホワイティ、マーメ、やってくれたんだな」


 あいつらなら絶対に勝利をもたらしてくれると信じていた。撤退していく魔族を眺めながら俺は勝利を確信した。


「レドラちゃん、ホワイティちゃん、マーメちゃん、やってくれましたね、隊長!」


「ああ、あいつらのおかげだ。人参でも何でも食わせてやる」


「ふふ、祝勝会の準備しないとですね」


「私は疲れました。ゆっくりしたいです。監査官をこき使わないでください。非戦闘員なのですから」


「オットー監査官、すみません。ですが、オットー監査官の力がないと厳しかったでしょう。感謝します。エイプリルとニャアとザークスもお疲れ様。助かったぞ」


「全ては隊長のおかげです!」


「やったにゃ! ニャアたちの勝ちにゃ」


「やったっす! 姉さんたち守れたっす」


 隊員たちのおかげで勝利を持ち帰ることが出来た。こいつらの充実した顔を見ると、俺はつくづく幸運な隊長だと気付かされるんだ。

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