第39話ヴァルガスのプライド
最前線が近づいてきた。
「レドラ、ホワイティ頼んだぞ」
「任せておれ。妾の力を見せてやるわい」
「ええ、人参のために頑張るわ」
マーメは既にニャアを降ろして別行動している。北上する俺たちとは反対に二人は南下した。
「行くぞ、エイプリル、ザークス、ニャア」
「はい!」
「任せるっす!」
「行くにゃ!」
他の隊員は遅れて合流する予定だ。
「アンチポイズン、アンチパラライズ、アンチカース、ヒール」
俺は第一師団を回復しながら敵を斬りつけている。キュアなら何の状態異常でも治せるが、魔力消費が激しい。回復も最小限にしている。体力全快させてやりたいが、それでは俺の魔力が持たない。ここでは判断一つ間違うと大変なことになる。
「エアロブラスト!」
エイプリルが魔法で敵を倒している。あれから魔力量が増えたようで威力も使用可能回数も増えている。頼もしくなってきた。
「ニャアの攻撃を食らうにゃ!」
ニャアが打撃で敵を倒している。ダレンを圧倒したほどの力をここで遺憾なく発揮している。
「ここは通してもらいますよ」
オットー監査官は他の場所の映像を映してもらうために呼んだが、戦闘に参加していた。彼の存在で戦局が変わるほどの能力だ。本来は戦闘に参加させるべき人間ではないが、今はそんなことを言っている場合ではない。
魔族がエイプリルに襲い掛かろうとしている。まずい、間に合わない。
「ふん! 姉さんは俺が守るっす!」
「ありがとう、ザークス!」
ザークスが身を挺して魔族の攻撃からエイプリルを守った。頼りになる奴だ。三人は頼りになるが魔族の数が多い。斬っても斬っても中々前に進まない。
「テオドリック大佐!」
セルフィーナ准将が見えてきた。
「セルフィーナ准将、状況を教えてもらえますか?」
通信でも簡単な状況を聞いていたが、ここでは詳細な状況を聞くことにした。出発前と状況が変わっているかもしれないし、実際に現場を見て何かわかることがあるかもしれない。状況は予想通りだった。
ヴァルガス大将が力任せに進軍して魔族の搦手に苦戦している。第一師団だけで討伐するために救援要請さえも禁止されていたとのことだ。このままでは全滅するということで、命令違反ではあるが、ラディアンス島部隊に救援を要請したという。
ここまでの状況になっても救援を要請しないのか、ヴァルガスという男は。隊員が状態異常になっても進軍させるとは自殺行為だ。本当にセルフィーナ准将がいてくれて良かった。
「ヒール。大丈夫ですか? セルフィーナ准将」
「ああ、助かる。救援感謝するテオドリック大佐」
セルフィーナ准将と一緒に最前線に向かう。彼女は氷魔法の使い手だ。彼女とその部下の力によって徐々に前に進めるようになっていた。第十師団が進軍したおかげで第一師団が息を吹き返そうとしている。
「クケケケ、死ね人間」
最前線に到着した。まずい、ヴァルガス大将が魔族から襲われているが、状態異常で動けない。
「キュア、ヒール」
俺はヴァルガスを回復して魔族を斬り捨てた。
「余計な真似を……貴様の助けなどいらん……」
死にかけていたというのに何という態度だ。プライドが高い人間だとの噂は聞いていたが、ここまでとは。
「ヴァルガス団長、ご無事でしたか?」
「心配いらん。魔族ごときに遅れなどとらん。それより、救援を出すなと言ったはずだぞ、セルフィーナ。まあ、よい。皆の者行くぞ!」
ヴァルガスは隊を進軍させようとしている。本当は止めるべきだろうが、聞く耳を持つような人間には見えない。上の者の暴走で困るのは下の者たちだと言うのに。俺たちで何とかするしかない。
「セルフィーナ准将、大変ですね。お察しします」
「なあに、慣れたものだ。困った上司をサポートするのも、ふふ」
セルフィーナ准将は俺の皮肉に腹を立てて言い返してくることはなかった。ここで腹を立てるようなら底の知れた人物だと思うが、まともな人物なようだ。第一師団が今まで上手くいっていたのは彼女のおかげだろう。
それにしても困ったものだ。ヴァルガスは何度も状態異常になりながら進軍している。俺が治さなかったらどうする気だ。俺の魔力も無限ではない。まったく迷惑な話だ。このまま置いて行きたい。
「セルフィーナ准将、彼をこのまま放っておいたら駄目ですかね?」
「まあ、そう言うな。彼は状態異常ではなかったら強い、状態異常で能力が発揮出来ていないだけだ」
確かにヴァルガスの能力は高い。力352、体力298、敏捷性187と身体能力だけ見れば他の兵とは比べ物にならない。だが、それ以外の能力が低い。指揮32、統率87、賢さ28だ。身体能力だけの脳筋ゴリ押し戦法だけでここまで来たようだ。
それに対してセルフィーナ准将は力73、体力68、敏捷性82、魔力95、賢さ98とヴァルガスと対照的な能力だ。俺としては彼女の能力の方が魅力的だ。
第十師団が後方の第一師団の回復を終えて進軍してきている。俺の回復役としての負担が少なくなって助かっている。目の前の敵だけに集中していればいい。だが、それでも厳しい状況には変わりない。俺たちは魔族との決着をつけるために進軍する。
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