第37話告白

 戦場に向かう前に、俺はあることを隊員の皆に知らせるか悩んでいた。既に知っているオットー監査官に相談してみた。


「そんなことですか。大丈夫だと思います。正直に話されてください」


 オットー監査官は興味なさげに返答してきた。彼にとってはどうでもいいことのようだ。俺にとっては深刻な問題なんだがな。


 隊員たちに正直に話してみた。どういう反応が返ってくるのやら。


「え? いまさらですよ、隊長。どうしたんですか?」


「そうですよ。ラディアンス島では当然の話です」


 予想外の反応が返ってきた。俺が話したのはレドラたちのことだ。これから戦場に向かうにあたり、船で向かっては遅すぎる。レドラやホワイティの力がないと間に合わない。そこで俺は隊員たちに正直に話すことにした。


「お前たち、知っていたのか?」


「ええ、普通の人間とは雰囲気というかオーラが違いますし。喋り方も特有といいますか」


「慣れていると一目でわかります。島外の方には見分けるのは難しいかもしれませんが」


 俺一人で無意味に悩んでいたようだ。だが、他にも気になることはある。


「レドラは以前隊を襲っただろ? それは気にならないのか?」


「気にはなりますが、レドラちゃんはもう仲間です。何か事情でもあったのでしょう」


「自分はレドラのおかげで自信を取り戻せました。気にはなりますが、もう仲間と認めています」


 隊員たちは既にレドラの正体を知っていて、それを許していたようだ。心の広い奴らだ。


「すまんのう。あの時は腹が減っていて我を忘れていたのじゃ」


 レドラは誤魔化すことなく素直に謝った。あの時は腹が減っていてホワイティを狙っていたというのが事実だ。別に隊を狙ったわけではない。森の手前に隊舎があったのでそこを通ろうとしただけだ。そこに火竜が現れて大事になった。


 迷惑をかけたというのも事実だが、勝手に騒いだのも隊員だ。まあ、火竜が現れれば大事にはなるだろうが。真実を話せば隊員の誤解も少しは解けるだろうが、レドラは全て自分の責任として話した。ここで真実を話せば長くなる。今は緊急だ。俺はレドラの意をくみ取り、ここは真実を話さないことにする。


「ホワイティちゃんとニャアちゃんとマーメちゃんもそうよね?」


「ええ、そうよ」


「そうにゃ」


「ですわ」


 彼女たちは動物に変化し、人間に戻る。自分たちが人化する動物だと証明するためだ。


「やっぱりそうだと思った。魔力が強すぎるもの」


 確かに彼女たちの魔力は人間にしては強大すぎる。わかるものにはわかるのか。


 俺は隊員たちに作戦を説明した。ホワイティに乗っていくのは俺だ。マーメはニャアを乗せて海上を進んでいく。レドラが一番体が大きいので彼女に乗っていくのは、エイプリル、ザークス、オットー監査官だ。ダレンはラディアンス島に残って隊の防衛を指揮してもらう。他の隊員たちは船で向かってもらうことにした。


 ニャアを除いた人外部隊は俺たちを乗せて戦場に到着した後、ある役目を課している。そのため俺たちと一緒に戦うことはない。一緒に戦ってくれれば心強いが、この戦いの行く末を決めるのは彼女たちの役目と言っても過言ではない。


「レドラ、ホワイティ、マーメ頼んだぞ」


「任せるのじゃ。お主も気をつけてな、テオドリック」


「早く終わらせて人参が食べたいわ」


「お任せください。わたくしの魔法をお見せして差し上げますわ」


 こいつらに任せておけば間違いないだろう。必ずや勝利をもたらしてくれると信じている。


「エイプリル、ザークス、ニャア、行くぞ! ダレン、留守は頼んだ」


「はい、任せてください!」


「任せるっす! 姉さんたちは俺が守るっす!」


「任せるにゃ! ニャアは強いのにゃ!」


「かしこまりました。ご武運願っております」


 一緒に行動する組も頼もしい。今までの訓練の成果を見せてほしい。オットー監査官にはこの場で声はかけない。一応、軍属ではないから。表立って命令するわけにはいかないが、彼にも事前に付いて来てもらう様に言っている。戦闘面以外で助かることがあるからだ。まあ、戦闘面でも期待しているが。


 それにして魔族の大規模侵攻か。他国との戦争や、魔族と単体で戦ったことはある。だが、今回のような事態は初めてだ。レドラやマーメの言うように魔族領で何か異変が起っているようだ。今回の大規模侵攻も何かの思惑があるに違いない。


 だが、勝つだけだ。今は勝つことだけ考えていればいい。その後のことはその時に考えればいい。俺たちの力をもってすれば魔族といえども打ち破るのは難しくない。

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