第29話料理長ざまぁ回

 続いては食堂だ。現在は営業時間前だ。料理人たちが開店の準備をしている。隊員たちはよく食う。準備は大変そうだ。


「働け、働け、ぶひ!」


 料理人たちが忙しそうに働いている中、腹の出ただらしない男がふんぞり返っている。男は偉そうにしているだけで全く仕事をしていない。それを料理人たちは苦々し気に横目で見ている。だが、彼がこの職場を牛耳っているのか誰も料理人たちは言い返せない。


「ハロルド、貴様食材費を使いすぎだ。隊員たちになど粗悪なものでも出しておけばいい。奴らは料理の味などわからん。もっと、もっと、も~っと安い食材を仕入れろ。ぶひ!」


「僕は隊員さんたちに美味しいものを食べてほしいだけです。それに、テオドリック隊長が食材にはこだわれと仰っていました」


「あんな奴の言うことなど聞くな! あいつは味のわからん馬鹿だ。適当なものでも食わせておけば満足する。ぶひ!」


 随分好き勝手言ってくれるな。そろそろ話に入るか。


「悪かったな、味音痴で。予算はきっちり出しているはずだ。その分を使い切れと指示を出していたはずだマルダモン。誰がケチれといった? 差額をどうするつもりだ?」


「こ、これはテオドリック隊長……テオドリック隊長に言っていたわけではありません……それに節約は必要でしょう? 隊員たちはよく食べるのです。食材がなくなって出せる料理がなくなったらそちらも困りますよね?」


「予算をオーバーしたら追加で出すと言っていただろう? お前は何度か追加の予算を申請していただろう? その分はどうした? 節約を指示しているのはおかしいはずだ。本来なら予算は余り過ぎているはずだ。余剰分はどうした? それを使えばいいだろう? 確かにある程度の節約は必要だが、誰が粗悪な食材を仕入れろと指示した? どうした? 答えられないのか?」


「そ、それは……ぶひぃ……」


 ここでもオットー監査官の出番だな。彼はマルダモンの不正の証拠を大量に取り出した。


「マルダモン料理長、貴方の不正の証拠です。予算の余剰分を懐に入れていたようですね。貴方もマルシャン元事務部長と同様、杜撰な手口です。この程度の手口で私の目をごまかせるとでも? もう言い逃れは出来ないですよ」


 オットー監査官の頭上には目の形をした魔法陣が浮かんでいる。貴族派の悪巧みなど全てお見通しだ。厄介な男を敵に回したな、マルダモンよ。


「元……? マルシャンはどうなったのです? ぶひ……?」


「逮捕された。恐らく刑期は十年程度らしい。お前もだ、マルダモン」


「そ、そんな、十年もお菓子を食べられないというのですか?」


 こいつもマルシャンと同じ思考回路だな。まったく、貴族派というのはどいつもこいつも自分がどのような立場にいるのか未だにわかっていないのか。


「当たり前だ。少しは体を動かして痩せろ」


 マルダモンは衛兵に連れて行かれた。


 刑期を終えた頃にはまともな人間になってくれていればよいのだが。





「あ、あの……」


「悪かったな、ハロルド。巻き込んでしまって」


 ハロルドは俺がホワイティの分の人参を取りに来ると、いつも嫌な顔一つせずに対応してくれる。彼の普段の仕事ぶりを観察していると、仕事に対する熱意が伝わってくる。


「いえ、僕はいいのですが、これから食堂はどうなるのでしょうか? マルダモン料理長がいなくなって……」


 マルダモンの料理能力は1だ。指揮能力も統率能力も低い。なので、いなくなっても全く困らない。


「俺はお前に新しい料理長になって欲しいと思っている、お前の料理は絶品だ、ハロルド。どうだ?」


 ハロルドの料理能力は90だ。マルダモンがふんぞり返っていただけのおかげで料理の提供は主にハロルドの手によって行われていた。隊員からの評判も上々だ。


 料理以外の能力で言うと、指揮が68、統率が65、気配りが95だ。料理以外の能力も目を見張るものがある。隊員たちに美味いものを食わせたいという気持ちも評価したい。


「不安もありますけどやりたいです! 僕の料理を楽しみにしてくれている限り」


 本人もやる気のようだ。良かった。


「ふふ、ハロルドさんの料理は確かに絶品です。いつもお昼が楽しみです」


 オットー監査官もハロルドの料理がお気に入りのようだ。彼がこんなこと言うなんて珍しい。彼が好物の話をしているのを聞いたことがないし、こんな風に思っていたなんて。


「人員補充や食材の予算のことも気軽に相談してくれ。期待しているぞ、ハロルド」


「はい、頑張ります!」


 食堂でも貴族派の腐敗が見られた。まったく、奴らはどこにでもいるな。何度かやっているうちに奴らへの対応の方法がわかってきた。オットー監査官の存在も助かっている。貴族派がいくら悪知恵をふり絞っても彼の目はごまかせない。


 新しい料理長が誕生した。不安もあるだろうが頑張ってほしい。ハロルドなら大丈夫だろう。俺は若い可能性に賭けることにする。

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