第28話事務部長ざまぁ回
隊の戦力面は整った。でも、それ以外の面で物足りないことがあるので俺は改革を断行することにする。その一環として俺は事務部に来ていた。ある人物たちの会話に聞き耳を立てているのだ。
「おい、これはどういうことだ? 何故これだけ装備品に金をかけている? 私は格安の物を買えと言っただろう。ぶひ!」
「僕はテオドリック隊長の指示に従ったままです。それに僕個人としても防衛のことを考えると装備品の質にこだわるのは必要だと考えています」
「誰が貴様に意見を求めた? 私は安い装備品にしろと命令したまでだ。それを勝手なことをしおって。私の懐が痛む……ではなかった、節約は必要なのだ。ラディアンス島など攻めてくる国などない。装備品などどんな劣悪な物でもいいのだ。ぶひ!」
「先日はエーレシアが攻めてきたではないですか? 予算が出ていますし、テオドリック隊長の指示もあります。問題ないはずです」
「貴様はすぐに言い返してくるな! 私の言うことを黙って聞いていればよいのだ。ぶひ!」
これは末期だな。ここまで腐敗が進んでいるとは。俺は隊の責任者だが、権限的にはラディアンス島の全てのことに関して任せられている。黙っているわけにはいかない。
「そこまでだ。今の会話は聞いていた。事務部部長マルシャン、お前の悪事はもうばれている。横領の証拠はいくらでも残っているぞ」
「な……何を仰っているかわかりません、テオドリック隊長……私は部下に節約を教えていただけです……ぶひ……」
「とぼけるか。お前が格安の装備品を仕入れて予算との差額を懐に入れていたのはわかっている。オットー監査官」
俺の後ろからオットー監査官が現れる。彼はデスクの上にどさりと大量のファイルを置く。そのファイルにはマルシャンが横領をしていた証拠が大量に記されていた。
「杜撰ですね。私がどれほどの中央の官僚の不正を暴いてきたと思うのですか。彼らならもっと上手く行いますよ。貴方程度の手口暴いてくれと言っているようなものです。私たち監査官の目を見くびりすぎです」
そういうオットー監査官の頭上には目の形をした魔法陣が浮かんでいる。彼の魔法だ。彼にかかったらどんな不正も嗅ぎ当てられてしまう。
「な、なななな、これは何かの間違いです……ぶひぃぃぃ!」
これほどの証拠が出てもとぼけるか。だが、俺もオットー監査官も逃がさないぞ。
「とぼけるか。逃げられるとでも思っているのか。入ってくれ」
そこに気まずそうな中年男性が入ってきた。
「マルシャン部長、申し訳ないです。全てテオドリック隊長とオットー監査官に話しました。オットー監査官の魔法によって全ての会話の記録も取られています。申し訳ないです……」
その中年男性は装備品販売の業者だ。全ての不正を話してもらい記録も取った。もう言い逃れは出来ない。
「お前は法廷で裁かれる。逃げられると思うなよ」
「刑期は十年というところでしょうか。私は貴方の余罪を調べるとします。他にも何かあれば十年が二十年、三十年と伸びるかもしれませんからね。私の目を見くびった報いです」
「ぶ、ぶひぃぃぃぃぃぃ!」
「十年も不味い飯を食うのか。実際監獄の飯はそこまで不味くないらしいが、お前は特別に陛下に頼んで本当に不味い飯にしてもらう。楽しみにしていろ」
「そんな……私の唯一の楽しみの食事が取り上げられるのか……? 甘いお菓子は……? 甘い飲み物は……?」
「そんなものあるわけないだろ。丁度いい。この機会に痩せるがいい」
「お、終わりだぁぁぁ! ぶひぃぃぃぃぃぃ!」
マルシャンはその場にへたり込んだ。
「マルシャン、逮捕する」
「な、何だ……? ぶひ?」
その場に衛兵がやって来た。そうか、オットー監査官だな。事前に根回しをしていたのか。準備がいい男だ。マルシャンは衛兵に連れて行かれた。
「あ、あのテオドリック隊長……」
「ああ、すまない、ニコラス。巻き込んで悪かったな。怖かったろう? マルシャンを逮捕するために少しでも証拠が欲しくてな。つい聞き耳を立ててしまった。よくマルシャンの恫喝に退かなかったな、偉かったぞ」
「は、はい。怖かったです。でも、あそこで退いたら僕は自分を許せなかったでしょう。絶対に退くわけにはいきませんでした」
マルシャンの様にクズもいるが、ニコラスの様に前途有望な新人もいる。
「でも、良かったのでしょうか? マルシャン部長を逮捕して。確かに彼は悪人でしたが、部長がいなくなると事務部の仕事は回るのででしょうか?」
そうか、彼は今後の事務部の心配をしている。彼の言葉をマルシャンに聞かせてやりたい。人数が減ったが心配はない。
「中央から人員は補充する。何人でも言ってくれ。君がこれから事務部の部長になるんだ。困ったことがあったら何でも言ってくれ」
マルシャンが抜けた分の損失はない。彼の事務処理能力は1だ。それに対してニコラスの事務処理能力は76だ。指揮能力は72で、統率能力は70と能力的に問題ない。だが、それを言うわけにはいかない。ここはオットー監査官に任せるか。
「ニコラスさん、ご安心ください。貴方は優秀だ。事務処理能力に関して他の追随を許さない監査官の私が貴方の能力を認めます。胸を張って事務部の部長を務めてください」
「え……? オットー監査官が僕の能力を買ってくれている。そんな……信じられない……雲の上の存在で話すことも憚られると思っていたのに。光栄です!」
オットー監査官にここまで言われたら断れないだろう。兵士からしたら将軍から褒められるようなものだ。
「だそうだ、ニコラス。オットー監査官は嘘は言わない。監査官にここまで認められる人間もいないぞ。俺もオットー監査官も補佐する。人員も早急に補充する」
本当は大噓つきだが、今回の彼の発言に嘘偽りはない。
「あ、ありがとうございます! 頑張ります!」
これで一旦膿は吐き出した。それにしても、貴族派か。能力はないくせに悪知恵だけは働く。まあ、あの程度のこと暴くのは容易だった。俺とオットー監査官の目をごまかせると思うなよ。
マルシャンの様に悪人もいると思えばニコラスのように有望な人間もいる。今後が楽しみだ。彼がいれば事務部は大丈夫だろう。
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