第27話祝賀パーティー
「テオ、大佐昇進おめでとう!」
皇帝の私室を後にすると、クラリス中将から祝福の言葉をいただいた。
「クラリス中将、ありがとうございます。クラリス中将が推薦していただいたおかげです」
クラリス中将が俺を大佐に推薦してくれていたなどと事前に聞いていなかった。俺を認めてくれているのかな。
「遅いくらいだわ。本来ならテオは将軍になっていてもおかしくないくらいの実績はある。陛下も前々からテオを将軍にすると公言なさっていた。でも、貴族派の反発が予想され官僚が先延ばしにするように陛下に進言していたのよ。めんどくさい連中よね。貴族派も官僚も。私も前々からテオを昇進させるように推薦状を書いていた。百枚以上もね。でも、将軍一人の声だけでは現状は変えられなかったの。陛下も支持してくれたけど、二人だけではどうにもならなかった。そこにカイゼン少将とオットー監査官が味方になってくれたのよ。流石に貴族派もこれほどの面子が賛成している議案に反対する度胸はなかったようね。それにしてもカイゼン少将はエーレシア戦の借りがあったからわかるとして、オットー監査官を味方につけるとはね。あの気難しい男を味方に付けるなんてどうやったのかしら。今度教えてほしいわ。監査院の反対をものともせず絶対にテオの昇進を推し進めようとしていたと聞いているわ。いずれにしても良かったわ。改めておめでとうを言わせてもらうわ」
四人には感謝しかない。貴族派と敵対して昇進コースから外れたどころか、完全に軍から居場所がなくなってもおかしくない流れだった。一生中佐どころか少佐やそれ以下の階級に落とされてもおかしくなかった。それが大佐昇進とは。人生何があるかわからない。
それにしてもオットー監査官が俺をそこまで昇進させようとしてくれていたとは意外だ。俺の言うことを全て聞くように皇帝から仰せつかっていただけの人物だと最初は思っていた。いつも気難しい顔をしていて何を考えているかわからなかったが、俺だけでなく、隊員のことを考えて動いてくれているようにも見える。
あくまでも監査官であって隊の所属ではないが、俺は彼のことを補佐官だと思っている。隊の副隊長はダレンとエイプリルの二人だが、オットー監査官は三人目の副隊長だと勝手に思っている。流石に表立って副隊長に任命すると監査院や貴族派との軋轢は予想されるが、勝手に思っているのは勝手だろう。
信頼しているが、本人にそれを伝えるのは気恥ずかしい。それよりも結果を出して俺を大佐に推薦したのが間違っていなかったと思ってもらいたい。
「テオドリック隊長、そろそろラディアンス島に帰りましょうか。隊長の大佐昇進の辞令は既に公表されています。隊の皆も早く祝いたいでしょう。主役が不在ではそれも出来ませんからね」
オットー監査官が皇帝の私室から出てきた。確かに早く帰らないとな。俺の大佐昇進はあいつらの功績でもある。
「あら、オットー監査官、そんなに急がなくていいのじゃないですか? それに随分テオのことがお気に入りのご様子で。今度どのような思惑があるのか聞かせてもらいましょうか」
クラリス中将の言葉には随分棘が感じられる。俺にはわからない政治的な思惑があるのか。
「私はテオドリック隊長の仕事を見てきました。彼の仕事には不適正なことはない。だから私は彼を大佐に推薦しました。それが適正な行為だと思ったにすぎません。それ以外の思惑などありません」
誰を相手にしてもオットー監査官はいつもの調子だ。表向き私情など挟まず客観的な事実だけで行動していると言っている。あくまでも表向きだが。
「それじゃあ、またね、テオ。またご飯行きましょ」
「かしこまりました。いつでもお供します。では、失礼します」
クラリス中将のおかげで昇進したんだ。今度は俺が奢らないとな。
ラディアンス島に向かう船の中でもオットー監査官は多くは語らない。俺を大佐に推薦したんだ。何か言ってくるのかと思っていた。俺から聞いてみることにした。
「あの、オットー監査官、何故私を大佐に推薦したのですか?」
「さきほどのクラリス中将に申し上げた通りです。テオドリック隊長の仕事が適性だから、貴方を大佐に推薦することが適正と判断したまでです。それ以上でもそれ以下でもありません」
あくまでもこの男はこのスタンスを崩さない。胸の内に熱いものを秘めているのはわかるが、それを悟られないように冷静に振舞っている。だが、俺にはばれているぞ。いつもより表情が明るく、口角が上がっているのが。他の人間にはわからない違いかもしれないが、俺だけにはわかる。
「テオドリック隊長、大佐昇進おめでとうございます!」
隊舎に戻ると盛大に隊員たちが祝ってくれた。室内は派手な飾りつけがしてあり、テーブルにはご馳走が並んでいる。
「まったく困った奴らだ……」
まあ、今日くらいはいいか。
「テオドリック隊長、おめでとうございます! 先日の隊長の活躍なら当然ですよね」
「自分はまだまだ隊長は昇進されると思います。ですが、今回の昇進も嬉しいです。国の英雄が我らの隊長で誇らしいです」
「何だかよくわからぬがお主偉くなったのじゃな。そうでなくては困る。無能な者の下には妾はつかぬ。その点、お主は心配いらぬようじゃな」
「貴方って凄い人だったのね。まあ、美味しい人参を知っていることでいえば貴方の右に出る者はいないわ」
祝福されて嬉しいのだが、今は俺の素直な気持ちをこいつらに言いたい。
「今回の昇進はお前らのおかげだ。優秀なお前たちが活躍したからだ。俺は何もしていない。そんな俺が今回の話を受けてもいいのか?」
大佐昇進はありがたいのだが、こいつらの活躍が大きかった。俺一人が昇進していいのか疑念が残る。
「何を申しておる? お主以外に誰が妾たちを指揮できる? 妾は他の者が指揮官じゃったら従わんぞ。それにあの忌まわしい壺を破壊できたのはお主だけじゃ。妾は魔力に自信があったのじゃが、あれは壊せんかった。じゃがいずれ壊して見せる。見ておれ」
「レドラ……」
「そうです、そうです。レドラちゃんの言う通りです。テオドリック隊長でないと私たちは指揮できませんよ。私たちは我儘揃いですからね。それにテオドリック隊長には改めて感謝したいんです。テオドリック隊長が来られるまでは私の人生なんてこんなものだと諦めていたんです。それが、隊長が来られて私の人生は変わりました。反対する理由なんてないです」
「エイプリル……」
「今でこそ勝利して安心していますが、あの絶望的な状況を打破できたのは国中を探してもテオドリック隊長だけでしょう。胸を張って昇進されてください」
「ダレン……」
「私はここに来てから日が浅いのでわからないけれど、貴方は皆に慕われているように見えるわ。そんな貴方が評価されるのは当然と思うわ」
「ホワイティ……」
そうだった。疑念なんて抱いている場合ではなかった。胸を張って昇進するべきだ。こんなに優秀な隊を率いているのは俺だ。他の誰にもできない。俺だけなんだ。
「すまない、少し弱気になっていた。胸を張って昇進する」
「大丈夫ですよ、どんなことがあろうとも隊長についていきます」
隊員に励まされている場合ではないな。まだまだ俺はやれる。そして、隊員の能力を引き出すんだ。
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