第22話特別隊との再会

 クラリス中将と別れて街の外に向かっていると、特別部隊の隊舎が見えてきた。顔を出すか。いや、俺はもうラディアンス島部隊の人間だ。いまさら顔を出してどうなる。あいつらも元気にやっているだろう。


「隊長!」


 そこには見知った顔がいた。エイミーとゴリアテだ。


「ああ、お前たちか。元気にしてたか?」


「この通り、元気だけが私の取柄です。隊長はどうして中央にいらっしゃっているのですか? まさか中央に復帰とか? そうなったら嬉しいです! また隊長と頑張りたいです」


「元気そうで良かった。残念だが俺が特別部隊に復帰という話は現状ない。用事があって来ていただけだ。では、俺はもう行く。元気でな」


 長くいると名残惜しくなる。ここは早くラディアンス島に戻った方がいだろう。


「そんなこと言わずに隊舎でおしゃべりしましょうよ。さあさあ!」


「お、おい! 待て! 放せ! 何で腕を掴んでいるんだ?」


 そう言うと二人は俺の腕を掴み連れて行こうとする。こいつら、こんなに強引だったか? 俺がいない間に何があったんだ。


「さあさあ、行きましょ」


「わかったから放せ! ついて行くから放せ!」


 そのまま俺は二人と一緒に元所属部隊の隊舎に行くことになった。




「隊長!」


「おお、隊長だ!」


「お久しぶりです、隊長」


「皆、テオドリック隊長だぞ! 早く来い!」


 軽い気持ちで来てみたら何故か大事になっていた。有名人でも来たのかというくらいの歓迎ぶりだ。


「ああ、元気だったかお前ら?」


「元気です!」


「落ち込んでましたけど、隊長がいらっしゃたので元気が出ました!」


「おい、テオドリック隊長が隊に復帰だぞ! 喜べみんな!」


「おいおい、勝手に話を捏造するな! 俺が特別部隊に復帰などという話は出ていない。落ち着けお前ら」


 何故そういう話になるんだ。俺は一言も言っていないのに。


「そうですか……残念……」


「おい、落ち込むな。テオドリック隊長は必ず隊に復帰される。その時を待つんだ」


 ゴリアテ、勝手なことを言うな。何故、必ずという言葉が出てくるんだ。この世に絶対なんてことはないんだぞ。


「そうだ、隊長は必ず復帰されるんだ!」


「そうだ、そうだ! テオドリック隊長万歳!」


 何故か隊員たちはヒートアップしている。俺のせいじゃないぞ。


「そうだ、ラディアンス島での隊長の活躍聞いてますよ。気に入らない貴族派は容赦なく追放されてるとか。胸がすく思いです」


「いや、俺が聞いたのは貴族たちを奴隷にしているとか。流石は隊長。容赦がないです」


「俺が聞いたのは貴族派を皆殺しにしたとか。その容赦のなさから悪魔とか悪鬼と称され、貴族派から恐れられてるとか。か~、かっこいい!」


 噂に尾ひれはひれが付いて途轍もないことになっている。貴族派皆殺しにしたのに、貴族派から恐れられてるってどういうことだ? 俺、死者から恨まれてるのかよ。


「そんなことは断じてない。お前たちが見てきたのは悪魔のような人間だったのか? お前たちにはそう俺が見えていたのか?」


 流石にここは否定しておかないと俺の名誉に関わる。勝手に変な噂を流されては困るな。


「申し訳ございません! 隊長は優しいです」


「そうでした。申し訳ございません」


「そうだぞ、お前ら。隊長の何を見てきたんだ」


 何とか俺の疑いは晴れたようだ。これで心置きなくラディアンス島に帰れる。


「なんだぁ? 騒がしいな。何事だ? ん? 誰だ、貴様は? ぶひ?」


 その場に現れたのはぼさぼさ頭でニキビ面のだらしない体型をした男性だ。そうか、この男が新しい特別部隊の隊長マルリッチ大尉か。騒ぎを聞きつけてやってきたというわけか。


「私はテオドリック中佐だ。元特別部隊の隊長だった。初めましてかな、マルリッチ大尉」


「な……! テオドリックだと……何故貴様がここにいる……? ぶひ?」


 向こうは俺のことを知っているようだな。まあ、俺が貴族派にしてきたことを考えれば当然か。


「私がお連れしたのです。テオドリック隊長が偶然中央にいらっしゃいましたので」


「余計なことを、ゴリアテ……こ奴が貴族派からどう思われているか知らずに……早く帰れ、テオドリック! ぶひ!」


 俺は先ほどからマルリッチの態度に違和感がある。それを追及するとしよう。


「貴様は先ほどから何故俺にため口を利いている。貴様は三つも上の階級の人間にそのような口の利き方をするのか? それに態度も上官に対しては横柄すぎないか?」


 俺も軍人だ。規律の乱れは無視するわけにはいかない。


「そ、それは……ぶひ……」


「何だ?」


「え、え~と、何だろう……ぶひ……」


「何を言い淀んでいる?」


「貴族派に盾つくのか? とんでもないことになるぞ! ぶひ!」


 こいつは何か勘違いをしている。俺がこの程度の脅しに屈するなどと。


「それが理由か? だからどうした? 俺がその程度のことに臆するとでも?」


「ぐ……何だ、こいつは……ぶひ……」


 貴族派のことなど大体わかってきた。高圧的に接すれば相手が怯むと考えている。奴らの扱い方など疾うに慣れた。


「残念だったな。俺はその程度の脅しには屈しない」


「ぐ……クソ! ぶひ!」


「もう貴方の負けです、マルリッチ隊長。素直に負けを認めてください」


「そうだ、か~えれ! か~えれ!」


「俺たちの隊長はテオドリック隊長だ! お前なんか認めない!」


 随分この男は隊員たちから嫌われているな。帰れコールが始まってしまった。まあ、もうそろそろ日が暮れる。帰るのもいいだろう。恐らく捨て台詞でも残して帰っていくのだろう。


「覚えていろよ、この借りは必ず返す! ぶひ!」


 予想通りか。三下の捨て台詞はいつも決まっているものだな。貴族派と関わりすぎたせいで彼らの行動パターンまで把握してきているようだ、俺は。あまり嬉しいことではないが。だが、今回は奴らに屈しなかった。もう二度と奴らの好きにはさせない。

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