第17話レドラの実力

 俺はレドラを隊に入隊させるために、エイプリルとダレン、オットー監査官に相談している。


「彼女はレドラという。どうかな? 優秀な娘なんだ。俺は是非入隊してもらいたいと思っている」


「問題ありません。完全に適正な判断です」


 相変わらずオットー監査官は俺の言うことをノータイムで許可する。この男は何を言ったら反対するのだろう。助かってはいるんだが。


「エイプリルとダレンはどうかな?」


「見たこともない服ですね。わ~、綺麗。隊には女性が少ないので私は歓迎です。隊長の推薦なら優秀な人なのでしょうね」


「じゃろう? お主、見る目があるな。これは着物というんじゃ」


 レドラは服の袖をひらひらさせている。確かに美しいな。着物というのか。初めて見た。


「ダレンはどうだ?」


「途中入隊とは聞いたことありませんね。あまり強そうではありませんが、隊長の推薦ですから隠れた才能があるのでしょう。自分も異論ありません」


 ダレンは本当は納得いっていないという表情だ。自分たちは厳しい試験や訓練を乗り越えてきた自負があるのだろう。俺の推薦だから渋々といった感じだ。彼女の素性を明かすわけにもいかないし、急だったので上手く誤魔化す方法も思い浮かばなかった。しょうがないからごり押しするしかなかった。


「強くなさそうとはなんじゃ? 妾はお主より強いぞ」


 そう言ったレドラはダレンの腕をねじ上げた。


「ぐ……」


 ダレンは苦悶の表情を浮かべている。それもそうだ。レドラの能力は力92、体力89、敏捷性85、魔力95とダレンを上回っているのだ。人型の状態でも十分強いが、竜型の時は力926、体力898、敏捷性853、魔力952と異常な数値だ。


 この能力で棲み処を追われるなんて魔族領はどうなっているんだ。今は情報を得るためにもレドラを近くに置いておきたい。


「どうじゃ? 妾が強くないなどとは寝言じゃっただろう?」


「ほう、やりますね。流石、テオドリック隊長の推薦。やはり隊長の判断は適性でした」


「凄いよ、レドラちゃん! 凄い力持ちだね」


 オットー監査官とエイプリルは感心している。


「つ……見くびってすまない。レドラ、君の入隊を歓迎する」


 ダレンも認めてくれたようだ。良かった。女性に力でねじ伏せられてまた弱気にならないで。





 俺は隊員皆にレドラの入隊を報告した。既にレドラは制服に着替えている。流石に着物姿で訓練は出来ない。


「途中入隊? どういうことだ?」


「女? 弱そうだぞ」


 納得できない者もいるようだ。実力で認めさせるしかないか。


 隊員には訓練をさせている。それをレドラは見学している。


「人間は脆弱だのう。なんて非力で愚鈍なんじゃ」


 恐ろしいことを言っている。確かに竜族のレドラからしたら人間なんて皆脆弱に見えるだろう。


「気に入らねえな! なめてんのかよ、てめえ!」


 隊員のザークスがレドラに因縁をつけている。レドラの発言が気に食わなかったのだろう。ザークスはダレンを兄貴と慕っている男だ。威勢はいいが全体的な能力は20前後だ。


「なんじゃ? うるさいのう。燃やされたいのか?」


「燃やす? 何を言ってやがる! ふざけてんのか!」


 ザークス、レドラは間違っていない。奴は本当にお前を燃やすぞ。だが、そんなことしたら大騒ぎだ。俺はレドラに耳打ちする。


「レドラ、やめろ。燃やすな。まさかこんなところで竜になる気か?」


 こんなところでファイアーブレスを吐かれたら困る。


「任せておけ。竜にはならん。まあ、妾にたてつく者は燃やすがな、わっはっは!」


 こいつは何を言っている。信じていいのか?


「隊長、こいつと戦わせてください」


「俺は構わんが、レドラはいいのか?」


「望むところじゃ」


 レドラは自信満々で答える。何か策でもあるのだろうか。実力で示すしかないんだ。やらせるしかないか。


「では、二人とも始めてくれ」


「いくぞ!」


 ザークスはレドラに向かっていく。


「暑苦しいのう。さっさと終わらせるか」


 レドラは余裕綽々だ。彼女から魔力の奔流が感じられる。彼女の手の平から火炎魔法が放たれる。それがザークスを直撃した。


「ぐわぁぁぁ!」


 ザークスは火だるまになった。


「ヒール」


 俺は急いでザークスを回復する。


「妾を見くびった報いじゃ」


 レドラは勝ち誇っている。そうか、ファイアーブレスじゃなくて火炎魔法か。竜の姿にならなくて良かった。


「おいおい、あいつ火炎魔法使ったぞ……」


「ふざけた奴かと思ったら凄いんじゃ……」


 隊員たちのレドラの評価が上がったようだ。確かに変な奴ではあるから、意外な一面に映ったのだろう。正体を知っている俺以外は。あいつが強いことを一番わかっているのは俺だから。





「レドラちゃん、強いのね」


 訓練が終わって俺とレドラとエイプリルは話している。レドラを女子寮に連れて行くのをエイプリルに頼んでいる。俺は途中までついていくことにした。


「ふん、そうであろう」


「ところで、どこでその力を身に付けたの?」


「それはの――むぐ!」


 俺はレドラの口を塞いだ。


「おいおい、言うなよ。お前が竜だとばれるだろ!」


「おお、そうであったな。すまん」


「どうしたんですか? 二人とも」


 エイプリルは怪訝な顔をしている。


「いや、何でもない、エイプリル。気にしないでくれ」


「そうじゃ、そうじゃ。ああ、さっきの質問なんじゃが、妾の力は才能じゃ。生まれつき妾は魔力が高いのじゃ」


「へ~、凄いのね、レドラちゃん」


 ばれなくて良かった。もうそろそろ男子寮なので二人とは別れる時間だ。不安だが任せるしかない。


「では、エイプリル、レドラを頼んだぞ」


「わかりました」


 俺はレドラを呼んで耳打ちする。


「いいか、レドラ、くれぐれもばれるなよ」


「わかっていると言っておろうに。しつこいのう」


 まさか竜族が隊に入ろうとは。一日大変だったが楽しくもあった。これから賑やかになりそうだ。

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