第16話レドラ
「君は火竜なのか?」
俺は率直に彼女の正体を聞いてみた。
「だから、そう言っておるじゃろう! 酷いのう……」
一言も言ってないが。またこのパターンか。それよりも聞かなければならないことがある。
「何故隊を襲ってきたんだ? 君は無差別に人を襲うようには見えないが」
「隊? 何を言っておるのじゃ? 妾はお腹がペコペコでそこに馬が見えたから食おうと思っただけじゃ」
そうか……火竜が狙っていたのは隊ではなくて、ホワイティだったんだ。隊舎の入り口から見て奥側に森があるが、そこで発見したのか。でも、それは許すわけにはいかない。
「駄目だ」
「は? 何が駄目なんじゃ?」
「馬を食うなと言っている。あいつは特別なんだ。食われたら俺が困る」
ホワイティがいないとヴォルハイムまで一瞬で行くことが出来なくなる。船でも行けるが遅いので、緊急時の対応が出来なくなってしまう。なので、食われたら困る。そんなことを考えていたら火竜の様子がおかしくなった。
「あ、ありゃ、どういうことじゃ? 力が抜けるのじゃ……」
火竜は突然倒れてしまった。腹が減っていると言っていたので、空腹で倒れたのだろう。俺は火竜を食堂に連れていくことにする。
「あ……ありゃ……? 妾は何をしているのじゃ?」
「気が付いたか。君は空腹で倒れてたんだ。ほら、好きなだけ食うがいい」
食堂のテーブルには食料が大量に並んでいる。俺が職員に言って作ってもらった。
「ああ、そうじゃの。むしゃむしゃ、もりもり。美味い、美味い。ん、んぐ!」
火竜は勢いよくかきこんでむせてしまった。よっぽど腹が減ってたんだな。
「焦らなくても食べ物は逃げない。ゆっくり食え」
俺は火竜に水を手渡す。
「すまんの。ごくごく、むしゃむしゃ」
火竜が食い終わるのを待つ。食い終わったら聞きたいことがあるからだ。
「ごちそうさま。美味かったぞ」
「ちょっと聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「何じゃ? ご馳走してもらったから答えられることなら答えるとしよう」
「君は何故こんなとこにいる? 竜族は魔族領にいるんだろ?」
俺たちは食堂の隅にいる。竜族とか魔族領とかは隊員に聞かれるわけにはいかない。竜族が人の生息地域に現れるなんて何か魔族領に異変でも起きたのだろうか。国の防衛のためにも気になることではある。
「ああ、そのことじゃな……」
火竜が言うには、竜族というのは魔族の中でも圧倒的な力を誇っていた種族ということだった。だが、徐々にその勢力図が変わっていった。人型の魔族が台頭してきたのだ。徐々に竜族は棲み処を奪われた。
そこで各地を彷徨っていたらここに辿り着いた。腹が減って森に馬がいたので食おうとしていたとのことだった。
「そうだったのか……」
圧倒的に見える竜族でも、数に勝る人型魔族に追いやられるとは。人型魔族は竜族に比べて知能が高いとのことだった。
「ああ、悔しいのう……」
「今後はどうする? 復讐のために魔族領に帰るのか?」
「それも考えた。じゃが、妾一人の力ではどうにもならん。今は休んで今後どうするか考えたいところじゃ」
可哀想とは思うが俺にはどうすることもできない。俺は軍人だ。ヴォルカニアス帝国の防衛が任務だ。竜族の味方をすることは出来ない。むしろ、帝国からしたら竜族は積極的に討伐しなければならない。
だが、俺は鬼ではない。
「しばらくここにいるか?」
「いいのか?」
火竜は目を輝かせている。とは言ってもただで飯を食わせるわけにもいかない。
「隊に入ってもらうことになるがいいか?」
「隊? ああ、お主の率いる組織に入れとな? まあ、良しとしようか」
プライドがあるので入らないかと思ったが良かった。
「そして、隊に入るにあたって約束を二つ守ってほしい」
「約束とは?」
「先ずは竜の姿に戻るな。あの姿になると隊が混乱する」
先ほどの混乱を考えると、もう、あの姿にはなってほしくない。
「わかった。もう一つは?」
「森にいる馬を食うな。あいつを食われると俺が困る」
ホワイティは何としてでも守らないといけない。皇帝、そして、俺のためにも。
「むぅ……美味そうなのに。残念……わかった」
意外と物分かりがいいな。助かる。
「それと君の名前を教えてもらってもいいか?」
「妾は火竜族の王レドキの娘、レドラじゃ。よろしく頼む」
これは驚いた。火竜族の王の娘とは。レドラは火竜族の王女というわけか。魔族領というのは謎に包まれている。魔族が帝国に現れることはあるが、攻め込んでくるというよりは知能の低い魔族が迷い込んでくるだけだ。
大規模侵攻のようなものはない。それが内部では竜族を追いやるほどに力をつけているとは。ミスティカル王国やエーレシア神聖国からの防衛を今までは意識していたが、今後は魔族への警戒を怠ることは出来ない。
情報を手に入れるためにもレドラを近くに置いておくのも良さそうだ。物凄く食費はかかりそうだが。
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