第15話火竜

 ダレンのバッドステータスをどう消すか思案していたところ隊員の叫びが聞こえてきた。


「竜だ! 火竜が現れた!」


 平和と思っていたラディアンス島に火竜が現れるとは。俺は皆に指示をする。


「訓練は中断する。迎え撃つぞ!」


 放っておいたら被害が出る。住民のためにも早めの撃破をしないと。


「自分なんて……自分なんて……」


 隊員たちは勇んで修練場の外に飛び出していたが、ダレンは落ち込んでいた。


「ダレン、火竜の襲撃だ! 急ぐぞ!」


「自分なんて……自分なんて……」


 重症だ。俺はダレンの背中を押す。ゆっくりではあるが歩いている。





 修練場の外に出ると火竜がこちらに向かってくる。狂暴そうな火竜だ。目は血走り、口からは涎が垂れている。


「ダレン、ラディアンス島では火竜がよく襲撃してくるのか?」


「自分なんて……自分なんて……」


 駄目だ。返事がない。完全に戦意喪失している。しょうがない、今は放っておこう。俺はエイプリルに聞いてみることにした。


「エイプリル、ラディアンス島では火竜が襲撃してくることがあるのか?」


「いえ、こんなこと今までありませんでした。火竜どころかモンスターが襲撃してきたこともほとんどありません。隊員の皆は対処の仕方がわからないと思います」


 そうなのか。何故急に。だが、考えていても仕方ない。迎え撃たなくては。


「エイプリル、安心しろ。俺はモンスターとの戦いには慣れている。この程度の火竜問題ない」


 竜族というのはモンスターの中でも上位種だ。遭遇することも珍しい。だが、俺の力なら討伐は容易い。魔法が使えるようになったエイプリルでも倒せるだろう。


「そうだ!」


 俺が倒してもいいのだが、俺はあることを思いついた。


「ダレン!」


「自分なんて……自分なんて……」


 相変わらず使い物にならないダレンだが、いつまでも落ち込んでいてもらっては困る。俺はダレンに火竜を撃破してもらうことにした。


「ダレン、しっかりしろ! 落ち込んでいる場合じゃないぞ!」


「……」


 しょうがない、俺はダレンのために持ってきた物を手渡す。


「これは……?」


「モーニングスターだ。使ってみろ」


 ダレンはモーニングスターを受け取る。


「おお! 何だ? 力が湧いてくる」


 ダレンの得意武器はモーニングスターだ。力×1.3、体力×1.3、敏捷性×1.5だ。弱気のバッドステータスは消えていないが、意気消沈からは立ち直った様子だ。


「グオオオォォォ!」


 火竜が近づいてくる。このままではまずい。そろそろ攻撃を仕掛けなくては。


「ダレン、その鉄球を目の前の火竜にぶち当てろ!」


「は……火竜? 何故火竜が……?」


 ダレンは意気消沈していて、今まで火竜に気付いていなかった奴だ。鈍感すぎるな。


「いいから、攻撃しろ!」


 ダレンはモーニングスターを振る。鉄球の部分が火竜の顔面に直撃する。


「ぐうううぅぅぅ……」


 火竜はそのまま崩れ落ちる。


「やった! ダレン副隊長が火竜を倒したぞ!」


「やった……やったのか、自分が火竜を! やったぞぉぉぉ!」


 ダレンは自信を取り戻したようだ。弱気のバッドステータスが消えた。嬉しいことではあるが、俺には気になることがある。


「ダレンよくやった。皆も安心してくれ。先に修練場に戻ってくれ。俺はしばらくしたら戻る」


 皆を先に修練場に戻すことにした。気になることがあるのだが、俺一人で対処することにする。それは、あっけなさすぎることだ。ダレンが得意武器を手にしたとはいえ、あっけなさすぎるのだ。


 竜族というのは本来部隊単位で立ち向かうものだ。複数人で何度も攻撃を食らわせてやっと倒せるものだ。それが一撃で倒せたとは考えにくい。俺は火竜が倒れていた場所に近づく。おかしい。いないのだ、火竜が。


 火竜が倒れていた場所に近づくと人が倒れている。よく見ると女性だ。


「大丈夫ですか?」


 俺は女性に声をかける。隊員ではない。女性が着ているのは、どう見ても制服ではないから。女性は深紅の見たこともない衣服を身に纏っている。


「う、うぅ~ん、ちょっと何をするんじゃ……痛いのう……」


「大丈夫ですか? どうしたんですか?」


「どうしたじゃと? 貴様の仕業じゃろう? 貴様の仲間が妾にいきなり攻撃してきたんじゃろう? いちち……乙女の顔を殴るなどと酷いのう……」


 なるほど。そのパターンか。初めてだったら俺も意味がわからなかった。それにしても火竜か。興味深いこともあるものだ。気になることはいくつかあるが、先ずは何故隊を襲ってきたのか聞いてみることにしよう。

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