第11話副隊長解任
何人かとは昨日顔を合わせたが、本日正式に全員と顔合わせになる。その前に俺は気になることをダレンに聞いてみることにした。
「ダレン、ちょっと変なことを聞いてもいいか?」
「何でしょう?」
「この島には、人化する動物は珍しくないのか?」
ホワイティはラディアンス島では人化する動物は珍しくないと言っていた。だが、それはホワイティの中の常識で、人間たちにとっては常識ではないのかもしれない。
「ああ、そのことですか。どこでも見られるわけではありませんが、たまに見ますね。島外から来られた方からすると驚かれることかもしれません。隊長も見られたのですか?」
珍しいことではあるが、この島の人間の中では常識のようだ。見たことないと言われたらどうしようかと思っていた。完全にやばい奴認定されるところだった。
「ああ」
詳しくは語らなかった。ホワイティは一人でいたいみたいだからな。必要以上にここは話すべきではないだろう。
隊員が集まってきた。エイプリルやダレンの能力が俺の基準になっていたので期待していたが、そこまでではなかった。全体的な能力が10~20となっており、中央よりも低いのだ。
だが、エイプリルやダレン以外にも能力が高い者は何人かいた。後で話をしてみたい。 隊員の能力は全体的に低いのだが、その中でも圧倒的に低いものがいる。マルコムだ。昨日のことがあったのに何事もなかったかのようだ。
マルコムのことは気になるが、俺は隊員に挨拶をする。
「新隊長のテオドリックだ。みんな、よろしく。早速だが、俺の今後の方針を説明させてもらう。俺は優秀な人間をどんどん出世させたいと思う。平民出だとか、貴族とか関係なく。逆に貴族でも能力が低いと判断したら降格させる」
その場は騒然としている。平和なラディアンス島では隊に配属されれば自動的に出世できていた。降格もなかったと聞いている。
「ここまでのことをするんだ。俺の判断に納得できない者も出てくると思う。なので、中央から俺の業務を監視するために監査官が来ている。オットー監査官だ」
オットー監査官も既に到着して、俺の傍らに控えている。実際は俺の業務を監視するためではなく、俺の横暴を認めるイエスマンだ。それは皆には言えないが。
「それでは先ず俺が新しく隊長になるということで、新副隊長を発表する。ダレン、そしてエイプリルだ」
さらに騒然としている。でも、俺は退くつもりはない。
「自分ですか……?」
「え……? 私……?」
二人は面食らっている。
「ああ、お前たちは優秀だ。俺を補佐ほしい」
「ダレンとエイプリルだって……? どういうことだ……?」
納得いっていない者もいるようだ。
「認めていただけるのはありがたいです。ですが、気になったのはエイプリルもということです。能力的なことも気になるのですが、二人とはどういうことでしょうか? この隊に副隊長は一人です」
ダレンはエイプリルを完全に見くびっている。それに、先入観にとらわれている。一度決まったことは覆らないという。俺はそんなもの簡単に覆してみせる。
「俺はエイプリルは優秀だと思っている。今後それを証明してみせる。それと副隊長の人数なんだが、今までは一人だったが、当面は二人にしようと思う。優秀な人間はどんどん出世できるべきだ。今後は人数も増やす可能性がある」
急激な体制変更は反発もあるだろうがこれが俺の方針だ。
「お待ちください、テオドリック隊長。私がこいつらと同格とは納得いきません。お考え直し下さい。ぶひ!」
マルコムが言ってきたが、こいつは何か勘違いをしている。訂正しないとな。
「お前は何を言っている? いつお前が二人と同格だと? この隊の副隊長は二人だといったはずだ。お前は二人の部下だ」
「は……? 何を言って……? ぶひ?」
マルコムは事態を理解できていないようだ。確かにこいつの賢さの能力は1だった。しょうがないか。
「お前は副隊長解任だと言っている。それとお前は中尉から伍長まで降格だ」
「ななななな、んなぁぁぁ! なにを言っているのですか? そんな横暴が通るわけがないでしょう。ぶひ!」
皆もこの異変が気になっている様子だ。貴族の中には俺が日和って撤回するのかと高を括っている者もいるかもしれない。まあ、俺は退かないが。
「オットー監査官、私の判断は不適正なのでしょうか?」
「いえ、完全に適正なものです。ご安心ください」
迷いもせずノータイムでオットー監査官は答えた。流石にここまであからさまだと気付く者も出てくるかもしれない。隊員たちは異変に戸惑っている。
「だそうだ。監査官がどういう者かわかっているな。厳正な判断を下す監査院から派遣されている。その判断に異を唱えることがどういうことかわかるな?」
本当は厳正どころか、完全にイエスマンだ。
「なななななな、副隊長解任はまだしも、五階級降格は聞いたことがありません! こんなことが適性なわけがない! ぶひ!」
「いえ、テオドリック隊長の判断には何も問題ないと断言します」
オットー監査官はポーカーフェイスで答える。恐ろしい男だ。
「わかった。俺が言う条件を飲めば今の決定は撤回しよう」
俺も鬼ではない。救済案を提示することにする。
「ななななな、何でしょう? 何でもします、ぶひ!」
「ダレンと戦って勝て。お前はさきほどダレンと同格と言われるのが嫌と言っていたな。それなら問題なく勝てるだろう?」
マルコムの額には汗が滲む。筋肉隆々のダレンと、肥満のマルコム。どちらが勝つかは一目瞭然だろう。
「ダレンはどうだ?」
「ええ、自分はいつでも問題ありません」
「だそうだ。マルコム。お前はどうする? ダレンと戦うのか? 降格を受け入れるのか? 他に選択肢はないぞ」
「そ、そうだ。私はさきほどエイプリルに言ったのです。エイプリルと戦いたいです」
こいつは何を言っている。自分の力量がわかっていないのか。エイプリルとマルコムの力量差は月とすっぽんだ。
「と、マルコムは言っているが、エイプリルどうだ?」
「ええ、私はいつでも大丈夫ですよ」
「な……そこは退けよ……ぶひ」
エイプリルなら引き下がると思ったようだが、当てが外れたようだな。
「き、貴族派に言いつけてやるからな! 覚えていろ! ぶひ!」
「戦わないということでいいんだな?」
マルコムは俺の言葉など聞いてないかのように、一目散に逃げだしてしまった。貴族派と戦うことはもう決めた。こんなことで怖気づいているわけにはいかない。
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