第8話監査官オットー
俺たちは皇帝の私室に移動した。
「お加減はどうですか?」
「ああ、問題ない。お前が診てくれるおかげでな」
一時はどうなるかと思ったが、皇城に来る手段が見つかって良かった。
「それにしても、どうしてここに来れたのだ? ラディアンス島に行ったのだろう? 船で往復したにしては早すぎはしないか?」
「それは……」
俺はここまでの経緯を皇帝に説明した。
「わっはっは! 天馬か。それは凄いな!」
正に僥倖としか言いようがない。天馬様様だ。
「ですので、ご安心ください。今まで通り定期的にお体を診させていただきます」
「ああ、今後ともよろしく頼む」
「かしこまりました」
ラディアンス島には天馬が存在した。長閑な島としか思っていなかったが、それ以外にも不思議が存在するのかもしれない。皇帝の体を治す手がかりが。これも何かの思し召しなのかもしれないな。
「それとお願いがございます」
「ほう、何だ? 面白いことを考えていそうだな」
俺の決意は決まった。それを率直に皇帝にぶつけることにする。
「ペンダントが示す数値が高い人間を私の隊では登用したいと思います。ラディアンス島では数値が高くても、平民出身ということで下の階級の者がおります。それは大変もったいないことでございます。いかがでしょうか?」
「好きにするがいい。むしろ、そうしてほしいと思ってペンダントを授けたのだ。予算も好きなだけ使うがいい」
「ありがとうございます。それと、申し上げにくい話なのですが、貴族派のことなのですが……」
皇帝は貴族派と揉めない道を選んだ。だが、優秀な人間を登用するということは、貴族派を降格させたり、最終的には首にしないといけない事態になるだろう。皇帝の方針とは相反するが、俺にも退けない覚悟がある。
「構わん。好きにしろ。貴族派と揉めないとは言ったが、お前の頼みなら別だ。お前には命を何度も救われた。今の儂があるのもお前のおかげだ。そのせいで貴族派と衝突したとしても、儂は後悔せん」
皇帝から許可が出た。これで俺は好きに動ける。
「そうだ、テオドリック、待っていろ」
そう言って皇帝はどこかに行ってしまった。
戻ってくると誰かを連れていた。その人物は華奢で武官というよりは、文官といった出で立ちだ。彼が着ている制服を見たことがある。監査官の制服だ。何故ここに監査官が?
「オットーだ。監査官をしておる。この者にお前の補佐をしてもらう。オットー、テオドリックのやろうとしていることを全て監査官として認めるのだ。テオドリックは貴族を追放しようとしている。当然反発もあるだろう。それを監査官の名のもと適正な行為として認めるのだ。テオドリックの命は儂の命と心得よ」
監査官は中央省庁から独立した形で、武官や文官の行為に違法性や、違法性がないにしても、その行為が適性なのか監視、注意を行う者たちだ。中立性や独立性が重視されるはずなのだが、皇帝が言っていることは、それを真っ向から否定するものだ。認めるのか?
「かしこまりました。テオドリックさん、お好きなようになされてください。どのような行為であろうと適正なものとして扱います」
簡単に認めてしまった。中立性や、独立性なんて欠片もない。清々しいほどだ。
俺のイエスマンとして動いてくれるのはありがたいが、恐ろしい話だな。
「よろしくお願いします、オットーさん」
監査官は武官とは所属している組織が違う。武官みたいに階級制ではないので、彼とは上司、部下の関係性はない。将軍にさえ意見できる立場から、将軍と同等の立場とする見方もあるが、俺は対等の存在として接することにする。
「よろしくお願いします、テオドリックさん」
オットーさんもそれを察してくれたのか、様ではなく、さんと呼んでいる。向こうも対等な存在と思ってくれているということか。
「テオドリックよ、早速オットーにラディアンス島に向かってもらうことにするが、天馬は二人乗ることが出来るのか?」
流石、皇帝。話が早い。
「試したことがないのでわかりませんが恐らく無理でしょう」
「わかった。オットーには後ほど船で向かってもらうことにする」
「かしこまりました」
皇帝は俺のやろうとしていることを後押ししてくれることになった。貴族派と揉めることも厭わずに。そして、オットー監査官を俺のイエスマンとして付けてくれることになった。
中立性や独立性を重んじる監査官を、俺の行為を全て認めるために付けてくれるなんて、俄かには信じられなかった。それだけ今後俺のやろうとしていることに期待してくれているのだろう。
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