第5話新天地
ラディアンス島に向かう船の中で俺は考え事をしていた。皇帝のことだ。隊員たちのことも気になるが、あいつらはなんだかんだでタフだ。なんとかやっていけるだろう。それよりも今は皇帝の容体が気になる。大佐から左遷を言い渡された時から気にはなっていた。
毎日皇帝の私室に往診に行っていたわけではないが、長らく行かないわけにもいかないだろう。ほっておいたら容体が悪化してしまう。何らかの策を考えなければならない。船は定期的に運航しているだろうから、定時後や休日に通うなど何かやりようはあるだろう。
ラディアンス島が見えてきた。噂通り長閑なところだ。船上からでも中央とは違うとわかる。別に俺は都会でないと生きていけないということはない。出身も田舎だし。趣味がないので金を使うことがない。なので、田舎には抵抗はない。
ラディアンス島に到着したので、下船する。海風が気持ちいい。都会の喧騒とは無縁の場所でのんびりするのも悪くなさそうだ。
「本当にいいところだな。仕事でなく休暇でこれたら最高だったのにな、はは」
少し気が抜けて気持ちがよくなってきた。新しい宿舎に到着したら横になりたい。だが、そんな場合でもないようだ。船にゆらゆらと揺られて眠気が襲ってきていたが、一気に目が覚めた。思いもよらない人物が目の前にいる。
「エイミー、何でここにいる? ついてくるなといっただろう!」
エイミーが目の前にいた。だが、おかしい。何で彼女がここにいる? 今俺が乗ってきた船に彼女は乗っていない。乗っていたらわかるはずだ。俺より先についているわけがない。
「えへへ、ついてきました、隊長。なんて冗談です。私はお姉ちゃ……じゃなくてエイミーの双子の妹のエイプリルです。よく似ていると言われるんですよ」
驚いたなんてもんじゃない。左遷を言い渡された時より驚いた。確かに似すぎだろ……。
「すまない。大きな声を出して」
「いいですって。しょうがないですよ、こんなに似てるんだから。こちらこそ驚かせてごめんなさい」
「いや、大丈夫だ。それより何故君が俺を出迎えてくれているんだ?」
「中央から連絡があって、新しい隊長が赴任してくると聞いて私が来ました。隊舎にご案内させていただきます。姉からも通信魔道具で連絡がありました。超絶イケメンだから一目見たらすぐにわかると。本当でした。なんて私何言ってるんでしょう。きゃー、恥ずかしい!」
エイミーの妹であるエイプリルも軍人なのか。場所は違えど、双子だから同じ道を選んだのかな。イケメンとは何だろう? 若者言葉かな。俺も若者といわれる年齢ではあるが、若者言葉はわからない。
「そうなのか。助かる。よろしく頼むよ」
「どうぞ、こちらです。きゃっ!」
エイプリルは盛大に転んでしまった。ドジっ娘なのだろう。
「ヒール」
俺の手の平から淡い光が発せられエイプリルを包む。擦り傷程度だが、治しておいた方がいいだろう。
「あ、申し訳ないです! ドジですよね、私。それにしてもこんなに優しい回復魔法は初めてです。傷が治っただけでなく、気分も良くなりました」
俺の回復魔法は傷を治すだけでなく、気持ちも前向きになるとよく言われる。意図したことではないが、そういう効果もあるのだろう。
「ささ、気を取り直して今度こそこちらです」
エイプリルに案内された先には馬車が停めてある。これに乗って隊舎に向かうのであろう。
隊舎に向かう馬車に揺られている。色々気になることがあるのでエイプリルに話を聞いてみることにする。
「ちょっと話を聞かせてもらってもいいかな?」
「どうぞ。スリーサイズ以外は。ははは、私の貧弱なスリーサイズなんて聞きたくないですよね」
「?」
「いえいえ、聞き流してください。どうぞ! 質問、どうぞ!」
「連絡がいって迎えが来ることはわかったんだけど、何で君が? 君は俺が赴任する隊の副隊長なのか?」
「はっはっは、新隊長は面白い冗談を仰るんですね」
「?」
「いえいえ、何でもないです。私は伍長です。中佐殿とは月とすっぽんほど違います。隊の雑用を任されています。今回も雑用で……って、光栄な中佐殿のお出迎えを雑用とは失礼でしたね。お気を悪くされたのなら申し訳ございません」
「いや、いいんだ。」
俺は腑に落ちなかった。副隊長といったのも冗談ではない。何故なら彼女の能力は港からずっと見えている。彼女の能力は中央の隊長や副隊長クラスだ。力53、体力73、敏捷性79。それが伍長? 冗談でないのならラディアンス島の隊員はどのくらい優秀なのだろう。中央の隊長クラスがごろごろいるのだろうか。恐ろしいことではあるが、楽しみでもある。
「それと就任早々こういうことを聞くのはどうかと思うのだが、中央への船は定期的に運航しているのか? ああ、安心してくれ。中央に帰りたくなったわけではない。こちらでの仕事は問題なくこなす。具体的なことは言えないが、中央での極秘任務があるんだ。なので、定期的に中央に戻らないといけないんだ」
「安心してください。定期便は運航していますよ。それにしてもかっこいいですね。極秘任務ですか。凄い響きです。私もいつか大きな任務を仰せつかりたいです。まあ、私なんかには無理なんでしょうけど」
良かった。これで皇帝の体を診ることが出来る。仕事が終わった後なので大変だが、覚悟の上だ。帝国の行く末を決めることなので安心した。皇帝の体を診ることが出来るのは嬉しいが、俺は先ほどから気になっていることがある。
それはエイプリルの気の弱さだ。発言の端々に弱気な発言が目立つ。能力表示にバッドステータスがある。弱気だ。全ステータスマイナス1.5倍という厄介なものだ。これから俺は彼女の上司になる。彼女のバッドステータスを消してやりたいと思う。
弱気のバッドステータスがついた理由はわからない。でも、必ず理由を突き止めて取り除いてみせる。素晴らしい才能を持っているんだ。その力を存分に発揮してほしい。
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