第2話テオドリックの部下
部隊には定時前に戻ることが出来た。部下たちには残業しないように常々言っている。残って仕事をしている者がいないか確認出来て良かった。
「隊長、おかえりなさい」
部隊に戻ると部下が出迎えてくれた。
「ああ、ただいま。もうすぐ定時だ。そろそろ仕事を切り上げてくれ」
「かしこまりました。それにしてもこんなにホワイトな職場で働けるなんて幸せです。他の部隊に配属された同期は残業、残業でひいひい言ってるというのに。はは、こんなこと言ったらやる気ないと思われますかね?」
「ふふ、気にするな。長く働けばいいというものではない。疲労や睡眠不足は集中力を奪う。帰ってゆっくり休め」
「かしこまりました。隊長、一生ついていきます」
定時前に部下の仕事が終わるのかの確認と、課題点などのフィードバックが俺の日課だ。いつものように部下と話しているのだが、いつもと違うことがある。それは部下の能力が数字で可視化されていることだ。
基本的に俺の評価と数値は離れていないのだが、そうでない点もある。力、体力、敏捷性といった見た目でわかりやすい能力は俺の評価通りなのだが、魔力や魔法耐性、得意属性や苦手属性といったものも見ることが出来る。
この隊員がこの魔法が使えるのだなと新たな発見があった。だが、部下に聞いてみると魔法は使えないらしい。部下たちは何故急に隊長はそのような質問をするのかというように訝し気な表情をしていた。
というのも、魔法というものは使える人口が少ない。特に平民の中で魔法を使える人間は特別という認識が根強い。平民出身の部下は自分が魔法なんて使えるわけないという意識が強い。魔法は貴族のものというのがこの世界の常識だ。
能力表示を見てみると他の項目は白色なのに対して、魔法は灰色で表示されていた。恐らく、その隊員の潜在的に使用可能な魔法を示しているのだろう。何らかのきっかけがあれば表示が白色に変わって使用可能になるのかもしれない。
魔法の他には料理、鍛冶、商売といったものが見えている。俺が所属している部隊は戦闘部隊なので、評価ポイントは必然的に力や敏捷性といったものとなる。部下たちが俺の知らない特技を持っているのだと知れて興味深い。
ぶっきらぼうな隊員が料理スキルが高いと思えば、家庭的そうな女性隊員の料理スキルが低かったりと意外な一面だらけだ。今度料理作ってもらおうかな。
一通り部下の能力を確認しているとわかったことがある。一般的な能力値として20~30といったところだ。50を超えていればかなり優秀だろう。俺は部下の能力を確認するのが楽しくなっていた。引き続き隊員の能力値を確認しようとしていると、女性隊員から声をかけられた。
「隊長、この書類確認お願いします!」
「ああ、どれどれ」
俺の目の前にいる女性隊員はエイミーという。オレンジ髪の天真爛漫な女性だ。
「問題ない。エイミーに任せて良かった」
「やった! 隊長に褒められた。その言葉でご飯3杯はいけます!」
「喜びすぎだろ……」
「へへ、本当に嬉しいんですもん」
エイミーは隊のムードメーカーだ。調子に乗りすぎるところが玉に瑕だが、それも可愛いものだと思えてしまう。
「隊長、もっと仕事ください! 体力が有り余ってしょうがないんです!」
「エイミー、元気なのはいいが、もうすぐ定時だ。仕事の指示は明日出すからもう帰れ。俺はいつも定時で帰れって言ってるだろ?」
「ぶー! 隊長のケチ! 私はもっと隊長といたいのに!」
エイミーは唇を尖らせている。よほど元気が有り余っているのと、仕事が好きなのだろう。俺といたいというのはよくわからんが。
エイミーの能力も表示されている。力は52、体力72と悪くなく、特に敏捷性の値が78と高く目を引く。意外なことに魔力も75と高く、風属性の適性がある。俺は気になったので聞いてみることにした。
「エイミー、君は風属性魔法が使えるのか?」
「何を急に仰っているのですか、隊長? 私はこの通り体力だけが取柄です。魔法など使えるわけがないでしょう。あっはっは!」
エイミーの能力表示は風属性適性や、使用可能魔法が灰色で表示されている。本人は才能を自覚出来ていないということか。もったいない。俺が指導して才能に気付かせてあげたいが、俺は回復職だからな。攻撃魔法はからっきしだ。戦闘は剣を使っている。
「こら、エイミー。隊長を困らせるな」
「げ……ゴリ先輩……」
エイミーを窘めているのはゴリアテだ。短髪で、筋肉隆々の男だ。エイミーは彼をよくゴリ呼ばわりしている。ゴリアテの能力も表示されている。力87、体力83、敏捷性68だ。見た目通りパワータイプで魔法の適性は低い。
「誰がゴリだ。ふざけるな」
「だって、どう見てもゴリって感じじゃないですか、先輩」
「ち……お前と話していると頭が痛くなりそうだ。それより隊長を困らせるなと言っている。隊長はいつも仰っているだろう? 残業するなと。お前は人の話を聞いていないのか?」
「ふん、だ。聞いてますよ~だ。べ~!」
エイミーは舌を出してゴリアテを煽っている。
「こいつ……」
「やめろ、二人とも。別の隊に異動させるぞ」
「げ……それは無理。私、隊長に一生ついていくって決めてますから」
「俺もです。隊長以外の人間に従うなんて考えられません」
「冗談だ、安心しろ」
冗談ではあるが二人が心配になる。本当に辞令が出て別の隊に異動になる可能性がある。その時、二人はどうするつもりだろう。
「は……良かったです。隊長、心臓に悪いですって」
「本当に……やめてください、隊長。心臓に悪いです」
「異動は冗談だが、気をつけてほしいのは本心だ。ゴリアテ、エイミーはただ俺にじゃれて冗談を言っていただけだ。いつものことだ。真面目なのはいいが、お前はもっと肩の力を抜いていいと思うぞ。エイミー、お前はもっと先輩を敬ったほうがいいぞ。フランクなのがお前のいいところだが、気をつけないと相手を怒らせることもあるぞ」
「は! ゴリアテ先輩、申し訳ありませんでした。以後気をつけます!」
エイミーは姿勢を正しゴリアテに謝罪した。ちょっと言い過ぎたかな。
「いや、いいんだ。気にするな。それに今まで通りゴリでいい。お前がいいのなら。悪くないと思っていたんだ、その呼び名」
どうやら丸く収まったようだ。他人の能力を見ることがペンダントを手に入れたが、人の心までは読むことは出来ない。人の上に立つ人間は改めて凄いと思う。トラブルを解決したり、決定事項の決断を下したり。
特に皇帝。一国の行く末を決める決断をしなくてはならない事態も頻繁に訪れるだろう。改めて皇帝の凄さがわかる。他人の能力がわかるだけでは国を運営していくことなど到底できない。ペンダントの力もあったのだと思うけど、皇帝自身の能力も大きい。
部下たちが俺に一生ついていくと言ってくれるように、俺も皇帝に一生ついていきたい。
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