第26話 旅はこれからも続くらしい

 クリスが追った悪魔らしき人影は、悪魔ではなくて悪魔の道具を使ったダミーだったらしい。

 悪魔はというと俺が消し炭にしてしまったであろう男だそうだ。

 あの後、悪魔たちが使う魔法を使ったという事で兵士たちに連行されて事情聴取された。


「目撃者が多かったのもまずかったね」


 数日ぶりに会うクリスはいつも通りのクリスだった。

 ここ数日間話を聞きに来た者たちは俺が悪魔なんじゃないかと疑惑の目で見てきたが、クリスは微塵も疑っている様子がない。


「いやぁ、それにしても随分と長い事情聴取だったね。ドラコとニコラ経由で教会から圧力をかけてもらったんだけど、ご時世的に悪魔の力を使ったらこうなるよね」

「悪魔の力って言うが、ただの魔法だろう?」

「どうなんだろうね。少なくとも、威力が桁違いだから別物だと考えている魔法使いが多かったけど……ほんと、どうして君が使えたのか不思議だよ」

「魔力の流れを真似ながら詠唱をしたらなんかできたんだ」

「なんかできた、って……まあ、君は魔法に愛された人族だとラルダーナが言うほど才能があったみたいだけどさぁ。くれぐれも、今後は極力あの力を使わない方向で頼むよ?」

「禁止しないのか」

「まあ、何が起こるか分からないからね。切り札として選択肢の中に入れておくのはありだろうさ。ただ、魔法を使った影響が出るかもしれないから本当は使ってほしくないけどね」

「善処する」

「そうしてくれ。といっても、悪魔の残党を倒していくのなら強大な力は必要にはなるんだよなぁ。今回の魔物の群れも、記憶をなくす前の君なら地形に配慮していても事前に半数以上削れただろうし」

「そうなのか。それは……すごいな」


 そのくらいの力があれば、得体のしれない悪魔の魔法を使わずに済むだろう。

 だが、残念な事に記憶と共に魔法の詠唱や魔力の込め方などを忘れてしまった。

 思い出す時が来ると良いのだが、残念ながら今の所欠片も思い出す気配がなかった。


「勇者の私が霞むほどの戦果を挙げた事もあるんだよ? ただまあ、それを知っているのはニコラとドラコ、それから私だけなんだけど」


 他に知っている者がいれば俺もクリスのように劇のモデルになったり、銅像を建てられたりしていたのだろうか。


「別に知られていなくてもいいが……やっぱり記憶は取り戻せなかったとしても魔法はある程度使えるようになりたいな。一度見れば使えるようになると思うが……」

「まずは中級魔法からだね。次の目的地である街には魔法学校があるから、そこで見せてもらうのもいいかもしれない。以前の君が使えるようになったのもその街だったし」


 門番に軽く挨拶をしたクリスは歩き出した。

 外に出るために俺も軽く検査を受けたのだが、この街の兵士には全員に知れ渡っているのだろう。疑わし気な視線をとても感じた。

 後ろめたい事は何もないのだが、入念にチェックされるのは正直面倒臭い。

 だが、彼らも仕事なんだと心を無にしているとチェックが終わった。

 待っていてくれたクリスに先程の話の続きをする。


「他の冒険者じゃ駄目なのか?」

「駄目ではないけど、あんまり見せてくれないだろうね。例え同業者同士だったとしても自分の手の内は極力隠しておくのが常識だから。それに、モーガンはとても魔力が多いからいいだろうけど、高ランクの冒険者じゃない限り、中級魔法を一回使うと結構魔力が減っちゃうからね。いつ襲われるか分からないのが冒険者って言う仕事だから、余計な魔力の消費は抑えるはずだよ」

「なるほど。そういうものなのか」

「まあ、そういう訳だからとにかく次の街へ行こうか。お金の心配はなくなったけど、次の街までは前回も徒歩で行ったからね」


 記憶が戻るかは分からないが、クリスとだったら国を救ったという旅路を行くのは退屈しないで済みそうだ。

 そんな事を思いながら、クリスの他愛もない話を聞きながら歩き続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

記憶を失った俺は自分探しの旅に出る みやま たつむ @miyama_tatumu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ