荒御魂(あらみたま)と和御魂(にぎみたま)

猫野 尻尾

第1話:薄紅 綺羅螺(うすべに きらら)

一話完結です。


いつから存在するのか新庄町しんじょうまち御手洗町みたらいちょうに架かっている木造の古い橋がある。

その橋の名前を「高天橋こうてんばし」と言う。

一見普通の橋に見えるが、その橋は人間界と神々が住まう高天原を繋ぐ結界に

なっている。

そのことは一般の人には預かり知らぬことだった。


そして高天橋を渡った先の道沿いに古いお屋敷があって、その屋敷の当主の

名前を「薄紅 将右衛門うすべに しょうえもん」と言い奥方の名前を「薄紅 羽羅螺うすべに うらら」と言った。

薄紅家の女性は名前がふたつあってひとつは「羽羅螺うらら

もうひとつが「綺羅螺きらら」それを親子代々交互に名乗っている。


そして薄紅家の長女「薄紅 綺羅螺うすべに きらら」は僕が入学した「東城東桃源学園とうじょうひがしとうげんがくえん」に

入学してきた。


僕の名前は「一ノ瀬 理太郎いちのせ りたろう」この春めでたく高校に入学した。


綺羅螺きららは背が高く、美しい・・・たしかに誰にも引けを取らないくらい

美しかった。

僕は一目彼女を見てその不思議な魅力に魅入られた。

だけど入学して半年経つけど僕は綺羅螺きららが笑ったところをまだ一度も

見たことがなかった。


ただ遠くから彼女を見て僕は密かに彼女へも想いを膨らませていた。


でも僕は富裕層の薄紅家とは対照的に貧困層だから蚊帳かやの外の男子。

綺羅螺きららと接触することはない位置にいるから彼女とゆっくり話をする

機会すらないと思っていた。


ところがある日、吉方よしかたって女子が僕のところにやって来て綺羅螺きららが一ノ瀬君に

話があるから「高天橋」こうてんばしでお待ちしてますって言ってるって伝えに来た。

「高天橋」のたもとで待ってるから来てくれって?。


え?いったい僕になんの用?

そリャ、僕は綺羅螺きららに想いを寄せてるけど、彼女は僕になんか興味ないだろ?

だから綺羅螺きららが僕に話があるって聞いてちょっと理解に苦しんだ。


このまま綺羅螺きららを無視して高天橋に行かないって手もある。

だけど無視したら、それはレディーに対してとても失礼なことだろう。

だから僕は学校からの帰り綺羅螺きららが待つ「高天橋」へ行った。

橋の近くまで行くと橋のたもとでモデルみたいな綺羅螺きららが待っていた。


シュッとしたスレンダーなスタイルにモスグリーンの制服がよく似合っている。

綺羅螺きららが誰にも負けないくらい綺麗だって言うのはクラスの誰もが

認めていることだった。

だけど彼女の唯一の欠点は、笑わないこと。


「あの、薄紅うすべにさん・・・お待たせ?」

「さっそくだけど僕に用ってなに?」


「一ノ瀬君・・・私のわがままにお付き合いくださってありがとうございます」


「はあ・・・・」


「実は私、一ノ瀬さんにお願いがあるんです」


「僕にお願い?・・・僕だよ?・・・僕なんかに何をお願いしようっての?


「あの・・・よかったら私とお付き合い願えないかと思いまして」


「あの・・・ごめん・・・もう一回言ってくれる?」


「だから、よかったら私とお付き合いを・・・」


「・・・・・」

「まじで?・・・このシュチュエーションって本来逆だと思うんだけど」

「たとえば僕は薄紅さんに想いを告白するのなら分かるけど」


「え?・・・一ノ瀬さん、私に告白するつもりだったんですか?」


「あ〜いや、たとえばね・・・たとえば」


(でも、よりによってなんで僕?)


「あのさ・・・付き合ってって・・・僕なんかのどこがいいの?」

「だいいち君んちと僕んちじゃ貧富の差がありすぎて釣り合いが取れないでしょ」


「一ノ瀬君を選んだのは、あなたが私のタイプだからです」

「それ以外に何が必要でしょうか?」


「昔は身分の差だとか親の決めた相手だったり子供の頃からの許嫁だったり

そう言うしきたりが優先された時代もありましたけど今はそんな古めかしい

風習や制約はないでしょ?」

「今は恋愛自由でしょ・・・だったら自分が一番好きだって想う人と付き合う

のが最良だって思いませんか?」


「それは思うけど・・・」


「私じゃ不満でしょうか?・・・」


「いやいや不満だなんて思ってない、思ってないよ、絶対思わないし・・・」


「だったら私のお願い叶えていただけますか?一ノ瀬君」


「はあ、今だによく分かんないだけど、じゃ〜僕でよければ・・・」


「ありがとうございます」

「では、明日から、いえ今から私と一ノ瀬さんは恋人同士でいいでしょうか?」


「ああ〜どうかな〜恋人同士って言うには急ぎすぎてないかな」

「せめて友達からはじめて少しづつ気持ちを育んて行くって・・・どうかな?」


「はい、それでけっこうです、よろしくお願いします」


そう言って綺羅螺きららは頭を下げた。

僕は断ることもできず、綺羅螺きららの申し出を受けてしまった。


だから僕と綺羅螺きららは付き合うことになった。


実は薄紅家は高天原の神の血を脈々と受け継いできた由緒ある神の末裔。

高天原には一柱の神様が相反するふたつの性格(霊力や神通力)を有する神がいた。

そのふたつの性格の神を荒御魂あらみたま和御魂にぎみたまと言った。


荒御魂あらみたまとは、荒々しくて勇猛でたたりをなす性格で

和御魂みぎみたまは温和で慈愛に満ちており、人間に平安をもたらす性格と

されていた。


綺羅螺きらら 和御魂にぎみたまの能力を受け継いでいる娘なのだ。

そして理太郎本人は知らないが彼もまた和御魂みぎみたまの能力を受け継いだ

末裔。

だから当然、綺羅螺きららが純粋に人間だと思ってる理太郎は彼女の正体なんか知らなかったし、綺羅螺もまた同じだった・・・。


綺羅螺の告白によって同じ能力を持った神の末裔のふたりの関係がはじまった。

おそらく理太郎と綺羅螺の結びつきは悠久の昔から定まっていたものだろう。


理太郎と綺羅螺はやがて人間界と神々が住まう高天原を繋ぐ橋「高天橋」を通って

ふたりの力を合わせて荒御魂あらみたまとの戦いに神の国へ とおもむくことになるなど、この時ふたりは知る由もなかった。


おしまい。





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荒御魂(あらみたま)と和御魂(にぎみたま) 猫野 尻尾 @amanotenshi

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