第3話 その女以下略

 例の告白(?)から数日後、放課後の中庭にて。

 

 ここにもまた、向かい合う一組の男女の姿があった。周囲には、紫陽花や朝顔など夏の花々が咲き誇り、夕焼けの空と相まって、絶好の告白スポットと化している。


「先輩。今日は、俺に時間くれてありがとうございます!」


「気にしないで良いのよ。それで、話って何かしら?」


「は、はい!えっと、そのですね…」


 どうやら、この男女は先輩・後輩の関係の様である。後輩にあたる男子生徒は、如何にも緊張した様子で、言葉に詰まっている。

 一方の、先輩にあたる女子生徒は、普段通りといった様子で言葉の続きを待つ。


 やがて、言葉が纏まったのか、口籠もっていた男子生徒がぽつりぽつりと喋り始める。


「せ、先輩に初めて出会った時。一目で、心を奪われたんです。学年関係無く一人一人の意見を聞いて、皆を纏め上がる姿とか、孤立した子を見かければ側によって、輪の中に入れる様に手助けする優しさとか、そういう人柄も含めて惚れ込みました。

 偶然、知り合うきっかけができて、こうして会話できることが、自分の人生最大の幸運だと思ってます。先輩にとって俺は唯後輩の一人に過ぎないのかもしれません。でも、そこからもう一歩先に進んで、俺は先輩の特別な存在になりたいんです!だから、俺と付き合ってください、お願いします!」


「貴方の気持ちは、よく分かりました。だけど、答えを出す前に、私から一つだけ確認したいことがあるの」


「確認したいことですか?」


 あれ、デジャブ?

この流れ前にもあったよな、と思ったそこの貴方。正解です。お察しの通り、この女…


「ええ。まず、私の優先順位は全て弟なの。一に弟、ニに弟、三四がなくて、五に弟。兎に角、何に代えても弟優先。だから、付き合ったからといって其処は分を弁えて欲しいの。それから、基本デートは弟も連れて行くこと。弟が着いていくことで、余分に掛かる費用は、全部私が負担するから安心して。というか、私以外に払わせたくない。むしろ、弟の為にお金をつぎ込むのが姉としての幸せとうか、何というか……」


 ブラコンである。

 それも、三日月蓮に匹敵するほどの。


「あ、もうその辺で大丈夫です。すんません、全部忘れてください。今まで通り、先輩後半の関係でいましょう。それじゃ、失礼します」


 デスヨネ⭐︎


「あ、ちょっと待ちなさい!……もう。最後まで人の話は聞きなさいよね。これからが、良い所なのに」


 男子生徒は逃げる様にその場を去っていき、先輩の女子生徒だけが取り残された。告白された方が振られる、怪奇現象part2である。


「……ところで、さっきから五月蝿いのだけど?乙女の恋愛事情を覗き見とは、いいご趣味をお持ちのようね?」


 ヒェッ


 あの…、もしかして私の声聞こえてたりします?


「ええ、勿論。何が怪奇現象part2なのかしら?」


 ち、違うんです!アレは…アレは、告白が無かったことになるなんて、時間でも巻き戻ってんのかなー、不思議だなーって思っただけで。


 決して、悪気とかは無くてですね。馬鹿にしている訳でもなく、ほんの出来心ってやつでして。


「それって、ほぼ自白してる様なものじゃない?」


 ギクッ!


「まぁ、良いわ。話を途中で止められて、ちょっと不満なの。代わりに貴方が続きを聞きなさい。それで、許してあげるわ」


 それだけはご勘弁願います。


「いい?弟っていうのはね……」


 あの…、意思疎通って言葉分かります?今、止めてって言ったんですが?


「つまり、弟は万病に効く薬なのよ。これは、まだ私しか気付いていないことだから、何れ論文にして世界に広めていくつもりよ。これによって、世界中の多くの命が……」


 駄目だこれ。聞いちゃいねぇ。


 人の話を全く聞かず、勝手に自分の語りたい事を勝手に喋り出す、どこかの誰かにそっくりなこの女。名を「望月麗奈」、この物語の主人公その3である。


 黒羽色の艶やかな黒髪を背中まで伸ばし、目は切れ長で、鼻筋はスッと通っている。背は女子の中では高めの部類に入り、モデルの様。その容姿は可憐というより、美しいという表現が相応しい。


 第一印象は冷たいと思われがちだが、関わってみると、その実面倒見が良く、所属する風紀委員では生徒達のお悩み相談なども自主的に行っている。

 その実績から、学園の女神様と称されるほどの慕われっぷりだ。少なくとも表向きは。


 例によって、彼女と親交の深い者達の人物評は全く異なる。曰く、初恋クラッシャー、綺麗な花には棘どころか下に地雷が埋まっている、狂気を感じるブラコンetc.

 

 紛うこと無きヤツの同類。


 まあ、私が彼女に目を付けたのも、あのアホと見事なまでに波長が一致していたからなのだが。

 なんか面白そうだったかr…、ゴホン。もとい、ハイスペック欠陥暴走車なあの馬鹿と、どれほど共通点があるのか観察していたという訳である。


 結果はご覧の通り。性別が違うだけで、ほぼ同一人物と言っていい程のシンクロ率。さらに、私の存在に気付く程の勘の良さも同じ。

 そこまで、一緒じゃなくてええんやで?あんな化物が2人とか、ストーリー破綻するやん。今からでも、設定変えん?マジでヤメてください。


「お黙り。ちゃんと静かに、聞きなさい」


 はい、すいません!黙ってます!

…ところで、あとどのくらい時間かかりそうですかね?


「そうね、全部で十章構成の内、第一章があと3時間くらいってとこかしら?」


 え?


「え?」


 え???

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うちの兄・姉が過保護すぎる! 成瀬 @virutuoso19

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