第2話 妹は嘆く
蓮のマシガントークが炸裂していた頃。告白された方が振られるという、一連の珍現象を終始見守っていた者がいた。
「学園のアイドル、橋本杏奈さんでも駄目かぁ…。途中まで良い感じだったのに、なんで私の事引き合いにだすかな、あのアホ兄。これで、5人連続失敗。どうしよう?もう他にお兄の相手できそうな人なんて、残ってないよぉ。あぁ、私の人生。お兄が一生付き纏ってくるのか…」
お人形の様な可愛らしい少女が、悲壮感たっぷりにそう愚痴をこぼす。
何を隠そうこの少女こそ、件の三日月蓮の妹「三日月鏡花」にして、この物語の主人公その2である。
幼い頃は、お兄ちゃん大好きっ子として育った鏡花だったが、成長するに連れて兄の異常性に気づき始める。
小学校の時、クリスマスにサンタさんに会いたいと兄に言ったら、トナカイ連れた髭のオジサンがやって来た。鏡花自身は、無邪気にサンタさんだと喜んだが、全く存じ上げない外国のオッサン連れてきた我が子に、両親はドン引いていた。
ついでに、クラスメイトにその話をしたら距離を取られた苦い思い出がある。
……サンタの件ね。アレは、私もビビったよ。
だって、齢10にも満たない子どもが、Faceb〇〇kとかSnap〇〇at、Instag〇〇mなど、ありとあらゆるSNSを駆使して人脈を作り、フィンランドのモノホンの方とアポ取ってんだもん。
しかも、英語だけじゃなくドイツ語、フランス語、イタリア語、ポルトガル語、その他計10カ国語を物の数時間でマスターしてたよ。
思わず、オカシイだろってツッコミいれたら、ヤツめ私の存在に気付きやがったのだ。
本来、私の声なんて届く筈無いのに、それを知覚してやがる。全く、どうなっているんだ。あの
気を取り直して、三日月鏡花の説明を続けると、兄と同じく母親由来の金髪をしているが、あちらがプラチナブロンドによる神秘性を演出するのに対し、こちらは純粋なブロンドで親しみやすい印象を相手に与える。
また幼児体型…、ゲフン、ゲフン、失礼。高校生にしては成長が遅い体格から、友達からも愛玩動物か何かの様に可愛がられている。
自分がモテないのは周りより幼い見た目のせいだと思っているが、一部界隈からは熱烈な支持を受けており、無謀にもお近付きになろうとした馬鹿が妹狂いの手によって粛清…、ではなく平和的な話し合いでお引き取りになられている。
そいつが、結局どうなったのかって?知らない方が幸せだよ。
「そんなに落ち込んで、どうしたんだい鏡花?悩みがあるなら、お兄ちゃんに相談してごらん」
いつの間にか、蓮が鏡花の隣に陣取っていた。
「イミャーー#@☆♪¥!」
「鏡花は叫び声まで可愛いなぁ♡」
「い、いつからそこに?」
いや、本当いつからだよ。ずっと、妹語りしてたんじゃねぇのかよ。
「ん? 俺の妹センサーが、可愛い可愛い妹が気落ちしていると感知したからね、すぐ飛んできたんだよ」
なんだそれは。
(誰のせいだと思ってるのよ…)
本当にね。
「それにしても、ごめんね。せっかく、鏡花がお膳立てしてくれたのに、またお兄ちゃん振られちゃったよ。お兄ちゃんのこと思ってくれるのは嬉しいけど、鏡花がずっと側に居てくれれば、お兄ちゃんそれで幸せだから、気を遣わなくて良いんだよ?」
蓮は鏡花の頭へ手を伸ばし、渾身の王子様スマイルでもって頭を撫で始める。
(一部勘違いはあるけど、全部バレてる… )
一方、自身の企みが兄にバレた鏡花は冷や汗を浮かべながら、兄の気が済むまで大人しく撫でられることにした。
するとそこへ、第三者が割り込んで来る。
「おーおー。相変わらず、三日月兄妹は仲が良ろしい事で」
話し掛けてきたのは、二人の幼馴染にして、自称蓮の親友「有馬俊平」。何故、自称親友なのかというと、蓮からは鏡花を付け狙うストーカーだと思われているからである。
三日月家とはご近所同士で、古い付き合いであるが故に、何かと巻き込まれがちな、哀れな被害者A。
野球部期待のエースとして注目の的であるが、殆どの時間を蓮と共に過ごし、お互い彼女もいない為、高尚な趣味をお持ちの女生徒達から、そういう関係ではないかと、BでLなアレな妄想のネタにされている。尚、本人はとある女性に片恋中であるが、望みは薄い。それはもう、冬場の小さな池に薄っすら張った氷くらい。
……強く生きろよ。
「ふふん。そうだろう、そうだろう!偶には、良いことを言…、ゴフッ!」
「もー!揶揄わないで下さいよ、俊平さん!」
蓮のセリフを途中で遮って、肘鉄を喰らわせる鏡花。見かけに寄らず、なかなか強烈な一撃だ。
いいぞ、もっとやれ。
「悪い、悪い。でも、本当のことだろ?」
「ちーがーいーまーす!って、あれ?そういえば、なんで俊平さんがいるんですか。野球部の練習って、いつもはもう少し早く終わりますよね?」
「もう少しで、夏大が始まるからな。今年こそは、甲子園行こうって皆気合い入ってるんだよ。もちろん、俺も含めてな」
「目指せ甲子園ですか!なんか良いですよねー、そういうの。憧れちゃいます!私も、応援しにいってもいいですか?」
「おう、来いこい。鏡花ちゃんが応援に来てくれたら、100人力だ!」
「あ〜、もう。止めてくださいよ〜。髪型崩れちゃうじゃないですか//」
俊平はワシャワシャと少し乱暴に頭を撫でるが、当の鏡花は蓮の時よりも嬉しそうに、そして照れてまでいた。
それもその筈。実は鏡花、長年密かに俊平に思いを寄せていたのである。
自分が自立するため、また自分の恋を成就させるため、最大の障壁である兄をあの手この手で、払い除けようとしている最中なのだ。
今の所、なんの成果も得られていないが…
「ふ、ふふ…逞しくなったね、鏡花。お兄ちゃんは、妹の成長が実感できて嬉しいよ」
と、ここでダウンしていた蓮が復活する。あれを成長の一言で済ませるとは、タフな奴だ。
「時に、俊平。誰の許可を得て、鏡花の頭撫でてんだ、おん?」
口調変わってんぞ、王子様。普段被ってる猫はどこいった?
「許可って、おいおい。俺にとっても鏡花ちゃんは妹みたいなもんだし、別にいいだろ?」
「良くないですぅー。見ろ!お前なんかの妹にされて、鏡花が傷ついてんだろうが!」
蓮がビシッと鏡花を指差す。
「い、いもうと、妹かぁ……。あはは、はぁ〜…」
好きな人からの妹扱いに、ショックを隠しきれないご様子の鏡花さん。気の所為か、そこだけ照明が落ちている。
「え、ごめん!なんか不味かった?」
君は、もうちょっとデリカシーというものを持とうか、俊平君。
「当たり前だ。お前みたいなストーカーが兄なんて、誰だって嫌に決まってんだろうが!ほら、鏡花。本物のお兄ちゃんの胸に、飛び込んでおいで」
黙れ、シスコン。どの口が言ってんだ、お前こそ家庭内ストーカーだろうが。
「所詮、私は妹キャラですよ。背も皆より低いし、どうせ胸も一生まな板なんですよ…」
益々、いじけていく鏡花。一度こうなると、機嫌が直るのに時間を要する。
「誰の妹が貧乳だ、ゴラァ!いいか?鏡花はな、あの慎ましい胸に、希望という名の夢を詰め込んでんだよ!」
「俺なんも言ってねぇし!むしろ、本人が絶壁って認めてるんだけど⁈」
いじける鏡花の呟きを、蓮が拾って俊平にキレ散らかす。つまりは、八つ当たりである。
「貴様ぁ!この期に及んで、まだそんな事を宣うのか!今ここで、成敗してくれようぞ!」
「お前、なんか口調おかしいぞ⁈」
それな。
「黙れぃ!神妙にお縄につくがいい!」
「だから、変だって!ちょっと、鏡花さん?君のお兄ちゃん、止めてくれませんかね⁈」
「ええい!覚悟!」
「ちょっ、待て!タイム、タイム!ガチで怪我するから!試合出れなくなるから!」
その後。何とか気を取り直した妹の手によって、兄の暴走は取り押さえられ、野球部エースの肩は守られた。
しかし、若干助けに入るのが遅れ、肋骨を何本かやられたとか、いないとか。
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