第63話 八咫烏の悪あがき

□八咫烏の赤坂事務所(黒田)


:八咫烏がエネルギー結晶をラガリアスに提供して日本中の探索者に嫌がらせしてたってことか?

:だよな。各地の1層にボス置かせて、自分たちのところは入場料爆上げして……

:やることがせこいですのぅ

:でも悪質だよな

皇ちゃん:内閣で緊急会議をやるらしいから落ち着いてほしいって。

:最近政府仕事早いなw

:【悲報】日本最大の探索者チーム八咫烏終焉のお知らせ

 


「ラガリアス殿。エネルギー結晶はまだ残ってはいる。それでもっと強いモンスターを出せないのか?」

『ん?できないことはないが』

「そもそもリッチのやつはあなたの命令に背いてそこに来ている。罰が必要なのでは?」

『確かにそうだな。この前は私を追い出して勝手に他の場所に飛ばしたしな』

「そうです」

『じゃあ持ってこい』

黒田は放心したままの肉塊に許可を取ることもなく決めてしまう。


「いくぞ!」

あそこへ?

協力するにあたってダンジョンの入り口から81層のあの倉庫まで転移できる機能をラガリアスがつけてくれたから一瞬だけど、今の状況で行っても事態は変わらないんじゃないだろうか。

もうここから挽回できるとは思えないが、こいつらのやることは汚いからわからない。


「白鳥!お前もだ!」

「……」

気付けば他のメンバーは準備に行ったようだ。私と黒田、あとはまだ放心している肉塊さんだけがこの場にいる。


私も行かないといけないのか?

お父さんと戦うのは避けたいけど。


「おい!聞いているのか?お前の妹の治療にはかなりの金がかかるんだぞ?ここで八咫烏が潰れたらそれも終わりだ」

「聞いている。少し考え事をしていた。準備してくる」

「それでいい。行け」

苛立った様子の黒田だが、素直に行くと言えば頷いた後、こちらへの興味を失ったようだ。

今必死に打開策を考えているんだろう。



赤坂ダンジョンに向かうメンバーは黒田、影山、須藤、蛇沢、そして私だ。

高難易度のダンジョンを探索する際のいつものメンバーだ。

ただ、これでお父さんたちに勝てるとは思えない。というか、昨日あっさり負けたばかりだ。


ラガリアスというモンスターがお父さんを押さえるならわからないけど。

そうなったとき私は戦えるだろうか。

戦うことはできる。

でもダメージを与えすぎたら???


……考えても答えは出ない。

なるべくそれは控えよう。


心は決まらないが、とりあえず保留に近い形で考えを押さえつけた私は準備を整えた。



「では、ここからは部隊を分ける」

「?」

再び集まった私たちを前に、黒田がそんなことを言いだした。なぜか肉塊の顔にも生気が戻っている。黒田は何を吹き込んだんだろう?


「俺と蛇沢、影山と須藤は赤坂ダンジョンでラガリアスに合流する。リッチを倒すのはラガリアスに任せ、他のやつに対処する」

「対処しても81層がバレたのはまずくないですか?」

蛇沢が伺うように尋ねる。

彼女は度重なるパワハラ、セクハラのせいで黒田たちに対して強く出ない。


「問題ない。提出していたと思っていたが、30年前の担当者が失念していたということで申請は出させた」

それを鵜吞みにするのはよっぽどのバカだと思うけど、まぁ丸め込んだのね。

いくら袖の下を渡したんだろうか。

わからないけど、それで肉塊が復活したのか。


「竜司さんと白鳥は新宿ダンジョンだ」

「あの憎きリッチが不在の間に攻略してやる」

なぜ?今新宿ダンジョンに行ってもお父さんはいないけど、肉塊はやる気満々だ。


「今の新宿ダンジョンを攻略することに何の意味があるの?」

「くっくっく。ラガリアスから聞いていたのだが、100層のボス部屋の奥にはそのダンジョンのコントロールパネルというものがあるらしい。それを破壊すれば、そのダンジョンは崩壊するとな」

「なっ?」

そんなことができたなんて……。


これで全てうまくいくと妄想でもしていそうな悪い表情をしている肉塊だが、お父さんがその対処をしていないとは思えないんだけども。

代わりに強力なモンスターを配置しているとか、そのコントロールパネルに防御を張り巡らせてるとかはしてそう。

でも、直接対決しなくていいのは助かったわ。


  

「新宿ダンジョンを壊すのか?それはさすがに……」

「問題ない。リッチは害悪だ。既に議員たちの一部にも了解を得ている。仮に政府が反応したとしても、その時には既に新宿ダンジョンは消えた後だ」

肉塊は腐っても四鳳院家ということね。

実家の力も使って抱え込んだのね。

短期間によくやるわ。黒田の入れ知恵なんでしょうけど。



「ではいくぞ!」

「「「おう!」」」

黒田の合図に答えた3人は赤坂ダンジョンに向かっていく。


「こちらも行くぞ」

「……はい」

私は肉塊の車に乗って新宿に向かった。

運転手さんが後部座席に乗せようとしたのを断って助手席に座る。

肉塊の隣は嫌だったのよ。


 

あと、配信は私も見ておこう。

動きがあるかもしれないから。

と思ったら、黒田たちがさっそく登場した。



『エネルギー結晶をよこせ』

『はい。100個ほど拠点に置いていたものを持ってきました。まだ集めますのでお待ちを』

『素直にそうしていればいいのだ』

ラガリアスに恭しくエネルギー結晶を渡す黒田の姿は、完全に魔王の使い……つまりパシリだ。

それでいいの?


:八咫烏……完全にモンスターの手下じゃねーか

:ノコノコ出てきたなw

:階層の件、黙ってたのはいいのかな?

 

『過去の担当者が提出予定の書類を出し忘れていたようなので、既に提出して受理されている。ちょっとしたミスだ』

コメントに黒田が答えるところまで配信にのっかってる。

あっちでも見てるのか……。


:汚ねぇ!

:まぁ、これくらいやるよな

:きっと関係ない人が責任取らされてるんだろうな

:いや~絶対にいや~

:それでもモンスターに頭下げて今後どうするつもりなんだ?

 

『ふん。モンスターとの接触などもともとそこのリッチとしているだろう。何か問題があるのか?』


:くっ。人を滅ぼそうとしているモンスターと、リッチ様を一緒にするなんて……

:まぁ、利権にしがみつくお偉い議員さんから見たら一緒なのかもな

:そうやって利権確保して、結局世界崩壊したら意味ねーのにな

:じじいどもは今が良ければ良いんだよ!


『うるさい。黙って見ていろ。では、あとは正式な手続きをとらずに勝手に侵入した探索者にお仕置きをして完了。楽な仕事だ』

『話は終わったか?では、私はリッチをやろう』



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ここまでお読みいただきありがとうございます!

実はリッチ様と同様に現代ファンタジーのジャンルで新作を考えています。

雰囲気をつかむべく第一話を書いて近況ノートに貼ってみたので、コメント頂けたら嬉しいです!

↓↓↓

https://kakuyomu.jp/users/lordwind777/news/16818093083569000121

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