星降る夜を君と眺めたい
黒井しろくま
第1話 星空
「見てみて!流れ星がいっぱい!」
「そうだな。流れ星に願い事をすると叶うらしいぞ」
「えぇ!じゃあ早くお願い事しなきゃ!」
るなは目をつぶり「むむむ…」と星に願いごとをする。
「なにを願ったんだ?」
「また流星群を樹とみられますようにって!だから…また一緒に見にいってくれる?」
「あぁ、約束だ」
「じゃあ指切りしよ!」
樹とるなは互いの小指を合わせ指切りをする。
「えへへ…約束だよ!」
―———————————
「なんかすげぇ懐かしい夢を見た気がする」
11歳——懐かしい夢を見るなんてな。
樹はソファから立ち上がり紙袋を右手に家を出る。
六華医院805号室。
コンコンとノックをし扉を開ける。
患者衣をまといベッドから窓の外を眺める少女に声をかける。
「るな。元気か?」
「樹…毎日来なくてもるなは元気だよ。心配性だな~」
「高校は夏休みだからな。時間はたっぷりある」
流星群の3年後、俺達の住む六華町に小さな彗星が落ちた。
地形変化や人身事故にはならなかったのは幸いだったが、代わりに『彗星の呪い』と呼ばれる謎の病が蔓延し始めた。
発症者は身体の成長が止まり時折頭の割れるような頭痛に見舞われるのが現状判明している症状だ。
「六華流星群、今年みたいだね」
「また一緒に見に行けるかな?」
「約束しただろ。一緒に見に行こうな」
「えへへ…覚えててくれたんだ。樹は優しいね」
「約束を忘れるわけないだろ」
「それだけじゃないよ。周りの人は身体の成長が止まって、意味不明な病気にかかった私を白い目で見てくるの…でも樹だけは変わらずるなと接してくれる」
「俺にとってはるなは変わらずるなだ。病気に嫌気が俺が心中してやるよ」
「樹に生きていてほしいから死んだりはしないよ。それに…樹がおじさんになってもるなは若いままだもん!」
「一緒に歩いてたらロリコンおじさんになっちゃうね」
るなは小悪魔のような笑みを浮かべる。
「ロリコンは勘弁だな…体の成長が止まっても年齢は重ねるわけだしるなこそロリばばあだろ」
「あぁ!女の子にばばあなんて言っちゃいけないんだ!」
「先におじさん扱いしてきたのはるなの方だろ!」
「でも、おじさんになるまでるなの隣にいてくれるってことだよね?」
樹は恥ずかしそうに俯く。
「照れちゃうな~」
「俺をからかうな!ほら、カステラ好きだろ」
樹は話をそらすように紙袋の中のカステラをるなに手渡す。
「これって和堂の超人気カステラだ!朝早くから並ばないと買えないのに…」
「病院食だけじゃ味気ないだろ。これ食べて早くよくなれ」
「面会時間もそろそろ終わりだから帰るわ。また来る」
「ぁ…待って」
るなは立ち上がる樹の服のすそを咄嗟に引っ張る。
「どうした?」
「……カステラ切ってくれないかな?」
一瞬何か別の事を言おうとしていた気がするけど気のせいか。
樹はフルーツの山籠から果物ナイフを取り出しカステラを切り分ける。
「どうしたんだ?さみしいのか――なんて」
「さみしいよ。毎日来なくていいなんて言ったけど本当は毎日だって来てほしいの。樹と会うこの時間だけは病気の事を気にしないで過ごせるから…」
「言われなくても毎日来るから、大丈夫だ」
「えへへ…ありがと」
「じゃあ俺行くわ。また明日な」
「うん…!またね」
そういって樹は病室を後にする。
―——————————
「ただいま」
「おにぃ遅い!またるなちゃんの所行ってたんでしょ」
「千夏お出迎えか?」
「ち…違うわよ!おにぃが帰ってこないと夜ご飯食べられないの!」
「はいはい。それは悪かったな」
樹はそういって千夏の頭にポンっと手を置く。
「でも千夏ったら樹が帰ってくるまで玄関でうろうろしたり、ママにまだ帰ってこないの?ってずっとソワソワしてたのよ」
「へぇ俺の事大好きかよ」
「そんな訳…!ママも余計な事言わないでよ」
千夏はフンッとリビングへと向かう。
俺も手を洗い食卓へと腰を下ろす。
「そういえば樹、これ」
母さんから1枚のチラシが手渡される。
”六華祭”
毎年神社でやる小さなお祭りの事だ。
出店と盆踊り、そしてメインの花火とほかの地域と変わらない普通の祭りだ。
ひとつ違うのは彗星の落ちた方角に向かって祈りをささげる事くらいか。
「母さん、このチラシもらってもいい?」
「いいわよ」
「おにぃなんてどうせ彼女もいないし…可哀そうだから私が一緒に行ってあげても…」
「ごちそうさま」
樹は速足で食器を下げ二階の自室へと戻る。
「っていないじゃない!ちゃんと最後まで聞きなさいよ!」
「お兄ちゃんを誘うのはまた来年かしらね」
「うぅ…今年は一緒に行きたかったのに…」
「夏祭り…!これなら」
―—六華流星群まで残り29日——
星降る夜を君と眺めたい 黒井しろくま @kuroi_shirokuma
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