夜空に咲く花束を

功琉偉 つばさ

夜空に咲く花束を

「ねえ、ねえ、こっちこっち!」

君は嬉しそうにはしゃぎながら僕を手招きした。

「ちょっと待ってよ。 すごい混んでるんだから。はぐれたら困る。」

僕らは今日学校の近くにある中平なかひら公園で開催される一番大きい祭に来ていた。

「はぐれたら困る?なんか保護者みたい。じゃ〜あ、こうすればいいでしょ!」

ニヤけた顔でいたずらっぽくそう言って君は僕の手を掴んで引っ張った。

「じゃあ行くよ!」


◇◆◇


 僕は二宮心にのみやこころ。アオハルを謳歌している天下の高校2年生だ。

祭りの日の朝。僕はいつもより少し早く学校に着いた。

「おはよう。 今日はなんだか早いな。」

「おはよう。」

 そう話しかけてきたのは宮田拓弥みやたたくみ。クラスで仲が良い…というか席替えのたびに前後左右に必ずいる何かと縁がある奴だ。

「だって今日は祭りだよ!」

「そうか〜もう祭りかぁ。 良いよなぁ お前には可愛い彼女がいてさ。どうせ放課後に二人で行くんだろ?」

「……。」

「おい。なんか言えよ。こっちは彼女の『か』の字にも縁がないんだからさ。まぁせいぜい楽しんできな。俺はバスケ部の仲間と行ってくるからよ。なぁに変に邪魔したりしね〜よ。」

友達の彼女とデートの時間を邪魔するのが普通だとでも言うような口調でこんな事をいう。

「ありがと…う?」

「おう。礼なんて良いんだよ。任せておけ。 あっヤベッ、あと10秒でショート(朝の学活のこと、ショートホームルーム)が始まる。」

 慌てて自分の席に戻りながらも拓弥はなぜか誇らしげに言った。

何が『任せておけ。』だ。別に大したことじゃないだろ。

 僕と拓弥はバスケ部に入っている。その中でも拓弥はチャラチャラした感じで周りの部員を、特に1年生を巻き込んで何やら変なことをしている。

 彼女が出来そうな部員がいたらけしかけたり、若い先生にけしかけたり…と今までやってきたことを挙げ始めたらきりがない。

 バスケ部は問題児が集まっている騒がしい部活と、周りから思われているほどにまでなっている。本当に迷惑だ。

 僕はそんなバスケ部の中でも割とおとなしい?方でキャプテンと一緒に拓弥たちの行動を静かに見守っている。(拓弥たちの色んな意味での暴走を止めることができる人なんてこの世にはいないからだ。)

 ショートでの先生の話をぼーっと聞きながらそんな事を考えていた。

すると先生が

「今日は中平公園で祭りが開催される。 みんな放課後に行くんだろうが、くれぐれも変に騒いだりして問題を起こさないでくれよ。 特に宮田。 聞いているか? 朝から寝るな。」

「うん? 先生起きてますよ?」

「思いっきり寝てだだろう? 机に突っ伏して。 まあいい。問題を起こすなよ。」

「は〜い。」

やっぱり宮田は先生に目をつけられているようだ。

 去年、宮田はバスケ部の仲間を連れて、公園の祭に来ていたテレビ局のカメラにわざわざ映り込みに行き、カメラの前で『イェーイ』とか騒いだ。それが生放送だったので先生方の目に止まり、『高校生としてふさわしい行動をするように』などと叱られたらしい…僕は誘われたが、ちょうど用事があっていけなかったので関わらずにすんで事なきを得た。


◇◆◇


 「心。 今日楽しみだね。」

ショートが終わると僕の彼女の井上望鈴いのうえみすずが声をかけてきた。

望鈴は同じクラスの女子バスケ部だ。

「お二人さん。次の授業、移動教室だよ。」

何やら拓弥がニヤニヤしながらこちらを見ている。

「拓弥、なんだよ。」

「別に〜。」

なにをしたいんだあいつは。

「一回家に帰ってから祭りに行っても良い? 荷物重いし… ボソッ(着物姿見せたいし)」

望鈴は学校から家がとても近いので帰ってからでも全然祭りで遊べる。でも僕は電車に乗らないと帰れないので少し大変だ。

「じゃあ家について行って良い?」

「いいよ。 あ〜あ早く放課後にならないかなぁ」

君は物理の教科書とファイルを両腕に抱えながら肩を落とした。

「ね〜 でも6時間なんてあっという間だよ。」

「そうだよね。 頑張ろう!」


◇◆◇


そこから僕らは6時間の授業を受けた。

 物理・数学・公共・化学・地理・英コミ。

僕らは理系なのでこんな感じの時間割だった。

物理や数学は体感的には早く終わるのだが、3時間目の公共が本当に長く感じた。

 倫理分野なんて本当に何を言っているのかがわからない。絶対に日本語ではない。

 そして次に疲れたのは英コミだ。英語コミュニケーション、略して英コミは隣の人とのペアワークがとても多い。なので毎回毎回、あの拓弥と話し合わないといけないのだ。しかも、あいつはなぜか英語だけは得意なのでペラペラと無駄にうまい英語を喋り、なにかと鼻につく。

 そんな時、望鈴がペアだったら良かったなぁなんて考えてしう。望鈴とは席がだいぶ離れいるし、まだ一回も半径4席以内になったことがない。

 そんなことを思っていたら、

「おい。 お前望鈴ちゃんのことを考えていただろ。」

などと言ってくる。 図星なので何も言い返せず言われるがままになる。相槌を適当に打ち、聞き流していると、何やらあいつなりの恋愛に対する理論を展開し始めた。僕が聞いていてもいなくても、自分の世界に入って話しまくるので迷惑なことこの上ない。

 やっとのことで授業を終えるとなんとも言えない開放感が来た。

「さようなら。」

と帰りの挨拶を済ませると、僕は望鈴を連れてすぐに教室を出た。

「行こう!」


◇◆◇


 僕らはいつもでは考えれらないような速さで学校を出た。ちょうど二人とも掃除当番がなかったし、部活もOFFだったので本当に絶好の祭り日和だ。

「ちょっと待ってて。」

「OK。」

 望鈴の家には10分くらいで着いた。すぐに準備が終わるといい、玄関で待たされていると何やら階段の上の方でガシャガシャと物音がなっている。

「大丈夫?」

「大丈夫だよ。」

と上から声が聞こえたが、物音はなり続けた。

許可なく上がるのもどうかと思ったのでそのまま玄関で待っていた。

 5分くらいして、君は階段から降りてきた。

「じゃじゃーん。」

望鈴は浴衣を着ていた。 風鈴の柄の黄色と青の浴衣だった。 爽やかな感じで望鈴にとっても似合っている。

「良いじゃん、似合ってる。 かわいいよ。」

 自然と口から言葉が出てきた。

するとあまり意識はしていなかったが、よくそんなことをスラスラと言えたなと思った。それに対して君は頬を赤らめて恥ずかしそうに、

「当たり前でしょ!」

と語気を強めて言った。 

それが可笑しくて僕は笑った。

「何よ。心。なんで笑うの?」

そう言いながらも君も釣られて笑っている。

「じゃ、行くか。」

「うん。」

空は少しづつ夕焼けに赤く染まってきていた。


◇◆◇


 祭りの会場の中平公園につくと、辺りは人でいっぱいになっていた。

わたあめ、りんご飴、焼きそば、たこ焼き、射的、くじ引きなどの屋台が公園の道に沿ってズラッと並ぶ。

「ねえ、ねえ、こっちこっち!」

 君は嬉しそうにはしゃぎながら僕を手招きした。

「ちょっと待ってよ。 すごい混んでるんだから。はぐれたら困る。」

「はぐれたら困る?なんか保護者みたい。じゃ〜あ、こうすればいいでしょ!」

ニヤけた顔でいたずらっぽくそう言って君は僕の手を掴んで引っ張った。

「じゃあ行くよ!」

「わかったよ。」

君は僕を連れて人混みの中に向かっていった。

「えっと〜花火大会が8時半だから、8時までにはやりたいことをやらなきゃ。ということで、急ぐよ!」

君は眩しいくらいに目を輝かせている。

「よし、頑張るか!」

 そうして僕らは沢山の屋台に行った。


◇◆◇


「そんなに食べれる?」

「良いの。大丈夫大丈夫、せっかくの祭りなんだから。」

 そんな事を言いながら君は両手にいっぱいの食べ物を持っている。

焼きそば、たこ焼き、お好み焼き、フランクフルト、りんご飴…

ちょっと目を話した隙にどんどんなくなっていくから本当にすごい。

「きゃっ、あ〜あ外した。」

「貸してみて。」

「心でも当てれないよ。」

「よいしょっと。 ほい。」

「えっ、すごい、すごい!」

射的も一緒にやった。 望鈴といっしょにやることは何でも楽しい。

「そろそろ花火だね。行こうか。」

「そうだね。」

「足とか疲れてない?」

「大丈夫大丈夫。 あれでしょ。漫画とかだったらここらへんで女の子のほうが靴擦れするんでしょ。 でも大丈夫。私はしっかり下駄用の靴下を履いてますよ〜」

「良かった。 じゃあ行くか。」


◇◆◇


 僕らは中平公園の真横にある川に着いた。 

毎年ここで花火が上がるのだ。

「付き合ってから初めての祭りだよね。」

「そうだね。ちょうど付き合ってから半年かな?」

「うん。 そうだ! ぴったり半年記念だ! というか今まで気づいていなかったのヤバすぎる。」

「そろそろ花火が上がるよ!」

ヒュー…ドンッ

色とりどりの花火が上がった。

すると唇になにか温かいものが触れた。

「心。私に出会ってくれてありがとう。 まだ半年だけど、これからもね。」

花火の爆音で周りの喧騒がかき消される中、耳元で囁かれた言葉はしっかりと僕に伝わった。

「じゃあ僕からも。」

君の耳元で今度は僕が囁いた。

「少し待って。」

なにやら君は不思議そうな顔をしている。

「少し待って?」

すると、アナウンスが流れた。

「お次はサプライズ花火です! この前『大切な人へ届けたい言葉』というお題で募集をしまして、ここで当選した5名様への花火を打ち上げます!」

「えっ。えっ… まさか…」

君はとても戸惑っている。

3分くらい他の人のメッセージ花火が上がった後、遂にそのアナウンスは流れた。

「最後は心さんから望鈴さんへのメッセージ。」

アナウンスに僕は声を重ねる。

「夜空へ咲く花束を君にプレゼント」

空には一斉に5の赤い花火が上がった。

「ね。 望鈴。好きだよ。」

君は少しの間空を眺めて立ち尽くしていた。

「応募したら偶然あたったんだ。」

「すごい…きれい…私も大好きだよ! 心!」

 夏の澄んだ夜空に咲いた5本の赤い花は僕たち2人を光で包み込み、しっかりと余韻を残したまま空の闇に溶けていった。

 隣でお互いの温かさを感じながら僕らは花が咲いた夜空をいつまでも眺めていた。

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