座席の恋

@komikomimomo

座席の恋

夕方 日が落ちて周りがすっかり暗くなった頃、補習を受けて男子生徒が帰っていた。


高校からほど近い有人駅に自分1人だけが立っていた。

駅員のおじさんに挨拶をしてホームに入る。

「寒いなぁ」

気温が10度を下回る12月上旬の寒さはブレザーにカイロが一つの学生には厳しいものだ。


しばらく足踏みして待っていたら電車が到着した。

いつもとは違う銀色の都会感のある車両だ、中には仕事帰りのサラリーマンが数人居るだけで2人がけの座席に座れた。


じきに発車し揺られて、何駅か止まると人が増えてきた、そのうち座席がないのか立つ人も居たが隣に座る人は居ない。


そのうち路線で一番大きな駅に止まった、多くの人が乗り込む中、とうとう隣に人が座った。


普段の通学中も見た事がある他校の女の子だ、眠いのか目をショボショボさせて擦っている。


下車する駅まで時間があるので、図書室で借りた本を読んでいるといつの間にやら隣の子がスースーと寝息を立てて眠っている。


(起こすとマズいかな、でも降りる駅過ぎるかもな)

そんな葛藤をしているとふと目を開けたが

寝た。

しかも寄りかかってきた。


(おい おい、マジかよ)

若干嬉しくもありドキドキもする。


この男は以前より気になってはいたのだが自身が陰キャだった事もあり声を掛ける事がなかったのだ。

普段絶対に触れられない女性の柔肌に犯罪的興奮のような感情が止まらない。


「あの、すみません降りる駅大丈夫ですか?」

勇気を出して声を掛ける。


「え?今何駅ですか?」

寝ぼけたように返事を返した。


「今は◯◯駅を過ぎた所です」

若干声が上擦りながら言う。


「なら大丈夫です、ところでどこで降りるんですか?」

「僕は××駅ですね」

「偶然ですね!私もなんですよ!」

ニコニコと素敵に笑う姿にドキッとする。


「それって◯◯先生の新刊ですよね!」

「えぇまぁ」

「私ファンなんですよ、よく読むんですか?」

「そうですね、僕は◯◯の回が好きです」


普段見る姿と違う陽気な姿に怖気づいた、外見が大人しそうなのに非常にハイテンションだったからだ。


「私は××の回が好きですね」

「良いですよね」

せめて連絡先を交換しようと奮闘する。


しばらく本の話題を話していた。


話題を話してから30分経った頃。

「◯◯さんっていつも7時半の電車乗ってます?」

「そうですよ、××さんも?」

そう女の子から話し始めた。


「どこかで見たなー?って思ってたんですよ!いつもこんな遅くに帰ってるんですか?」

「いえ、恥ずかしながら補習でして、いつもは学校が終わったらすぐに帰るんですよ」


言いづらそうに、実際言い難い事を男は言う


「私は部活なんです、大会があるのでまぁ、一年生にはほとんど関係ないですけど」

「ですよね、クラスの運動部の奴もほとんど出ないのに!って言ってますよ」

「分かりますよその気持ち!」


「◯◯さんは今度の日曜日は暇ですか?」

「そうですね、何もないです」

デートのお誘いか!と期待。


「その日京都の方で先生のサイン会があるんですよ、良かったら一緒に行きませんか?」

「いいですよ、行きましょう」

平静を装いつつも内心はヤッター!と歓喜した。

実際ニコッと無意識に笑っていた。


その後連絡先を交換した。

「じゃあまた明日」

「はい!」

(やった!楽しみだなぁ!)



―――――――

「おじさん、ありがとね。帰宅時間教えてくれて」

「良いって!姪っ子の為ならそれくらい!それより連絡先交換出来たの?」

「出来たわ、本当にありがとね。じゃ」

暗い車内で一人の女子生徒がスマホで連絡していた。


「良かったわね」

運転中の母親が言う。

「うん、また今度紹介するわ」


「好きな人を手に入れる方法は私似ね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

座席の恋 @komikomimomo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る