第103話 歴史
「やはり来たんですね。でも・・・こんなにも早く来るのですね」
「もしや、こちらが攻めて来るのを気付いていたのですか」
「はい。僕は、母の話を聞いて、そしてサブロウから、お爺さんのお話を聞いていたので、大体の予想をしていました。僕の祖先は、大陸を追われた一族だと知ってます。彼の一族とも繋がりがあり、その彼のお爺様も逃げて来たらしく。そうなるとワルベント大陸は戦乱の世で荒れているのではないかと予想していました。そしてトドメのような事件が起きて、彼、サブロウの一族が逃げてきたと思っていましたので、いずれは。この大陸にも魔の手が伸びるのではないかと予想していました」
「そうですか・・・予想だけで、こちらの情報を察しているとはさすがだ。太陽の人はやはり、伝説上の人間と同じ・・・」
タツロウはフュンの聡明さに驚いていた。
「あのタツロウさん、歴史を・・・一から教えてくれませんかね。こちらが知る情報と照らし合わせていきたいです」
「そ、それはそうですよね。気がつかず、申し訳ありません。ではまずトゥーリーズの情報から」
タツロウは、簡易的に歴史の授業をした。
◇
今からおよそ千年前。
太陽の人と呼ばれる人間がワルベント大陸を完全支配した。
その人間は、人々に希望の道を示したことにより、太陽のように輝く人という意味で、太陽の人と崇められたのだそうです。
彼は、ワルベント大陸に大国家レガイア国を形成したのでした。
その国家は、しばらくの間は平和であったと言われています。
しかしそこから数百年の時が経つと、レガイア国の大陸での影響力は消えていきます。
その原因は、かの国の支配を受けないとした者たちが現れたことで、各地で反乱が起きたからです。
それが、大体七百年前に起きた出来事であり、一つの国家が無数の国家に別れる事になったのです。
そして、その当時の太陽の人。
トゥーリーズの血を引いた者は、伝説上の力を持っておらず。
太陽の人とも呼ばれていませんでした。
だから当然に、国も弱く、人も集まらなかったそうです。
レガイア国も、その無数の国家と同等の力にまで勢いを失ったのでした。
しかし、そこから数百年。
太陽の人を信仰するアスタリスクの民と呼ばれる者たちが現れて、衰退したはずのレガイア国を強くしていきました。
その時期に、アスタリスクの民の中にヤマトと呼ばれる集団も誕生したことでレガイア国は更に勢いを増し、もう一度繁栄し始めたのです。
周辺諸国を吸収して大きくなったらしく、レガイア国はワルベント大陸で、再び影響力のある超大国になったのです。
しかしまた、そこから百年後くらいに、レガイア国一強の世界にしてはならないと、各地から刺客が送り込まれて、レガイア国は内部分裂をしていき、当時のレガイア国にいた。とある太陽の人を追い出すことに成功したのです。
その名が・・・。
「まさか。ソルヴァンスですか?」
「ええ。ご存じでしたか。やはり」
フュンの先祖の話であった。
「はい。僕のご先祖様ですね」
「なるほど。だからあなたが優秀なのですね」
「え?」
「はい。ソルヴァンスは、トゥーリーズの中で久しぶりに現れた太陽の人であったと言われています。長らく、太陽の人の系譜はその力を持っていなかったとされていました。ですが、ソルヴァンスは類まれない才覚があったとされていて、だから恨まれたし、だから疎まれたと言われています。しかしですね。彼には忠臣中の忠臣たちがいたようで、流刑にまで付き合ったらしいのです」
「る、流刑にもですか?」
「はい。ソルヴァンスは、弟の反乱に巻き込まれました。それで、王位を譲り、大陸を追い出される形になったのです。しかも当時の技術では一か八かの魔境越え。その流刑はもう・・・死刑宣告と同じです」
「・・・なるほど。でもこちらに来て、生き延びたということですね」
「はい。そうみたいですね。さすがは太陽の人だ。こちらでも生きてくれているなんて、思ってもいなかった」
ワルベント大陸の人々では常識の大嵐。
死の宣告とも呼べる流刑なのだ。
「太陽の人は、人の能力を引き出す人物と言われています。太陽のように自身も輝き、周りにいる人を照らす人。そういう意味でトゥーリーズの血を引く者が継承しているみたいです。でも、血があっても、そのような才覚を発揮する人物は稀みたいなんです」
「そうだったのか。って僕、そんな人を照らすような人間じゃないですけどね」
フュンが誰にも聞こえないように呟いている間、タツロウの話は続いていた。
「それでその証拠に、その後・・」
ソルヴァンスを追い出した後。
彼の弟が支配することになったレガイア国は、ジャルマ。イバンク。サイリンという三つの大臣の家によって、国家運営されることになったのです。
こちらではそれを宰相政治と呼んでいます。
最初は、三つの意見で慎重に国家運営を進める体制でした。
しかしそうなったことで、トゥーリーズが主体となるレガイア国の終焉が見え始めたのです。
彼の弟は、太陽の人ではありませんでした。
国家を支配するには能力が足りない男で、名が支配しているというだけの王になり下がったのです。
それで、そこから数百年後。
力を付けた三つの家は、こうなればもうトゥーリーズの方がいらないのではと考え、とある内乱を起こした。
それがアスタリスク戦役です。
トゥーリーズを最後まで信仰していた者たちが支配する地域がアスタリスクとなっていて、その名がついた戦役です。
何十年と戦い続けた戦争は、とにかく無意味に長い戦いでありました。
各地には、戦乱の名残が今も残っていたりします。
そして、ずっと続いた戦いが終わった理由は、トゥーリーズが忽然と姿を消した事です。
およそ今から、百二十年前から八十年前の間と言われています。
「消えた?」
「はい。トゥーリーズが消えたのです。死んだ記録はないです」
「・・・そうですか。なるほど。サブロウのお爺さんが来たあたりですね。ああ、そうか。だからサブロウのお爺さんは、自分たちの事情を話さなかったのか。辛かったんだ。その戦争が・・・」
フュンは腕組みをして悩んでから、もう一度タツロウに話す。
「ん! そうか。だからあなたは、トゥーリーズを探していたんですね。もしかしたら、生きているかもしれないと思ってこの大陸に来たのですよね?」
「そうです。しかし、あなたは分家ではなく。本流の方のトゥーリーズだった。だから、俺は大当たりを引いたような気分でいますよ。ハハハハ」
太陽の人として才覚を持つ者の末裔の方が、こちらのアーリアに生きていると思わなかった。
タツロウは苦労したかいがあったと思った。
「そして、俺が来た理由は、こちらの大陸に危険が訪れる知らせと、本当にあのトゥーリーズが生きているのなら、もしかしたら、俺たちの大陸の希望にもなるのかと思いましてね。こちらに来ました」
「・・・んんん。それは無理でしょうね。そちらの大陸ではもうこの名は通用しないでしょう。消えた期間が長すぎる。それだとしたら、まとめあげるのは不可能だ。ですが、あなたのおかげで、こちらが何とかなるのは間違いない」
情報があれば、こちらも対処のしようがある。
諦めなければ強大な大陸に対抗できるはずだとフュンは思った。
「そうですよね。たしかに消えた期間が長すぎる」
この人が希望になり得る人でも、既に多くを失ったアスタリスクの民たちを導くには難しい。
ごもっともな意見を否定できなかった。
「でもですよ。俺程度がこちらに来ただけでは、何とかするのも難しいですよ。こちらとあっちでは技術の差があります。我々はあの魔境を突破する技術があります。今の試作機。俺がこちらに来た潜水艇が、あっちでも量産していき、技術が発展していけば、いずれは艦になり、こちら側は蹂躙される恐れがある」
「技術が違う? 潜水艇??」
「はい。海の中を潜って、海域を突破する物です」
「なんですって!? そんなものが」
「はい。これはここ数年で開発されたもの。アーリアを支配するためには、あの魔境を自由に突破できるようにしなければなりませんから」
「・・・・」
技術革新。
ワルベント大陸はここ数十年で武器類などが飛躍的に成長した。
アーリア大陸の技術レベルは、フュンが生きた当時はおよそ百年遅れと言われていた。
サブロウの開発技術があったとしても、その差があったのだ。
そしてアーリアは、その差を埋めようにも、その技術の情報がなかった。
だから情報を得て、進化の過程を飛ばしてでも、彼らはワルベントと同等の技術を得なくてはならなかったのだ。
「でも安心して欲しいです。俺が情報を出します。資料とか人を連れてきました」
「え?」
「とりあえずこれです。資料のコピーですが、大体の研究資料です。忍び込みました」
「は? 忍び込んだ??」
「はい。俺はフジ家の人間で、ヤマト最後の影。タツロウ・フジですから。残された影の技術で盗んできました」
「え? 影の・・・」
「はい。今のワルベントには、この技術を継承したものは少ない。なので、国の上層部は俺の影を見破れない。今の時代に、影対影の戦いがないのでね。俺がヘマをしなければ、盗み放題です」
タツロウは自信満々の笑みをフュンに向けて、資料を提示した。
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