第102話 密会

 フュン一行は、北上を続ける。

 移動の際、馬を借りる時は、変装したサブロウがメインに交渉をして、フュンとレヴィは顔を隠した姿で移動をしていた。

 完全な隠密行動を取っていた。

 

 ◇

 

 ラーゼの手前のサーメント村を越えて、もうすぐでラーゼに入る頃。


 「フュン様。その男はフュン様を探していたのですよね」


 レヴィが聞いた。


 「はい。僕というか、トゥーリーズを探しているみたいですよ」

 「そうですか。トゥーリーズをですか」

 

 二人の会話の後にサブロウも入る。


 「それじゃあ、なんで。おいらもこっちに来たんだぞ? トゥーリーズの話なら、おいらは別にいらないぞ」

 「いいえ。サブロウ。僕の予想を発表してもいいですか」

 「おうぞ」

 「その人。サブロウとも繋がっている可能性があると思いました」

 「ん? おいらと?」

 「ええ。その人。トゥーリーズに会いたいしか言ってません。これをよく考えてみたんです」


 フュンは悩みに悩みながら、ラーゼへ向かっていた。


 「僕を指名して会いたいと言って来た事。僕にだけ知らせを持ってきた事。これらから推察するに、トゥーリーズの家臣か。もしくは何らかの深いつながりのある人だと考えました」

 「「!?」」


 フュンの予想に二人が驚く。

 二人とも敵だと思っていたので思ってもない予想だった。


 「それでたしか、昔レヴィさんがお話ししてくれた内容に、太陽の人はあちらの大陸にいた。もしかしたら高貴な人で、逃げてきた人かもしれないとの話があって。その話にトゥーリーズとヤマトは、アスタリスクの民だとかありましたよね?・・・だったら、家臣じゃないのなら、ヤマト関連の話かもしれないですよね。ならば、レヴィさんとサブロウを連れて行った方が良いと思いましてね」

 「なるほどぞ。だからおいらとレヴィなんぞな・・・」


 フュンの予想は、トゥーリーズのアスタリスクに関連する事。

 だからレヴィとサブロウを連れていく事に決めたのだ。

 どこからともなくこちらに来たという不思議な事が起きているが、とにかくその人に会えば、何かを知ることが出来ると急いだのだ。


 

 ◇


 フュンたちは、影になりながらタイローのお屋敷を目指した。

 タイローが城の中に暮らさない理由。

 それは彼が謙虚すぎるからだった。

 民たちからの要望では、城に暮らして、王として堂々としてほしいとのことだったのだが、彼は意固地にその話を断っているらしい。

 元々はタイローの父が王であるわけだが、その継承は実際はされておらず。

 母もメイドだし、正統後継者から外れてしまったような人間が、一国の王の地位にいるなんてと、謙虚な姿勢を貫いた結果だった。

 それと、ヒルダと穏やかに暮らすのに、城よりもお屋敷の方が良いのだと本気で思っていて、民や大臣たちにはそう言い張っているのだ。

 


 フュンたちはコソコソと裏側から侵入して、タイローがいる執務室に入った。


 「ん!? フュンさん」


 タイローは影になっている状態の三人を発見した。


 「タイローさん。急いできましたよ。お待たせしました」

 「いいえ。これほど早く来てくれるなら待ったとは言えないですよ。ははは。フュンさん、さすがですね」

 「いえいえ。それで、例の方はどちらに?」

 「はい。ご案内しますね」


 タイローが案内している間。

 

 「タイローさん。あなたも同席でお願いします」

 「私もですか」

 「当然。僕らは知らなければならないですよ。たぶんその人、僕らの知らない歴史を知っている人ですよ」

 「たしかに。そうですね」

 「一緒に聞きましょう。そして何が起こっているのかを知らなければ・・・」


 目的に着くと、タイローがノックする。


 「な、なんでしょう」


 突然のノックに驚いたようだ。

 男性の声がひっくり返っていた。


 「あなたが会いたいと言っていた人を、こちらにお連れしましたよ」

 「え!? ほ、本当ですか」


 嬉しそうな声に変わった。


 「はい。入ってもいいですか」

 「どうぞ。タイロー王、ありがとうございます」


 部屋の向こう側から低姿勢な声が聞こえる。

 フュンは、この話す態度からして、この人物がこちらに対して、敵意を持っているとは思えなかった。

 

 「失礼します」

 

 タイローの次にサブロウ、フュン、レヴィが入ると、男はフュンに向かって跪いた。


 「あなたが、トゥーリーズで?」

 「はい。まあ、そうなってます」

 「俺は・・・いや、私はタツロウ・フジです。あなたが太陽の人ですね」

 「タツロウ!? フジ??」


 男の名は、サブロウと似たような名前で、さらに苗字があった。


 「あの。そちらの方たちは?」

 「これは、僕の仲間。レヴィ・ヴィンセントと、サブロウです」

 「サブロウ!? まさか。フジ家ですか? クキ家ですか? まさかアオイ家ですか?」

 「ん? よく分かりません。サブロウには苗字がないので」

 「そ、そうですか」

 「あの、お互い座って話してもいいですか」

 「あ。申し訳ありません。どうぞ。こちらで」


 部屋の中央脇にあるテーブルの前までフュンが歩く。

 後ろに付き従う形の二人は、フュンが座ったソファーの後ろに待機した。

 

 「タツロウさん。それでは僕が、フュン・メイダルフィアと申します」

 「メイダルフィア?」

 「ええ。現在のトゥーリーズは、こちらの名を使用しています。僕の母が、ソフィア・ロベルト・トゥーリーズと言います」

 「おお。トゥーリーズだ。生きていらっしゃったのですね」 

 「まあ、母は死んでいますが、その名を僕が継承しています。ですが、あなたの思うトゥーリーズかどうかわかりませんよ」

 「いえ。あなたが太陽の人だ。俺には・・・いやいや、この話よりもまず。お知らせしたいことがありまして」

 「はい。聞きましょう」


 タツロウの本当の用事が判明する。


 「現在。ワルベント大陸は、ジャルマ家によって大陸統一の一歩手前となりました」

 「ジャルマ家?」

 「はい。ジャルマ。イバンク。サイリン。の三家で争う状態だったワルベント大陸は、今はジャルマ一色になりかけているのです。残りの二家が追い込まれている段階です」

 「んんん。よく分かりませんが。その話は後で聞きましょう」


 タツロウは重要な説明を飛ばしていた。

 でもフュンは戸惑ったり怒ったりしない。

 相手が慣れない場所にいるのだ。

 話しやすくするために、態度がずっと柔らかくある。


 「はい。それで、大陸が目指すのは隣接している大陸。ルヴァン大陸との戦いに入る準備をしようとしています」

 「ルヴァン大陸?」

 「はい。世界地図をお見せしましょう」


 タツロウが、取り出したのは大きな地図。

 巨大な二つの大陸が左右対称になっていて、先端の部分が一か所で繋がる形をしていた。

 二つの大陸はブーメランのような形をしていて、くっついている。


 「こちらの左がルヴァン。こちらの右がワルベントです。そして、このワルベントの南の先端から、ここです。これがアーリア大陸なんです」

 「こ・・・こんなに小さいんですか」

 「はい」


 フュンたちは初めて見る世界地図に驚きを隠せなかった。

 それは、自分たちの住む世界が小さいからだった。

 ルヴァン。ワルベント。

 この二つの大陸の五分の一にも満たないサイズがアーリア大陸であった。

 国力の違いは、地図上でも明らかである。

 

 「世界には、三大魔境があります」

 「魔境・・・ですか」

 

 戸惑うフュンがゆっくり言った。


 「はい。アーリア近海にある。ディヘキサと呼ばれる大荒れの地域があるのです」

 「それは・・・あの常時大嵐になっている場所ですか。船が航行不可能な場所の?」


 フュンが聞いたのは、レヴィから聞いた話にもあった場所で、マサムネが一度チャレンジしてみた場所である。


 「そうです。それが世界には他に二つあるのです。こちらとこちらにもあります。世界にこの二大大陸の他に、小大陸が二つで、それともう一つあるのですが。そこは大きさが分からないのです」

 「な、なるほど」


 タツロウが指差したのは、ルヴァンの南の大陸と。

 ルヴァンとワルベントが隣接している場所から南の位置、世界地図のど真ん中を指差した。

 ルヴァン側の大陸は地図に詳細が書かれていたが、ど真ん中にある大陸の詳細が無かった。

 おそらく、そこは詳しい情報がない。

 未知の大陸であるらしい。


 「それで、ルヴァン大陸が、つい最近。こちらのアーリアと同じような位置にある。イスカルと呼ばれる大陸を手に入れたらしく、こちらよりも大きな力を得たのです」

 「・・・そうですか。それでもしや」

 「はい。それでワルベントも同じことをしようと、動き出しています。ただまだですね。大陸が完全統一されていない段階なのですよ。でも、ここを狙いに来ました。私はその最初の偵察部隊の一員です」

 「・・・それじゃあ・・・」

 「はい。我々は、アーリアを支配しようとしているのです。ワルベント大陸の覇者である国。レガイア国がこちらを攻めようとしています」

 

 今まで抱いていたフュンの予想は、正しかった事がここで証明された。

 時間がない。

 彼が時折言っていたこの言葉は、この事を指していたのだ。


 大陸の英雄の運命は、停戦中でも静かに動き出していた。

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