第94話 秘密を知る
帝国歴534年7月15日
イーナミア王国。
玉座の間の王の椅子で、ぼんやりとしていたのがネアルだった。
「来ないのか? 使者は? おい。ヒスバーン。どうなっている。三年は経ったぞ」
「ああそうだな。もう来てたりするのか? なんだか遅いな。もう来てたりしてな」
「そんな冗談、ただただイラつくだけだ」
逆なでしていくスタイルのヒスバーンでも、ここで冗談を畳みかけなかった。
「変だな。あの辺境伯が、約束をしておいて、連絡を寄こさないなんてな」
「ああ。おかしい。これも策か」
「あり得るが・・・俺は、彼が卑怯じみた小手先の事はしないと思うぞ」
「そうだ。ヒスバーンの言う通りだ。だからおかしいんだ」
停戦から三年が経った今。
連絡が来ない事に戸惑い、怒りも出て来る。
ネアルのイライラは相当なもので、ここ最近毎度のことで、玉座の間で貧乏ゆすりをしていた。
「おかしいわ」
口からすぐに文句が出るくらいである。
しかし、この日。そのイライラの原因である。
連絡が来なかった理由が判明する。
一報がブルーに入り、ブルーから上層部に伝わる。
「ネアル王。こちら、帝国から文書が来ました」
「なんだと。ついにか」
「それが・・・こちらをどうぞ」
「よし。みせてくれ」
渡された手紙を読むと、ネアルは納得する。
「そうか。これならば仕方ない。ブルー、用意しろ。帝国に向かうことになるかもしれん」
「わかりました。準備します」
ブルーが準備を始めると、隣に立っていたヒスバーンが聞く。
「ネアル。何があった?」
「これを見てくれ」
ネアルは自分が持っている手紙をそのままの形でヒスバーンに渡すと、ヒスバーンは速読をした。
「そうか。こうなるなら仕方ないな」
「ああ。これは延期だな。少なくとも一年と少しはな」
「・・・仕方ないだろう。非常識な野郎にはなりたくないだろ。お前も」
「当然だ。私は、敵の心に付け込むような行為はしない。戦うならば正々堂々。心が落ち着いた時に戦う。それにここで強引に戦うような、礼儀に反するような男にはなりたくないのだ」
「ふっ。それでこそお前だな」
「なんだ。馬鹿にしているのか。ヒスバーン」
「いいや、褒めているぞ。お前らしくていいな・・・・・ん!?」
ヒスバーンの隣にイルミネスが来た。
「どうした。イルミ?」
「ヒスバーン。見てほしいものがあります。お時間いいですかな」
「何か急な事なのか。これから帝国に行くかもしれないんだが」
「それが・・・」
イルミネスが耳打ちをすると、ヒスバーンは驚く。
「本当か」
「はい。だからあなたに確認してもらいたくてですね。どうでしょうか? お時間あります?」
「ああ。いい。すぐに行こう」
「ありがとうございます。私とルカがご案内します」
「ありがとう。それじゃあ、ネアル。悪いけど、俺は別行動する。いいか」
ヒスバーンはネアルを立てて聞いた。
「ん? どこか行くのか?」
「まあな」
「いいぞ。ただ、お前がどこか行っている間に、私は帝国に行くかもしれんぞ。いいのか。私の首を取らんでも」
「何冗談言ってんだ。お前の首はいつでも取れるから、残しておく。んじゃ、俺は少しの間、出かけるぞ」
「わかった。いいぞ。どこへでも行って来い」
「ああ、そうさせてもらう」
ネアルはどこに行くのかも聞かなかった。
ある意味で器の大きな面がある。
部下がすることに目くじらを立てない男であるのだ。
「じゃあ、今から移動をする」
「ああ。行って来い」
ヒスバーンは、ルカとイルミネスを連れてシルリア山脈へと向かっていった。
◇
シルリア山脈を移動中の三人は走りながらの会話になる。
「イルミ。なぜ分かった?」
ヒスバーンが聞いた。
「ええ。同士がサナリアで聞いたと」
「そうか。だから見つけられたのか」
「ええ」
「さすがだな。誰からだ?」
「ジーヴァです」
「ああ、それは・・・小僧の方か」
「ええ。そうです」
ルカが先頭を走っていて、その後ろを二人が追走する形。
この一行の移動速度は、一般兵よりも明らかに速かった。
「ギル!」
ルカが前を向きながら、話しかける。
「ルカ、なんだ?」
「これはよ。俺たちの里に近くないか」
「いや、この位置なら、俺たちの方が奥地になる。まだ遠い」
「そうか。なら大丈夫か」
ルカは安心した。
「相手がウォーカー隊なのだろう。ルカ。ここに来ているのはさ?」
「・・・そうらしいぜ」
ルカとの会話からヒスバーンは隣に顔を向ける。
「それなら。イルミ、どう思う?」
「ええ。テースト山にいる者たちじゃないですかね。あの山で暮らしているのなら、ここの山々で暮らすのも簡単でしょう。ウォーカー隊ならば探索も上手いはずですから、里は気を付けた方がいいでしょうね」
「そうだよな。見つからないように気を付けないといけないな」
「ええ。そうなります」
ルカが立ち止まった。
「ここだ。あれを見ろ」
シルリア山脈の中央からやや北。
そこの谷にある洞窟に人が入るのが見えた。
「あれだ」
「おお。そうだな。人がいる」
ウォーカー隊を遠くからでも見える三人は、更に近づこうとしていた。
「イルミ。ルカ。もう少し近づくぞ」
「はい」「おう」
「慎重に行く」
◇
気配も悟られないように移動する三人は、洞窟の目前まで迫った。
「ほう。洞窟を補強して村にしているのか」
「ギル」
ルカが聞いた。
「なんだ?」
「これはロイマンとかいう男の村と同じじゃないか?」
「ああ、そうかもな。昔、報告にあった村か」
「そうだ。サナリア山脈にある村だ。なんだっけ。名前、忘れたな」
おでこに手を置いてルカが悩んでいると、イルミネスが答える。
「フーナ村では? たしかそんな感じの名前だったはずですよ」
「よく覚えているな」
「ええ。忘れませんよ。情報を得ていましたからね」
「そうか。さすがだな。イルミ」
イルミネスは当然の事だから、平然とした顔をしていた。
「ここに村を構える・・・という事は何かの策を生み出すってことだな」
「そうだろうな。これもおそらく、太陽の人の作戦か?」
ルカが聞いた。
「まあ、そうだろうな。あの人の罠はいつも面白いな・・・そうだな。この山に配置するってことは、何かの狙いがあるな。ここにいるのがウォーカー隊なんだよな。イルミ」
「ええ。ヒスバーン。情報ではそうなっていますよ。それにこの厳しい場所で普段通りに暮らせるのなら、彼らじゃないと高山ですからね。難しいでしょう。それと、あの中にも同士がいるでしょうが。抜け出すのはなかなか難しいでしょう」
イルミネスは洞窟を見た。
「ウォーカー隊が仕掛ける攻撃・・・それはいつも通りのことか? それとももっと突拍子もないものか? そうだとすると、ここは見守るのが重要だな。イルミ。ルカ。誰か良いのがいないか。ここを見張るのに適した奴がさ?」
「ショーンがいいかもしれないな」
「そうですね。私もルカの意見に賛成です。あの子は偵察特化ですからね」
二人の意見に納得したヒスバーンが指令を出す。
「よし。あいつに任せようか。イルミ。ショーンを里から出しておけ」
「了解です」
「それじゃあ、俺たちも一旦帰るか。久々に里にでもな」
「いいですね」
「ギル。いいのか。お前、仕事に戻らなくてもよ」
「いい。ネアルも別に俺の仕事に興味を持ってなかったろ」
「そうなのか?」
「ああ、あいつは放任主義だから大丈夫だ。だから、久しぶりに帰って、心も体も休めようぜ。ルカ。イルミ」
「了解」「はい。いいですね。そうしましょう」
三人はここからどこかへ消えていった。
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