第89話 内政は?
帝国歴531年9月12日
フュンは帝都にて。
大会議後初の内政会議を行った。
「皆さん。各都市がどうなっているのかの報告が欲しいので、それぞれお願いしたい。まず、前からいきましょう。ギリダートからです。アナベル。どうぞ」
現在ギリダートの領主は、クリスという事になっているが、その実質的な支配者はアナベルに任せている。
彼は若くとも丁寧な仕事が出来るので、安心して大都市を預けているのだ。
それにリリーガには彼の親であるリナがいるので、彼女との連携がすぐに取れるアナベルが適任となっていた。
「はい。フュン様。ギリダートの民たちは大丈夫です。そのままの形での運営が出来ています」
「そうでしたか」
「しかし、あそこは弱いです」
「ん? 弱い??」
「はい。経済的地盤が弱いです。それはおそらく、あそこが最前線であるので、経済は他からの援助に頼っていたらしく。その場所単体で見ると非常に弱い地盤です。生産性がありません。衣食住全てが輸入です」
「ああ、なるほど。そういうことですね・・・それじゃあ、何か考えがあるのですか?」
フュンは、アナベルの表情だけで他の報告がある事が分かった。
彼の顔に自信があると書いてあった。
「それはですね。サティ様との話し合いをしています。なので、こちらの話は、サティ様からお話があると思いますので、私の発言はここまでにします。とりあえず、今はリリーガとの連携によって大丈夫とだけお伝えします」
「あら、そうですか。わかりました。では後でですね」
フュンは、自信があるのに、話をサティに譲るのかと思い、謙虚な子だなと感心した。
この後、重要都市の話を皆で聞いていく。
リリーガ。ハスラへと話は進み。次に重要拠点シャルフの報告へと進んだ。
「それでは、スクナロ様。どうです」
「うむ。俺の番だな。シャルフは現在二つの都市の住民が合体した形での運営になっている」
「ええ。そうですよね。だから問題は起きてますか?」
「ない。前もって都市も巨大化していたからな。ビスタの住民が住む場所もあるし、仕事もある。民たちに補償金も出したから文句が出ていない」
「ええ。超巨大都市になってしまいましたからね。大変かもしれませんからね。補償金は重要だ」
「そうだ」
シャルフは、元々帝国の港町の一つで中規模な都市であった。
しかし、フュンの大計画『サナリアの箱舟』により、内陸地にまで都市の範囲を伸ばして、更に防御を固めるために城壁も回したのである。
五年の間に行われた都市の大改造計画は、ビスタの民とシャルフの民を同時に養うためのものだった。
「それでだ。義弟よ。ビスタはどうするんだ。シャルフはこのままでも問題がないが。ビスタを奪還するんだろ」
「いいえ。僕の考えでは、ビスタは破壊する予定です」
「「「「な!?」」」」
会議に参加したメンバーが全員驚く。
「ビスタはあまり意味をなさないので、シャルフがその役目を果たしてもらいたいのと」
「その役目???」
スクナロが首を傾げているが話は続く。
「僕は、王国に勝ったら、アージス平原に大都市を作ります。融合の証。都市アージスを作ります。大陸の南を安定的にすることと、僕らが一緒に住むための都市です。そこはわだかまりのない都市にしたいのですよ。新しいものであれば、皆。受け入れるのはたやすいはず。一緒になって作り上げれば、愛着も出て来るはずです。こちらの押し付けは駄目。文化の押し付けも駄目です。共にルールを作っていきましょう」
帝国と王国が共に一つの都市を作る。
そうなれば、きっとアーリアは一つになっていくだろう。
フュンは、夢を実現させるための努力を忘れていない。
共に生きるための努力である。
「そうか。それが義弟のやりたい事なんだな」
「ええ。スクナロ様。この考え、どうでしょうか?」
「まあ、義弟ならばそう考えるだろうな。そして、それを俺も。兄弟たちも支えるだろう。そうだろ」
この場にいる皇帝の兄妹たちは頷いた。
フュンには強力な家族がいる。だから前に進むことが出来るのだ。
「よかったです。これは完成させたいんですよね」
「そうだな。よし、俺からの報告はここで終わる。まあ、問題が起きたら、その都度連絡を入れるから安心してくれ」
「はい。スクナロ様、ありがとうございます。次は・・・」
この後進んだのが、バルナガンのライノン。ササラのピカナ。サナリアのシガー。シンドラのヒルダ。帝都のクリスと続いた。
これで帝国の都市からの報告を聞いたので、フュンはサティに話を進めた。
◇
「サティ様。経済はどうなりました。それとこれからの予測は?」
「はい。フュン様。まず、戦争が起きましたが、問題は起きていません。むしろ鉄需要が上がり、バルナガンを中心に経済は大きく成長しています。ですが、戦争に直接関係のない地域が変わっていくかもしれませんので、良く監視していかないと駄目ですね」
「そうですか。まあ、当然ですよね」
「はい。そこで、この連携を強めるために、更に道路を発展させて、新たな力を生み出しましょう。特にバルナガンから、ハスラですね。ここも直接結んでいきたい。それにですよ。この二つ。フュン様は、ガイナル山脈を守らないとおっしゃったので、ここの移動を速くした方がいいのですよね? 平地で高速移動して、山から降りて来る敵を捕まえにいく。だから広域防衛網の構築ですよね? フュン様がお考えになっていることは?」
「・・・あれ? そのお話ししましたっけ?」
話した記憶がないのに、サティが自分と同じ考えを言って来た。
影の偵察と信号弾を駆使した。
ガイナル山脈麓での広域防衛網を構築しようとしていたのがフュンである。
「いいえ。フュン様がしたい事を考えたのです。ガイナル山脈をあっさり捨てる考えを持っていたというのは、代替案があるからこそ。ですので、こういう事をしたいのかと思いましてね。それにですよ。こうなれば、要所を相手にあげても、問題がありません。そもそも山を無視して考えているのですからね。それに、ガイナルの要所部分の所有権。あれだけの放棄であれば、鉄は確保が可能。鉄鉱山は、ラーゼ付近の山ですから。何も問題がありません。こうなるとタイロー殿に言って、停戦の間でも鉱山の採掘量を上げてもらえばいいのです」
「・・・はい。そうです。さすがです」
神童サティ。その慧眼は曇ることがない。
戦闘や軍の事を勉強したら、帝国の軍師にでもなれた女性である。
「それで、道路の作成を急ぎますというのも。すでに準備はしてあってですね。見積もりも出しています。山沿い1.5キロ先に道を作り、ハスラまで行く。完成すれば、バルナガン。ラーゼ。ハスラ。この三都市を結びますよ。ハスラは予定であれば、リリーガとの連携は川になっていますよね。だからこちらの道路を急いだほうがいいでしょう」
「わかりました。それでいきましょう。あとは、ギリダートの案があると?」
「ええ。それはこちらの資料を」
サティが用意した資料を、アナベルがフュンに渡す。
そこから彼は、ここにいる会議のメンバーにも渡していった。
「これは?」
「はい。融合計画の第一段階。技術提供です。最初に提供するものは、建築技術です。惜しみなく提供します。これで、兵関連の仕事で、クビとなる方たちに職を提供するのです。現在のギリダートでは息詰まるのは確実。大体の仕事が兵士周りなのです。例えば、兵舎の食堂。宿。それらで働く者は、兵士がいないと駄目でしょう。兵士たちの武器などを作る職人などもです。ですが、その経営の元となっている材料などが、他都市との連携なので、ここには労働力はありますが、生産性がないのです。なので、ここからはこちらの道路。橋。これらの建築を任せられるくらいの職人を生み出したい。この第一段階で民の収入の安定をもたらしたい」
この他にも、サティの計画は無理なく進むらしく、段階が示されていた。
「まだわだかまりがあるでしょうが、これらの支援をすることによって、私たちの事を信頼してもらって、新たな事業を共に生み出していくのが、次の段階ですね。フュン様の計画している最後の戦争。これが終われば、私たちと王国は一つになります。これのためには、ギリダートとリリーガが力を合わせる形にならねばなりません。共に生きるのなら、ここが重要な都市の一つになるでしょう」
「その通りです。あの二つの都市が最大重要都市です。僕らのアーリア大陸の象徴にします」
「はい。そうなるように調整していきますので、おまかせを」
「ええ。サティ様に全てをお任せします」
サティが頭を下げて、この会議は終了となった。
目指すべきものが見えているから、やるべきことも見えてくる。
フュンと、仲間たちは同じ方向を見ていた。
大陸を発展させるために、彼らは進んでいく。
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