第88話 大会議

 帝国歴531年8月30日。


 この日に大会議が、玉座の間で行われた。

 会議は、大元帥を中心として作成された議題で話が進んでいく。

 

 フュンが皆の前で挨拶をする。


 「皆さん、大変な所。集まってもらってありがとうございますね」


 フュンが頭を下げると皆も頭を下げた。


 「ではですね。これからの作戦の前に、人事を発表します。今回の件で中身をいじります。よろしいですね。ゴホン。それでは」


 咳払いをしてから発表する。


 「僕ら上層部は変更なし。ですが、大将が三名亡くなりました。ハルク。ザンカ。ヒザルス。三名が抜けた穴はとても大きい。そこで、再編成が重要となり。僕はまず、ゼファー!」

 「はっ。殿下」


 ゼファーが勢い良く返事をした。


 「あなたを大将ではなく、元帥の地位にして、別働部隊にします。独立遊撃軍の役割をそのままにして、地位だけを上げて、今回の戦いの間は僕の直属にします。よろしいですね」

 「殿下の?」

 「はい。もっと自由にやらせます。あなたの武が活きる形にしたいのです。ゼファー。駄目ですか?」

 「わかりました。殿下の考える事が正しいので、我は納得です」

 「いいでしょう。ゼファーはそれで・・・」


 ゼファーは元帥に昇格して、軍自体は昔のウォーカー隊のような存在になった。


 「次にフラム閣下」

 「はい。フュン様」

 「あなたも、大将から外します」

 「当然です。何も実績のな・・」


 勘違いしているので、フュンが言葉を強引に差し込んだ。


 「違います。あなたも元帥にして、司令部に入れます」 

 「え?」

 「あなたは後方や援護部隊などの司令官にします。補助を目的とした将にします。僕とクリスの次の司令部の地位にして、大陸が一つにでもなったら、一地方なども任せようかと思います」

 「は?! え・・・え・・え。わ、私が?」


 フラムはあまりのショックに言葉が出ていなかった。

 何もしていないのに自分が出世するなんて。

 ありえない事が起きていると思い、開いた口が塞がらなかった。


 「出世です!」

 「な、なぜ。私は何もしては・・・」

 「いいえ。十分しました。あなたは戦争終盤で、僕の所に援軍を送らない判断を取った。この判断は実に素晴らしく、さらにジーク様に連絡を入れました。これがもっとも正しい判断だ。あれが無ければゼファーがこちらには来てもらえなかったでしょう。それで、ゼファーの援軍がきっかけで戦争が終結したのです。ということは、あなたの判断のおかげで終わったと言えます。なので、あなたには戦争の盤面を任せられる。僕やクリスが前線に行った時に、あなたが後方の指揮を取ってもいいです。それくらい素晴らしい決断をしてくれましたので、今回は昇格です」

 「そ、それは・・・」


 まだ悩んでいるフラム。

 フュンがどう説得しようかと悩んでいると、軍関係者の後ろの方から手が挙がる。

 誰だとよく見ると、アナベルだった。


 「どうしました? アナベル」

 「フュン様。一つお話いいですか」

 「いいですよ。どうぞ」

 「ありがとうございます」


 アナベルは、お辞儀をしてから話し出した。


 「私は、閣下の下にいたアナベルであります。私はフラム閣下に相応しい役職ではないかと思います。自分の意見はあの時、援軍を出すでした。ですが閣下はあそこで我慢しましょうと教えてくれました。あれは私には出来ません。でも閣下には出来ます。だから閣下のような我慢強い方が司令部にいるのなら、皆さんが安心して戦闘に入れるかと思います」


 素朴な意見が出ても、誰も咎めない。

 風通しの良い会議を行えるのは、フュンのおかげである。

 立場が下の方でも積極的に意見を出せる。


 「そうですよね。その通りです。アナベルの言う通りですよ。では、フラム閣下。お願いできますか」

 「私が・・・元帥?」

 「ええ、でもそんなに畏まって考えなくてもいいですよ。元帥などただの役職です。地位は重要。でも所詮地位です。地位があなたの真の力ではない。あなた自身はもっと素晴らしい力を持っていますし、そもそもやる事が今と変わりませんよ」

 「・・・わかりました。謹んでお受けします。フュン様、頑張らせていただきます」

 「はい。お願いします」


 フラムも昇格となった。


 「それでは、八大将がいなくなった今。再編成をします。まず、デュランダル!」

 「はっ」

 「あなたが筆頭です。大将筆頭」

 「わかりました。閣下」

 「ええ。次に、アイス!」

 「はい」

 「あなたが補佐。大将筆頭補佐です」

 「お受けします。フュン様」


 二人が帝国の柱となる。


 「次にサナ!」

 「はっ」

 「あなたが大将です。ハルク軍をそのままあなたが継承してください。よろしいですね」

 「わかりました」

 「ええ。お願いします」


 事前に知らせたので、サナには断る事をさせなかった。


 「次にミシェル」

 「はい」

 「あなたは将から外します。大将ではなく、別な役割とします、きっぱり言えば、降格です」

 「はい」


 フュンの言葉を聞いた瞬間、会議室がどよめいた。

 皇帝シルヴィアの治世の中で初の降格。

 それがミシェルであった。


 「ま、待ってください。殿下! ミシェルがなぜ」


 ゼファーが前に出る。


 「ゼファー、聞きなさい。ミシェルには自由を与えました。まず軍としては指南役という役職にします。兵を鍛える分野にいってもらいます」

 「な!? ミシェルが・・・」


 そんな話を聞いていないと、ゼファーは隣にいるミシェルを見た。


 「そして、ミシェルの基本は、ゼファー軍の顧問です。そのまま独立遊撃軍の一員にしてほしいです。ゼファー。リョウの他に、副隊長に置きなさい」

 「み、ミシェルをですか!?」

 「ええ。彼女の知を利用しなさい。あなたにそこが加われば、帝国でも最強の軍となるでしょう」

 「・・・我はいいですが、ミシェルが・・」

 

 ミシェルは涼しい顔で、答える。


 「私は前からこの話を聞いていましたよ。だからゼファー。気にしないでください。この目では。私はまともには戦えないでしょう。ならば、そばであなたを支えますよ」

 「み、ミシェル!?」

 「フュン様。私は喜んで命令を受け入れます」

 「はい。ミシェル。お願いしますよ。ゼファーを掴んで離さないでください。制御が難しいですからね」

 「ふふ。はい。わかっております」


 笑顔のミシェルは自分の降格を了承した。

 だが、ある意味では昇格で、ゼファーのそばにいられることになった。


 「では、これで大将は三名。でも僕の考えでは足りません。大将が三人では僕の考える作戦を実行できないので、ここで追加していきます。まず、ヴァン!」

 「はい!」

 「あなたを海軍のトップとして、大将に任命します。あなたの下には引き続き、ララとマルンを置きます。マルンを昇格させて、二人とも中将にしますのであなたが作戦を考えてください。いいですね」

 「はい。おまかせを・・あ・・じゃないや。フュン様」


 つい兄貴と言いそうになり軌道修正したヴァンであった。


 「ララ。マルン。いいですね」

 「「はっ」」


 二人は同時に敬礼をした。


 「そして、ここで帝国の大将には特殊な大将を置きます。それが、ヒルダ。タイロー。両名を大将に置きます」

 「「「!?!?!?」」」


 ミシェルの時のどよめきよりも大きかった。


 「ヒルダは辺境伯なので当然でありますが、タイロー。あなたは別の国の王。なので、こちらからはお願いする形になります。よろしいでしょうか」


 この場には両名がいた。

 二人とも前に出てきて、頭を下げる。


 「大元帥。ヒルダ・シンドラは当然にお受けします」

 「はい。タイロー・スカラもお受けします。ですが、これは私個人が、あなたとの間で交わすものとしてください。帝国とラーゼの約束じゃなく、大元帥と私の約束で」

 「それはどういう意味で?」

 

 フュンが聞くと。


 「大将に就任するのは、私の代でだけでお願いしたい。ラーゼとは無関係にしてほしいのです。帝国が、代々必ずラーゼから将を選ばないといけない。そんな風になって欲しくないのです」

 「なるほど。わかりました。僕とタイローさんの約束にしましょう」

 「大元帥。この場ではタイローと呼んでいただけると嬉しいです」

 「あ・・・ごめんなさい。タイローありがたいです」


 自分の考えの外の事を言われたので、ついつい素の部分が表に出ていた。


 「ええ。では夫婦共々、大将になることを誓います」

 「私も誓います」


 二人が跪いて了承した。


 「はい。ありがとう」

 

 二人との会話が終わったので、フュンが全体に目を通す。


 「これが主な役職変更です。ここからは、作戦に基いての配置を変えます。右将軍。左将軍はそのままであります。なので、こちらのお二人は引き続き、アーリア大陸の北と南をお願いします。よろしいでしょうか」

 「「はっ」」 


 ジークとスクナロが同時に返答した。


 「それでは、右から行きます。ハスラにジーク様、その下にデュランダル。ラーゼにタイロー。この二つの都市でガイナル山脈を封鎖します。次回から、ガイナルでは戦いません。降りてきたところを倒します。なので、ハスラとラーゼは連携していきます」


 フュンは玉座の間に出した大きな地図に、印を置きながら説明していく。


 「ここで重要なのが、バルナガンです。ライノン。あなたの力の本領発揮です。この右の局面はあなたの力で支えるのです。よろしいですね」

 「はい。わかりました。フュン様」

 「ええ、頼みます。そして、右の局面の海軍は、ララ! それとマルン! 二人に頼みます」


 優雅に前に踊り出たララと、淡々と前に出て来るマルンは、フュンに挨拶をする。


 「わかりましたわ。フュン様」「はい」

 「頼みます。次回はあなたたちが重要だ。お願いします」

 

 頭を下げる二人は無言で後ろに下がっていった。


 「次に左。シャルフを基準に、スクナロ様が指揮を」

 「了解だ」

 「はい。それで、シャルフには、サナ! アイス! リエスタでいきます」

 「「「はっ」」」

 「そして、シャルフの後ろで待機するのが、シンドラ軍。ヒルダに任せます。そしてここで重要なのがササラです。ピカナ!」

 

 のんびりしている男が返事をする。


 「はい」

 「あなたが後方支援として、シャルフを助けてあげてください。それに、あなたの都市にはヴァンを配置します。右同様。今回は海軍が重要です。お願いします」

 「おまかせを」

 

 ピカナは、ゆっくり頭を動かして丁寧なお辞儀をした。


 「では中央。ここに僕が入ります。そして、ゼファー」

 「はっ。殿下」

 「この戦争期間中、僕にべったりとくっついてください。いいですね」

 「もちろんでございます。殿下のため。この命捧げる所存であります」

 「そこまではいりません!」

 「その命令は聞けません。我はこの瞬間の為に命を懸けて参りました」

 「はぁ。わかりましたよ。ではお願いしますよ。あなたの軍が切り札です」

 「はっ。殿下の為。必ずや、戦果を挙げてみせましょう」

 「ええ。お願いします」


 二大国英雄戦争を最後に駆け抜けるのはやはりこの主従コンビであった。

 大陸の英雄フュン。英雄の半身ゼファー。

 サナリアの反乱以来で、二人が共闘するのである。


 「次に、シャーロット。君もです。よろしいですね」

 「はいだよ」

 「そして、サナリア軍もです。シガー。フィアーナ。よろしいですか」 

 「もちろんでございます」「おうよ。まかせろ」

 「ええ。お願いします。それとシガーの部隊の中にシュガをお願いします。シュガ。いいですか」

 「はい。もちろんです」


 シャーロットは帝都軍。

 シガーとフィアーナはサナリア軍を指揮する。

 

 「そして、サブロウ。サブロウ組を中心とした影部隊をこちらに。今回はあなたが僕の隣に来てください。よろしいですね」

 「いいぞ。おいらがやろうぞ」

 「とある作戦があるので、大規模なものを仕掛けたいので、あなたには色々やってもらいます」

 

 フュンとサブロウが頷き合った。


 「それでは、来るべき時の為に準備をします。大元の作戦はこちらにありますので。あとは各将たちと話し合いを重ねながら、調整していって完成させます・・・」

 「待ってください。フュン」

 

 フュンが締めくくろうとすると、皇帝の席に座るシルヴィアが止めた。


 「なんでしょうか」

 「私は?」

 「え?」

 「私はどこに所属ですか」

 「戦う気ですか!?」

 「ええ。もちろん。戦わなければ、皇帝になった意味がない」

 「いや、それはおかしい話だと」


 皇帝は別に戦わなくてもいい。でもなぜかシルヴィアは戦いたがるのである。

 

 「おかしくありません。皆、懸命に戦っているのです。私も前へ出ていきます!」

 「・・・はぁ。あなたも結局はレベッカと同じってわけですね」


 なんだかかんだ言って、レベッカと同じような我儘を言っている気がしたフュンであった。


 「いいでしょう。僕のそばにいてくれるのなら、許可しましょう。他の戦場は許しません。それでどうですか?」

 「それでいいです。私もついにあなたと戦えるという事ですね。共に戦うのは何年ぶりでしょうか」

 「ハスラ防衛戦争以来でしょうかね。まあ、あなたは城壁。僕は野戦。一緒に戦ったとは言えないですがね」

 「そうでしたね。だったら次は、私たちが共に力を合わせる時なのですね」


 フュンとシルヴィアは共に戦った経験がほぼない。

 誘拐の時から考えてもシルヴィアが助けに出たり、ハスラ防衛戦争の時を考えても、彼女を救うためにフュンが動いただけだった。 

 互いを支えあってはいるが、共闘はしていなかった。


 「ええ。わかりましたよ。でも総大将は僕がやります。それであなたが来てくれますか」

 「はい。私は見守ります・・・よ」


 シルヴィアの目が明らかに嘘をついている時の目だと瞬時に理解したフュンは、少しだけ怒った。 

 

 「はい。嘘ですね。あなた。戦いの最前線に出る気ですよね」 

 「ギクッ!?」

 「ギクッじゃありません。何をしようとしてるんですか。許しませんよ」

 「えええ」

 「ええ。じゃありません。あなたもしっかりしてください。皇帝陛下なんですよ」 

 「ですが、私は戦姫でも・・・ありますし・・・戦っても・・・いいはずで・・・」


 一言一言、言う度にシルヴィアはフュンの顔を横目で見る。


 「そんなにチラチラ見ても許しませんよ。駄目です」

 「・・・ケチですね」

 「ケチとかの話じゃありません。そうですよね。皆さん」

 

 そんな事こちらに言われても困ると、全員が目を背けた。


 「あれ? 皆さんと目が合わなくなった?」

 「ほら。全員許可したんですよ。フュン。だからいいでしょ」

 「・・・んんんん。しょうがないですね。いいでしょう。でも無理は駄目ですよ」 

 「ええ。あと三年でしたね。体を鍛えなければ、もう少し動けるようにならないとですね」


 シルヴィアは自分の体が鈍っていると感じていて、全力を出せるまで、限界まで鍛えてやろうと思っている。

 彼女の基本思考は、ゴリゴリで敵を押し切る脳筋思考である。


 「まあ、あと三年です。皆さん、これから準備をお願いします。僕の予想では、最後の決戦となるでしょう。アーリア決戦。こうなると思いますので、よろしくお願いしますね」


 フュンの予想通り。

 二大国英雄戦争最終局面。

 アーリア決戦と呼ばれる戦争がこの先に待っていた。

 大陸の覇者を決める事になる。

 アーリア戦記。最大規模の戦争となる。


 大陸の英雄フュン・メイダルフィアと、王国の英雄ネアル・ビンジャーの両者が対決する最後の戦いとなるのだ。

 

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