第41話 帝国最強を目指す軍! 独立遊撃軍ゼファー軍!!

 「貴様は、ゼファー・ヒューゼン!!」

 「なんだ・・・・パールマンか。そうか」


 不満げな顔を隠さない。

 一瞥しただけで、ゼファーの視線がマールに移った。


 「貴様! 俺で不満か!!」

 「ああ、不満だ! 貴様と我の格付けは終わっている。我よりも弱い事が決まっている貴様とはな・・・我は戦う気が起きん。弱い者いじめになる。さっさと帰れ!」


 埃を払いのけるように、シッシッと手を動かした。


 「なんだと。貴様」

 「うるさい。声が大きい」


 ゼファーは、体ごとマールの方向に向けた。

 パールマンの事は、完全に眼中にない。


 「起きられますか。マールさん」 

 「あ、ああ。目が見えてきた・・・助かりやしたぜ。ゼファー」

 「ええ。ザンカさんは?」

 「わかりやせん。二手に別れて逃げてきたので・・あ」


 立ち上がったマールがふらつく。ゼファーが彼を支えて、肩を貸した。

 

 「大丈夫ですか」 

 「ああ。ゼファー。本当に・・・助かった・・・ですぜ」

 「はい」


 会話すらもする気がないゼファー。

 パールマンを完全に無視した形は、彼の怒りを買うことになる。

 

 怒り心頭のパールマンは、いきなり攻撃を開始した。

 ゼファーの脳天目掛けて大剣を振り切る。


 「死ね」

 「うるさい! 黙れ」

 

 マールに肩を貸している状態で、ゼファーが相手の大剣の中心に槍を突き出すと拮抗した。

 片手で操作している槍と両手で操作している大剣が互角となる。

 

 「な・・・なぜだ・・俺の攻撃を片腕で・・・」

 「貴様は我に勝てん。ここは引いた方が、自分の命を守れるぞ。我にこのまま挑むのであれば、貴様の運命は死だけになるぞ」

 「なんだと。ふざけるな」


 大剣を引いて、もう一度攻撃動作に移る。

 今度は全身の力を剣に込めた。


 「だから、我にはそのような攻撃は効かん! 攻撃一辺倒で単調すぎる」

 

 ゼファーの槍が一直線に伸びる。

 パールマンの大剣の中央に再び槍が伸びた。


 「な!? また。俺の攻撃が!?」

 「いい加減にしろ。貴様の攻撃は我には効かん」

 「俺の攻撃が・・・俺の攻撃がなぜだ」


 動揺が言葉に現れていた。震える声でゼファーに聞く。


 「ふん。貴様なぞ。力だけを鍛えれば、自分が強くなっているとでも思っているのか。その程度の考えなのか。貴様は?」

 「なに?」

 「貴様の筋肉。前よりも大きくなっているな」

 「当り前だ。ザイオンを圧倒してから、俺はさらに強くなったのだ」

 「ふん。だから貴様は成長せん」

 「なんだと」

 

 ゼファーが槍で軽くザイオンを跳ねのけた。

 その間にマールの眩暈が取れる。

 

 「ゼファー、今なら一人で立てやす」

 「マールさん。本当ですか。大丈夫ですか」

 「ああ。肩をありがとうですぜ」


 マールがゼファーから離れて一人で立った。


 「マールさん、ここは撤退してください。我の部隊が、今からあの軍の攻撃を受け止めますゆえ」


 ゼファーが先頭を走っていたために、後から部隊がやってきていた。


 「わかったですぜ。ゼファー。ここを頼みますぜ」

 「ええ。おまかせを・・・ん、来ましたね。ライノン殿。このままあなたはマールさんを後ろの本陣の方にお願いします」

 

 軍よりも先行していたライノンがやって来た。


 「な、なに。ライノン!? お前も前線に??」

 「はい。マールさん。僕が撤退を手伝います。ゼファー軍の約三分の一がこのまま皆さんを誘導しますね」

 「そうか。ありがとう。ライノン」


 ゼファー軍の二万の内の六千。

 その兵士らがマール軍撤退の護衛に入った。

 ライノンの上手さが際立つ撤退で、敵の追撃を華麗にいなし始める。 

 

 「貴様! 逃がすか」

 「逆だ。パールマン。貴様はもう優位な立場などではない」

 「なに!?」

 「貴様は今! 逃げねばならんのだ」

 「何を言っている?」

 「我と、我の部隊からな」


 ゼファーがそう言った直後。

 彼の後ろからゼファー軍が猛烈な勢いでやってきた。

 彼の部隊は、帝国きっての特殊兵たちである。

 軍としての規律を保ちながら、サナリアの兵、ウォーカー隊の魂のどちらかを引き継いできた忠義の戦士たちで、努力を惜しまぬ根性の塊の人間たちの集団。

 独立遊撃軍ゼファー軍である。

 八大将の中で、唯一、選抜されないとなれない兵士たち。

 そしてさらに地獄の訓練に耐えないと軍に居続ける事が出来ない。

 帝国でも異質な軍なのだ。


 「貴様の兵では我の兵には勝てん。我の兵たちは貴様らよりも鍛えてある。我と共に高みを目指し、殿下にこの身を捧げる覚悟がある者達だ! 我らはどこにいようとも殿下と共にある!」


 ゼファーが槍を掲げた。


 「ゼファー軍! 目の前の敵を討ち倒せ! ただただ修羅となれ!」

 「「「おおおおおおおおお」」」

 

 迫力。気力。そして実力。

 三点揃ったゼファー軍は、追撃中で優勢だったはずのパールマン軍に対して、逆に襲い掛かって戦場を支配した。


 彼らの力は、初撃のみで分かる。

 パールマン軍の前列に当たる兵士たちに、ゼファー軍の一撃が入った瞬間にパールマン軍が総崩れしたくらいに実力差があった。

 彼らの鍛え方は、尋常じゃない。

 離脱する者をその場に捨てるくらいの。

 激しい訓練に耐えた者しかここにいない。

 ゼファーと共に生死を彷徨っても良いと思う者しか、ここに立っていないのだ。

 

 「パールマン。逃げないのであれば、貴様もあのようになる気なのだな」

 「なに!?」


 ゼファーが槍を向けた先。

 それはパールマン軍の兵士たちが倒れている場所。


 次々と倒されていく兵士たちを前にして、パールマンが取れる選択肢は一つしかない。

 引く。

 これしかないのだ。

 しかし、それは彼のプライドが許さない。

 だからゼファーに立ち向かってしまう。


 「ここで貴様を倒せば、ハスラを包囲できる!」 

 「そうだな。貴様が我を倒せるのであればな。しかし、もしも、出来たらの話をするなど・・・笑止千万! 我に勝ってから、物を言え!」

 「なんだと貴様!」


 パールマンの大剣が唸る。

 暴風雨のような数で連撃を繰り出すが、ゼファーが全て叩き落とす。

 軽く当てたような槍なのに、重たい大剣がいとも簡単に負けていく。


 「なぜだ。なぜ俺様の攻撃が・・・」

 「それは貴様と我の格が違うからな」

 「俺よりも小さな体の奴に・・・なぜ俺様が負けるんだ」

 

 圧倒的な実力差が、パールマンの心を折り始めた。


 「我は神を見た」

 「は?」

 

 ゼファーの唐突な言葉に、パールマンが驚く。

 

 「我や貴様程度では足元にも及ばない。究極の神を見た」

 「何を言っている?」

 「あの方は、いずれ。この大陸で最強となる御方。その方の剣技を見れば、我がやったことなど大したことはない。ただの見様見真似である。我は、この槍の会心を見つけただけ。それにより貴様の大剣をあしらうことに成功しているだけだ。これは単純な筋力の話じゃない。武の力だ。武器や己だけの力じゃない。全ての力が合わさる事で生まれる武の力が我を成長させたのだ」

 「・・・なに?」


 神を見た。

 それは幼いながらにも、その片鱗を見せたレベッカの事である。

 彼女の持つ才能を見続けてきたゼファーにも変化が訪れていたのだ。

 彼女の全てが、戦いでの動きの参考になっていた。

 

 「我は、神が成長するのを待つ。彼女の前に立ちはだかる壁として、我は彼女に勝つ大人でなければならんのだ。でなければ・・・・殿下が困るのでな!」

 

 せめて彼女が大人になるまでの間。

 彼女の大きな壁となり続けるために、彼女が驕り、人を見下さないように、常にあなたの上には強者がいるのだと示すために、ゼファーは命懸けの特訓を重ねている。


 全ては殿下の為、そして彼の願いである。

 娘が普通の人と同じように真っ当に生きてほしいという思いを叶えるためだけに、努力を怠らないのだ。

 ゼファーは、究極の忠義の戦士である。


 「我に勝つ・・・という事は神にでも勝てんと無理だぞ。パールマン。喰らえ!」


 槍の一突き。真っ直ぐ突き出す槍には回転が加わっていた。

 回転の音が聞こえるくらいに回る槍は、パールマンの大剣を砕きながら、彼の心臓へと向かう。

 

 「なんだと。俺様の剣が!? いや、これはまずい」


 パールマンは槍の威力減衰を狙い身を捻じる。

 左の肩を突き出して、槍を受け止めた。


 「ぐああああああ。な、なんだこの威力・・とまら・・・」


 回転が加わっている槍は、肩を突き刺しているのにさらに体内を走り抜けようとする。

 肩を貫き、そのまま心臓へと向かう。

 だから、パールマンはその状態から更に身を捻って槍の勢いを止めた。

 しかし、怪我の程度が大きい。

 肩が壊れているのを悟るが、逆に言うと肩の負傷程度で済んでよかったとも思っている。

 間違いなく死を予感させる一撃であった。


 「ひ、左肩がもう動かん・・・」

 「ほう。そこで止めるとは、なかなかやる。次もいくぞ」

 「な!?」

 

 ゼファーがもう一度攻撃態勢に入ると。


 「閣下。狼煙が三本です」

 「なに!? 退却だと・・・何が・・・」


 王国の狼煙の三本は退却の合図。

 奪取した好位置の場所から狼煙が上がっていた。


 「下がるしかないか」

 「下がらせると思うか」

 「ここは下がるしかないのだ。引くぞ。パールマン軍」

 

 全体が下がろうと山に登っていくパールマン軍。

 当然ゼファー軍も追いかける。

 今度は逆の形になり、次々とパールマン軍は減っていくことになった。

 マール軍を追いかけていた頃は、1万5千もあった兵が、一つ目の山を登った頃には、7千にも減っていた。

 ゼファー軍の攻撃が見事であったのだ。

 

 頂上に登ったゼファーの隣に、リョウと呼ばれる青年が来た。 

 グリーンアイの透き通った瞳をゼファーに向ける。


 「ゼファーさん。ここまででいいと思います」

 「ん? リョウ。どうしてだ」

 「はい。あれです。あそこは我々の陣があった場所です。ですが、今はおそらく敵軍がいますね。ザンカ軍が敗北したので、あそこを奪ったでしょう。それとあそこは好位置です。だからここで無理をする必要もないかと思いますね」

 「そうか・・・そうだな。引くか」

 「はい。元の位置で敵を待ちかまえていた方が展開が楽であります。山脈戦も我々は得意ではありますが、平地の方が良いでしょうね。特に我々は力勝負の方が楽だ・・・」

 「そうだな。いいだろう。リョウの案で行く。引くぞ」

 「はい。皆。引くぞ。ここで終わりだ」


 ハスラ広域戦線でのゼファー軍の隊長は、ゼファー。そして副隊長がライノン。

 しかしライノンはフュンが臨時で配属させたので、元々はゼファー軍の一員ではない。

 本来の副隊長はリョウ。

 サナリアにいた青年である。

 フュンに絶対の忠誠は誓っていたのに、太陽の戦士の才が無くて、途方に暮れていた所。

 それでも諦めずにいた彼が最後に頼ったのがゼファーであった。

 ゼファーと共にフュンを支えようと努力した男で、戦況把握の正確な事と、前線で戦う戦士としての情熱を持った副隊長である。

 ゼファーに重大な進言が出来るので、貴重な補佐でもある。


 「リョウ。戻ったら兵士たちの編成を頼む」

 「はい。了解です」


 帝国歴531年5月17日での各地で起きた戦争は、帝国軍のほぼ負けである。

 だがしかし、これらの戦いの中で、唯一勝った戦いが、このゼファーの戦いであった。

 独立遊撃軍ゼファー軍のパールマン軍撃退が、唯一の勝利である。

 でもこの戦いは、ガイナル山脈戦でのゼファーの快進撃の一つに過ぎない。


 『ハスラ広域戦争』


 その中で最も名を上げる者がゼファーである。

 ゼファーはこの戦いでフュン・メイダルフィアの半身であることを大陸の人々に印象付けるのであった。

 大陸の英雄の隣には、常に最強の戦士がいる事を知らしめる結果となる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る