第33話 唐突な終戦
ビスタ西。
城壁にまであと少しの所で止まった王国軍。
ここから包囲を開始する前に、城壁の上の漢を見た。
遠くから見ても、肉体が明らかに大きい。
だから、ドリュースは初めて見たとしても、相手が誰なのかを理解した。
会話は帝国から始まる。
「王国軍。よくぞ、ここまで来たな!」
「貴殿は・・・スクナロ殿でお間違いないかな」
「ああ。そうだ。帝国左将軍スクナロ・タークだ。貴様は誰だ。エクリプス殿ではないな。若い」
「私は、王国軍大将ドリュース・ブランカだ」
「ほう・・・・ブランカ・・・」
「そうだ。この軍の指揮官は、我が父エクリプスだった」
「そうか・・・わかった」
『だった』
その言葉だけで、相手の全てを察したスクナロは、それ以上何も言及しなかった。
ハルクが確実にとどめを刺したことが確定した瞬間でもある。
「では、王国軍よ。ここも落とす気であるのか?」
「当然だ。門を手に入れて、アージスを完全に我が王国が手中に収めた今、我々がここも手に入れれば、あとは帝国をじっくり攻めればいいだけになるからな」
「ふむ。その考えも間違いではないな」
「当然だ。当たり前の考えだ」
「そうだな・・・それが普通の考えだ。軍の人間の普通の考えだ」
「ん???・・・何を言っている?」
スクナロの全てを悟ったような言い方が気になる。
ドリュースは相手の声色も気になっていた。
「それではこちらとしては、かかってこい! この一言だけを伝えよう。ビスタはそう易々と落ちないぞ」
「わかりました。その自信砕いてみせます。すぐにでも落としてみせましょう」
「ああ。やってみてくれ。お若いの・・・」
ドリュースが城壁からいなくなり、ドリュースは軍に前進を命令。
西の門に向かう兵が二万。
北側に向かっていくのが三万。南側に向かっていくのが三万とした。
これで全ての兵を配置させようと動き出す。
残りの兵たちは門の確保をしている状態だ。
北と南に行った三万の内一万は東を抑え込むための兵である。
突撃を開始した王国軍。
最初にぶつかり合うはずのシンドラの兵たちとは、北と南の双方で同時に当たった。
しかし、三万同士の激突のせいで戦いは互角となり、王国軍の攻撃が鈍っていく。
だが。
「あのシンドラの軍が邪魔だな・・・どうすれば」
「いや、下がっていくみたいだぞ」
「ええ。そうみたいだわ」
ドリュースのそばには、ゼルドとセリナがいた。
攻城戦の最初は三人で計画を立てて行動を起こしたかったので、軍の配置として西寄りに重要人物を配置していたのが王国軍だった。
三人の知恵でエクリプスと同等の作戦を立ていこうとしていたのだ。
ドリュースたちは東に行く軍の中に入り、シンドラの動向を見張る形を取った。
「シンドラが下がるか。どこまで下がるんだ? 北と南の門すらも越えて下がる気か?」
シンドラの南北の兵士たちは、南門と北門を守らずにどんどん下がって東側まで引いていった。
それが罠なのか。
また再び悩みだすドリュースは貴重な意見を聞く。
発言はゼルド将軍だった。
「しかし、下がるにしても門を固めてしまえば、ビスタの包囲は上手く作れる。シンドラが気になりはするが。そもそも野戦を選択していること自体がおかしいと思う。ただの籠城戦になるまでの時間稼ぎじゃないのか」
「たしかに。そうだな。そちらに意識をして、とりあえず囲おう。攻撃はせずに布陣だけは完成させよう」
話し合いの結果から、シンドラを無視して包囲網を完成させていく。
すると東の場面に入ると、シンドラ兵たちはなぜか、さらに奥地に布陣し始めた。
東の王国軍から一キロ先くらいの位置で本陣を置いて、横一列にずらりと並べる形を取って、東の王国軍に圧力を与えていた。
その結果を知ったドリュースらはまたも疑問に思う。
「なんだ。攻撃をして来ないのか。東二万の背後に六万の兵。その優位さがあっても攻撃を仕掛けてこない理由がわからない」
「そうだな。罠なのかどうかすらもわからないな」
「そんな作戦は馬鹿である・・・と一言で片づけるのは・・・なしですよね。ドリュース。ゼルド」
セリナの言葉にドリュースが答える。
「う~ん・・・そうだと思うな。今まで私たちを苦しめてきた敵が、こんな単純な罠を仕掛けるのはあり得ない。あそこに陣を配置するなんておかしいんだ。これは私たちが城門を攻めた瞬間に、背後から攻撃する作戦ではないか」
ゼルドが次に答えた。
「ありえる。それが一番ありえる手だ」
「そうだろう。だから、ここで取れる手は囲って、圧力だけをかけて、あそこの兵がこちらに来たらそちらを先に倒す。この手がいいだろう。それで今のうちに、王国に連絡をする準備をして、援軍をもらおう。王都リンドーアからの増援がいいだろうな。確実な勝利の為にはな」
「それがいいな。作戦はそれにしよう」
話し合いの結果。
王国軍は包囲だけを完成させた。
これにて、帝国の大都市の一つビスタが、完全包囲にあった。
帝国建国以来の初めての出来事である。
完全包囲が完成して半日が経つと、東に位置していたシンドラ軍が、突如として退却していった。
方向は東なので、シャルフ又はシンドラへ帰っていったと思われる。
何もせずにただそこにいて、半日で消える意図が分からない。
ドリュースらはまたも疑問だらけになった。
しかし、これで、敵の攻撃を後ろから受ける心配がなくなったので、することは攻城戦のみとなる。
だがもう今の時間が夕方近くなったので、ドリュースらは翌日の攻撃予定に変更した。
包囲戦初戦から夜戦を仕掛ける必要がないからである。
◇
その日の夜。
何かがおかしい事に、三人は気付いていた。
本陣から、城壁を眺める。
「この城壁・・・なんだか、おかしくないか。ドリュース?」
「わかる。兵士らが少ないように思う。それに・・・中の気配が少ない様な気がする」
「ええ、私もそう思う。人の気配がない気がする。上にいないのかしら」
戦いじゃなくても、夜に見張りがいるのが通常。
なのにその兵士たちの気配がないように思う。
篝火もつけずに真っ暗にしているので、様子が分からない。
「変だ・・・守る気がないのか。それとも諦めているのか。いや、中の動きを分からなくしているのか。敵が何を考えているんだ・・・分からないな」
ドリュースはそんな感想を残して、本陣で休んだ。
翌日。
よく晴れた日の朝。敵の様子に変わりがない。
人を見かけない城壁の上に対して、「突撃」の号令を出して、王国軍はビスタの四方を攻める。
先方の兵士たちに矢が降り注がない。
敵の攻撃がない。
そんなことがあり得るのか。
疑問が湧きながら、ドリュースは上を見上げていた。
敵からの抵抗を受けない兵士たちが梯子を使って城壁に登る。
すると、一番最初に登った兵士が、急に慌てだした。
後ろを振り向き、下に向かって、両腕をクロスさせてバツ印を出した。
「なんだ!?」
「閣下! ドリュース閣下」
「どうした!」
「兵がいません・・・それに・・・」
「それに? なんだ??」
「人がいません」
「・・・は?」
「都市に人がいません」
「なにを? 言っているんだ?」
「人がいる気配がないのです・・・都市が静かすぎます」
「なんだと!? じょ、城門を開けてくれ。すぐに開けてくれ。頼む」
「はい!」
指示の後。
城門が開く。
その速さから言って、本当に敵の兵士たちが存在しないことが分かる。
城門の上で敵と戦い、その下の門を開ける装置の前でも戦えば、もっと時間がかかるものなのだ。
なのにあっという間に門が開いたことで、兵士がここにはいないと確信できた。
門が開いて、そこを軍全体で潜り抜ける。
すると目の前に広がる都市の景色は・・・。
「人がいない??? 城壁の上に兵がいないんじゃなく・・都市に人がいないのか」
ドリュースはすぐに兵士たちに指示を出して、くまなく都市内部を探させた。
敵将。敵軍。住民。
そのうちのどれかがいるはずだとして、本当に時間をかけて探させたのだ。
しかし、どこにも人がいない。
もぬけの殻の大都市だった。
ビスタには人一人存在していない。
「あ、ありえない。どうやって、人が・・・最初からいなかったのか。いや、そんな情報はないはず。少なくとも戦争前には人がいたはずだ・・・ありえない」
この状況に驚愕しているドリュースは事態を把握できずにいた。
帝国歴531年5月26日。
第八次アージス大戦は、急な展開で幕を閉じた。
二大国が存在して、初めての出来事ばかりが起きた戦い。
それは、まず、片方の国がアージス平原を手に入れた事。
次に、片方の国が相手の門も手に入れた事。
そして、三つ目に相手の領土を奪えた事である。
二大国が存在してこの三つが同時に起きた戦争だ。
この勝利は、イーナミア王国にある。
当然の話だ。
三つの現象全ての勝者は、イーナミア王国なのだ。
ただ、この勝利。
非常に後味が悪いものだった。
最後のもぬけの殻の都市。
これが不気味で仕方ない。
誰もいない事に何の意味があるのか。
相手の意図を探ろうにも、相手がいなくなっている。
だからドリュースらがいくらこの事態を考えようとも、何も思いつかなかった。
なので、彼らはネアル王に、ビスタの確保と共に、この不可思議な状況の報告を急ぐのであった。
第八次アージス大戦は、イーナミア王国の勝利。
二大国英雄戦争の初戦を制したのは、イーナミア王国のドリュース軍であった。
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