第24話 副官の熱き魂 ①

 帝国右翼デュランダル軍。


 敵に両側からプレスされている状態で戦うタイムは、敵の包囲を防ぐ動きが、かろうじて出来ている状態だった。

 左右から来る敵の圧力が強すぎて、壁の維持が難しい。

 タイムの持ち場は、押しつぶされる寸前でのギリギリでの攻防が続いていた。


 「皆さん、ここが正念場です。中の方たちを外へ送り出す道を維持しておかねば、全員がこのままでは、相手の圧力に押しつぶされて、死んでしまいます。踏ん張ってください」


 タイムとその周りを固める兵5千で、敵を受け止める。

 そして真ん中で包囲攻撃を受けているデュランダルの兵3万を逃がすために、残りの5千が誘導を行う。

 タイムが作った道を仲間たちが次々と通って逃げていく形を作り上げた。

 彼の命懸けの脱出路は、完璧に作動していた。

 しかし、これらの作業を同時にこなしているタイムにも、やがて限界がやって来る。

 だから、デュランダルたち包囲を受けている味方も急いでいたのだ。

 

 そして、タイムが挟まれながら耐えている状態で三十分。

 味方をだいぶ逃がすことに成功しているタイムでも、まだ重要人物の救出には至らない。

 デュランダルは先頭部分を指揮していたのだ。

 戻ってくるまでに時間が掛かる。

 敵をいなしながらの退却であるから、武闘派のデュランダルでも時間を要する。


 「もう少しです。もうすこしでデュラさんが・・・・ぐっ」

 

 タイムの肩に矢が刺さった。


 「タイムさん!」

 「大丈夫。メルディさん。僕よりも敵を・・・僕の事よりもですよ。中の人を救出することを優先で」


 命令をしながら、タイムは矢を引き抜く。

 自分が負傷してもタイムは動きを止めない。

 仲間を救うためもあるが、ここでタイムが戦わないとこの戦いが終了するからだ。


 「は、はい。ですが・・・タイムさん。その怪我・・」

 「ですがではありません。必ず。デュランダル将軍はお救いしないと、この戦。右の戦場は維持できません。ここは命をかけるくらいの戦いをしないといけません。勝負どころです」


 タイムの目はいつもの穏やかな目ではなく、睨みつけるような目になっていた。

 戦況把握の天才。タイム。

 特筆すべき能力はなにひとつなくとも、自分たちが置かれている状況を瞬時に把握し、的確に行動ができる男である。

 それは、子供の頃から持っていた才能で、あのフュン・メイダルフィアが、惚れこんだ才能でもあるのだ。

 だから彼はいつも重要な戦にタイムを抜擢している。

 影で支えているタイムのような人間がいて、初めてゼファーのような武人系の人間、フュンの最強の武器たちが活躍しているのだ。


 「ぐはっ。ば、ばかな。更に圧力が増している!? 他の場所からの援軍か」


 後ろから斬られたタイムが振り向く。

 敵の圧力で徐々に狭まる道。

 前後の敵が近づいているように思う。

 蓋が完成するかもしれない。

 タイムは負傷していても、その判断力に衰えはなかった。


 「まずいな。ここも閉じてしまうかもしれない・・・道を開け続けるには・・・僕もシゲマサさんのように、やるしかないか・・・ここか。僕の命を張る場面はここか! いくぞ」


 塞がりかけた道にタイムが命を賭して突撃をしかけようとすると、隣から声が聞こえた。


 「待て、タイム。お前が死ぬにはまだ早い。ここで死んだら、誰がデュラを救う。それにお前に死なれたらな。俺と遊んでくれる奴が一人いなくなる。そいつは寂しいぜ」

 「え?・・・あ、カゲロイ!?」

 「とっておきを見せてやる。これは一度しか通用しないからな。タイム、掛け声を頼む」


 カゲロイが指の間に挟めた玉を見せた。


 「なるほど。やりますか」

 「ああ。まかせろ」

 

 カゲロイの意図に気付いたタイムは、ここで仲間の騎馬を借りて、馬上から剣を空に掲げた。


 「聞け。右翼軍! そして敵軍よ。この凡将タイム、大元帥と共に戦って早十年以上。数々の戦場を共に歩んできた私にとって、まだまだ! この程度はまだ死地ではない。僕たちはまだ戦えるんだ。凡将である僕が戦えている。だから君らもまだ戦える! さあ、ここからが、力の見せ所だ。帝都で僕らの帰りを待っている大元帥に見せてやろう。我らデュランダル軍の強さをだ。いくぞ。かかれ」


 タイムは、ここで鼓舞した。

 彼の言葉に呼応する味方たち。

 でもこれはそれが目的じゃない。

 タイムに、敵の視線が集中することが目的だった。


 「ナイスだぞ。タイム。お前のその抜け目ないやり方が好きだぞっと。後で飲もうぜ。いくぞ」


 カゲロイが、タイムの乗る馬のお尻に飛び乗って、玉を放り投げた。

 すると敵からは、タイムの頭から玉が飛び出るように見える。


 「サブロウ丸ピカリン号! だそうだぞ。敵さんたちよ。あいつのネーミングセンスが最悪だけど、威力は抜群だぞ!」


 上空から降り注ぐのは、太陽の光のように感じる発光弾。

 サブロウ丸ピカリン号は、七色に輝いて、敵の目を狂わせる。

 敵は強烈な光によって目を瞑り始めた。

 タイムは、その隙を逃さない。


 「皆、盾を持って、押しなさい。あと少し、あと少しです」


 しかし、こちらの兵士たちも目がおかしくなっていた。

 急遽な事で、細かい連携を取れなかったため、デュランダル部隊の兵士たちも先程の光にやられて、前が見えなくなっていたのだ。

 だからタイムは、ここで盾を持たせて左右に前進させたのだ。

 道を確保したいだけだから、盾で押し込んでしまえばいいだけなのである。 


 「自分の前を押しなさい。押し切りなさい! もうすぐデュランダル将軍が来ます」


 馬上にいるために、タイムはこちらに向かっているデュランダルが見えていた。

 

 タイムとカゲロイの策で押し切られた敵軍。

 それにより再び道が確保され始め。

 ついにそこにデュランダルが入り込んだ。


 「タイム! 引け。ここからは俺がついていく」


 タイムの軍と接続できたデュランダルが叫んだ。

 彼の声を聴いて、即座にタイムは指示を出す。


 「了解です。カゲロイ、背後の接続部分に入ってください。僕は、一気に脱出を図り、出口を固定します」

 「わかった。いけ。タイム」

 「はい。お願いします。デュランダル軍。下がります」


 タイムの指揮で、タイムが引き連れていた部隊の半分以上が脱出して、残り半分で外を固定、そして次に、カゲロイとの連携でデュランダルが完全包囲から脱出した。

 タイムの粘りによって、デュランダルは無事に生還できたのだ。

 本陣に戻る道中。


 「タイム。ありがとな」

 「え・・ええ・・・な!? こ、これは・・・目が・・・まずい・・・ですね・・・」

 「タイム! おい、しっかりしろ。おい。タイム! 死ぬなよ。おい」


 出血もしているタイムは限界を迎えていた。

 落馬しかける寸前で、カゲロイが背後につく。

 タイムの体を支えて馬を操る。


 「おっと。タイム!・・・・ああ、これは大丈夫だ。デュラ。こいつは、意識を失っただけみたいだ」

 「そうか・・・よかったぜ。ひと安心だ・・・俺のせいだ。タイム、悪かったな・・起きたらまた謝るぜ」

 「デュラ。あんまり気にすんな。これくらいの傷はな。俺たちにとってはかすり傷。ミラの修行では何度も負っているぞ。これくらいの気絶だって楽勝だろう」

 「は!? どう見てもぐったりしちまってるだろうが」

 「ああ、でも大丈夫だ。さっきまで、動けていたからな。ミラのだったらその場で死んでる」

 「ど、どんな修行をしてたんだよ。お前ら」

 「まあな。子供の頃は・・・ああ、地獄だったな・・・でもこいつは結構な深手だわ。この戦いではもう・・・駄目かもな」

 「そうか、すまない。タイム。俺が敵の罠に嵌らなければな。お前にここまでの怪我を・・・すまねえ」


 デュランダル軍はこうして無事に脱出できたが、タイムを失う形になってしまった。

 軍最高のバランサーがいなくなった事で、デュランダル軍は立て直しに入らなくてはならない。

 それと敵よりも少ない数になってしまったデュランダル軍は難しい局面に入っていく。


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