第22話 女性陣の戦い
初日の戦いは、帝国軍右翼の猛攻で終わったわけではない。
左翼側も激しい攻防を繰り広げていた。
帝国左翼アイス軍。
その右翼を担当するリースレット部隊と左翼を担当するリエスタ部隊。
両翼が激しく戦場を動いている間、中央アイス部隊の本陣はどっしりと真ん中に構えていた。
相手の軍を隅から隅まで見つめていた。
「相手は、セリナ・・・詳しくは知りませんね。情報が少ないです。たしか、大元帥を連れて行ったヒスバーンに同行していた人物ですね」
アイスは、デュランダルとは違い。どっしり構えて戦うことが多い。
これは訓練の時から取る手で、彼女の基本の戦い方らしい。
どんな状況になっても、常に落ち着きを持ち続ける女性で、冷静に事態に対処する。
なのに、彼女の配下の左右は、情熱的な人たちばかりなのだ。
「リティ様。リースレット・・・・はぁ。引きなさいよ。なんでそんなに前に出るのよ。初戦よ。初戦。ふぅ~。まあ上手くいっているからいいけど」
深くため息をつくアイスは、戦場を見つめていた。
「まずはどういう風に動くか。それだけでいいのにね。でも、押し込んでるわね。この人たち、私と考えが正反対の人たちだから、扱いが難しいわ。直感型って凄いわね」
思考を基準とするアイス。
直感を大切にするリースレットとリエスタ。
双方は相容れないように思えるが、相性は決して悪くない。
◇
アイス軍右翼リースレット部隊。
「こちらですよぉ。こっち! そこの右から四番目の部隊を狙い撃ちです」
リースレットの明るい声が戦場に響く。
横陣同士のぶつかり合いの中で、彼女の勘が冴える。
敵の陣形を崩すような、えぐり込む一撃を仕掛けた。
王国軍はたまらず後ろに下がって、防御を固めていく。
しかし、その強くなった防御姿勢でも勝機あるとして、リースレットは軍を更に前へ進める。
「いけますいけます。じゃんじゃん前にいきましょう。あ! あっち、左の端と。中央のやや左のあそこの部隊もいけます」
瞬間的に敵の弱点を見抜けるリースレットならではの戦法。
柔らかい柔軟な攻撃が売りの女性だ。
◇
アイス軍左翼リエスタ部隊。
「サナ。私が右をやる。お前は左をやれ。それで真ん中に押し込む。横陣でいくが、そのまま包囲戦になるように動く」
「はい」
「そっちを頼む。しかし無理はするな。包囲が出来ないと判断したら下がってくれ。私も一緒に下がる。別な戦場にいても、私たちの判断は常に共にだ。いいな」
「了解ですよ。リティ」
二人は部隊の左右に移動して、敵の左右に登場した。
リースレットが柔の攻撃だとすると彼女らの攻撃は剛の攻撃。
先頭に立つと、その力を発揮しやすくなる。
「リエスタの先制攻撃だ。皆、私に続け」
「「「おおおおおおおおおおおおお」」」
リエスタが敵の中に入り込む。
かなり深い位置まで潜り込むのだが、彼女自身の強さが一際目立つ。
二、三人に囲まれているくらいでは、止めることが出来ない。
「開けた! ここから入り込むぞ。続け」
敵をこじ開ける彼女の背中を追いかけるだけで、敵を押し込むことに成功した。
リエスタはスクナロの娘らしく、背中でも味方を引っ張ることが出来る将である。
一方、左に配置となったサナ部隊は。
「いくぞ。サナ部隊。左を押しに行く」
仲間たちと共に突破を図っていく。
彼女の戦闘スタイルは父親と同じ剣士スタイル。
それもオーソドックスである。基本に忠実ともいえる。
ただし、完璧な戦士なので、隙がない。
それはあのミランダからの師事を受けた際にも褒められたことだった。
サナ。リエスタ。リースレット。アイスの四人は、ミランダの修行を二年受けた。
その時の評価はこちらだ。
サナ。
完璧な武人。円グラフでその評価をすると大きな丸い円になる。
父のハルク同様の素晴らしい武将になるのは間違いないとの事。
ただし場数が少ないので、ここからは多くの戦場を経験させるべきとの評価。
リエスタ。
こちらも父と同じく先頭に立つと味方の士気が上がり、部隊の突破力が上がる傾向がある。
弱点は防御。長所は速度である。
そして、最大の長所は、覚悟である。
豪快さで全てを包み込み、味方を引き連れるのが上手い。
リースレット。
直感の鋭い武将。敵の様子を探ることが出来る。
どちらかと言うと攻撃寄りだが、決して防御が弱いわけじゃない。
戦える箇所と戦えない箇所が雰囲気で分かる。
本当はそこに理論があっても、彼女には雰囲気で分かるのである。
アイス。
デュランダルと並ぶ大将で『太陽の双璧』と呼ばれている。
二人が揃うと、鉄壁と攻勢を両方担う。
互いの性格と行動が正反対でありながらも攻守に優れた形の武将なので、とても息が合う。
今回の戦では、左翼と右翼に別れたが、二人は中央軍を補佐する形の動きを目指している。
その理想を目指すために今回は目の前の軍の強さを知ろうとしていた。
攻勢に出ていくリエスタ部隊は、包囲戦の完成までいきかけた。
しかし、その行動は良くなかった。
それは、敵の右翼部隊に対しては正しい行動だったのだが、敵中央部隊にとっては悪い行動であった。
逆にリエスタが挟みうちに合う形になってしまう。
敵の大将セリナは巧みな将だった。
相手に合わせて戦場を変化させるタイプである。
「これは間違ったか? うむ。いったん引くぞ。私が殿だ。皆引け!」
自分が殿を務める。
本来はよくないが、リエスタは仲間のために動く将なのだ。
この結果で、窮地に陥っても士気が衰えることがない。
突撃時と同じ強さを維持しながら、リエスタ部隊は戦っていた。
「苦しい展開か。この敵強いな・・・アイスに似ているか」
リエスタは敵の大将の行動が、自分たちの大将であるアイスに似ていると分析した。
その彼女の分析と勘は正しい。
なぜならここで、中央軍からの援軍が来た。
「ん!? 楽になった。さすがだな。アイス」
リエスタの撤退が上手くいきはじめる。それは中央部隊の前進が上手く嵌り、相手の圧力が消え去ったのだ。
アイスは、ここで前進と交代を繰り返して、敵の行動を分析する。
「リティ様は良しとして、リースレットも膠着状態です。それにこの敵・・・なんだか鏡と戦っているような気がしますね。考えが似ている。動きが一緒だ」
帝国が誇る名将の一人。
アイスに対して戦うのは、王国のセリナ・スカイ。
ここでは、セリナ・ヴィレンと名乗っている。
ナボルの幹部だった女性。今は王国の将の一人である・・・。
◇
イーナミア王国側。
右翼セリナ軍。
「この敵がアイスですね。攻守に隙が無い。強い・・・今、あそこで敵を葬り去るはずだったのに、対処してきました。間違いなく強いですね」
「セリナ様。私の出番は?」
「ん?」
セリナの隣にいるのが、副官マリアス。
本当は前に出て戦いたいのに、彼女に止められていた。
「マリアス。戦闘前の私の話を聞いていましたか?」
「何の話です」
「あなたは待機だと言いましたよ」
「ええ。ここにいろという事ですよね。ですからここにいますよ。聞いてますよ!」
「なら、なぜ出番はと聞くのですか? 理解していないなら、話を聞いていないのと同じでしょ」
「理解していますよ。ただ出番はないかなって聞いただけです!」
マリアスは口を尖らせた。
「拗ねないで下さい。とにかく待機です」
「は~い」
次に不貞腐れた。
「まったく・・・こっちに集中させてほしいですね」
セリナは、再び戦場の方に意識を向けた。
彼女もまた部下に苦労している女性であった。
王国右翼軍対帝国左翼軍の戦いは、似た者同士の戦いであった。
それと部下にも苦労している女性同士の決戦である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます