第315話 王家は戦う! ミランダの宣言
帝国歴505年2月2日。
帝国はこの日からである。
皇帝と王家の反撃を宣言した日で、全てが始まった。
帝都の中央広場にて。
「皆の者! 見てほしい! これが、大罪人フランベット・リルローズである! 余は、こやつを許さん。我が妻シルク・ダーレーを計略にて殺し。ましてや、ダーレーの領土を攻め込み。王家から全てを奪おうとした。さらには、民をも燃やして、バルカ村を粉々に破壊までしたのだ。あの村はもう誰一人生きていない。悲劇の村である」
実際はニールとルージュの二人が生きているが、これは大きく言った方が民衆が味方になるために、エイナルフは大袈裟に誇張した。
「そして余は、ここで宣言する。民を苦しめるような貴族を成敗する! ガルナズン帝国の民よ。余はこれより、悪しき貴族を討伐することを宣言する。この帝国には良き貴族のみを選別する。民を、正しき道に導く貴族のみを残して、あとは淘汰することを誓おう。皆の安心と安全をここより宣言しよう。皇帝エイナルフの下に入る。王家ドルフィン、ターク、ダーレーの三王家は、ここから御三家となり悪辣な貴族と戦う。民の為、余と王家は戦い続ける事を誓おう。余らが必ず勝つ。皆、皇帝と王家を信じよ。気高きガルナズン帝国の民よ」
「「・・・・・・」」
度重なる内乱に疲れていた民たちは、一瞬の間を生み出してから爆発した。
「「「ああああああああああああ」」」
大歓声の後に行われたのが。
「では、その開幕を宣言するための大事なことをする。ダーレー家の顧問ミランダよ。やってくれ」
「はっ。皇帝陛下」
皇帝に誘導されたミランダが登壇した。
「帝都の皆さん。ダーレー家顧問ミランダ・ウォーカーであります。私、ミランダは、この男フランベット・リルローズを捕らえました。私は、この男によって苦しんだ民たちを見てきたのです。だから捕らえたのです。大罪人でありますから、大貴族であろうが関係ありません。ここで処刑します」
ミランダの演説を見るのは民たちだけじゃなく、ウォーカー隊の隊長たちもいた。
珍しく真面目なミランダを真剣な表情で見ていた。
「この男はどうしようもない、悪の貴族です。ササラ。ククル。バルカ村。シーラ村。ノーシッド。リックズ。都市、町、村。至る所の民を苦しめていました。そして、私の母とも言えるシルク・ダーレーもこの男に殺されました。皆と同様私も大切な者をこの男に奪われたのです」
必死に隠そうとしているが、彼女の悔しそうな顔と声が、民たちにも伝わる。
「だから、私はここで宣言します。この男を消し、他のこのような人間にも消えてもらいます。国の為には、悪はいらないのです。これからの御三家は! 皆様にとって、この国にとって、いらぬ貴族を排除します。その幕開けとして、この男を処刑します。我らは大貴族であろうが絶対に成敗してみせる。なので、我らを信じてほしい。そしてあなたたちも戦ってほしい。貴族に負けぬ心の強さを手に入れてほしい。何があっても悪の貴族なんかに負けないでほしいのです。皇帝と王家は、常に民のそばにいます。だからあなたたちも共に戦ってほしいのです」
ミランダの必死の思いから、彼女は刀を取り出した。
上に掲げてから、ゆっくりフランベットの前に歩きだす。
「新たな時代は王家と民が作る。悪辣な貴族が作るのではありません。皆さんが、作り上げるのです。今から、開幕を宣言します。お見せしましょう。ではいきます」
振り切った刀が見えない。音も聞こえない。
でも彼女の刃は地面に着いていた。
恐怖を表現することもなくフランベットの首が飛ぶ。
するとミランダの目からは涙が流れていた。
「帝国の民よ。新たな時代は、御三家が作る! 私たちはあなた方の為に戦います。作ってみせます。新たな平和の時代を! 終わらせてみせます。ガルナズン帝国の内乱を!」
「「おおおおおおおおおおお」」
悲しい涙なのか。嬉しい涙なのか。それとも悔しい涙なのか。
ミランダから流れる涙は、どれを意味するのか。
それは彼女にしか分からないものだった。
しかし、これにて、帝都から御三家の反撃は始まった。
王家の宣言は、貴族らを震え上がらせることとなる。
ここから始まったのが、帰順か、抵抗かの二択。
貴族選別である。
王家の味方になるか。それとも敵となるか。
打算的な貴族共の考えが明確に表れる時代となり、王家がしっかり貴族を選抜する時代となった。
ドルフィンやタークは、それらの作業をしていったが、ダーレーは、どこも受け入れなかった。
ダーレーが抱えることになったのは、シューズ家、ニアーク家、マルトロ家のみである。
三家しかいなくとも、この三家は非常に優秀であった。
謀略のヒザルス。影のナシュア。人の良さのピカナ。
三者三様だが非常に良き人材であった。
そして、この間に起きた出来事と言えば。
帝国歴505年4月。
ササラにて。
ダーレーのお屋敷。
「アレックスさん!?」
「おお。すみませんね。ミランダ・・それと・・おお、こちらが、ジーク様とシルヴィア様」
寝たきりになっているアレックスの元に、ミランダが二人を連れてきた。
「どれ。こちらにどうぞ」
ミランダたちは三人並んでアレックスの隣に立った。
「シルヴィア様。当主様ですね。アレックスであります」
「はい。アレックスさん。シルヴィアです」
「ええ。良き目だ・・・それにしても似ていますな。お二人に似ていますね」
「二人?」
「はい。シルク様とユースウッド様にそっくりだ。こちらがジーク様ですね。ああ、ジーク様。アレックスはあなた様にもう少し教えたいことがありました・・・」
アレックスの言葉が途切れるとジークが心配した。
ジークはアレックスと多少面識がある。
「アレックス!」
「だ、大丈夫ですよ。少し意識が飛んだだけだ。大丈夫。ジーク様、妹君をお守りください。あなたの才は飛びぬけています。当主を守れるはずだ」
「うん。わかってるよ。俺に任せてほしい」
「ええ。良いお兄さんであります」
アレックスはジークに微笑んだ。
そして彼は最後にミランダを見る。
「ミランダ」
「はい。アレックスさん」
「君がいてよかった。私が死んでも、君がいれば大丈夫だ」
「そんなことは・・」
「ありますよ。君がダーレーを守る。ダーレーの守り神だ・・・さすがは、シルク様。人を見極める天才でありました・・・あなたを守るようにして、彼女が引き取っても、本当は・・・ダーレーは・・・あなたのおかげ・・・で守られるのでしょう・・・ミランダ、私はここまでです・・・」
アレックスの意識が消えかけていた。
心配になる三人は、彼に近づく。
「・・・ミランダ、私の書斎にある書き物を見てください・・・」
「はい。必ず」
「ええ・・・お願いします・・・・あとは・・・言わずとも、あなたならば大丈夫だ・・・ミランダ、お任せしますね」
「・・・はい。アレックスさん。ダーレーのことは私にお任せを」
「ああ。安心です。心残りはありません・・・私にはあなたがダーレーを守ってくれる姿が分かりますからね・・・天国に行っても見てますよ・・・ミランダ、たくし・・・ま・・す」
「・・・・・・はい」
アレックス・シーカーはここで、ダーレーが御三家へとなった年に亡くなったのである。
いまだ戦乱の世である時代に亡くなっても、彼は安心して死んでいった。
それはミランダ・ウォーカーがダーレーに所属していたからである。
全てを彼女に託して、死ねたことで彼は満足して亡くなっていったのだった。
その後、お屋敷の書斎にある手紙を読んだミランダは。
「これは・・・すげえ。そういうことか。なるほどな」
納得して行動を起こすことになる。
それが・・・。
◇
ササラの広場にて。
「先日亡くなったアレックス殿から、これより新領主はピカナ・マルトロとなる。ダーレーに所属している彼なので、領土的にはダーレーの支配下であるのは変わりない」
ミランダの宣言に、皆が頷いた。
ピカナはアレックスの元で少しの間修行のような形で領土運営を勉強していた。
前の彼では、上手くいかないだろうとしてミランダがここに派遣していたのだ。
だから民たちもピカナの人柄を良く知っていたから、安心はしていた。
しかし、そこからが別の展開であった。
「そして、ここから領主は存在するが、この都市の運営はあなたたちに任せることにする!」
「!?!?????」
意味が分からずに、ササラの民たちは止まった。
「これより、二か月後。選挙を行う。都市をどのようにするのか。君たち自身が考えてほしい。それを支えるのがピカナである。君たちを引っ張る人間ではなくピカナはあくまでも、君たちを支える側の人間になる。だから、皆が主導して都市を発展させてほしい。自分たちで考えて、自分たちでよりよい生活を目指して欲しい」
「?????」
「だから、何をしたいのか。何を目指すのか。それをよく考えて選挙を行ってほしいと思う」
これが、アレックスが考えた二重支配の形である。
ササラに領主は存在する。
ただし象徴的存在で、最終許可を下す者としてだ。
そしてここで新たな支配者として市長が存在する。
それは選挙で勝ち抜いた都市の市民代表である。
だから自分たちの力で代表者を生み出し、自分たちが考えたもので都市を作る。
責任は常に自分たちにある。
ここからササラが発展をするかどうかは、民に掛かっていることになるのだ。
人任せではないという事だ。
それがアレックスが考えたものである。
彼も元はただの執事で本来は支配者の形ではない。
だから市民たちに協力をもらう時があった。
その時に非常に優秀な人材がそこにいたのに、多くを雇用することが難しく、更にその人が上に立つ機会が無くて運営が難しい場面が存在していたのだ。
だから優秀な人間を表に出すことが出来ないのは、支配構造的に良くないとして、生み出した案がこの形である。
帝国で、選挙をして市長を作る都市は、初である。
ダーレー家に貴族が少なく、領土も少ないから出来る離れ業であった。
ただこの支配体系が上手くいくかの鍵となったのが、ピカナだ。
彼がいなければ難しい事であっただろう。
誰もが信頼するその笑顔が無ければ、不可能な政治体制である。
「では市長を選び、皆、自分の力を発揮する時が来たんだ。ササラの民よ。頑張れ! 我らの当主もそう思っているぞ。ほらお嬢。皆に声を」
「皆さん、頑張ってください。シルヴィア・ダーレーも応援しています」
小さな少女が丁寧なお辞儀を披露すると。
「「「当主シルヴィア様! 万歳!」」」
ササラの民は喜び、小さい当主の為、自分たちの為、力を発揮しようと意気込んでいった。
新たな政治体制となったササラは、ここから少しずつ大きくなっていく。
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