第313話 ジーク主導の王家会議

 ククルの全てを制圧した後。

 ミランダはハルクと会議を開いた。


 「ミランダ殿。なぜ逃がすように動いたのですか」

 「ハルクさん。ここはですね。奴だけを捕らえると、あたしたちは結局負けるんですよ」

 「どういう意味でしょうか」 

 「奴に従っている貴族。それはこことですね。地方のミルトス。シャルミ。この二つと、更にリックズなんです」

 「それが何の関係があるのですか?」

 「はい。そこの奴らを一か所に集合させて、ぶっ殺します。リルローズの味方になった者は全て消すんですよ。そのためには、本人に逃げてもらわないといけません」


 ミランダの目的は、フランベット・リルローズの抹殺だけじゃなく、リルローズ派の抹殺である。

 全てを崩壊させなければ、奴の手下がのさばるかもしれないからだ。


 「・・・なるほど。同じ思想を持つ者を消しておく。そういうことですか」

 「そうです。それで、ハルクさん。ここを軍で維持してもらえますか?」

 「え?」

 「スターシャ軍でここを保有していてください。あたしが捕まえた二人とレクトを使って、皇帝に王家会議を開いてもらいます」

 「え、会議ですか」

 「はい。それで、申し訳ないですが。こちらの保有権は分からない状態になるでしょう。それでもよろしいでしょうか」

 「ああ、それはいいですよ。我々の目的は元々、バルカ村の件の落とし前ですからね」

 「いや、それでも何らかを・・・そうですね。まあ、あとで何かが起きるでしょうからね。あたしはこのまま、奴の背を追います。そうすることで慌てるようにリックズに行くでしょうからね」

 「そうですか。わかりました。ここを守りますね」

 「ええ、お願いします」


 ミランダは、ここで追撃を仕掛けるためにウォーカー隊と共に敵を追いかけた。

 その際に、ミランダは捕まえたレクトをシゲマサに頼んで帝都へ送る。


 そこで、帝都とでは緊急の会議が開かれることになる。



 ◇


 帝国歴504年12月18日。

 戦争後からすぐに移動を開始したのがシゲマサで、ジークとヒザルスに経過報告をした後に、二人が準備に入ってくれて、この日に会議を開くことに成功した。

 

 皇帝の呼びかけで集まったのは王家。

 それと王家の護衛を務める者たちが会議室に集まった。

 ジークが当主代理として、10歳の若さで会議に参加したのである。


 「陛下に集まれとは言われたのだが、何を話し合うのだ」


 一番先に話したのがウィルベル・ドルフィン。

 ドルフィン家の当主である。


 「俺も集まれとの事。なんだ。喪に服しているというのに・・・」

 

 兄の死を悲しんでいたスクナロは未だに喪に服していた。

 ターク家の当主である。


 「オレもか・・・まあ王家だもんな」


 少し不満そうな顔をしていたのがジュリアン・ビクトニーだった。

 ビクトニー家の当主代理である。

 まだ娘が幼いからとの理由・・・。

 ではなく、彼女が馬鹿だから無理だと判断したためにジュリアンが前に出たのである。


 「私もよろしいのでしょうか。お兄様。ジュリアンさん」

 

 少し緊張気味の少女サティ・ブライトが、家族に遠慮をしていた。

 ブライト家の当主である。


 「ふぅ。やるしかないか。妹の為にも。それに俺たちの為に頑張ってるミラの為にもな」

 

 深い溜息の中で独り言を言ったのが、ジークハイド・ダーレー。

 ダーレー家の当主代理である。

 サティと同様10歳での会議参加である。


 全員が集結した後、皇帝陛下が登場する。

 皇帝陛下は、立ち上がる子供たちの前で挨拶をした。


 「よく集まってくれた。皆。座ってよいぞ」

 

 陛下も座ると、会議が始まる。


 「陛下。何の件で?」

 「ウィルベルよ。今回の件はダーレーからの議題であるのだ」

 「ダーレーですと!?」


 ウィルベルだけじゃなく、他の家の者たちもジークを見た。

 全員から見られても何食わぬ顔のジークがいた。


 「はい。では、陛下。よろしいでしょうか。このジークから、議題を提案しても」

 「よい。話しなさい。ジーク」

 「はい。それでは」


 ジークは堂々と話し出した。

 10歳の子供のようには感じないほどの雄弁さで事の経緯を説明。

 母の死すらも知っているジークは全てを乗り越えていた。

 ただし、自分の当時の記憶は、いまだに戻っていない。

 それ程のショックな出来事。

 それでも彼は全ての顛末を説明して、反撃の糸口を説明しだした。

 

 「よって、我々ダーレーはリルローズ家を消し去ります。よろしいでしょうか。皆さん」

 「よろしいでしょうかとな・・・こっちに聞かれてもな・・・流石にあそこは最大貴族だぞ。簡単にはいかんはずだ」


 ウィルベルはこう言ったが。


 「俺は賛成だ。バルカ村が全滅だと。タークの領土ではないか」

 

 スクナロの闘志が湧いているように感じる。

 兄の死を悲しんでいた様子から漲る力を感じる。


 「オレは、お前の好きなようにしろとしか、言いようがないな」

 「私は戦い関連は・・・彼にお任せでしたので・・・わかりません」


 ビクトニーとブライトは煮え切らない態度であった。


 「ええ。では、了承して頂けたのはタークのみ。それでよろしいでしょうか」

 「んんん。いや私も許可をしよう」

 「ウィルベル兄上もですか。よろしいので」

 「ああ。でも私の家が手伝えることなど、混乱を収めるくらいしかないぞ」

 「ええ。それでいいです。協力を仰げるのであれば、そのままドルフィン家がククルを保有してもらえないでしょうか」

 「なに!? 私の家が。あの都市を? 大都市だぞ」

 「ええ。どちらにしても、兄上の家しかあそこは収められないと思いますので、お願いしたいです。そのかわり、私たちに支援をお願いしたい。兵力などではなく、兵糧などの細かい分野です」

 「・・・なるほどな。わかった。やろう。ドルフィンが手を回す」

 「ありがとうございます。兄上」


 ジークは巧みに交渉しつつ、リルローズ打倒を目指していた。

 しかし、ここまでうまく誘導できているのは、何もジークだけのおかげじゃなく、事前にヒザルスとの話し合いがあったからだ。

 ヒザルスは、こういう局面の考えや会話の誘導がそもそも上手い。

 その技術をジークに余すことなく教え込んでいたのだ。


 彼の考えに基いて、ジーク自身の言葉の上手さと共に、この会議はジーク主導になっている。

 いかに作戦指令があっても10歳の少年が大人たちと渡り合えているのは脅威である。

 ジークハイド・ダーレー。

 ミランダたちが育てた少年は、確実に驚異の子供である。

 妹を守るために、この歳でダーレーを背負っている。

 王家の中心人物の一人である。


 「それで、ジークよ。潰したいという気持ちは聞いたが。戦闘を始める根拠は、持っているか?」

 「陛下。当然あります。お連れしましょう」


 ジークが呼び出したのは、ビスケット。ニルダート。レクト。

 リルローズ家にいた三人を連れてきた。


 「このビスケットは、何度もダーレーに攻撃を仕掛けてきました。その指示はリルローズ家の当主フランベットです」


 ジークは敵に指を指していく。

 

 「次にこのニルダートは、私の母を殺しました。しかしその理由は、貴族の剝奪でした。フランベットの指示一つで、貴族の権利を取り上げられたのです。ですが、考えてください。貴族の権利の取得と剥奪方法は、今の帝国では宣言戦争でのみ行なえます。もう一つは陛下の許諾が必要なはずだ。なのに、フランベットは、彼に対して唐突に権利を没収しました。それは王家への挑戦状ではありませんか? これは皇帝陛下への侮辱ではありませんか? だから私はフランベットを許しません。絶対に殺します」


 ジークの言葉に、皆が頷き始める。

 皇帝と王家を馬鹿にするような行為を見過ごすことはできない。


 「そして、このレクトは、フランベットの片腕の将軍です。ボロボロの状態なのは我が家の顧問ミランダ・ウォーカーによって傷がついた状態です。この男がしたことではありませんが、この男が奴の軍を率いていたので責任は必ず取ってもらう形となります」

 「・・・そうか。わかった」


 皇帝が話の全てを聞いて目を瞑った。


 ジークの意見の中に、ミランダの意思を感じる。

 自分の母を殺した男をどうしても許せない。

 だから全てを消滅させるまでは止まらないぞ。

 あたしを止めるな、エイナルフのおっさん。

 という言葉が勝手に脳内に聞こえてきた。


 「ここで、引き金を引くということはだ。王家は貴族との決着を着けねばならんぞ。皆、よいか」

 「「「「???」」」」


 ジークだけ陛下の意見に気付いた。

 やはりジークは人の話す言葉を理解する力があって、更に飲み込み速度も速いのだ。

 誰よりも対人会話での判断力が高いのだ。


 「つまり、王家対貴族。決戦が始まるかもしれないという事ですね。陛下」

 「そのとおりだ。ジーク」

 「では陛下。我がダーレーは王族として参戦します」

 「ほう。よいのか。ジーク。お主一人で決めても」

 「ええ。判断は、私に一任されております。顧問からもそう言われております」

 「そうか。ミランダからか・・・わかった。ダーレーの参戦を許そう」

 「ありがとうございます陛下」


 ジークの狙いは、他の王家に対する精神的圧力である。

 この参加に迷いがない姿を見せる事で、参加しなければ何か不都合があるかもしれない。

 という、焦りを作るのだ。 

 実際には、参加を急ぐ意味なんて何もないのに、この即断即決によって、他の王家らにプレッシャーを与えるのが狙いである。


 「俺もやろう。いいようにやられっ放しはな。好かん! 歯向かう全ての貴族を倒す。そういう奴らには掛かって来てもらおう。戦うぞ。それに俺の為に、ハルクが今戦ってくれたようだしな。その期待に応えねば」


 ジークに続いたのはスクナロである。

 兄の死を悲しむばかりではいけないと、ここで当主としての自覚と戦う意思を持ったのだ。

 

 「オレはだな。抜けよう。王家から離脱する」

 「ジュリ?」

 「親父。オレは、外から王家を支援しよう。武器を全力生産しようか」

 「ん? 裏方に回るという事か」

 「そうだ。親父らが貴族らと戦うならよ。オレは後ろから支援した方が良さそうだ。だから武器を作ろう。相手よりもさ。より良いものをな」

 「そうか。ビクトニーが抜けるか・・・わかった。ジュリ。承諾しよう」

 「ああ。そうさせてくれ」


 ビクトニー家は王家離脱となる。

 

 「では陛下。私も、離脱よろしいでしょうか」

 「サティもか」

 「はい。陛下。私は今一人であります。母もいませんし、彼もいません。なので、私は王家の皆様のお役に立てないので、私がジュリアンさんの補佐をします」

 「ん? オレのか??」


 ジュリアンが隣のサティを見た。 

 いつも彼女のことを気にかけているのがジュリアンなので、少しだけ心配そうな顔をした。


 「はい。ジュリアンさんが作成した武器の運搬。物資管理をブライト家が行いましょう。それを王家外からやりましょう。それでジュリアンさんの負担を軽くします。ジュリアンさんは、武器の作成だけに集中できる環境となるでしょう」

 「なるほどな。オレが武器だけね。サティ、それは助かるぜ」


 彼女の案がしっかりしているために、ジュリアンは納得した。


 「はい。どうでしょうか。陛下」

 「・・・サティ。それでよいのか」

 「はい。ただ、私の今ある領土は少し減らして維持したままでもいいでしょうか。王家とは不可侵でもよろしいですか。それで、貴族との間では保護の対象になりますでしょうか」

 「・・うむ。そうだな。ブライト家の領土を確約しよう」

 「ありがとうございます」


 サティは、自身に戦う力が無い事を自覚していたために、自分の家が生き残る唯一の方法を提案してきた。

 それは領土を多少王家に振り分けても、最低限で自分の家が成り立つ程度の領土を確約してもらう事である。

 しかもこの交渉の仕方だと、自分の領土に貴族らが攻め込んできた場合。

 各王家が助けてくれるという条件を裏に潜めて提示しているのである。

 このように強かな計算が出来る少女。

 それが神童サティ・ブライト。

 ジークと同様に弱冠10歳の子供でありながら、驚異的な政治思考をしている。


 「それでは、どうする。ウィルベル。ドルフィン家はどうするのだ」

 「はい。父上。私どもも戦いましょう。敵となる貴族たちを炙りだす政策を打ち出していきます。あえてここで貴族らに歯向かわせて叩きます」

 「うむ。そうするか。よし、王家は戦うぞ。いいな」

 

 全員が頷くと、ジークが手を挙げた。

 

 「ん? ジーク? どうした???」

 「はい。これよりですね。ウインド家が無くなっている我らが王家は、五つから三つになります。そしてこの三つの家が、貴族相手に戦争を行う・・・なので、我らはこれを御三家戦乱として命名しましょう。戦争が本格化した。その際、この名称を活用しましょう」


 ジークがこの戦争に名を付けた。

 内乱の時代『王貴戦争』を越えた時代『御三家戦乱』である。


 「御三家戦乱だと? 何を言っているジーク?」


 ウィルベルが聞いた。

 

 「はい。兄上。いいですか。ドルフィン。ターク。ダーレー。この三つを御三家とし、貴族と戦う。今までの王家は、貴族同士の争いに巻き込まれたり、仲裁したりの中途半端な参戦をしていましたが。今度は御三家が戦乱を収めるべくして、主となり戦うのです。だから御三家戦乱であります。我らの名称を先に出すことで、結束を高める意味合いもあります。ただの内乱と称するのは、この結束が弱い気がしますのでね。戦うための最初の意気込みであります」


 ジークが不敵な笑みを浮かべながら言い切る。

 この若さにして、ジークは完成に至っていた。

 彼の努力とそして、ミランダたちの教育の賜物である。


 「面白い。ジークの案に乗ろう。よいか。皆の者」

 「「「はっ。陛下」」」

 「うむ。ではこれより、御三家戦乱を準備しよう!」

 「「「はっ」」」


 ドルフィン。ターク。ダーレーの基礎が出来たのがこの王家会議からである。

 これは後に『ジークの講演』と呼ばれる会議。

 彼の堂々たる振る舞いにより、話し合いが上手くまとまり、当主代理の力を見せつけた会議であるのだ。

 だからこそ、ウィルベルはジークが不気味であるとも思えたのだった。

 彼の話す言葉が全て、子供らしくないからである。


 時代は、貴族らが帝国を荒らし続けてきた時代から、御三家の時代へと変わる。

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