第302話 お披露目
ニバルジェ家は廃家となり、追従していたハルナン家も廃家となった。
ノーシッドを支配するのは一強の豪族『ノルディー家』となる。
アルマート・ノルディー。
商人の家から貴族となった家だ。
戦争後。アルマートは得意の交渉術を披露して、リックズとの和解に成功した。
ノーシッドとリックズの同盟関係を築くに至る。
これでノーシッド側は円滑な都市運営ができることになり、発展していく。
しかもそれに合わせて、リックズ内の豪族とのごたごたも手伝うことになり、両都市の貴族は、より一層の協力関係を結べることになったのだ。
ここは本当にアルマートの交渉が上手いとしか言えなかった。
彼は、ニバルジェでは出来ないことを、やってのけたのだ。
だからミランダが、貴族が素晴らしいとか、豪族が素晴らしいとかの話ではなく、志のある優秀な人物が上に立つべきだと思った事件だった。
そして、その後のミランダは・・・。
「サルトンさん。ほんとにいいの? あたしでも、いいんかいな?」
「ああ。頼む。俺も入れてくれ」
「でもさ。あんたよりもかなりの歳下だぞ」
「いい。俺は信頼する頭の下で働きたい」
「そっか。ならあたしは助かるよ。あんたの知識と経験がこの隊に入るのがデカいわ」
「おう。頑張るからよ」
「サルトンさん、お願いします」
最後に丁寧にサルトンに挨拶をしたミランダは、彼と握手で約束を交わした。
共にウォーカー隊を大きくしようと・・・。
それとミランダの元には、この時に一緒に戦った傭兵たちもウォーカー隊に参加することになった。
ウォーカー隊隊長サルトン。
元騎士のザンカに比べても、二回り近く年上の彼は、四十一歳。
ダンディーおじさんでもある彼が、仲間になったことが大きかった。
ベテランが圧倒的に少ない状況では、隊の要として非常に重要な存在で、気を引き締めるのにも重宝していたのだ。
そしてさらに・・・。
「サブロウたちはどうすんだ」
「おいらたちかぞ」
「ああ。あたしらはさ。ここで一旦、帝都に戻ろうと思うのさ。でもサブロウが来てくれるなら。例の件を発動させてから帰ることにするのさ」
「例の件・・・ああ、あれだぞな・・・んん。そうぞな。お前さんの言う通りぞ。あそこは危険ぞ。テースト山に移住しようぞ。ミラ、もしおいらが仲間になったら、この隊の本拠地にするぞな?」
「ああ。そうだぜ。じゃあ、サブロウは来てくれるのか?」
「そうなるぞな」
「よし。これから頼むぜ。お前は最強の偵察兵だからな」
「うむ・・・ん? なんだかヤバい気がするぞ。偵察兵・・・働き詰めかいぞ?」
「・・・・・」
「おいぞ。ミラ、返事しろぞ」
「・・・・・・」
「返事しろぞ!!!!」
サブロウはこうして仲間になった。
返事をもらえなかったサブロウはここから様々な戦場を調べ上げるスペシャリストへとなる。
◇
ハルナン家とファールス家から根こそぎ奪った金を使って、ミランダとウォーカー隊はサブロウたちの里の引っ越しを手伝い。
テースト山に新たな里を構築した。
里の名はラメンテ。
元々里を経営していたこともあり、サブロウたちの里のメンバーは里づくりが上手かった。
どんどん作られていく居住スペースなどで安心を得ているとあることを思いつく。
「やっぱりな。会わせたいな・・・みんないいか」
幹部に集合してもらうと、ミランダは宣言する。
「一旦、皆に建築類と生活は任せるとして、隊長だけでも当主に顔を見せたい。いいかな」
皆が頷いたが、一人だけ首を振った。
「サルトンさん?」
「俺はいいぜ。お前たちで行きな。俺はお前たちを支える人間でありたいからな。お前たちは当主を支えな。ダーレー家の秘密の軍なんだろ。ウォーカー隊はよ」
「そうですけどね。サルトンさんだって隊長なんだけど・・・」
「いいんだミラ。俺はお前の部下になった。ここがお前らと違う」
「ん?」
「お前らは、ダーレーを支える将になるんだ。でも俺は違う。俺はこのウォーカー隊を支える側の隊長になりたい。俺はミランダの部下になりたいんだよ。だから俺はお前らとは別口にしてくれ」
サルトンはミランダの部下になりたかったのだ。
別にダーレー家の家臣になりたいわけではなかった。
「・・・そういうことですか。でもサルトンさん、あたしなんかの下でいいのか?」
「ああ。大丈夫。お前は不安かもしれないけど、俺はお前の部下がいいんだ。だから留守を任せてくれ。ここを隊の皆と守りながら、発展させておくからよ」
「わかったよ。サルトンさんにここを任せます」
「ああ。いっておいで」
サルトンはウォーカー隊を支えるのに非常に重要な人物であったのだ。
若い子らを見守る父親のような存在で、皆が頼りにする男であった。
◇
そして、一年近くの戦いの日々に彼女は休息を与えたのである。
仲間たちと共にダーレー家に帰って来た。
「ミランダちゃん!」
「あ。シルクさん」
ミランダが帰ってくると、すぐにシルクは駆け寄っていった。
仲間たちもこうして、ミランダの嬉しそうな顔を見れば普通の12歳の少女に見えると、喜んでいた。
だが・・・。
「ぐあっ」
「遅いわよ! 心配したんだからね。駄目駄目。もっと帰って来なきゃ」
微笑ましく抱き合うかと思われたが、シルクの抱きしめる力が強すぎて、ミランダは息が出来なくなっていた。
「く・・苦しい・・・な・・・力が強ええ」
死線を潜り抜けてきた彼女が今まさに死の瀬戸際になっていた・・・。
そして、落ち着いた後。
「ミランダちゃん。この子たちが、お友達なのね。ああ、ザイオンちゃんね。お久しぶりね。また体大きくなったんじゃない」
「はい。おかげさまで」
「うん。元気と健康が一番よ。このまま健康でいてね」
「はい」
声を掛けられると緊張と同時に照れが入る。
彼女がペタペタと体を触っていたからだ。
「それで。こちらは? 女の子ね。あなた、お名前は?」
「エリナ・・・です。お願いします」
緊張して言葉が途切れた。
「あら、この子美人さんね。綺麗だわ」
「え?・・ほ、ほんとですか・・」
「そうよ。綺麗だわ」
「あ、ありがとうございます」
「ミランダちゃんのお友達でいてね」
「はい」
いつも悪態をつくエリナが借りてきた猫のようにおとなしかった。
「この子は・・・立派ね・・・騎士かしら。佇まいがいいわ」
「は、はい。俺は元騎士で。ナーズロー家に仕えていました」
「そうなの。ナーズローって。もしかして、あっちのナーズローね」
「はい。分家です」
「やっぱりね。元騎士なんて、なかなかない事だものね。苦労したのね。あなた、困ったら私の所に来なさいね。あ、でもミランダちゃんの方がいいか。でも本当に困ったら、私を頼りなさいね」
「は、はい。ありがとうございます。シルク様」
ザンカも緊張気味だった。
直立の立ち姿でも、微かに震えていた。
「それで、この子は? ミランダちゃんくらいかな」
「あっし。マールです。ミラとは同じ歳です」
「そう。ええ。じゃあお友達ね」
「え? どうでしょう?」
「お友達じゃないの。駄目よ。お友達になりなさい。いい!」
「は、はい」
「うんうん。ミランダちゃんをお願いね」
「わかりました」
押し切られたマールは頷いた。
「この子たちはずいぶん変わった服装をしてるわね。面白いわ」
「おいらたちの里の服ぞ」
「そうなのね・・・うん。あなたは目がいいわね。ミランダちゃんと同じよ。先を見ている目だわ。気が合いそうね」
「そうなのかぞ?」
「ええ。そうよ。こっちの子は真面目そう。こっちの子は、自由そうね。三人ともいい感じよ。お互いがバランスを取っている子たちだもの。ミランダちゃんをお願いね。無茶ばかりするからね。あなたたちがいれば安心できそうだわ」
「おうぞ。おいらたちに任せてほしいぞ」
サブロウが言うと、シゲマサとマサムネが黙って頷いた。
「ええ。この子たちがミランダちゃんのお友達ね。いい子たちね。ミランダちゃん」
「そうでしょ。あたしの目は間違いないのさ。帝国の貴族共にも負けない。優秀な隊長たちなんだ」
「そうね。でもあなたのその言葉よりも、私はそれ以上の力を感じてるわ。この子たちはエステロやヒストリア。兄さんたちを超える子たちかもしれないわ。うん。私の勘だけどね。あなたたちはきっと何かをしてくれるはずよ。ね!」
シルクは勘と目がよかった。
人を見る目がある。
戦いなんてろくに知らないのに、彼女はザイオンらの中にある潜在能力を感じたのだ。
もっと立派になってもっともっと強くなる。
ミランダと共に・・・。
それが彼女の勘から来る答えだった。
「それでミランダちゃん。皆を紹介しに来てくれたの?」
「うん。いちおうね。またさ。しばらくここを離れないといけないからさ」
「え!? 駄目よ。もう十分人が集まっているじゃない。ここにいなさい」
「無理だよ。あたしらね。里を作るところなんだ」
「里?」
「うん。あたしらの拠点だね。ダーレーの迷惑にならないために、自由に生きる拠点を作っているんだ」
「迷惑だなんて。そんなことないわ。ねえ。ザイオンちゃん」
シルクはザイオンを見上げた。
「はい。でも。俺たちもあなたには迷惑を掛けたくない。俺たちは平民です。それに賊もいますし。俺もスラム出身ですし。よく考えれば、平民以下です。そんな俺たちはあなたのそばには居ない方が良いと思います」
「そんなこと関係ないわ」
シルクは、ミランダのお友達だから大切だと思っていた。
彼らを兵として雇ったって良いと思っているのだ。
「シルクさん。そいつは無理だ。例えばさ。ウインド。ヒストリアの家だったら、こいつらを抱えても文句は出ない。あいつの力で周りをねじ伏せることが出来るからさ。でもダーレーは無理だ。シルクさんじゃ無理なんだ」
「・・・ごめんね。私の力がないばかりに、皆ごめんね」
シルクが一人に一人に謝ると。
「そんなことないです。あたいは、今で十分です」
「俺もです」「あっしも」
エリナに続いて、ザンカもマールも今に満足していた。
里という新たな拠点を手に入れて、身分は仕方ないとしても帰る場所が出来たからだ。
「おいらは別にどっちでもいいぞ」
「おい。サブロウ。そういう所が駄目なんだ」「俺、眠い」
シゲマサだけが真面目だった。
「こういう連中だから大丈夫よ。なあ、ザイオン」
「ああ」
ザイオンはミランダに頷いてから、シルクに顔を向けた。
「そういうことです。シルクさん、俺たちは勝手に生きて、勝手にあなたを守りますよ。そして、その許可をもらいたいです。あなたの家の一員にはなれないけど、あなたの家を守る力になってもいいですか」
「ザイオンちゃん・・・いいの。みんな? こんな情けない家の当主よ。苦しいかもしれないわよ」
シルクが聞くと、皆が晴れやかな表情に変わる。
自分たちはあなたを当主とは呼べないけど、でも当主を守る力にはなれる。
ウォーカー隊は、ダーレーを守る秘密の軍隊なのである。
「そうね。みんなの表情が良いもの・・・私はこれ以上駄々をこねません・・ゴホン」
シルクが咳払いをして、表情を変えた。
凛々しい当主に顔になる。
「では皆さん。命令ではなくお願いです。ダーレーをお願いします。皆さんには次の当主。シルヴィア・ダーレーをお願いしますね。私よりも彼女を、特にお願いしますよ」
「「「はい。おまかせを。シルク様」」」
ウォーカー隊は、こうしてダーレーが生き残るための土台になったのだ。
彼らがいなければ、ダーレー家は存在していなかっただろう。
ということは、彼らの存在は新たな帝国を築いたきっかけとも言える。
皇帝シルヴィアを生み出し。
大元帥フュン・・・。
いや、大陸の英雄フュン・メイダルフィアを、彼らが丁寧に育て上げたのだ。
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