第301話 ウォーカー隊の真骨頂 下

 オラクルは、戻ってきたナルドの話を聞いた。


 「オラクル様。敵が思った以上に強く。撤退しました」

 「はい。そうですか。どの程度失いました」

 「私の中央隊は、三百です」

 「なるほど。損失は大きくとも、生き残りがいますからいいでしょう。右と左は?」

 「ほぼ全滅に近く、合わせて三百が帰ってきました」

 「そうですか。では三千も偵察に行って、帰って来たのは千だと」

 「そうです。申し訳ありません」

 「いえ。いいでしょう。仕方ありません。敵も同じようにあの場所を要所だとしたのでしょう。同じように考えて同じように配置して戦いに負けただけ。しかし兵数はまだこちらが優位なので、このまま押します。敵の部隊がまだ各個に別れていたら、それぞれを撃破するだけ、一つに戻っているなら押し切るだけですね」

 「わかりました」


 オラクルは、臨機応変に戦術を変えた。

 彼の当初の計画では、林の要所を先に抑えて、こちらからじわじわと相手を追い詰める作戦であった。

 抑えるべき三カ所を確保すると、林全体が見えるようになるので、林のどこに敵が移動しようとも大体の位置を把握することが出来るようになるのだ。

 だから先に確保しようと動いたのだが、相手がまさか同じ位置にしかも同数の兵を置いて撃破してくると思わなかった。

 この結果から分かることは二つ。

 相手の地力がある事と相手の将が自分の作戦を読んだことである。

 同数対決で敗れるという事は、相手の一人一人の兵が強いことを意味し。

 同数でぶつけられるという事は、持っている兵のほとんどを三カ所に出撃させたことを意味するので。

 相手の将である小さな女の子のミランダには、自分が取るであろう作戦を読まれていたことが考えられるのだ。

 ということで、オラクルは、作戦を読まれても対処できない数の力での決戦をしようと動き出した。

 三カ所に敵が千ずつ配置されていても、各個撃破すれば良し。

 又は、そこにはもう兵がいなくても、林のどこかには兵がいるので、発見次第で数で押せば良し。

 この二つの対応をしようとしているのである。


 間違いなくオラクルは戦術理解がある男だった。

 ミランダが戦ってきた人物の中で、一番頭を使ってきた人物である。


 ◇


 ザイオンとエリナの前に、シゲマサが影から出てきた。


 「前方から敵が来る。元の位置にまで下がれ。例の作戦を実行するらしいぞ」

 「シゲマサか、わかった。エリナ頼む」

 「おう。下がるぜ。お前ら」


 エリナの指示により確保した要所を捨てて退却する。

 その道中。


 「シゲマサ。お前、他二つは?」

 「やってきた。お前らの位置が一番例の位置に近いから最後に回した」

 「なるほどね。シゲマサ。お前の仕事ぶりは正確だな」

 「そうか。普通じゃないのか」

 「どうだろうな。マサムネだと、順番がテキトーになるんじゃないのか」

 「そうかもな。あいつは自由人だからな」


 シゲマサはきっちりした性格をしている。

 左と右の戦場の方が敵陣に近い位置にあるので、先にそちらに知らせをして、最後に退却のしやすいエリナ部隊に到着したのである。

 ここの正確性が、サブロウの仕事を補完するのに重要であった。


 「あれはさ。成功するのかな。どう思う。ザイオン、シゲマサ」

 「俺はすると思うぞ! ガハハハ」

 「ああ。お前に聞いたあたいが馬鹿だったわ」


 ザイオンは後ろ向きな答えはしない。

 意味の無い質問だったわとエリナが反省した。

 

 「シゲマサは? どう思う?」

 「俺は、五分五分だと思う。それもミラが指揮をすることでその確率だと思う。本来であれば一分もない。一厘かもしれない」

 「そんなに難しいのか。ミラが言っていた奴はよ」

 「たぶん。俺の感覚だとそんな感じがするという事だな。あいつの考えがどの程度であるかが分からないがな。あいつだともっと良い確率なのかもしれないぞ」

 「ふ~ん。そうだな。ミラって何考えてるか分からなねえもんな」


 エリナは両手を頭に乗せた。


 「エリナ。シゲマサ。細かいこと気にすんなよ。ミラを信じればいいだけさ。俺たちは、あいつの指示通りに動けば勝てる。勝てると信じていれば、勝つ方向に行くもんだ!」

 「はいはい。そうですね。お前みたいに楽観的な奴が羨ましいぜ。でも、一理あるな」

 「そうだな。信じない作戦なんてな。不安でしかない」


 二人が同意する。


 「そう! 俺たちが信じた大将の作戦。それを信じなければ、勝ちはない! 俺たちの強みはただ一つ。仲間を信じる傭兵である事だろ。だから他の貴族軍や、傭兵集団よりもさ。強いんだよ。この信じる力。重要だと思わんか」

 「そうだな。ザイオンの癖に良い事言うな」

 「まったくだ。ザイオンの癖にな」

 「なんだと。お前ら! 俺の癖にってなんだ。俺の癖に!」


 ミランダの全てを信頼する。

 それが莫逆の友ザイオンなのだ。

 無茶な作戦を言っても、それは無茶ではない。

 彼女が出来ると思っているのだから、自分らは出来るのである。

 その思考がザイオンの基準である。



 ◇


 シゲマサの報告の良さにより、三部隊がほぼ同時に合流する。


 「お。お前らも戻ってこれたか」

 「ええ。サルトンさんもご無事で」

 

 ザンカが言うと。


 「二人ともどう戦えばいい。あたいは?」

  

 エリナが聞いた。


 「そうだな。俺とザンカが戦うから。エリナの部隊は中間距離で戦ってくれ」

 「そいつはフォローってことだな」

 「そういうことだ。穴が開きそうな場所に増援をする感じでもいい」

 「了解だ。やってみるよ」

 

 傭兵としても強いサルトンは、非常に良い指揮官でもあった。

 彼は傭兵上がりにしては指揮能力が高く、戦場での場数をかなり踏んでいるので、上手く周りとの連携を取ってくれる。

 しかもザンカやエリナたちよりも一回り以上も年上なので、バシバシ軌道修正をしてくれる隊を助ける男だった。


 「ザンカ。お前は横を見ながらって戦えるか」

 「ええ。大丈夫だと思います」

 「わかった。それじゃあ、隊列を維持しながら引いていくぞ。息を合わせてくれ」

 「はい!」


 サルトンを中心に、ノルディー軍は隊列を作った。

 防御を基本として第一陣が相手の攻撃を受け止める気である。



 ◇


 ノルディー軍とニバルジェ軍が衝突した後のオラクル。


 「柔らかいと思ったのですがね」


 オラクルは、自分たちの最初の一撃が、相手の陣に対して入ったのを見た。

 相手の隊列をぐにゃッと曲げるくらいに強烈な一撃で、相手を乱したように思えた。

 しかし柳がしなやかに雪をいなすように、ノルディー軍は次の一撃の時には、態勢が元に戻っていた。


 「おかしい・・・のではなく、これは相手が上手いのでしょうか」

 「オラクル様。相手が少しずつ下がっています。一撃が効いているのでは?」

 「そうかもしれませんが、態勢が崩れていないのですよね。変ですね。罠でしょうか」

 「オラクル様。しかし、罠にしてもですよ」

 「はい。なんでしょう」


 ナルドは淡々と指摘する。


 「あれ以上下がるにしても、奴らの背後は開始線になります。つまり林の外ですよ」

 「そうですね。いいでしょう。私たちの視界も開けたものにしますか。押し込んで、平地で包み込みましょう」

 「わかりました」

 「しかし、ナルド。慎重にですよ。相手が何かを狙ってきているはずです。私の最初の策を破ったのです。単純な敵ではないはずです」

 「わかりました。オラクル様」 


 ここから、オラクルの指示通り。

 ニバルジェ軍は相手を林の外へと追い出していった。

 すると最初の開始線にある本陣が見えた。


 「あれは? 人がいますか」

 「そうみたいです。千は待機していたみたいですね」

 「・・・四千の兵の内。千を本当の本陣に置いて置く? 何の意味が?」


 オラクルは追撃のような進軍を続行しながら考えた。

 意味のある要所の戦い。

 それは、千対千の三カ所の戦い。

 つまり、ノルディー軍がここに千を置いているなら、その戦いで三千を使い切る形になる。

 自分の考えを読んでおいて、そんな馬鹿な策略を相手がするわけがない。

 オラクルは追撃の手を止めさせた。

 進軍が止まる。


 「双眼鏡ありますか」

 「え? いや、さすがに私ではなく、偵察兵が」

 「急いで!」

 「は、はい。双眼鏡を持ってこい。オラクル様に渡しなさい」

 

 オラクルは部下に急がせた。

 双眼鏡がこちらに来るとすぐに敵陣を見つめる。


 「かかしかと思ったら人ですね・・・しかし」


 オラクルはよく人を観察した。


 「あれは・・・まさか・・酒場のマスター?・・・それにあれも・・・コイン商会の方々!? まさか。それではあの千は、ただの武装した一般人!? では、本物の兵士千はどこに?」


 オラクルは鋭い思考を持っていた。

 だから相手のしたい事を理解したのだが、それは時すでに遅し。

 背後から声が響く。


 ◇


 「サブロウ。シゲマサ。マサムネ。三カ所に穴を開けろ。いいな。奇襲がこの戦争の勝負所じゃい」

 「「「おう!」」」


 影の三人が、部隊を引き連れて、三カ所に同時攻撃をする。

 それは敵の後方真ん中と、後方右翼。後方左翼。

 ここに大きな穴を開けるためにナイフ投射攪乱攻撃を実行した。

 三カ所で一気に五人ずつが倒されることで敵は、防御の構えを上手く取れなかった。

 それに前方に意識が集中していたので、背後の防御は疎かになっていた。


 「開いた!! いけ。ノルディー軍。あの穴に突っ込め」

 「おおおおおおおおお」


 影部隊の奇襲攻撃の直後に、ノルディー軍を突進させる。

 相手の陣の中に人が入り込んでいく。


 「おっしゃ。そしたらあたしはこいつだ!」


 ミランダは矢じりにオレンジのハンカチを巻きつけた矢を放つ。

 その矢は、ザンカたちの所まで届いた。


 「来た! 押せ! 全軍で前方の軍に体当たりだ!」


 ザンカの指示に従ったのは、三千の兵たち。

 後ろに下がり続けていた彼らがここで反転して攻勢に踊り出た。


 四千の兵が、六千以上の敵兵に対して攻撃を仕掛ける。

 しかもその攻撃は入り乱れており、中に入り込んでいた。

 その戦法はオラクルでも想像が出来ない戦い方。

 

 「これがあたし流。究極の乱戦。『混沌』だ! さあ、渦に飲まれろ。ニバルジェ軍。ここからは純粋な兵士同士の戦い。一対一の戦いになるんだぜ。地力が強い方が勝つ! あたしも混ぜろ!」


 最後方にいたミランダもぐちゃぐちゃになった戦場の中に入り込んだ。


 これがミランダが初めて使った戦法。

 彼女の代名詞となっている混沌である。

 敵も味方も濁流の中に飲み込まれることで、名付けられた戦法だ。

 扱える者は、当時ではミランダのみ。

 現在では弟子のシルヴィアとフュン。それとクリスだけが扱える。

 味方を信じて、賭けに勝つ覚悟がある者しか扱えない戦法である。


 オラクルは冷静な将だった。

 今まで、ニバルジェ軍が勝ってきたのは、その堅実な戦い方によって連勝を重ねてきたからである。

 格上や同格には、大きく負けることもなく、格下には確実な勝利を重ねてきた。

 だからニバルジェ家は安泰でもあった。

 だが、今回。

 明らかな格下相手。

 ノルディー軍の数が半分以下で傭兵が指揮を取る状態。

 馬鹿にしていたわけではないが、心のどこかには慢心があったかもしれない。

 なにせ、大将だと名乗って来たのは少女だった。

 勝てると踏んだ。

 だから強気の交渉を受け入れて、こちら側も強い条件を出したのだ・・・。

 

 しかし今の現状は・・


 「な。なんだこれは。人が・・隊列が・・・ぐちゃぐちゃだ・・・私の所にも敵が!?」


 地力の勝負。生か死か。そんな狭間の勝負を今までオラクルとその直近の兵はしたことがない。

 本陣勝負など起きる前に戦いなんて終わっていたからだ。

 でも今は違う。

 すでにオラクルの目の前には敵が迫っていた。

 そして、オレンジの閃光も近づいて来る。


 「あれは。なんだ。化け物ではないか。戦えない女の子じゃないのか。大将自らが本陣急襲だと!?」

 「オラクル様、お下がりを。私が」

 「ナルド。いかん。それに触れたら・・・」


 オラクルの制止を振り切って、ナルドはオレンジの閃光の元へと向かった。



 ◇


 敵味方が入り乱れる中で、迷いなく敵を切り裂いているオレンジの閃光が叫ぶ。


 「おりゃあああああああ。サブロウ。シゲマサ。マサムネ」

 「「「おう」」」


 ミランダの特攻の場所まで合流してきた三人。

 返事をしながらもナイフを構えて彼女の後ろを走る。 

 

 「あれの裏にいるオラクルを斬る。その際の周りを頼んだ」

 「ミラ了解ぞ。シゲマサ。マサムネ。おいらはあれをやるから。お前らがミラの援護ぞ」 

 「おう」「まかせとけ」

 

 ミランダの行く手を遮るようにして現れたナルドに対して、サブロウが近づく。


 「大将は邪魔させんぞ。ほいぞ!」

 

 相手の一刀両断の攻撃をダガーで逸らす。

 サブロウが初撃を受け流した。


 「貴様。邪魔をするな」

 「いや、だから、さっき言ったぞ。邪魔させんぞって!!」


 サブロウが相手を受け持ってくれたことで、ミランダが先へと進む。

 脇をすり抜けた。


 「ま、待て。貴様。オラクル様の所に行かせるか」


 ナルドはオレンジの閃光の方を目で追いかけてしまった。

 対戦相手であったサブロウを置いて振り向いた。


 「こっちも行かせんぞ。つうか。おいらに背を向けたらあんた・・・悪い。すまんぞ」

  

 サブロウは姿を消し、背後に飛び乗って首を一刺し。


 「ぐあっ!? ごはっ」

 「戦場で敵に背を向ける。しかもおいら相手に背を向けるのは自殺行為ぞ。あんた!」

 「・・こ、子供じゃないか・・・こんなやつに・・・」

 「おいらはまだ子供だけど、影の力はもうジジを越えているぞ」


 倒れているナルドを見つめてサブロウは自分の強さを再確認した。

 影の世界で一番でも、外の世界でも強いのかは分からない。

 腕を磨くきっかけにもなった戦いであった。


 ミランダが走り抜けようとすると左右からオラクルの近衛兵たちが迫って来た。


 「ミラ! 行け。周りは無視しろ」「めんどいが任せろ」

 「了解なのさ。まかせたぜ。シゲマサ。マサムネ」

 

 ミランダを先に行かせるためにマサムネが走り抜ける。


 「乱闘乱射。ほい! ほほいほい!」

 

 その場で踊っているかのように、マサムネがいる所からあらゆる方向にナイフが飛ぶ。

 方向も数も何もかもが乱れているのに、敵に刺さっている場所が全く同じ場所。

 首である。

 寸分違わずに頸動脈にナイフが刺さっているのだ。

 

 「マサムネよくやったぜ」

 「まあな。あと頼んだ。俺、十分働いたからさ」

 「ああ。まかせとけ」

 

 笑うシゲマサは、マサムネのこういう所を好いている。

 無駄には動かないけど、仕事だけはこなす。

 趣味の探検の時だけ無駄に動く男。

 いつかは大陸一周するというのが夢らしい。

 そんなの影になれば余裕だろうと思うが、シゲマサはツッコミを入れずに応援だけしている。


 「よし。走れ。走れ。俺! ミラを大将の元へだ」


 ミランダに迫りくる敵に対して、シゲマサは小刀で対抗する。

 相手の腕を切り、ミランダに触れさせない。

 相手の足を切り、ミランダに追いつかせない。

 近接最速の攻撃を繰り出すのがシゲマサである。

 迫って来ていた敵十人を倒してシゲマサは叫ぶ。


 「いけ。ミラ。終わりにしてくれよ」


 ◇


 入り乱れる戦場の中で、大将同士が一騎打ちになる。

 オレンジの少女は、敵の大将に辿り着いたのだ。


 「あんたで終わりだ。オラクル」

 「その千の兵はどこにいましたか。林の中を隠れさせるのは不可能ですよね。三カ所。私はあそこに兵を配置しようとしていたのです。残りの千の兵なんてどこにも隠せない」

 「そのとおりだ。あんたは素晴らしい将だったからな。あたしが移動させた三千の兵の待ち伏せ攻撃を受け流したからな。あんたがいかに良き将かを理解していた」

 「そうでしょう。だったらどこに隠したのですか」

 

 ミランダとオラクルの言い合いは答え合わせだった。


 「あたしは、最初からここに、戦場を設定しただけだ」

 「ん?」 

 「開始位置は、林から700メートル先の場所。それだけが指定ポイントだ」

 「そうです。ですから林が戦場でありましょうに。どこに隠れられるのですか」

 「戦場は、林。あたしは断定したか?」

 「はい?」

 「開始位置が林から700メートル先だとは言った。でも戦場がここ限定とは言ってねえ」

 「・・・まさか。その伏兵たちは・・・」

 「おうよ。この人たちはあんたらの意識が三カ所に行く頃には、林沿いを移動してぐるりと回ってあんたらの開始した時の林に入ったのよ。隠れたんじゃない。移動したのさ。あたしらが戦っている間にマラソンしてたのよ」

 「なんと・・・卑怯な」

 「卑怯? いや、あんた。頭が固いんだよ。でもそれは前回あった時に気付いたことだからな。あんたは真面目で真っ直ぐだ。礼儀も正しい。戦略も戦術も。貴族の周りにいる奴にしてはしっかりしている。だから、あんたはオーソドックスな手を使うと思ったのさ」

 「貴様。私を評価しただと。子供の癖に」

 「ああ。そうさ。あんたの評価は良だぞ。秀や優じゃねえ」


 しかしこれでもオラクルの事をかなりの優秀な部類に入れている。

 秀はウインド騎士団。優が自分。優と良の間が自分の仲間たち。

 これを思えば、相手の評価が高かった。

 その上に相手の兵数が倍以上。ミランダは最初から自分が苦戦することを予測していた。

 

 「なんだと! 私を馬鹿に・・・」

 「馬鹿にはしてねえ! いいか。貴族共は基本! 不可とそれ以下ばかりの評価も出来ねえ屑ばかりだ。あんたは貴族の中にいる兵士の中で初の良だ。だから優秀の方だぜ。この帝国じゃ、あんたは優秀な部類なんだぜ」

 「なんだと。うるさい。貴様ぁ」


 人に馬鹿にされることに慣れていない。

 だから逆上してミランダに襲い掛かって来た。


 「そうか。あんた。これくらいで怒るタイプだったか。それは想定外だぜ」

 

 オラクルは最後まで冷静である人間かと思っていたミランダは水平に刀を持ち、走り出す。


 「怒りは手元を狂わせる。それと思考を鈍らせる。だってよ。エステロが言っていたけどさ!」


 ミランダは相手の攻撃を躱していく。


 「でもよ。ヒストリアは怒ってばっかだぞ! なんで強えんだよ! ありえねだろ。エステロの教えが間違ってんのか!」

 

 四撃目でバランスを崩したオラクルを見逃さない。

 ミランダは全身の力で疾風を振り抜いた。

 

 「いや違うな! あいつがただの化け物なだけなんだよな。クソっ。人になっちゃ、あいつにはなれねえんだな。でもいいや、あいつは化け物。あたしはあたしだ。ほんじゃこれで終わりだ。一刀両断だ!」


 ウォーカー隊の名が轟くことになる。

 『ニバルジェ・ノルディー宣言戦争』

 ミランダ・ウォーカーが率いたノルディー軍。

 それを指揮したのはミランダである。

 本来はノルディー軍の正規軍が指揮を取るはずだが、この戦いでは、ウォーカー隊のミランダが指揮を取り、ウォーカー隊の各隊長は部隊長となっていた。

 この結果で、彼らの力を帝国に誇示する形となり、各部隊長たちは名が知られるきっかけの一つとなった。

 ミランダも大将同士の一騎打ちを経験して、勝負としても素晴らしい戦果をあげた。

 これで、全てにおいてノルディー軍が勝利となる。

 内外の貴族たちが、この結果に文句を言えることがなくなり、ノルディーの昇格が受け入れられる結果となった。

 なので。勝利からの勝者特権で。


 ノルディー家は豪族から貴族へと昇格したのであった。

 これでノーシッドは新たな考えの元で、動き出せるようになった。

 ここからは新たな領主が頑張らないといけない。

 大きな方向転換をするためには・・・。

 




―――あとがき―――


ここまででウォーカー隊の主要メンバーの物語が終了します。

この物語の部分で、改めて彼らの性格が分かったと思います。

次からは、歴史行動を基準にしますので、物語的にはトントントンと進んでいくと思います。

それでも足りない主要メンバーの話も少し混ざります。

彼とか彼女とか、名前を挙げるとまだまだ必要メンバーがいますからね。


それと、こちらの小説の最初の方にある年表通りに話が進むとは思いますが、所々書いてある部分と真実がズレている部分があります。

歴史としては、こちらの物語の方が正しいです。

その理由は年表は公表されている部分であって、真実はこちらで隠されている結果となっているからです。

まあ、ここは小説を読んで頂ければ、納得してくれるかと思いますので。

次回からよろしくお願いします。


ミランダの物語は、ここからです。

フュンが知るダーレー家を作り上げるまで、彼女は激動の時代を駆け抜けます。

今まで知られていなかった彼女が持つ苦悩と決意を見て頂けると嬉しいです。

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