第2話 サナリアの真価が、帝国の進化に繋がる
帝国歴526年9月11日。
サナリアのローズフィアにて。
フュンが大切な彼らを迎え入れる。
都市の入り口に、里ラメンテの仲間たちが集まってくれたのだ。
「皆さん。良いんですか? 本当にいいんですよね?」
心配そうな彼の声に対して、全員が力強く頷いた。
「・・・そうですか。僕は嬉しいんですけどね。皆さんはあちらに愛着があるのかと思ってましてね。強引にこちらにお連れしたような形は嫌でしてね」
「いいんだよ。フュン。気にすんな。あたいらは、元はよ。里なんか作ってなくてな。自由に生きてきた連中だからよ」
「そうですか。わかりました」
里の引率者はエリナ。
彼女は、大切にして持ってきた、とある物をフュンに見せる。
「ああ。そんでさ。フュン。これを持ってきたんだよ。こっちにも建てる場所ってあるかい?」
エリナが持ってきたのは、ザイオンとシゲマサのお墓にあったもので、里ラメンテでは、二人の愛用の武具をお墓にお供えしていた。
「ええ、もちろんあります。お墓は、ここから北西の位置にあります。あとで案内しますからね。でもエリナ。ザイオンやシゲマサさんは、僕の故郷に来てもいいんでしょうかね。帝都やラメンテの方が良かったりしませんか?」
「いや、ここがいいと思うんだ。こいつらよ。お前に賭けてたからな。少しでもお前の心に近い場所にいた方がいいんじゃないか」
「・・・そうですかね。ええ。そうだと嬉しいですね。お二人のおかげで僕は生きていますからね。ありがとうございます」
「ふっ。ああ。そうだな。お前はそういう男だもんな」
フュンが二人の為に拝むと、エリナはその真剣な様子を見て微笑んだ。
偉くなろうが、どんなに身なりが良くなろうが、フュンはフュンのままだった。
「えっと。エリナ。ここで皆さんには受け取ってもらいたいものがあります」
「受け取る。なにを?」
「はい。住民証明書ですね。サナリアの民として生きてもらうための証明書です。皆さんは、帝国人となっていますが、ここではサナリアの民としての自覚を得てもらいたいのですよ」
「お前・・さてはそれ・・・前から用意していたな。元々、あたいらを受けいれる気だったな。この人数だぞ。すぐに用意できるわけねえ」
万を超える人の数の分だけ紙を用意するのだけでも大変。
その作業だけでも並大抵のことじゃないし、時間もかかる。
エリナは、用意が良すぎるフュンを疑った。
「あ、バレました!? ハハハ。そうなんですよ。皆さんにはこちらに来てもらえないかなって、四、五年前から考えてましたね」
「ふっ・・・シゲマサとザイオン。あいつらの考え通りってことかよ・・・あたいらの希望か・・・」
結局、自分たちのような人間に希望をもたらす男は、フュンのような人間だった。
ミランダでもお嬢でもなく、この優しいだけが取り柄だった男が、自分たちを変えてくれたのだ。
「そんじゃ、一人一人がそれをもらえばいいんだな」
「はい。それで簡易の家もありますので、皆さんをそちらに。半分くらいはハスラに行きましたでしょ。たぶんこちらに来た方々は全員入居できますから」
「そうか。それは助かる。それにあっちには、兵士クラスの奴らの半分以上行ったぜ。戦い慣れしている奴らはあっちのほうがいいんだよ。でも、こっちの仕事に就きたい奴はこっちにきた。たしか、やることは道路工事だったよな?」
「そうです。一大事業です。かなりの大役となりますね。帝国を大発展させるためには必要な事です」
「わかった。そこは任せとけ。あたいが調整しておくわ」
「ありがとうございます」
「ああ。でも戦争の時は、あたいはそっちに行かしてくれよ」
「もちろんです。エリナの力は重要ですよ。頼りにしてます」
「ふっ。あたぼうよ。戦争もあたいにまかせろよ」
「ええ。その時になったらお願いしますね」
エリナはにっこり笑ってサナリアに足を踏み入れた。
里ラメンテはこの日、解体となった。
兵士たちの四分の三以上の一万八千が、ハスラの兵になり。
残りの二千とフュン親衛隊と里に暮らす人間たちが、フュンのサナリアに加入することになった。
市民権を得た賊共は、サナリアの民として生きることになった。
ようやく、シゲマサが言っていたことが実現したのである。
賊にだって、日のあたる道を歩いても良くなったのだ。
◇
そこから一週間後。
関所に来ていたのがフュンとパースである。
サナリア平原からここまでの道路は完成済み。
しかしここから先の道路はこれからである。
マールダ平原を横切る。巨大な道路を作成しようとしている。
「パース」
「はい」
「あなたにはこれから大役を任せたい」
「俺が。大役ですか」
「ええ。運輸運搬の交通大臣になってもらいたい」
「え? 大臣???」
「そうです。サナリアで育てた馬を使用した巨大事業をやってもらいたい」
「お、俺が!?」
「そうですよ。えっとですね」
フュンは関所の壁を触りながら答えた。
「この関所はもう用済みです。僕らは二度と帝国を裏切ることはない。完全な帝国の一部となったのです。凄いですよね。この間まで、反乱した国だったのに・・・・だから、ここを解体します」
フュンの苦労は報われた。
弟がしでかしてしまった事の汚名は、帝国人の記憶にほとんどない。
彼は自分の功績で、サナリアを帝国の一部だと認めさせたのだ。
帝国の人々の認識を塗り替えることが出来たのだ。
「そしてですね。パース。馬は一日中人を乗せて走れません」
「もちろんそうです」
「でも、サナリアの馬ならだいぶ乗せてあげられます。大体四時間くらいはいけますよね」
「そうですね。鍛えたし、強い馬を配合しましたからね」
「ええ。だから、この四時間全速力で走れる馬の走行距離感覚の所に厩舎を置きます」
「え!? 厩舎???」
フュンは道路になるだろう位置に指を指した。
「はい。ここを全力で走り、脇で休ませる。馬を変えて、また全力で走り、休ませる。この繰り返しをして最速で都市間を移動させます。これと似たような事を帝国は、各村々でやってきてましたが、ここでは道路上でやることにきめました。たとえば、こちらの道路の脇に、立派な馬小屋と宿を建築するのです。そこに常駐した厩務員が世話をする形です。リレー方式での交通網を築きます。これを運輸運搬の基礎にします。そうなればサナリアから帝都までかなりの速度を出せるはずです。人が眠らなければ三日もかからないかもしれませんね」
フュンの次の計画は、高速移動計画だった。
「そ、それはそうですが・・・俺がやるんですか? そんな凄い事業を」
「ええ。あなたしかいないと思います。馬を育てるのが上手く、人に技を教えるのも上手ですからね。帝国中から人を集めて、馬の扱いのプロを育てます。これで各都市も連携をしやすくするんです。この事業。かなり重要です。あなたに任せたい。一、二年の間に馬を育てる分野だけでも完璧にして、そこから数年でその移動方式を作りましょう。よいでしょうか」
「・・・お・・俺が・・・」
「ええ。頼りにしてます。パース」
「わ、わかりました。やります。フュン様」
主に頼りにされるのなら、やってみたい。
信じてくれたのだから、出来る所を見てほしい。
それが、フュンの仲間たちの思いである。
サナリア人であれば、誰もが思う光栄なことでもある。
「それじゃあ、あとで、ジャンダと連携しましょう。それにあと、シレンとユリアナにも協力をもらいましょう。あの二人を紹介しますから、パースもそこの連携に組み込みます。お願いしますね」
「はい。お任せを」
フュンの計画は少しずつ進んでいる。
サナリアを帝国でもトップクラスの都市にした事が、ここに来て重要となっていた。
ここから帝都と強く結びつき、そしてこれから作られる新都市とも連携することになるサナリアは、両都市を結び付けるのに非常に重要な役割を果たすことになる。
サナリアの得意分野である馬。それに母とフュンが研究してきた薬学。
これらにより、帝国の医療と運搬を発展させるのであった。
かつてあった小さな国は、大陸を照らす都市となる。
国からただの都市になり下がったようにも映ったかもしれないが、王子が生み出した利益は、あの当時の国の規模では考えられないものである。
偉大なフュン・メイダルフィアの力によって、サナリアは帝国でも唯一無二の都市となったのだ。
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