第三部 小さな国の人質王子は大陸の英雄になる  第一章 親子と師弟

第1話 人質王子は、新たな帝国の柱となる

 帝国歴526年6月1日。

 ガルナズン帝国の玉座の間にて。


 玉座には帝国の主シルヴィアが座っていなかった。

 この場に主たる彼女がいなくとも、帝国は今日も安定している。

 それは、大元帥がいるからだ。

 彼女が座るはずの席の隣に立って、挨拶をするところである。


 彼の前にいる各部門の長たちは、玉座の近くの前列に整列しており、各部門に所属している者が彼らの背後で待機する形だ。

 大元帥からの一言で会議が始まる。

 以前とは比べ物にならない地位に到達しているフュンなのに、話す仕草も声の出し方も普通の青年のようだった。


 「では皆さん。陛下は出産準備のためにサナリアにいますのでね。僕がこの場を回します。よろしいでしょうか」

 「「おめでとうございます。大元帥」」

 「あ!? いやいや。わざわざありがとうございますね」


 皆からの突然の祝福に戸惑いながらも、笑顔で答えた。

 

 現在フュンたち夫婦の間に第二子が生まれる所であった。

 出産の準備は順調に進んでいて、来月が予定日となる。


 「それでは、報告をお願いします。軍務のお二人。計画はどうなっていますかね」

 「はっ。報告をします。大元帥殿」

 「いや・・・スクナロ様・・・さすがに、その僕に対してそれは・・・」

 「まあ。ここだけは我慢してくれ。俺の本心だって、お前が義兄弟だと思っていてもだ。ここは義弟が立場が上なのだからな。我慢してくれ」

 「は、はい。お願いします」

 

 左将軍スクナロが報告する。


 「大元帥の計画通り。現在の帝国左軍は、防衛を基準とする行動を取って、訓練をしている。左軍の内訳は、ハルク。フラム。アイス。デュランダルの四大将が配備され。タイム。リアリス。サナ。リースレット。シュガ。マルスの六将。それに加え、申し訳ないが私の娘リエスタを配置。これで準備を推し進めている所で。特に四大将には自由を与えていて、いつでも中央の新都市に派遣できるような態勢を整えている次第です」


 帝国の軍部の位は、この順番で上位となる。

 皇帝――シルヴィア

 大元帥―フュン

 参謀――クリス

 軍師――ミランダ 

 左将軍―スクナロ

 右将軍―ジーク

 

 ここまでが上層部。参謀と軍師と左右将軍は同じ位で元帥となっている。

 そして、ここからが現場。


 大将――ハルク。フラム。アイス。ヒザルス。ミシェル。ザンカ。デュランダル。ゼファー。

 同列で偵察隊長 ナシュア。サブロウ。

 同列で護衛長  レヴィ。ジュリアン。


 中将――タイム。シュガ。リアリス。エリナ。マルス。ヴァン。リエスタ。

 同列で偵察実行部隊の長 カゲロイ。マサムネ。フィックス。

 同列で辺境伯の部隊を取り仕切る者  シガー。フィアーナ。アステル。


 少将――サナ。リースレット。ララ。マルン。等々。

 同列で予備兵の管理人 ピカナ。ライノン。

 同列で皇帝と大元帥の護衛。 太陽の戦士たちと皇帝のドラウド。

 

 ここまでが会議に参加する者たちで、ここから下が隊長と一般兵となっている。

 帝国はより一層の実力主義に変わったので、一般人でも出世する仕組みになった。

 身分や立場などが関係ないことになったのだ。

 なにせ、デュランダルとリースレットは一般人で、ザンカやエリナなどは元賊出身が多いウォーカー隊からの出世である。

 身分すらも超えた人事を決行するので、下の者たちのやる気は上がっている。

 以前のような貴族が中心の国ではなくなった。

 特にストレイル家のような権力をかざすタイプの者たちが消えた事で、全体の士気も上がっている。


 「よろしい。では右将軍お願いします」

 「はい。大元帥」

 

 ジークが大袈裟に動き出して、フュンの顔を眺めた。

 おちょくられていることが分かっているフュンは、黙って睨んでいた。

 それを嬉しそうに見るジークは話を続ける。

 

 「こちらはハスラを中心に様々な態勢を整えている所です。右軍の内訳は、私。ザンカ。ゼファー。ミシェル。ヒザルスの四大将と、ヴァン。ララ。エリナの三将です」

 「わかりました。ジーク様。そちらの将が少ないですか。補充した方がいいですかね。どうでしょう?」

 「大元帥」


 ジークが説教をするかのような言い方をした。

 

 「なんでしょう?」

 「様はいりませんぞ!」

 「え?」

 「駄目ですぞ。あなた様は大元帥様ですぞ」


 ニヤニヤしながら話すジークは、明らかにからかっている。

 

 「んんん。ジーク様!!」

 「ダメダメ。はい。やり直しですぞ。大元帥」

 「・・・はぁ。わかりました。ジーク! 将が足りないですか?」


 ちょっと投げやりの言い方でもある。


 「そうですね。少ないと言えば少ないですな。しかし補充の予定があるとの話では?」

 「ええ。そこに一人入ります・・・ですがもう少し少将あたりはいた方がいいでしょう」


 フュンの予定ではシャーロットがそこに加わる予定である。

 しかし、わざとこの事を話すことで、結果はこうなる。


 「皆の者。なので、ここからは頑張れば出世できることを下の者たちに伝えてください。将になろうと努力すれば、誰もがなれるのだと、各地にお触れを出しておいてください。努力次第で全てが決まるのが帝国だとするのです。よろしいですかな」

 「「「はっ。大元帥」」」


 会話していた左右将軍以外の全員が返事を返した。


 ◇


 「続きまして、内政に行きましょう。では。報告をお願いしたい。クリス」

 「はい。大宰相」


 表情が無いように見えて、クリスの目が笑っていたので、半分くらいはからかう気持ちがあるらしい。


 「・・・あれ、あなたもからかってますね。まったく」

 「仕方ありませんよ。フュン様が嫌そうなのが面白くて……まあ、あなた様がこの国で全てにおいてナンバー2なのですから、我慢してくださいね」

 「は~い。いいでしょう。ではクリス、続きを」


 内政はこのようになっている。

 皇帝――シルヴィア。

 大宰相―フュン。

 宰相――クリス。

 筆頭――リナ。

  

 この四人が上位で、クリスとリナはほぼ同格。

 この下に。


 開発研究――アン。

 経済――――サティ。

 土木建築――ジャンダ。

 内務――――シレン(裏にヌロがレイエフとして配置されている)

 外交――――リナ(補佐としてベルナ)

 情報――――リナ(補佐としてマルクスが入り、実質の長)

 総務――――ユリアナ(裏にヌロがレイエフとして配置されている)

 

 このような形で万全な状態である。

 内政面も強化された帝国となった。


 「順次、計画は進んでいます。各方面も問題がありませんが、リナ様。アン様。サティ様の三人で計画をしている例の場所は、私からよりも彼女たちからの方がよろしいのでは?」

 「そうですね。では、リナ様、アン様。サティ様。お願いします」


 三人が前に出てきた。

 最初はリナからだ。


 「では、私から。リーガからの引っ越し準備は来年予定です。民の半分を移動させます。表面上の予定は順調であります。報告は以上で。建築。経済の予定は二人から報告させます」


 次に出てきたのはアン。


 「ボクの方はね。ジャンダと一緒に仕事をしてるよ。早速だけど、サナリアの建築士。ボクらの建築士。他の都市の建築士たちを集めてね。全土の建築士たちの力で、作っているんだ。土台と壁の設定はしてあって、範囲は大きく取っているよ。後に帝都と呼んでもいいように作るから安心してね。じゃあ、ボク終わり」


 アンの次はサティ。


 「はい。私はリーガの経済のチェックをしています。それであそこは変わらずです。移行するにも慎重にやるので、経済が落ちないようにしていきます。それと、今は帝国全体の勢いがあります。戦後復興の影響もあるかもしれませんが、今の帝国の一体感は、経済においても好影響をもたらしていると思います・・・そこで、提案したいのですが、大宰相。よろしいでしょうか」


 サティは、報告からの提案に切り替えてきた。フュンに承諾を求める。

 

 「はい。いいですよ。どうぞ」

 「では、経済を上げるために、もう一つ手がありましてね。それにこれを行うと、おそらくフュン様の計画に沿うものかと思います」

 「ん? それは何でしょうか」

 「ここは、もう道路を通してしまいしょう。サナリアのローズフィア。帝都。新たな都市。この三点を結ぶ道路。サナリア平原からマールダ平原を大横断する道路の構築をしてしまうのです。これにて、物流と兵士の移動を助けます。これがフュン様の考える軍の大移動も兼ねているのではないかと思います。私の勝手な考えですけどね」

 「・・・流石ですね。サティ様。僕がその事をお伝えしていないのに、僕の考えをそこまで理解しているとは・・・流石だ」


 フュンはサティの考えを褒めた。

 彼女の考えが自分と完全一致していたのだ。

 それは、この三つの都市を繋げることで真ん中に出来る新都市への援軍を高速で行なうことが出来るとする計画だ。

 サナリアから帝都。帝都から新都市。移動時間にして二週間は超えるだろう。

 十分な休息が必須となってしまうから進軍がおそくなってしまう。

 だから、体力管理を行うためにもしっかりした道路さえ出来上がれば、楽に移動できるのだ。

 兵の体力管理や移動速度管理も簡単になるという寸法だ。


 「ええ。それでその道路については、ジャンダの建築部隊に任せるといいでしょう。彼は道路作成のプロですので、しっかりした道路が出来上がる事でしょう」

 「そうですね。サナリアでもやりましたからね。ジャンダ!」

 「はっ。フュン様」


 幹部の中でも後ろの方にいた彼が前に出て頭を下げる。

 フュンへの礼節を忘れていなかった。


 「ええ。ジャンダ。どうでしょう。新都市以外にも着手出来そうですかね」

 「お任せを。道路の運搬事業を手伝ってもらえれば作っていけるかと」

 「作成時の物資の運搬作業ですね。そうですね。ここはやはり、あの計画をしないと・・・いけませんね」

 

 フュンにはもう一つ計画があった。

 考えていることを一度にやろうとすると皆が混乱すると思い、いくつかの計画は黙っていることが多い。


 「ミラ先生」

 「あ? おい。フュン。じゃないや。大元帥。ここであたしを先生って呼ぶなよ」

 「あ。すみません。軍師ミランダ。ラメンテに権利を与えてもいいですか。例のを発動させたいです」

 「ああ。あれか。いいぜ。了承した奴だけ移動させよう。サナリアへ移住だな」

 「はい。そして、半分以上の方には、道路作成の方にいってもらいたい。どうでしょう。お仕事と市民権の同時確保です」

 「いいぜ。あいつらもようやく認められるってわけか」 

 「そうです。もう賊ではありません。立派な帝国人です」


 ラメンテの里の人間たちは、かつては賊、又は市民から外れた無法者どもである。

 だから戸籍がない人間が多い。

 ミランダは元貴族だから帝国人として認められているし、エリナやザイオンなどは表向き上、彼女の将となっているので、仮にだが帝国人として認められている。

 だが、他の仲間たちは戸籍がなく、違法であるけどラメンテに住んでいるのを、皇帝に黙認されている状態だった。

 エイナルフの権限だけでは、彼らの市民権をあげる事が出来なかったが、御三家のダーレーの力を介して、彼らは仮で認められている状態であったのだ。


 そこで今、フュンは自分の力を最大限使って、彼らを人へと昇格させた。

 戸籍があるとはそういう事である。


 「では、ラメンテの里の人たちと協力します。そうですね。僕の親衛隊がその事業をお手伝いします。ジャンダ。彼らに指導をお願いします!」

 「はっ。大宰相。お任せを」

 「ええ。あなたにお願いしますね。頼りにしますよ」


 フュンは優しく微笑んで命令をしたのであった。


 彼は最後に自分流の挨拶で締めくくる。


 「それでは、皆さん。新たな帝国は順調であります。しかしこれは、僕の力ではありませんよ。皆さんの力が素晴らしいのです。ですからこれからも皆さんで、一緒になって頑張っていきましょう! 帝国をより強く、より逞しく、より素晴らしいものに。皆で精進していきましょうね! では、解散です。ご苦労様でした」

 「「「「はっ。大元帥」」」」


 ガルナズン帝国は、フュンを中心にして順調に進んでいくことになる。




―――あとがき―――


新たに始まった気持ちで一話に戻しています。


第三部は、真なる帝国が、戦うための力を蓄える事から始まっています。

第一章はまだ序章の部分なので、ゆったり話が進みます。

メインテーマはフュンの家族と、これからの帝国についてですね。


そこが終わり始めると、怒涛の展開となっていきます。

今までの戦いは、この時の為。

その準備であった。

そう呼んでもおかしくないほどの苛烈な戦いが続きます。

英雄たちが集結する戦争は、アーリア大陸を更なるステージに連れていきます。



フュンとネアル。


大陸が生み出した二人の英雄の決戦。

二大国英雄戦争の開幕を楽しみにしてください。



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