第268話 大元帥の帝国強化宣言

 帝国歴525年9月11日。


 帝都城、玉座の間にて。

 

 いつもと同じはずの風景。

 なのに、前とは別な場所かと思えてしまうほどに、帝国の顔ぶれが一変した。

 集結した人間たちの表情にも変化があり、とにかく明るい。

 緊張感がある現場でも、今までのような重苦しい雰囲気がなく。

 これから帝国が変わることが確実であると、彼らにはもうすでに分かっているからこその良き精神状態だった。

 王国にいる英雄ネアル、それに対して、唯一対抗できる存在。

 帝国から誕生した英雄フュンが、ついにその才気に相応しい役職に就けたことで、この帝国が希望に満ち溢れている。

 皆がワクワクするような雰囲気が生まれているのだ。


 ここからの帝国には、『御三家の兵、御三家の領土』『皇帝直轄』などという区分の言葉が消えて、全ての領土と人材が皇帝の元に集まり、帝国の領土、帝国の兵士となる。

 そう本日が、帝国の完全統一が宣言される日となった。

 御三家の存在が消えて、王家は一つとなり、皇族としてヴィセニアに、全てが集約されたのである。


 「今日、余の元に集まったそなたらが、今後の新たな帝国の重臣たちである。余は、次の皇帝をシルヴィアに決めた。各王家にも了承を得た今、この決定は確定である。シルヴィアよ。挨拶をせい」

 「はっ。陛下」

 「うむ」


 戦闘装束のままのシルヴィアがエイナルフの隣に立つ。

 凛とした姿勢から、遠くまで通る声が出る。


 「私が皇帝陛下の第五皇女。シルヴィア・ダーレーであります。今までは、ダーレー家の当主として生きて参りましたが、これからはヴィセニアとして生きていきます。皇帝の末子でありますが、私は、皇帝となる事を決意しました。これからは、皆で協力して生きていきましょう。ガルナズン帝国は一つです。私たちは一つの大きな家となります。よろしいですか。我が父の家臣たちよ」

 「「「「はっ。シルヴィア様」」」」


 現皇帝は、まだエイナルフなので、シルヴィアには様と言って、皆が答えた。


 「それでは、人事を発表します。ですが、ここで一番の重要な人事だけは、私から報告します。かねてより、すでにその役職の形で帝国の為に働いてもらっていた彼を、今ここで正式に繰り上げて、皆さんの前で発表します。すでに彼の役職を、皆さんもご存じでしょうが、今まで通りに彼を信じてください。ではどうぞ」

 「はっ」


 フュンが前に出ていく。

 シルヴィアの反対側に立つと、彼女が宣言してくれる。


 「これより。サナリア辺境伯フュン・メイダルフィアは、辺境伯を兼任しますが、主の役職が帝国の柱。大元帥と大宰相へと変わります。外交、戦争。この両面の際は大元帥。内政の時は大宰相として、この国の根幹となります。では、挨拶と人事をどうぞ」

 「はい」


 フュンが一歩前へと進む。


 「私、フュン・メイダルフィアが宣言します。ガルナズン帝国は、新たな国になるつもりで生まれ変わりましょう。軍事の貴族は武家となり。内政の家は、王家であったドルフィン。ビクトニー。ブライトに集約されます。内訳は各家からの紹介を受けてください。では、帝国大元帥フュン・メイダルフィアから、役職を発表します」


 ついにフュンが帝国を主導する時が来た。

 力を合わせて、王国に立ち向かい。

 より強い帝国になる時が来たのだ。


 「軍事の頂点は私。フュンが務めます。その補佐として軍師ミランダ。軍師の称号を得ている彼女が引き続き、その役職に就いてもらいますが、権限が最大限強化されます。位としては元帥です。その他にも元帥はいますが、今は決めていない者もいるので、そこはあとで決めていきますので。まずは、よろしいですね。軍師ミランダ」

 「はっ。閣下」

 「いや・・・それは・・・」


 さすがに師匠からそれはと思ったフュンだったが、隣のシルヴィアが忠告する。 


 「フュン。駄目ですよ。あなたが私の次です。先生よりも偉いのですよ」

 「・・・あ、はい。すみません」


 怒られてしまったと、謝りながら発表する。


 「次。左将軍スクナロ・ターク。右将軍ジークハイド・ダーレー」

 「「はっ」」

 「お二人は同列。位としては、軍師ミランダとも同じであります。あなたたちも軍事権限では私の次ですが、敵の軍事行動に対抗する際。私の許可はいりません。特に緊急の時などの場合は、好き勝手に判断をしてもらってよいです。責任は常に私にあり! 私はあなたたちを信頼していますから、勝手に実行してください。私が責任を取りますから、ご自由に判断してください」

 「「はっ」」

 「皆さん。お二人が帝国の軍事の基盤であります。必ずこの二人を信頼してください。よろしいですね」


 フュンの言葉には続きがありそうだったので、皆は気を遣って、黙って頷いた。


 「では、さらにここで帝国の大将だけは設定しておきます。お二人の下。つまり元帥の下は大将であります。その将軍たちは。フラム。ゼファー。ヒザルス。ザンカ。ハルク。ミシェル。アイス。デュランダル。八名が将軍となります。お二人の下に入る将軍であります。よろしいですね」

 「「「はっ。大元帥閣下」」」


 呼ばれた八名が跪いた。

 新しい帝国の将たち、全員が非常に優秀な将である。


 「ええ。それでは次に、軍事の諜報部隊をナシュア。あなたに任せます。サブロウも同格に置きますが、表向きの長がナシュアです。ナシュアとサブロウ。この両名が、左将軍と右将軍の補佐をしてください。連携は任せます」

 「承知しました。閣下」「おいらも了解ぞ。フュン」


 いつも通りのサブロウにフュンは微笑んだ。


 「そして、サナリアとシンドラ。こちらの軍は、緊急用の軍力とします。帝都の兵も最前線に行くことになるので、この二つは念のための兵とします。ただし、軍を持つ辺境伯領はもう二度と反乱などしません。それに帝国内部も内乱などしませんよ。そんな事をするような人間はここにはいませんと、僕は信じています。僕は僕の目も信じてますし、あなたたちが必ず帝国の為に動くことを信じています。そうでしょう。皆さん」

 「「「「はっ。閣下」」」」 


 調子が出てきたのか。いつものフュンになってきた。 

 私から僕に変わっていることに気付いてなかった。

 

 「続いて、内政を言います。長は一応僕になっています。宰相として政治も担当しますが、実質の長は、外交と各都市を連携して帝国全土の情報部門を担当するリナ・ドルフィンに任せます。よろしいですか」

 「はい。フュン様。お任せを」

  

 リナが優雅に挨拶をした。


 「次に研究開発大臣をアン・ビクトニーに任せます。彼女には、兵器開発。都市開発。武器開発。農業施設や研究室などもお任せします。それぞれの部門を一括して頼みたいです。よろしいですか。忙しくて厳しいと判断したら分割してもいいです。あとで相談しましょう」

 「うん。いいよ。とりあえず、まかせて」

 「はい。お願いしますね。お義姉さん」

 「うん。任せたまえ。義弟君」


 いつものアンにホッとしているフュンだった。


 「最後に、サティ・ブライト。あなたにはこの国の経済を任せます。各都市を連携させ、帝国全体の経済をコントロールしてください。全てを任せます。僕のせいにして自由にやってくださいね」

 「わかりました。フュン様。サティ・ブライト。帝国の為に働きます」

 「はい。頼みます。サティ様。こちらでも頼りにしてますよ」


 フュンがそう言うと。

 

 「フュン。こら」 

 「あ・・・ごめんなさい。シルヴィア」


 ついつい自分が出ていたので、またしっかりシルヴィアに怒られたのであった。


 「ふぅ~。では」


 呼吸を整えてフュンは再び話し出す。


 「帝国はこれより真の帝国となります。各地は強固な連携を取っていき、それぞれの領地が独自でも発展しながら、帝国の為に動きます。軍も都市も何もかもがこれより一つの意識の元に動きます。ダーレー。ターク。ドルフィンなどの考えは全部捨ててください。これより、我らはガルナズン帝国の帝国人であります。王国にも負けない帝国にしていきましょう。僕らはずっと王国に戦略で負けっぱなしでした。それはこちらから先手を取れない状況が続いたからです。皆で協力するような状態じゃなかったからです。しかし、ここからは違います。我らは今、完全協力体制を築けたのです。連携は全都市で取れます。だから、こちらからだって仕掛けますよ。僕らは王国にも負けない。一つの家族となったのですから、ここで相手に示します。我ら、ガルナズン帝国の真の力を、見せつける時が来ました。戦うべきその時まで、僕らは力をつけていきます。頑張りましょう。皆さん! ガルナズン帝国を守りましょう! ここが僕らが一丸となって準備をする時。勝利の為に準備をしましょう! 良いですね。皆さん。僕らは勝ちますよ! 勝ちにいくのです!」


 フュンは最後にニヤリと笑った。

 彼の不敵な笑みは自信の表れ。

 それを見た家臣たちは、気持ちが高ぶった。

 ここが戦場かのように叫ぶ。


 「「「おおおおおおおおおお」」」


 フュン・メイダルフィアと共に、全てが一つとなった帝国は勝利の為に進む。

 本来あるべき形となった帝国は、王国との一大決戦に挑むことになるのだ。


 

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