第184話 乱世のサナリアの覇者 アハト・メイダルフィア

 ラーゼを出発した私たちはサナリアへと移動を開始しました。

 シンドラにも行こうと考えはしました。

 ですが、ラーゼからシンドラに行くには帝都近くを横切り、しかも大陸の南北を渡るような長距離を移動する羽目になってしまい、敵に見つかる可能性が高くなると思ったからシンドラへ行くことを除外しました。

 

 だから、私たちは最短距離で、バルナガンの東のサナリア山脈からサナリア平原の方を目指しました。

 あの当時でも、サナリア平原の西には帝国の関所があったために、とにかく私たちは帝国の全てを信用できなかったので、サナリアを目指すには山から山への移動しかないと思い、その選択をしたのです。

 ですが、追手は来ていました。

 やはり、太陽の技を得ていないソフィア様をお連れしての移動では敵に追いかけられやすいのです。

 サナリア平原の中間位置で、私たちは追いつかれて、そこで私は敵と決戦となりました。

 相手は。




 「ビジュー。貴様」

 「ひひひ。まさかお前たちがまだ生きていたとは。俺は運が良い。たまたまこっちに来る用事があってな。それに太陽の戦士を狩ってはいるが、ここで大元を狩れるとはな。ああ、もう俺しかいない。貴様らの顔を知るのは俺しかいないんだ。だから俺が会わないとな!」


 そうなのです。

 いくつかの追手たちを振り払い、私たちの顔を知る追手は西側で抹殺してきたので、ビジューだけが最後の顔見知りとなりました。

 私はこいつとの決戦に勝てば、何とかしてソフィア様の安全を確保できるのではないかと思ったのです。

 

 「ソフィア様。離れて」

 「でも・・」

 「奴は強い。今までの敵で一番です。隠し持っていた実力を表に出しています」

 

 ビジューはとても強かった。

 研究所にいた頃の奴ではなかった。

 奴はその実力を隠していたのです。


 太陽の技と、影の技。

 似ているようで近いと言ったのは本当の事です。

 ただ、太陽の技は、無から力を出していくスタイルです。

 ですが、ヤマトの技は、ある力を隠すように無へと近づけるスタイルです。

 

 太陽は、力を足していくイメージ。

 ヤマトは、隠すために引いていくイメージなんです。

 なので、このビジューは、持っている力を引いて隠していたということです。 

 私は元々持つ力を出さないでいるだけなのです。


 「殺す。貴様だけは・・・貴様のせいで、カルゼンさんが」

 「はっ。何を言っているお前たちのせいで。カルゼンはああなったのだ。そして、奴は今から苦悩するだろうな。王として機能しない。無能な王子としてラーゼで過ごすことになるからな」

 「貴様。あの人が無能だと・・・殺す。絶対に」


 私の堪忍袋の緒が切れて戦闘となった。

 一進一退の攻防を繰り広げ、ビジューと私はほぼ互角だった。

 その分長引くかと思われたが、勝負は一瞬だった。


 「きゃあああああああああ」

 「ソフィア様」


 ソフィア様が距離を取ろうとしてくれた時に、山の斜面に足を取られて、転げ落ちてしまった。

 それを救おうと私が、戦闘を中断して彼女を助け出そうと動いた瞬間。

 奴は、ソフィア様の方を狙って、ダガーを投射しました。

 

 奴のダガーよりも先に私が彼女に到達。

 抱きかかえてソフィア様を救出したのは良かったのですが。

 肝心の奴のダガーが。

 

 「ぐっ」

 「レヴィ!」

 「なんのこれしき」


 私の首。耳後ろから、首筋にかけてのここです。

 この怪我はその時のものなのです。


 「目・・・目がぐらつく。これは」

 「その症状は・・・まさか」


 ソフィア様は、私の首の傷を診て、一瞬で判断した。


 「青の反応・・・だ。コワノムシの毒!」

 「ほう。さすがだ。薬草と毒に詳しいだけある」


 敵は答えを言ってくれた。

 だからソフィア様の診断が早いことが証明された。


 「やっぱり。じゃあ」

 「そうだ。命に別状はない。だが、今の状況だとな。死ぬよな。俺を前にしているのだ。ヒヒヒ」

 「そ、そんな。私のせいで・・・またなの・・・レヴィまで」


 ソフィア様の悲し気な声で、私の意識は繋がる。


 「死なせません。私は太陽の戦士・・・レヴィ・ヴィンセントだ。貴様のような。中途半端な影に負けはしない」

 「ふっ。痺れる体で戦えるわけがないだろうが」

 「うるさい。気色悪い笑い男! いちいち笑うな。気色悪い。黙って口でも塞いでろ。針と糸をよこせ」

 「なんだと」

 「縫ってやるわ!」


 最後の力を振り絞って私は戦いました。

 数撃の攻防。私の方が押しに押しましたが、最後は体が痺れて力が入らず、全ての武器を落としました。

 そして・・・。


 「よくやったぞ。貴様は、敵にしてはあっぱれな奴だ。ヒヒっ」

 「くっ。気色悪い笑い方だ」

 「最後まで、減らず口だな。死ね」


 ビジューの剣が私の頭上に降りてきた。

 確実に死ぬ。その一刀を防ぐ手段がない。


 「やめてえええええええええ」


 ソフィア様の叫びの中で、死を覚悟した私。

 だがその時。


 「おい。何してんだ。お前」


 ビジューの背後から男の声が聞こえた。

 迫力のある声に、敵が震えた。

 かなりの強さを持つビジューでも、その声だけで制圧されたのだ。

 

 「だ、誰だ。俺の背後を」

 「お前、こんな麗しい女性二人を殺そうとするなんて、武人の風上にも置けねえな。というか男でもねえ」

 「武人?」

 「ああ。男に生まれたのなら、女子供を守れよ。なにいじめてんだ。お前! 俺の一番嫌いなタイプの男だ。そんな奴は死んどけ。クソ野郎」


 あの男でした。私が最も嫌いな男。

 根っからの戦い好きの武人。

 彼が私たちの窮地を救ってくれたのです。


 ビジューは強い。私と同格であります。

 ただ、私にもう少し武器があれば、私の方が強いでしょう。

 あの時には、全ての武器の整備が出来ず、とっておきの竜爪が使えなかったのです。

 だから後れを取りました。

 言い訳みたいに聞こえますが、それが本当の事です。

 ですが、彼はその私と同格。竜爪を持って万全な状態の私と同じ強さを持っていました。

 だから、この男が、ビジューと戦えば・・・。


 「誰か知らんが、この野郎・・・男の風上にも置けない奴め。男は女を守るために存在すんだよ。斬るためじゃあねぇんだよなぁ! それにだ。人を斬ろうってことは・・斬られる覚悟があってのことなんだろ。なかったら、戦う意思を持つんじゃねえ。ど屑が!」


 一刀両断。

 全てを断罪する強烈な一撃で、ビジューを倒しました。

 倒した瞬間、彼は笑っていました。

 戦った相手に手ごたえのような物を感じたのでしょう。

 強い者と戦うのが好き。

 相手がムカつく敵だとしても、それが嬉しい。

 だから、あの男は根っからの武人なのです。



 そして、そこから私の記憶は薄れていきます。 

 張りつめていた緊張感が取れて、麻痺毒の影響下に入ってしまったのです。


 「ああ。レヴィ。レヴィ!」

 「・・・ソフィア様。どうか生きて・・・」


 薄れゆく意識の中で、ソフィア様とあの男の会話が聞こえました。


 「あ。あなたは死なせない。私の大切な人だもの。だからこの毒をなんとか・・あ、あなた。どこか安全な場所に・・・あとここがサナリアなら、あなた。サナリア草を持ってない?」

 「おお。この人やべえな。色が青いぞ。それにこの傷。盛り上がって来てんぞ。ひでえな。綺麗な女性なのに。顔に傷なんてよ。やっぱあいつ許せねえな」

 「うん。でも急ぎたいの。治療をしたいの」 

 「ああ、わかった。俺の村に来いよ。よそもんでも大丈夫だぜ。俺がドカンと言えば、皆黙るからよ。安心して俺の村に来いよ」

 「ありがと。でもサナリア草ってある?」 

 「サナリア草??? なんだそれ」 

 「うんとね。雑草みたいな感じでね。このくらいの背丈で、細い感じの草だよ」

 「ああ。あれか。そんなものサナリアの何処にでも生えてるぞ」 

 「そうなの。じゃあ、そこに連れて行って。私、レヴィを救いたいの」

 「わかった。俺がこの人を運ぶから。お嬢さんは、俺の後についてきてくれ。まだもうちょい険しい山道が続くからよ。足元に気を付けてくれ。それとさっきの変態野郎みたいなのが来たら、俺がぶっ殺すからよ。安心しなよ。俺はあんたを守るぜ」

 「ありがとう。あなた、お名前は」

 「ああ。俺の名は・・・・」



 それが、のちのサナリアの英雄。 

 アハト・メイダルフィア。

 魅力溢れる漢の気質を持った青年でした。

 乱世の覇者として、気力と胆力を持った豪快な男性です。

 それがフュン様の父上であります。

 至らぬ点は多々ありましたが、それに負けない魅力がある不思議な男なのです。




―――あとがき―――


アハトには至らない点が多々ある。

それは認めます。

でもアハトには魅力があります。

第一話から見れば、酷い奴だと思います。

皆さんも思ったと思います。

こいつ酷い奴だって。

でも、人には良い部分と悪い部分がある。

その典型例のような奴だと思ってください。


王として、父として。

う~んと思います。

作者自身も思っています。

ですが、武人として、一人の男としては。

面白い人間かなと思ってます。


あれですね。イメージで言うと。

他人からその人を見るか。

家族、内側から見た時のその人を見るかで印象が変わるという感じかもしれません。

家族といる時はこんな人なのに、他人といる時はこんな感じなんだ。

というイメージを頭の中に展開して、アハトを作り上げました。

なので、自分としては憎めないキャラでした。

結構好きなキャラです。

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