第186話 微調整

 「しかし。攻めるにしてもさすがにこちらから攻撃を仕掛けられませんね。ラーゼにも・・・ナボルにも・・・」

 「そうですね。私もそう思います」


 フュンたちは少し落ち着いて、会議室で再び会議を開いていた。

 フュンの独り言のような言葉に答えたのは、クリスである。


 「ん? クリス。あなたもそう思いますか」

 「はい。フュン様の計画は、ほぼ形になっています。サナリア強化の策。お二方の誕生による例の人物への攻撃。そして、反撃の形を作るためのサナリア軍と影たちです。しかしですね。相手への攻撃の形は、ほぼカウンター気味なんです」

 「ん?」

 「こちらからは手を出さず、張り巡らした影たちを使って、あちらが手を出した時に、裏から攻撃を開始する。それがフュン様の計画の全てでありました。特に御三家が動いてくれれば大きく動ける。そういう計画でありました」 

 「・・たしかに。そう言われるとそうですね」

 「ええ。なのでこれの裏を返すと、今は何も出来ないという状態が続きます。ですがそれらは仕方ありません。こちらから手を出した場合ですね。相手の尻尾しか掴めないと思うのです。奴一人。まあ、良くて奴の仲間くらいを捕まえることになるでしょう。しかしそれでは、ナボルの壊滅とはなりません。それと、こちらが攻勢に出てしまうと、相手は頭を出してくれません。肝心の大元の敵が、どう出るかわからなくなります。だからフュン様は尻尾を掴んでから、相手の頭ごと引きずり込んで、全体攻撃をしたいのですよね?」

 「そうなんです。あなたは僕の心を読んでますか? ちょっと怖いんですけど」

 「読んでませんよ。私はフュン様がどう考えるかを考えているだけです」

 「もうそれが僕の心を読んでいるのと変わりがないんですが・・・」


 端的に言って、クリスが恐ろしい。

 フュンは、自分が考える前に、自分の答えを言われている気がした。

 何を置いても先回りされている気分である。

 

 「そう考えるのならば、ラーゼを考える際も同じなんです。ラーゼで何かが起こった時にしかこちらから手を出せないでしょう。奴らの目をくらませるには奴らの目がどこかに集中した時がチャンスです」

 「なるほど。ここでも暗躍しかないということですね」

 「そうです。そして、それよりもまず。私としてはフュン様の警備の警戒度を上げたい。先ほどの話を聞けば、命を狙われる可能性が更に高くなるのでしょう。いついかなる時でもお守りしないといけません。私は、表にゼファー殿。裏にレヴィ殿がよろしいかと思いますが」

 「表。裏?」

 「はい。フュン様のそばに常に立たせる護衛を表。影に潜んでお守りするのが裏です」

 「んん。なるほど。ゼファーがわざと気配を出し続けることで、敵の第一段階での襲いこみに躊躇を生み、更にそのゼファーを越えても襲ってきた者に対してレヴィさんを当てるのですね」

 「そうです。ゼファー殿の気配が強い分、レヴィさんは見つかりません。太陽の影の力が増幅されると思います。私の勘ですが、ゼファー殿もどちらかというと足し算の方のような気がします。太陽の技を継承できるのでは」

 

 クリスがチラッとレヴィを見た。


 「ええ。この子は素質があります。ゼクスの甥っ子ですし。それにフュン様を心から思う戦士。太陽の戦士になるには、十分すぎる思いのある子です。戦士になる条件は突破しているでしょう」


 レヴィは答えた。


 「レヴィ殿。レヴィ殿は叔父上を知っているのですか」


 ゼファーが質問した。


 「もちろん。ゼクスは良き殿方でした。ああいう男が立派な男というものです。アハトとは違ってですね! 比べてもいけませんね。彼こそが男であります。あなたは、その血を受け継いでいますよ」

 「そ、そうですか。叔父上を褒められるのは嬉しいですな」

 「ええ。だからあなたも良き男なのです。ゼファー。あなたは似ていますよ。ゼクスに」

 「そうでしょうか」

 「そうです。その目と。その決意。忠義の心が似ています。とても立派な男です。これからも頑張れば、もっと立派な男になるでしょう」

 「は。はい。精進します」

 

 レヴィは、ゼファーを褒めた後。

 フュンに顔を向けてから、今から話しかける二人を見た。


 「私はサブロウとゼファーを鍛え上げましょう。太陽の戦士流の鍛え方をします」

 「わかりました」

 「おうぞ。おいらも久しぶりだな・・・修行なんてぞ」


 二人は新しい修行の方に心が持っていかれていた。


 その裏でフュンは考えをまとめようとしていた。


 「そうですね……このままじゃ、良い考えは生まれませんね。どちらにしてもラーゼを救う方法がかなり難しい。奴らを出し抜きながらラーゼを救う方法ですね・・・ええ、どうしましょうか」

 「私は、このまま待機でよいと思っています」

 「ん。クリス。策があるのですね」

 「あります。このままの関係値であれば、おそらく敵もすぐには攻撃を仕掛けてこないと思います。ナタリア殿とレイエフ殿。そうは思いませんか。お二人の分析能力からいっても、敵が攻撃してくる可能性は?」

 

 クリスは二人に聞いた。


 「そうですわね……私の情報分析から言うと、現在の力関係で動くことはないと思います。まだ動くべきタイミングではないはずです」


 ナタリアが先に答えた。


 「私も。そう思います。特に御三家が動きません。タークは裏の動きをしません。ドルフィンも第二皇女がいませんから、裏で動く人物がいない状態であります。そして、ダーレーもです。裏で動きたくてもこの関係のバランスが崩れないから、動く手を使えないと思います。ジークも無理やり動かすような人間ではない。彼は慎重とかではなく、無理やりに動かして国を弱くする選択肢を取らないのです。高度に計算をする男ですから」


 レイエフも続けて答えた。


 「そうですよね。だから、私は」


 クリスが二人の意見から、これからの行動を組み立てようとした。


 「王国が動くまで待つ! がよいかと思います」

 「「「王国!?」」」


 クリス以外の人間が驚いた。


 「はい。おそらく、王国が動く時。それが、御三家が動く時で、ナボルが動く時だと思います。そして、王国が動くまでの時間は、以前にナタリア殿が計算した三年でしょう。それまでの間。我々は動かずに力をつける。それもちょうどよいと思うのです。この都市を発展させながら、兵を鍛え上げる時間をこちらも生み出せるのです。ここは、力を蓄える時期なのだとして、割り切るのがよろしいかと思います。焦って行動を移すよりも、じっくり腰を据えて、これからに挑むのです」

 「・・・なるほど・・・たしかにそれはいい案だ。クリスの案でいきましょうか」


 フュンは皆の顔を見た。

 

 「三年ですか・・・たしかに、私の計画でも三年あればだいぶ改善されて・・・」

 「うん。ボクも三年あれば、大都市の形の片鱗を見せられるかも。あと道路とかある程度は出来るかもね」

 

 サティとアンも頷く。


 「そうだな。たしかに兵らも育つな・・・あたしと頭領、ゼファー。この三人でバッチリ鍛え上げられそうだ」


 ミランダは、このほかにもミシェルらを見て頷いた。


 「影も同じくだぞ。おいらが頑張って太陽の技の基本を理解して、影に還元して。カゲロイと共に強くなればいいのだぞ。やれるぞ」

 

 サブロウの言葉に、カゲロイは頷いた。


 「そうですね。やりましょう。三年で強力な都市に! 強力な体制を作り上げて、戦いましょう。僕らは帝国の柱となるのです。やりますよ。皆さん!」

 「「「はい!」」」


 全員が三年を了承する。

 すると、ルイスが手を挙げた。


 「その前にですな。フュン様」

 「はい」

 「結婚しなければなりませんな」

 「え?・・・ああ、そうだ。そうだった」

 「フュン様、八月でしたか? 今年の?」

 「・・・ええ。間に合いますかね。新都市の基礎?」

 

 以前に決めていた事だが、順調に都市が育つかが分からない。

 複雑に組み立てている建設計画なので、細かい部分はアンにしか分からないのだ。


 「うん。大丈夫。水路も敷いた。それで基本施設は出来上がると思う。フュン君のお屋敷。役所の半分。あとは、商会施設に、住居はどうだろう。ちょっと少ないかも。でもフュン君のお屋敷を中心に広がるようにして作る予定だよ」


 予想を言ってからもう一度悩んでいるアンは、再び口を開いた。


 「そうだよねぇ、八月の段階だもんね。う~ん。たぶん、中心地のいくつかの商業施設と、数件の家くらいかな。やっぱり役所は途中だと思うね」

 「そうですか。都市が未完のまま結婚するのも・・僕はいいですが、彼女に悪いかな」

 

 フュンがそう言うと、サティが発言した。


 「フュン様。それは無しですよ。シルヴィは、待ってます。見栄えなど気にせず。結婚してあげてください」

 「・・・そうですか。大切じゃありませんか。女性にとっての結婚は。もっと大きい方が・・・」

 「大丈夫。あの子にとっての結婚はあなたと一緒にいられる証のような物です。それだけで幸せなはずです」

 「・・・んん。わかりました。そうですね。来月にでも会いにいきますか。半年くらいの時間があれば、彼女の方でも準備が出来ますでしょう」

 「ええ。そうしてあげてください」


 シルヴィアの為に、サティはフュンを説得したのだった。

 このままでは結婚を延期しそうだったからだ。


 「はい。そうします。ありがとうございますサティ様。決心しましたよ」

 「はい。お願いしますね。シルヴィを・・・末永くお願いします」

 「もちろん。おまかせください。お姉さん」

 「はい。お任せします。弟さん」


 こうしてフュンは、結婚することを決めたのだ。





―――あとがき―――


忙しい中でも結婚が決まる。

フュンはどんなことがあろうとも、シルヴィアを大切にしています。

彼女の気持ちを一番に考えてくれている男であります。


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