第157話 皇女と皇子の死には多くの謎が残っている

 翌日。

 衝撃の知らせが帝都中を駆け巡る。

 第二皇女と第五皇子の死去。

 一般人にはただの死亡との情報が流され、彼らは情報をそのまま鵜呑みにしたのだが。

 もう少し事件の詳しい内容を知る貴族たちはそうは思わなかった。

 二人の死は、怪しい謎の死であると噂されたのだ。

 

 死の原因がよく分からないリナは、閉じ込められたことで憤死したとされ。

 ナイフが胸に刺さっていたヌロは、独房で自殺したのだと噂された。

 でもナイフなんぞ。

 あの監獄のどこで手に入れたのだろうと怪しむ部分が出て来る死である。

 よく考えれば疑問点がいくらでも浮かぶ死だ。

 情報を知れば知るほど、誰でも疑問に思う所だろう。


 そして、その翌々日。

 すぐに二人の葬儀が執り行われた。

 二人の死体は、死が判明してからすぐに火葬となり骨だけとなる。

 この異例の速さもよく分からないことだった。

 帝都を訪問してくる重要人物たちの為に、いつもならばお別れが出来るように死体を保管するのに、今回はすぐに処置したのである。

 でもこれは皇帝の一存だった。 

 だから誰も逆らうことができない。

 それに皇帝の落胆ぶりが凄かったので、長らく放置することをためらったのだと予想された。

 皇帝にとって辛い事だからこそ、焼いてしまってすぐに対応したのだろう。

 それが周りの推測だった。

 我が子が急に二人も死ぬ。

 その心労は計り知れないということだ。



 ◇


 一通りの葬儀を終えて、お別れ会があったのは四日後。

 そこに出席したのは王家一同と、貴族ら。

 多くの者が訪問して、二人を見送った。


 当然、フュンも出席した。

 二人の肖像画の遺影に挨拶をして、親族一同に礼をして、それぞれの王家の者たちに挨拶をした後。

 最後に皇帝陛下と直接顔を合わせた。


 「これでいいのか。全ては計画通りなのだな。辺境伯」

 「はい。計画は順調です。お二人が無事に死んでもらうことが、予定通りでありますからね」


 フュンは遺影の方に顔を向けた。


 「そうか・・・辺境伯よ。この死。本当に必要だったのだな?」

 「はい。必要です。帝国をお守りするのに、お二人の死が必要でした。おかげさまで、僕は相手の尻尾を掴みましたよ」

 「なに!? 本当か」

 「はい。これを知るのは僕と協力者の二人だけです。陛下にもお伝えしたい所ですが、確証を得て、相手を出し抜くまでは誰にも話しません。敵には帝国の世を無駄に泳いでもらわないといけません。敵を芋づる式に引っ張り出さないと意味がない……それに、これをお知らせして、陛下の身に危険が及ぶとなると、私はただの馬鹿となってしまいますからね。何も知らないふりをするのではなく、何も知らない方がここはいいでしょう。私にお任せを。陛下」


 臣下の一人としての言い方だった。


 「・・・む・・・」

 「義父上。僕を信じてください。必ず、帝国を変えてみせます! あなたの治世の間で、シルヴィアには皇帝陛下になってもらいますよ!」


 家族の一人としての言い方であった。

 フュンは両方の言葉を皇帝陛下に届けた。


 「・・・そうか・・・わかった婿殿。全てを託そう」

 「はい」


 長く会話して怪しまれるわけにもいかなかったために、この会話時間はほんの僅かな間であった。

 他人から見れば、相手にお悔やみを言っているレベルに見えていただろう。

 フュンの機転により、誰よりも早くここを離れる。


 すると会場の出入り口で、一人呆然と立っていた男がいた。


 「スクナロ様」

 「・・・ん? ああ、フュンか」


 スクナロはぼうっとしていた。


 「ええ。大丈夫ですか?」

 「ああ、まあまあだな」

 「そうですか」

 「・・・自分の事を殺そうとしても、俺にとってあいつは、俺の弟だったんだな。死んだと分かると悲しいのだな」

 「ええ。そうですね」

 「そうだよな。お前も俺と同じか」

 「はい」

 「いや、お前の方が俺よりも覚悟があったな・・・立派な男だ。自らの力で制裁したのだからな。弱気な俺よりも立派な男だ。責任を取った立派な男だ」


 悲しげなスクナロはフュンを褒め称えていた。

 自分は弟を殺すことが出来なかった。

 血の繋がる兄弟を殺す決断を取れなかった。

 それが当たり前と言えば当たり前だが、王族としてはいけないだろう。


 それがスクナロが出した答え。

 当主として非情になることが大切。

 なのに自分はその役を演じられなかった。

 王族としての役目を果たせなかったのだ。

 だから王族として立派なのはフュンである。

 自分が辛くなろうとも覚悟を決めて、弟を成敗した勇気と決断力に、スクナロは改めてフュンを高く評価し、尊敬したのだった。


 「義兄さん」

 「ん?」 

 「これからを心配なさらずとも。僕がターク家をお守りします。僕が、ヌロ様の代わりに。あなた様のピンチに駆けつけようと思います」

 「ふっ・・・ありがとう。かたじけないぞ。フュン」

 「水臭いですよ。あれ? 義兄弟になったのでは?」

 「はははは。そうだな。義弟よ。その時が来たら、俺は真っ先にお前に頼ろう! 兄弟!」

 「ええ。お任せを」

 

 フュンに深く頷いたスクナロの心は少しだけ軽くなった。

 穏やかな彼の表情を見て、なんだか本当の弟のように思えてくるのが不思議だった。

 

 ◇


 葬儀終了後。

 ダーレー家の屋敷にて。

 もうすぐ真の家族となる三人は会話をしていた。


 「リナ姉上まで死んでいるのがな。どういうことだ」


 ジークは腕を組んで悩んでいた。

 

 「そうですね。どういう事でしょうかね」


 フュンも一緒になって悩んでいた。


 「何か知らないか。フュン君」

 「さあ、僕がパーティーの時に起きた事件ですからね。知りたいことは山積みですよ。いったい何があったのでしょうかね。同時に亡くなるのだっておかしいですよね。変ですよね」

 「そうなんだ。そこが変でさ」


 二人の会話の直後。


 「何か、おかしい点があったのですか? お二人の死について」

 

 シルヴィアがジークに聞いた。


 「それがさ。今、俺たち家族しかいないから言うが。ヌロ兄上の死について。ナシュアとフィックスが目撃している。例の組織の連中だと思われる影が出現して、ヌロ兄上の心臓を一突きしたらしい」

 「な!? 本当ですか。ジーク兄様」

 「ああ。そうなんだよ。顔に出ると思い、葬儀が終わるまでお前には知らせてなかったがな」

 「見ていた・・・とは、影移動で見ていたのですか?」

 

 フュンは、何気ない顔でジークに聞いた。


 「うん。そうだ。あの二人が見ていたんだ。でもその時の敵の影は6つあって、内2つはナシュアとフィックスでも見破られないほどの手練れだったらしい」

 「そうですか。それは、なんともまあ。強い人がいるんですね。あのお二人よりも強いとなると、ミラ先生かサブロウしかいないですよね」

 「ああ。そうなんだよ。でもあの二人も君のパーティー会場にいただろ? 俺も途中までいたけどさ」

 「ええ。いましたよ。あ、でもミラ先生とサブロウも途中で帰ったんですよ」

 「なんだって!? じゃあ影はあいつらか? いや、それもないか・・・あいつらだったら戦ってくれるもんな・・・」


 ジークは自問自答していた。


 「いや、たぶんそれは無いと思いますよ。ミラ先生はアイネさんのご飯が食べたいから、お酒買ってくるって言って、市場通りのお店が閉まる前にお酒を買いに行っていて。それで、そこから酒樽を運んでいたらしいです。その姿をサブロウが見てますし、アイネさんも見てますから。そちらにはいってないと思いますね。あと市場通りにいたとなると。地下牢にも。リナ様のお屋敷の両方には行けませんよ。僕のお屋敷は遠いですからね」

 「それはそうだな。あそこの位置じゃ遠すぎる。じゃあ、その二人じゃないならば・・・」


 シルヴィアも会話に入ってきた。


 「やはり敵ですか。夜を彷徨う蛇ナボルとかいう」

 「そうだろうな。あの二人よりも強い奴がいるとは。影での行動も慎重にならねば」

 

 ジークは二人を慎重に運用しようとしていた。

 影を見破られるのであれば、そう簡単に潜入などの行為は出来ない。


 「そうですね。申し訳ないですね。ジーク様」

 「ん?」

 「いや、サブロウとミラ先生をお借りする形になってしまい。申し訳ないですね」

 「ああ。その事か。別にいいよ。あいつらはこき使ってくれ。君の領土が発展するためにさ」


 サブロウとミランダの運用に関して、フュンはあらかじめジークに許可を取っていた。

 ミランダは、軍指導の教官として。

 サブロウは、サナリアの影を育成するためにである。

 フュンは元々ある計画がなくとも、両者の力を上手く使い、サナリアを発展させようとしていた。

 

 ジークとしては、二人がいなくとも十分な戦力を持っているから、これらを許可したのだ。

 里にはザイオンらがいるし、影にはナシュアがいるために、要所の人材には余裕があったのである。


 「ありがとうございます。それでは。僕はそろそろ出立しようと思います」

 「「え!? もう!?!?」」


 二人が驚いた。


 「ええ。時間がありません」

 「時間がないだって? なんで?」

 

 なったばかりの領主なのに、時間がないとの感想がおかしい。

 ジークは首を傾げた。


 「ええ。そうなんですよ。僕、三カ月の間で賊を呼び込んだんです」

 「は?」

 「いや、それがですね。賊に対してもお触れを出したんですよ。僕のサナリアの民になるのなら、過去の事は水に流すとね」

 「「はぁ????」」


 今度は二人が驚いた。


 「それで、あと二か月くらいで、その三カ月の期間が終わっちゃいますからね。急いでその準備をしないと・・・ええ、後はお二人にお任せしますね。夜を彷徨う蛇ナボルの事。何か分かったら僕に教えてください。では、いってきま~~~す」


 立ち上がって部屋から出ようとしたフュン。


 「ちょっと。待ってフュン」


 そこをシルヴィアが引き留めた。


 「え? 何ですか?」


 フュンは止まった。


 「もう行くのですか。もう少しくらいここに居ても・・・」


 駄々っ子モードだなと思ったフュンは切り替える。


 「ああ、そうでした」

 「はい! いてくれると」


 シルヴィアの目が輝いた。


 「違います。アイネさんとイハルムさんの件。今ここで、いいでしょうか。お二人をこちらのお屋敷に住まわせます」


 ムスッとした顔のシルヴィアの隣で、フュンはジークに聞いた。


 「ああ。その話ね。いいよ。ここに連れてきてくれ。あの二人なら即戦力さ」

 「ありがとうございます。それじゃ僕が戻ったら、二人をこちらに向かわせますジーク様」

 「うん。わかったよ。待ってる」


 フュンは颯爽と自分のお屋敷に戻っていった。

 彼が飛び出した扉を見つめているのはシルヴィア。


 「んんんんんんんんん」


 彼女は唸り散らかして、不満を垂れ流していた。


 「唸るな。妹よ。フュン君とはそういう男だろうが」

 「ですが、兄様ぁ! 私の事はどうでもいいのでしょうか!」 

 「そんなわけあるか。お前が一番に決まってるだろ。どう見ても彼はお前を大事にしてくれているだろうが。お前、自信持てよ。絶対にお前がナンバーワンなんだからな! 誰も彼の隣に入る余地はない。でもだ! 彼はその上で他の人たちも大切にする男。そういう人間だろうが。だからお前も好きになったんじゃないのかよ。いちいち疲れる妹だな。こんなに嫉妬深かったとはな。知らなかったぞ。兄さんは!」


 シルヴィアに対してあまり怒る事のないジークが、説教臭く言った。


 「んんんんんんんん……ですがもうちょっとくらい・・・私だって彼のそばに居ても罰は当たりませんでしょう」

 「はぁ」


 頭を抱えたい出来事は山ほどあるというのに。

 妹の嫉妬にも手を焼かされる羽目になるとは思わなかった兄である。


 「ああ。もういい。とりあえず、お前の分の仕事をやってやるから。二人で細かい部分を急ピッチで仕上げるぞ。そうしたら、ハスラの定期の仕事は俺がやってやろう」

 「え?」

 「それで、お前の休暇を取ってやる。そうだな。彼が忙しくなる頃に一度行けるようにしてやろう。さっきのがいいな。二カ月後くらいか。イーナミア王国も立て直しに入っているからな。まだこちらに攻撃して来ないだろうからいけるだろう」

 「本当ですか! 兄様。好きです。尊敬します」

 「お!・・・って、こんなことで言われるのかよ・・・悲しいぜ」


 仕事調整をした事で、好きですと言われる。

 悲しい兄であったのでした。



 ◇


 フュンのお屋敷にて。

 イハルムとアイネの護衛にゼファーをつけて、彼らがダーレーのお屋敷に向かった後。


 フュンが一人でリビングにいると。


 「ミラ先生」


 影からミランダが出て来た。隣にドカッと座る。

 椅子が軋むのも気にしない彼女が話す。


 「フュン。まずは報告なのさ。サブロウが敵のアジトを確定させたぞ。いくつか見つけたらしい」

 「さすがですね。尻尾を掴んだかいがありますね」

 「ああ。にしても、奴が敵だったとはな。この帝国で、何重にも罠を仕掛けていたのは奴だったわけだ」

 「ええ、まさかの人です。僕としては、1割くらいの確率での予想でしたが、まあ、あの人だと分かるとなると、恐ろしいですね。僕が唯一心を読めなかった・・・だから逆に怪しかったですからね。まあ、そうですね・・・恐ろしい人だ……とてもじゃないが、僕では出来ない。でも、その人が僕の仕掛けた罠に乗ってくれたのは助かりましたよ」


 二人は敵を見つけていた。

 狙うべき相手が分かれば、あとは調査して、日の当たる場所まで引きずり込むだけである。


 「先生。サブロウは、ナシュアさんとフィックスさんを騙したのですね」

 「ああ。そうだ。そんでついでにダーレーの家紋付きの剣も引っこ抜いておいたそうだぞ。サブロウは気付いていたからな。あいつの胸に刺さってるのがダーレーの家紋付きの剣だってさ」

 「そうでしたか、さすがサブロウ。だからダーレーが疑われなかったんですね」

 「そうだ。んで敵のもう一個のアジトはあたしが見っけといたのさ。その報告は聞いただろ?」

 「ええ。それはサブロウから聞きましたよ。先生があの時に言ってくれなかったですからね。酔い過ぎです。アイネさんの料理が美味しいからって、お酒の飲み過ぎです。そろそろ禁止にしようかな」


 就任パーティーの後、ミランダが一時帰宅してフュンと会話していたのだが、彼女はアイネの料理のせいで、お酒が進み酔いが回っていた。

 報告し忘れている重要な報告があった。


 「ええええ。別にいいじゃないか。フュン。酒は大切なんだぞ~」

 「駄目です。そろそろ体にも気を付けてもらいましょうかね。ミラ先生も!」

 「ケチ~~~。いいじゃんか。な! 酒がなけれりゃ、あたしは死んじまうぞ」

 「じゃあ減らしてくださいよ。べろべろになるまで飲まないでください」

 「へ~い」


 どちらが師匠か分からない会話が続き。

 話は戻る。


 「ま、それでさ、やっぱ敵の影移動よりもサブロウの方が上らしい。相手はサブロウの影に気付かなったみたいなのさ。あのあともう一回サブロウが外回りを調査しても気づかれなかったらしいのさ。でもな、ナシュアとフィックスは、なんとなくサブロウに気付いていたようだぜ。まあ、サブロウはあいつらの師匠だから、雰囲気で見つけられたのかもしれないな」

 「そうかもしれませんね。親しい間柄の人には、影移動って中々効きにくいですからね」

 「そういうこった。んでも、これであたしらの相手よりも、サブロウの方が上なのが確定なのさ。ナハハハ。あいつ、影として化け物だな」


 サブロウの方が敵よりも上。

 それが分かっただけでも大収穫である。

 今後の偵察でもサブロウが重宝するからだ。


 「ミラ先生、サブロウと二人でアジトの奥までは行ってませんよね?」

 「そいつは危険だと思って行ってないのさ。奥まで行くとなると、中の地図を頭で構築しながらの潜入になる。それだと集中力が必要になってくるからな……影の持続力の問題にも繋がるしな」


 影になること以外の集中力を使う状況を作るのは良くない。

 そこまでの無理をしてまで、潜入するには至らないという結論が出ていた。

 ミランダとサブロウは、そこまで冷静に考えていた。


 「いいです。今はそうしてください。今が、危険を冒すタイミングではありません」

 「そうか? 今がチャンスじゃないのさ?」

 「いいえ。これから敵の動きが一時鈍くなると思います。皇帝の子のお二人が死にましたからね。ここで派手に動くとは思えません。活発に動いている時であれば、防御は疎かになると思いますが、消極的であるのなら防衛はしっかり固まると思います。だから見張りだけ置いて、動きが出たらサナリアに報告してもらいましょう。サブロウの影を、逆に日の当たる一般人にして、そこら付近に配置しましょう」

 「・・・なるほどな。いい手だ。あっちが何か行動を起こすタイミングが、こちらが動きだすチャンスってわけだな」

 「ええ。そうです。ミラ先生。あとでサブロウと話し合ってください。選ぶ影はそちらで」

 「おう、了解したのさ」

 

 敵の監視は忘れない。

 ただ今が攻め時ではない。

 尻尾を掴んでも、完全な証拠を掴んでいない。

 フュンは、攻め込むべきタイミングを待っていた。


 「そんじゃ。あとはサナリアで色々やるしかないのさ。サブロウが例の物を運んでるからよ」

 「そうですか。ありがとうございます。あっちの計画は、上手くいきそうですかね? どうでしょう?」

 「いけると思うのさ。第一段階はクリアしてる。納得してくれたからな」

 「そうですか。それはよかった」

 「んで第二段階もたぶん大丈夫。了承してくれた。ただ、第三段階が難しい。こればかりは本人の才と努力次第。成長できるかどうかはな!」

 「そうですか。でも何としてでもやり遂げねば、帝国も、ダーレーも、皆も救えません。ぜひサブロウとミラ先生には根気よく協力を願いたいですね。僕では不可能な部分がありますから」

 「……わかってるのさ。こいつは戦うよりもむずいからな。あたしとサブロウでも、難しい問題・・・弟子から依頼されるとはな。ナハハハ。それもまた面白いのさ」

 

 ミランダは、楽しそうに笑っていた。

 頼もしい弟子の成長に嬉しさが爆発していたのだ。


 「これは極少数で決めねばならんのさ。ということはだ。奴らも呼ぶか・・・。フュンに忠実な奴がもう少し必要だからな」


 最後にミランダがそう言って、影に消えた。

 引っ越し準備が進み、ほぼ何もなくなっているお屋敷の中を、一人になったフュンが歩き回る。

 至る所に、五年間の思い出が残っている。


 「いや、色んなことがありましたね。ここでも、ミラ先生のお屋敷でも。今度はダーレーのお屋敷ですか・・・でもその前に、僕もやらねばならないことをしなくてはね。勝負はまだ先です。ここから態勢を整えて、御三家の行方を見守らねば、そして奴らの動向も見張る。その上で、僕が勝つ! 必ず勝つ。闇には絶対に負けない。僕は家族を守るんだ・・・なんとしてでも。どんな手を使ってもだ」


 フュンの固い決心が誰もいない何もないお屋敷に残ったのであった……。



 ◇


 とある場所・・・。


 「今回、何があった。トレス」

 「わからない」

 「二家の力を削いだのは確定した。だが、ダーレーに罪をなすりつける件はどうなったんだ?」

 「しくじった・・・とはクアトロは言わなかったぞ」

 「ああ。わかってる。死亡したのは公になっているからな。現に葬儀まで行われた」

 「そうだな」

 「じゃあ、短剣は? 何故通常のものなのだ」

 「知らん。俺は実行部隊じゃない。現場にいたわけじゃないからな」

 「意味がない。それでは、意味がない。殺した意味がないではないか」

 「まあでも、小細工がダーレーの仕業だとしても、あっちは地盤が弱い。裏で暗躍しようにも、あそこの影の動きは読めている。警戒をしておけば、お前が負けるわけはないだろう」

 「・・・わかった。でもしばらくは大人しくしておけ。派手に二人も殺したのだ。ここで連続すれば、足がつく」

 「わかってる。だが、奴だけは殺さんといかんだろうな」

 「奴?」

 「知らんのか? お前は」

 「何の話だ?」

 「奴だ。我らの邪魔な存在となりうる太陽を消しておかないとな・・・各地に隠れ住む奴らが集まりかねない。奴らに結束される恐れがあるからな。奴らは我らの本流……もしも奴らに集まられたら、こちらとしては困るからな。本物の太陽の力は・・・我々では止められん。それが少数であろうともだ」

 「結束だと? 止められん? 何の話だ」

 「お前は幹部になって日が浅い。知らない点があるのも仕方ない。とにかく、奴は存在が危険なのだ。奴自身、自分の価値を知らないだろうがな・・・・まあ、それでも今まではよかった。奴があんな立場であったから、力など得られず。いつ死んでもおかしくない状況だっただろう。まあ、何度かこちらに来てからは、さらに秘密裏に殺そうと試したこともあったが、全てを運で回避するとはな。戦姫、大貴族、戦争……運が良すぎる。まあ、それにだ。ここに来ての異例の出世があっただろう。だから、会議でも奴は消すしかないとの結論が出るだろう。いや、実行部隊のいくつかは今も狙っているかもしれないな。俺と命令系統が違うから知らんがな。ここは本格的な会議がありそうだ。会議で命令が一本化するかもな」

 「何の話だ? 誰だ、そいつは?」

 「そうか。わかった。奴を説明するには、我らの組織の成り立ちからだからな。大会議の前にでも、事前知識は入れておいた方がいいだろうな。いいだろう。教えてやろう・・・」


 闇は静かに狙い続ける。

 それは帝国・・・それとも誰かを・・・。




―――あとがき―――


第一章完です。

完成の嬉しさはありますが、皆様には申し訳ない気持ちもあります。

なにせここはまだ序章。謎ばかりの話です。


重要な伏線を散りばめながらの話。

今まであった伏線と重なり合わせて進む話ばかりなので、?マークが増える箇所があったと思います。

しかし、しっかりここらの伏線は回収するので、少々お待ちください。


では次回をお楽しみに!


次回は第二章。

第一話は、自分の中でもお気に入り回のひとつです。お楽しみに~。

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