第64話 闇はそばに・・・

 事の顛末は、シーラ村武装蜂起未遂事件として後に語られることとなる。

 フュンとジークが事件の真相を分からずに、とにかく当たって砕けろの精神で現場に突入した際に、たまたま怪しい人物を問い詰めた形になり、その時にフュンが持ち前の知識を使って敵をあぶりだしたことで、思わぬ形で決着が着いた事件。

 本来は、村長一家の死の真相を知るべき事件であったのだが、それは謎のままにしてしまった。

 ここには単純ではない闇が隠されている。

 しかし、この事件で確保したことになったジャッカル。

 これが、後の帝国の謎に迫る第一歩目となるのであった。


 

 ◇


 そんなことも知らずにフュンは、村で時を過ごすことになった。

 会議場は縁起が悪いので、村の果樹園前での会話になる。

 

 「いやあ。皆さんよかったですね。危ないですよ。戦争なんてね。しない方がいいんですよ。駄目です、戦争は危険ですからね。まずは冷静になりましょうね」

 「はい。そうですよね・・・というかあなたは誰です?」


 ハーベントは聞いた。


 「あ、僕はフュン・メイダルフィアです。一応属国の王子ですね・・・でも皆さんと同じ立場ですよ。ジーク様に仕えているようなものですからね。あははは」

 「そ…そうですか。ご丁寧にどうも。ハーベントです」


 ジークがフュンの肩に手を置いた。


 「ああ。そうなんだ。それで皆にも知らせておくけど、フュン君は俺の友人でしかもダーレー家に帰順することになった子だから。皆も大事にしてほしいんだ。いずれ君たちから育つ戦士もこの子の元で成長するかもしれないからね。この子はいずれダーレー家の将にするつもりだからね。ミランダよりも重要人物にするつもりさ」

 

 ジークの紹介に村人たちは驚く。

 あのミランダ様よりも高い位に就かせる。

 その宣言を聞けば誰だって驚くであろう。

 ミランダとは、ダーレー家の領土の人々にとっては英雄的存在なのだ。

 彼女がいなければ、ダーレーの家は存在はなく、ダーレー家がいなければ今の自分たちはいないのだ。


 「あのミランダ様よりもですって・・・そんなことが!?」

 「うん。そうだよ。君たちの中には、バルカ村の子もいるでしょ」

 「はい。いますね」


 バルカ村。

 御三家戦乱の際に焼き尽くすされて破壊され尽くされた村。

 シーラ村とはほぼ同規模の村であった。


 「あそこにいたニールとルージュもこの子に仕えているからね」

 「え? あの子たちがですか!?」


 ハーベントの隣にいたバルカ村出身のスケアが驚いた。

 彼は双子の知り合いなのだ。


 「ああ。この子の影になる予定だ。だから君たちからもこの子に仕える子が出てくるかもしれないのさ」

 「ニールとルージュが!? 僕の影??? そんな話知らないですよ。僕の友達でしょ。二人は!? あれ???」

 

 フュンの知らぬ間に、双子はフュンに仕えている予定になっていた。

 現在のニールとルージュは、サブロウの元で、影になる訓練をしている。

 元より影移動や気配断ちなどの技を会得している双子だが、フュンの為に強くなることを決意してからは修行にも身が入っているのである。

 そこでサブロウは、シゲマサ並みに仕上げていくカゲロイを軸に置き、双子とも競わせて切磋琢磨の中で三人を集中的に成長させているのだ。


 「ははは。やっぱり君はそういう感じだと思ったよ。でも俺たちの計画は、君を一流に育てる計画だからね。君に仕えるべき部下も超優秀にしないといけないのさ」

 「僕に仕えるべき部下!?」

 「そう。君みたいな子には、この帝国で大物になってもらわないとね。誰にも負けない強さを手に入れてほしい。優しい君が帝国の癖者どもに勝つには、強くなっていかないといけないからね」

 「僕がですかぁ!? ええぇ。僕って強くなれるのかなぁ。う~ん、強くなりたいんですけどね・・・ジーク様の自慢になるような強さはな・・・・無理じゃないかなぁ」


 フュンが戸惑っていると。


 「「「・・・クスクス・・・」」」」


 村人たちから軽い笑いが出た。

 人の良さが垣間見える今の会話のせいだ。


 「あれ? 僕って笑われる運命なんですかね? あははは」


 一緒にいて、人に笑ってもらえる。

 それが彼にとって、なにより幸せな事なのだ。


 ◇


 「失敗に終わりました」

 

 とある一室での出来事。

 目の前の男にそう告げた男は緊張した面持ちでいた。


 「なぜだ。上手く矛先を向けたのではないのか。私は計画通りだと聞いていたが」


 話しかけられた男の捲り上げた肩には刺青が入っている。


 「・・・はい。そうでしたが・・・」

 「ん!」


 言いにくそうにする事すら許さない。

 無言に近しい圧力は相手を畏怖させた。

 

 「・・・も、申し訳ありません」

 

 たまらず謝る。だが、それも許さない。


 「いい。説明せよトレス。謀略関係は、貴様の仕事だからな」

 「はい。今回、毒を仕込んでシーラ村の村長一家を殺したのは成功しました」

 「それは聞いている」 

 「・・あ、はい。ですが、そこで失敗したのは、シンドラ側に死亡者が出てしまった事です。あれのせいで、確定的にシンドラが悪いと言い切れない状況になりました」

 「なぜそのようなことになった」

 「・・・はい。死亡した男はワインを盗み飲みしたらしいです。さすがにそこまでは読めませんでした」

 「…そうだな。それはクアトロの部隊がやっていたのか」

 「そうです。暗殺部隊を駆使して、毒を仕込んだのですが。それが失敗に終わり、シンドラ側の非が確定しなかった。この事でシーラ村が二分されてしまったのです。確定していれば奴らは・・・」

 「そうか。武装蜂起が出来ていたということだな」

 「はい。そうです。蜂起の方に先導するためにシンコの部下のジャッカルを配置していました。バッカスとかいう村長代理のような男を上手く使っていたんですがね。それも失敗しましたよ」

 「なぜうまくいかなかった? 二派に別れても武装蜂起派の方が多いのではないのか。村長が殺されたかもしれないとなれば・・・さすがに立ち上がらせることくらいできるだろう」

 「はい。そうなのですが」


 報告をしている男の話はフュンたちへと。

 まさかの出来事の説明をしたのだ。


 「その男、フュン・・・聞いたことがあるな」

 「はい。奴は帝国の人質です。セイスとシンコの考えで、こちらに来たばかりの時に拉致したんですが。あの戦姫に敗れてしまい。シンコの部下のラクセンが死にました」

 「そうだったな。今回、お前の部下のジャッカルはどうなった? 死んだか?」

 「いいえ。捕まりました」

 「なに!? 助け出さないのか!」 

 「無理です。相手が赤い旋律のようなのです。奴がいる限り、ジャッカルは助け出せません。それにどうせ奴は何も話しませんから大丈夫ですよ。がしかし奴の命は諦めるしかありません。死んでもらいましょう」


 部下の命を切り捨てる組織らしい。


 「そうか・・・しかし、その赤い旋律とはなんだ?」

 「はい。赤い旋律は、セイスの資料にも書いてある通りに、要注意人物となっています。暗殺部隊。調略部隊。謀略部隊の網の目を潜り抜けている。超危険人物で。こちらから攻撃を仕掛けるとなると、我々の尻尾を掴んでくる恐れがあります。奴の目の届かない範囲を作らないと……危険であるのです。奴は闇に精通しすぎています」

 「ほう。そんな奴がいるのか」

 「はい。第六皇子。第五皇女。この二人を守る最後の砦のような人物です。闇に紛れるのが上手いダーレー家は切り崩しが難しい。それは、奴とサブロウとかいう男のせいです」

 「そうだな。サブロウはよく聞く人物だな。いずれはそ奴らは殺さんとな……まあ、だから今回。ダーレーの力を落とすために策を作ったのにな。失敗に終わったか」

 「仕方ありません。ですがまだ策はあります。情報収集の部隊の話によると・・・あの戦姫が・・らしいのです」

 「それは本当か。その情報は上手く使ってトドメを刺さないといけないな。ついでにそのフュンとかいう男も消せそうだな」

 

 計画はまだ別な物がある。

 ダーレー家の足元には、また別の闇が近づきつつあった。


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