第三章 ウォーカー隊の新部隊編

第65話 お久しぶりです……みなさん

 シーラ村の事件から三カ月。

 フュンは事件解決後。

 村の治安維持に協力をしながら、次の村長成立までの間、村に寄り添いながら農業も学び、その後にはササラでの統治者学習をして、イーサンクとピカナからその心を学んだ。

 これで彼は戦闘だけじゃなく、内政面においてもここで成長しただろう。

 これも、全てはジークの狙い通り。

 ジークは彼を超一流の統治者兼指揮官として育てようとしていたのだ。

 彼に辺境伯の地位が与えられた場合に、その先もやっていけるような知識を与えたかったという事だ。

 優しい彼にこそ相応しい地位を。

 今のジークの目標は、フュンを我が妹に相応しい立派な統治者にする事だ。


 

 「いやあ。ラメンテに来ましたね……久しぶりですね」

 

 フュンはジークと共にラメンテに入った。

 テースト山の中腹にあるラメンテ。 

 そこは修行の場としては、おそらく大陸でもトップクラス。

 ミランダが集めた荒くれ者どもの修練施設は、生きる意志をしっかり持たないと、生きていけないような地獄の特訓場である。


 「で、殿下! ご無事でありましたか・・・よかったです。シーラ村の・・・話は聞いておりましたぞ・・心配して・・・おりま・・した」

 

 と言っているゼファーの様子がおかしい。疲れ果てた表情とボロボロの体を引きずってフュンのそばで跪いた。


 「ええ!? ど、どういうことですか! え、なんでこんなにボロボロなの!?」

 

 フュンはすぐにゼファーの体を心配する。

 その疲れ具合、肩に手を置いても分かる。

 筋肉が痙攣しかけている。


 「だ。大丈夫であります。ボロボロではありません」


 と言ったゼファーの服は引きちぎれている。

 上半身はほぼ裸で、下半身は膝や太ももの部分の服が千切れている。

 真冬になっている季節にその格好はない。


 「ど、どこが!? どの辺が大丈夫なのでしょうか。明らかに疲労困憊じゃありませんか」

 「なんのこれしき。まだ大丈夫な方であります」


 と言ったゼファーの普段の様子は、立ち上がる気力すら湧かないので、現に今の状態はいつもより良いのであった。


 「……これは、なんたることで。あれ?」

  

 雪が降り積もっているラメンテで、青と赤の後ろ髪が目立つ。

 彼らフュンの影は地面にうつ伏せに倒れていた。

 行き倒れのような二人の手は微かに震えている。


 「で‥殿下」「……およよ」

 「ニール!? ルージュ!」


 息が弱い。死にかけの呼吸だ。


 「…げ、元気?」「・・・だ大丈夫?」

 「それは君たちの方だよ。どうしてこんなにボロボロなの」


 フュンが二人を心配すると、後ろから低い声がした。


 「よお。フュン。ついに来たか!」

 「お・・・お元気そうで・・・よ、よかったです。王子・・・おひさし・・・ぶりです」

 「え? ええええ」

 

 ザイオンの肩に担がれながら挨拶をしたミシェル。

 彼女もまた死にかけの状態であった。 


 「なんで。ミシェルさんまで!?」

 「どわああああああああ」


 フュンの足元までカゲロイが吹き飛んできた。

 彼の体には小さな刀傷が無数にある。


 「カゲロイさん!?」

 「・・・お。フュンか・・・来たんだな。今日だったのか・・・」

 「か……カゲロイさんもボロボロだ」

 「フュン。来たのぞ。ようやくぞな」


 サブロウの両手の指にはそれぞれクナイが挟まっている。

 六本は持っていた。

 

 「逃げろ……サブロウに殺されるぞ・・・あ」


 カゲロイはそう言い残して倒れた。

 

 「ええええ。どういうこと。皆さん、大丈夫ですか。治療します」

 「ああ。いいんだよ。久しぶりだな。フュン」

 「エリナさん!? あれ、誰ですかそちらの方は」


 エリナの右手におさまっている女性の首がうな垂れて体もぐったりしている。


 「ん。こいつか。こいつは、クソ生意気女さ」


 エリナがその女性を持ち上げた。


 「そういうこと。マジで生意気だもんな。ナハハハ」


 ミランダもこの輪の中に来たが、気になるのはエリナの手の中にいる女性。

 空色のセミロングの髪をポニーテールにまとめている女性は息も絶え絶えである。


 「・・・あ、あんたが殿下ね・・・ゼファーがいつもうるさく言ってくる・・・噂に聞く王子様ね・・・なんだ。思った以上に優男そうじゃない・・・ぐはっ」

 

 女性は血を吐いた。


 「リアリス。貴様。殿下に無礼だぞ」

 「はっ。あんたも限界そうじゃない。ゼファー」

 「私はまだ動ける。貴様はもう指一本も動かせないだろ。私の勝ちだ」

 「はいはい。そういうことにしときましょ。ぐはっ」


 再び血を吐いた。

 口の中が切れているようで、血を定期的に吐き出さないといけないようだ。


 「ああ、これは駄目ですよ。エリナさん。ミラ先生。彼女をこんな風にしたのはあなたたちですね」

 「あ? こいつはまだまだなんだよ。もっと鍛えねえとよ」

 「ん? そうだぞ。強くするにゃしょうがないことなのさ」

 

 エリナとミランダの意見がほぼ一緒過ぎて可哀想だとフュンは思った。


 「駄目です。女性の顔に傷がつくのはいけません。体もいけませんが顔はもっといけません。その点、ザイオンさんはそこを配慮してくれていますよ。ミシェルさんの顔は傷がありませんから。ほら。この方を僕に貸してください」

 「んにゃ!? 甘いぞフュン。これくらい屁でもねえ」

 「それはミラ先生の考えです! 彼女はこの傷をどう考えているかはわかりませんでしょ。ということで、傷を癒しますので場所を貸してください。いいですか!」

 「あ。ああ。しゃあないな。お前は頑固だからな。いいよ。場所は貸してやる。ゼファー。フュンを案内しろ」

 「わ、わかりました先生」


 ゼファーの導きのまま、ボロボロ軍団はフュンと共に、ラメンテの休息所に向かった。


 「大丈夫ですか。ええっとリアリスさんですね」


 フュンはまず顔に怪我があるリアリスから治療をする。

 彼女の皮膚の様子を見る。


 「・・・うん・・ありがと・・・」


 まじまじと男性に顔を見られたことのないリアリスは照れた。


 「ええ。まずは癒しましょう。傷は深くないですよ。綺麗に治します」


 休息所に入るとすぐに治療をするフュン。

 お得意の傷薬を使って彼女の肌に塗っていく。


 「うん。あなたはもったいないですよ。ケアは常にした方がいい。あなたは地の肌が綺麗ですからね。あとでクリームもあげますからね」

 「え?・・・あたしが? 綺麗??」

 「ええ。あなたはとても綺麗な方ですよ。はい。これでおしまい。傷に塗った薬は取らないでくださいね」

 「え、うん・・・あたしが綺麗!?」


 信じられないとずっと言い続けるリアリスをおいて、フュンは次に向かう。


 「それじゃ次はミシェルさん」

 「・・・かたじけない。王子」

 「これくらいのことで謝らなくてもいいのです。それにミシェルさんの体の傷も深くないので簡単に治せます。このまま、これを使っていきますからね。あとでミシェルさんにもクリームをあげますよ。村での量産も始まりましたから在庫も多くあります。遠慮せずに使ってくださいね。あははは」


 フュンはいつものように治療をする。

 皆の傷具合が一緒なので、まずは女性から治療を行ったようだ。

 

 一段落して、一同はフュンを円の北に置いて座った。


 「ふぅ。皆さん。お久しぶりですね。無茶な特訓を重ねたようで、ご苦労様です」


 フュンは頭を下げる。


 「殿下。お久しぶりであります。ご無事でなによりでございます」

 「堅苦しいですね。ゼファー殿。僕らは友人でしょ。何もそこまで畏まらなくても」

 「いえ、殿下。それは失礼というもの」

 

 はぁと深いため息をついていると、フュンの頭の上に青がくっついて、背中には赤がくっついた。

 ペタペタと動くのは双子である。


 「殿下」「元気だった?」

 「ええ。元気でしたよ。ニールとルージュは」 

 「元気!」「およよ」

 「そうですか。元気でしたか」


 フュンは自分の体の周りを、二人がいつものように這いずり回っていても気にもしない。

 

 「王子。こちらの手当てありがとうございます」 


 ミシェルが腕の包帯を見せて、頭を下げた。


 「・・・久しぶりだぜ。お前は大きくなった気がするよ。だいぶさ」


 カゲロイも同様に頭を下げる。


 「ええ。お二人ともお久しぶりです。それで後はこちらのリアリスさんとは……僕は初めましてですね。フュンです。よろしくお願いします」 

 「え・・・うん。よろしく」


 丁寧なあいさつにリアリスは困った。

 里にはいないタイプの人間であるからだ。


 「リアリス。貴様。殿下に失礼だぞ」

 「え? なんであんたにそんなこと言われなきゃならないのよ」

 「殿下、こいつは生意気女なんです。気になさらずに。申し訳ありません、失礼で!」

 「うっさいわね。あんたは。堅物男よ」

 「なんだと!」


 二人が喧嘩し始めるとフュンは笑った。


 「あははは。お二人は仲が良いのですね。よかったです。ゼファー殿は誰かと友達にならないのかと思ってましたからね。いやぁ、よかったよかった。うんうん」

 「友達ではありません」「友達じゃないわ。こんな奴」

 

 二人は同時に否定した。


 「あははは。息ピッタリ!」


 フュンは笑いながら指を指した。

 二人ともムスッとした顔をしてフュンを見る。


 「まあまあ。そんなに怒らないで。実際に息もピッタリなのですよ。はい、では、皆さんも訓練を頑張っていたということで、僕もこれから頑張りますよ。今日からここで修行です。みなさん、よろしくお願いします」


 フュンが皆に頭を下げると。


 「殿下・・・」「王子」

 「「「よろしくお願いします」」」

 

 大切な仲間たちはフュンと共に成長をしていくのである。

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