吹雪の国

国芳九十九

第1話 シュネ―クランツ

西暦1305年・カシマ―ル暦39年・七月末期・夏

代々剣王騎士団の長を務める、ヴァ―ルハイト家の現当主、ヴァ―ルハイト・エーデル・グライドに三人目の子で、次男、「ヴァ―ルハイト・エーデル・ジーク」が生まれた。


西暦1313年・カシマ―ル暦47年・八月初期・夏

私は4歳の頃から魔道書を読み続け、多数の書物を読破した。

先日、私は好奇心で古代の魔道書が保管された、地下の禁書保管室に侵入し、古代魔術を読んでいた。だが、私の探求心は満たされず、古代の魔道書がある更に奥の部屋の鍵を開け、禁じられた書物に誘われる様に、一つの禁書を開けた。すると、人の形をした猛々しい炎の魔人が現れた。その魔人は、私に「愚かな子供よ!! 吾輩の封印を解いた事、後悔するが良い!!」と叫び、私に拳を振るった。咄嗟に子供向けの魔導杖を取り出し、防御魔術を発動させ、距離を取り、六段階の階級の中で、三番目の上級魔術、五大元素の一つ、エーテルの魔術である「瑞雲の槍」《エトワールランス》を魔人に向けて放った。魔人は右手に炎を吐き、槍へと変えて、瑞雲の槍に放ち、二つの槍は衝突し、爆発した。

煙で視界が九分九厘遮られている。その煙を割き、魔人が私の防御魔術を容易く破壊し、それと同時に私は吹き飛ばされた。骨が何本か折れ、立ち上がるのもやっとな状態で立ち上がると、魔人に首を掴まれ、持ち上げられた。この炎……、熱いがやけどはしない、不思議な炎だ。

魔人は「小僧でありながら、上級の魔術を扱い、古代魔術を記憶するとは、この時代が特殊なのか? それとも、お前が特殊か? まぁよい。お前には興味が出来た。吾輩の力をくれてやる」そう云って、とてつもない痛みが、私の首を這い、体中を這った。痛みが這い続け、最終的に心臓に集まり、心臓のあたりに、何かが刻まれた気がする。

痛みが消えると、魔人は私を手放し、「未来のお前が、実に楽しみだ」と云い、少しだけ笑って、出入り口の階段に向かった。痛みに悶え、薄れゆく意識の中で、魔人を朧げな視界の中で、瞳が姿を追った。魔人の先に、数十人の人が居る。あれは剣王騎士団のみんなだ。父上と騎士。父上は剣を抜き、剣王流奥義「焔斬り」を放った。魔人は避けたが、炎の左腕を失った。魔人は笑い、「そうかそうか。奴の業は今も受け継がれておったか!」と云い、父上が「貴様があの焔の魔人だな?」と云った。魔人は答える様に「左様左様。吾輩が焔の魔人なり」と云い、続けて「お前のその風格。奴、いや、剣王! 「アルコバーレ」の末裔であろう? その瞳、奴に似ておる。吾輩を殺し、今やこの魔力! そして魂のみにしたあやつ!! 待っておれ、お前、いや、ヴァ―ルハイトだったか? ヴァ―ルハイト家は吾輩が滅ぼす。そして、奴の業、剣王流として受け継がれているその業を全てを滅ぼす。待つが良い……。クックックック……。ハッハッハッハッハ…ッ!!」と云い終わると、炎の体が消え去った所まで見ていたが、その先は意識を失い、気が付けば私の部屋にいた。

今は夕刻だな……と直覚した。上半身を起こし、周りを見渡した。誰も居ない。だが、すぐそこにあるロッキングチェアが少しだけ揺れている。恐らく少し前まで座っていたのだろう。と思い思いで、スリッパを履き、絹のバスローブの様な服の底を少し引きずりながら、扉の方に歩き、頑丈な木の扉を引いて、深紅のカーペットが敷かれた木造の廊下に出た。眼前にはササンガラスの窓。右には誰も居ない。左には、私が「じぃ」と呼ぶ、初老の執事長がこちらに向かって歩き、私が左を見てから、四歩程度歩くと、私にようやく気が付いた。じぃは驚いた素振りを見せ、私に近づき、片膝を床に押し当て、「ジーク様、お目覚めになったのでございますね」と云い、私は「私はどれほど眠っていた?」と聞いた。

執事長「二週間ほど、眠っておられました。そして、時に、苦しむ表情を見せながら、眠っておられました」

私「二週間か……」

執事長は「左様左様……」と頷きながら云い、続けて「グライド様をお呼びに行きますが、ジーク様はどういたしましょうか」と聞いた。

私「私は、部屋で待っている」

そう云って、部屋に戻った。

ローブを脱ぎ、鏡を見た。私の心臓のあたりに、性質は魔導印に似ているが、魔導印とは違う文字の様な物が円を描き、刻まれていた。これは恐らくあの魔人の仕業だろう。確か「力をくれてやる」と云っていた。深呼吸し、目を瞑った。体から、熱い魔力が感じる。特に心臓から出ている。

扉が三回ノックされ、ローブを着なおし、扉を開けた。

その後、心配され、叱られ、家庭教師を私につける事が決まった。

一週間後

「ラーシェ・ネーベル」と云う、平民の出だが、素晴らしい魔術の才を持つ、女性の賢王級魔道士が家庭教師としてやって来た。(身長159センチ。体は細い方。青い瞳の髪は砂色のセミロング。服装は緑の魔力結晶が肩の所に填められ、少しの装飾がある灰色のローブ)

ネーベル「貴方の事は、貴族関係無しに扱って良い。とグライド様から云われてるから」

私「はい!」

ネーベル「貴方、両目が千里眼なのね」

私「え?」

ネーベル「もしかして、魔眼を持っている事を知らなかったなんて……。まぁ良いわ。魔眼は私の専門外だから、知りたかったら、自分で調べて」

私「わ、分かりました」

その後、夕刻まで、授業が続いた。

四ヶ月後・1313年・47年・十二月・冬末期

私は帝国で毎年ある、召喚祭と云う、八歳になれば絶対に行く事になる祭り的な物に行く。召喚祭では、一生の相棒を召喚する儀式を行う。

儀式を行う神殿に入り、私は最後に召喚するようだ。十人ほどが召喚し、私の番が回った。魔法陣が刻まれた、少し盛り上がった円形床の前に跪き、魔力を送ると、魔法陣から、稲妻が周囲を攻撃し、魔法陣の中央が引き裂かれて、腕が一本現れた。おかしい……。先の人たちを見ていたが、このような物ではなかった。と思いながら、見ていると、魔法陣が爆発し、私は吹き飛ばされた。魔法陣の方を見ると、そこには、紫電を放出する、細身の鋼の鎧……? が立って居た。鎧は、190センチほどあり、細身で、鋼の兜(わかりやすく云えばスパルタの兜)を被り、目の部分以外が漆黒で何も見えず、純白の瞳が周囲を見渡してる。傷だらけの、角々している鋼の鎧を着ている。鎧は「我はガイスト・クリーガーである」と云い、私の前に跪いた。これがクリーガーとの出会いであった。

二ヵ月後・1314年・48年・二月・初春

雪が綾波と化し、人々を襲う中、深淵の渓谷と云う恐怖の場所のすぐ近くにある崖道を、雪に抗いながらを走る馬車に私は先生(ネーベル)と一緒に乗っている。

私「雪が酷いですね」

ネーベル「試験をやるにはちょうど良いです」

私は右側にある、雪が張り付き、あまり見えない窓越しの外を見た。山々が深淵の渓谷を囲む様に、中央に渓谷があり、その周りに深淵に蝕まれている木が、数十本立って居る。

そろそろ崖道を抜ける所で、左にある山の方から、とてつもない轟音がした。音が聞こえてから、刹那的な速度で、馬車が吹き飛ばされ、私は渓谷に入り込んでしまった。

瞼を開くと、そこは、闇で全ての光が届かず、体が水の様な物で体を包まれ、ゆらりゆらりと体が沈んでいた。体は沈んでいるが、溺れてはいない。

一分ほどだろうか、沈み続けて、ようやく大量の水から抜け出せた。あたり一面は、岩のみで形成された、一見洞窟の様な場所であるが、一定の明るさが存在する。そして、周囲には、多数の魔獣が牛歩で近寄り、唸り声をあげている。私は立ち上がり、魔導杖を握って、「瑞雲の槍」を一匹の魔獣に放った。だが、それは魔獣には大して効かず、無に等しかった。聞いた事がある。深淵によって、魔獣の強さが通常の数倍になっているのだと。

私はあきらめ半分で、賢王級エーテル広範囲魔術「月光の波紋」《ルーナ・カエルム》の詠唱を途中まで云ったが、突如、エストックを持った、軽装の鎧を着て、160センチ強の人物が「かような魔術では、倒せたとしても、気絶して死んでしまうよ」と私に云った。私は驚き、詠唱が止まり、その人物はエストックに魔力を纏わせて、周囲に斬撃を放った。斬撃は周囲にいた魔獣が全て真っ二つになり、死んでいた。

その人物は、兜を脱ぎ、頭を振って、長い白髪が揺らいだ。女性であった。

女性「私の名前は「グリザイユ・エクリプス」ここから魔獣が出ないようにしている」

私「私はヴァ―ルハイト・エーデル・ジークと云います。恐らく雪崩でここに入り込んでしまいました」

エクリプス「君は家に帰りたいか? それとも、帰りたくないか? 帰りたいのであれば、私に付いて来るんだ」

エクリプスと名乗った女性は、兜をまた被り、歩き出した。私はエクリプスに付いて行った。



一口解説

魔道士の階級

初級<中級<上級<賢王<魔王<神話の順番で魔道士・魔術の階級の指標となっている。神話級魔術はあるが、神話級の魔道士が居た事は無く、複数人の魔道士が同時に詠唱し、大量の魔力を使用することで神話級が使える。


一口解説

戦士の階級

初級<中級<上級<獅子王<戦王<武神の順番が強さの指標となる。武神級の剣聖が一人、十分間だけ存在した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

吹雪の国 国芳九十九 @Kabotya1219

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ