第4話

 『第1能力:武器庫』。

 俺の記憶上に存在する武器を任意の数現実に出現させる、『顕現系』の能力。

 俺の記憶に存在している武器であれば、現実のものでなくとも顕現させることはできるが、魔剣や聖剣と呼ばれる武器は、その剣に宿る『呪い』や『祝福』を正確に把握していることが条件である。

 銃器に関しても同様で、構造や仕組みを把握していないと顕現ができない。


「なるほど、顕現系か」

「……」

「顕現している武器の種類を見るに、練度は使用者に大きく依存する、か?」

「その通りだ。ここに顕現している武器の大半は、俺の練度でも扱いきれるものだけだ」

「……自分で言っちまうのかよ、それ」

「言って何か損のある能力でもないからな。隠しているつもりもないし」


 近くに刺さっている槍を引き抜いて、リーダー格の男に向けて構える。


「誰に向けて武器構えてるんだてめぇ!」

「……」


 背後から迫ってきていたもう一人の男に気が付いていた俺は、その場で槍を手放し、瞬時に背後を取る。

 その近くにあらかじめ顕現させておいた剣を抜き、振り下ろす。


「はぁッ!」

「ギャッ?!」


 振り下ろされた剣は、男の足を切り落とす。


「『術式付与:灼熱』」

「あ、ぎ、ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


 赤くなった刃を傷口に当て、止血させる。

 男が情けなく悲鳴を上げるが、俺はその手を止めることなく淡々と止血させる。


「さて、続けようか」

「野郎……ッ!」

「……ひとつ、いいか?」

「な、なんだ!」


 俺がそう問いかけると、リーダーの男がそう緊張した様子で答える。


「お前たちはどうして、こんなテロを起こしたんだ?」

「……てめえに言う必要があるのかよ」

「ないな」


 きっぱりと、男たちからの問いかけに答える。

 この男たちの様子を見るに、今回が初めてではないはずだ。少なくとも、今回と同じような手口で数十人から数百人は殺めているはずだ。

 だが、こいつらがどう答えようが、俺の知ったことではない。


「心底どうでもいいが、一応聞くだけ聞くのが俺のポリシーでな」

「イカれてんな、お前……」

「ははは。……それは、おまえたちもそうだろう?」

「―――ッ」

「ま、なんでもいいや。さぁ、続けよう」


 地面を蹴り、あっという間に彼らとの距離を詰め、剣を振るう。

 その剣閃は、最初の男に放った斬撃のように、命を刈り取らない斬撃ではなく。明確な殺意を込めたものだ。


「ッ!」


 間一髪のところでリーダーの男が斬撃を回避する。

 しかし、息継ぐ暇もなく、俺は再び剣を振るう。


「勘がいいな」

「……てめぇが明らかに殺す意思を見せてるからな」


 悟らせないようにはしているのだが、やはり多少なりとも感情が表に出てしまうあたり、自分がまだまだ未熟であるということを認識させられる。

 しかし、その殺意を感じ取ることができる辺り、この男も数多の死線を潜り抜けてきたのだろう。


—――まぁ、関係ないけどな。


「ふ—――ッ」


 ギアをまた一つ上げ、先ほどよりも強く地面を蹴る。

 男がハッとした表情を見せ、剣を構えるがもう遅かった。


「じゃあな。もしも来世ってのがあるのなら、次はちゃんとまともな人生を送るんだな」


 その剣は、奴の首を容易く斬り落とす。

 首が地面を転がって、足を失った手下のもとに近づいていく。体は、力なく膝を着いた後、そのまま地面に倒れ伏す。


「ひっ……!」


—――リーダーを殺されて戦意喪失、か。


 無事だった2人の男は、その光景を目の当たりにして、武器を落として失禁してしまっている。

 あの様子では戦うことはできないだろうと判断した俺は、瞬時に背後を取り、彼らの意識を瞬時に刈り取る。


「てめぇ……ッ!」

「……」

「こっちに来るんじゃねぇ!殺すぞ!」


 足を失い、立ち上がることのできない男が銃をこちらに向けてくる。

 しかし、その銃口は震えており、照準を合わせることすらできていない。


「威勢だけはいいな。敗者のくせに」

「うるせぇ!まだ生きてるんだ!次こそは、必ず—――ッ!」

「次なんてねぇよ」


 男の首を持ちあげて、意識を刈り取るべく、力を込める。


「敗者に次はない。お前も、あいつらにも」


 俺がそう言い終わったころには、男の意識はすでになくなっていた。


「……これで、終わりか」


 辺りを見回すが、気絶させた男たちを除けば、ここにあるのは死体しかない。

 安全になったことを確認し、イヤホンの電源を入れる。


「肇さん。終わりました」

『……そうか。よかったよ』

「俺も現場を離れます。あとのことは任せましたよ」

『あぁ。任せてくれたまえ』

「それでは。失礼します」

『あぁ、ちょっと待ってくれ』


 俺がそう言って通話を切ろうとしたとき、肇さんに呼び止められる。


「どうしたんですか?」

『ありがとう。君のおかげで、あの子も九龍くんも生存できた』

「……礼なんて、いりませんよ」


 俺はそう言って、今度こそ通話を切って、イヤホンの電源を落とし、その場で欠片も残さずに破壊する。


「……」


 そして、俺はその場から立ち去るのであった。


—――――


 時刻は夕方。

 教会お抱えの病院の、その病室の前に、俺は立っていた。

 表札には、『十六夜 月夜』の名前が刻まれていた。


「はぁ。気まずいけど仕方ないか」


 ここに来たのは、肇さんに月夜さんの見舞いと、その品と伝言を渡すためなのだが……。

 昨日あんなことがあった手前、彼女と面と向かって会うのは、少しだけ気まずい。

 しかし、ここまで来ておいてそんな泣き言を言うのは違うので、病室の扉をノックする。


『どうぞ』


 中からそう返事が返ってきたので、扉を開けて中に入る。


「って、篝……?!」

「あなた……!」


 俺が病室に入るなり、九龍は目を丸くして驚き、月夜さんは睨みつけてくる。


「起きてたのならよかった。具合はどうだい?」


 ベッドに近づいて、近くの机に見舞いの品を置く。


「……具合は大分マシです。魔力補給はできたので」

「……そうか。ならよかった」


 相変わらず警戒心剝き出しのままの返答だったが、答えてくれるだけまだマシだろう。


「……そんなものまで持ってきて、なんのつもりですか」

「……」

「あなたには、私の見舞いに来る理由なんてないはずです。なのに、なぜ来たんですか」

「……なんのつもり、か」


 その言葉に込められていたのは、明確な拒絶。

 しかし、俺はそれに気に留めることなく話を進める。


「伝言を伝えに来ただけだよ。それを伝えたらすぐに帰るさ」

「……伝言?」

「肇さんからだ」

「……」

「『しばらく仕事はお休みです。なので今はしっかり体を休めてください』。だとよ」

「……」


 月夜さんが、ほんの一瞬だけ、寂しそうな表情を浮かべる。

 だから来たくなかったんだ。

 肇さんが休む暇もないくらい多忙な人だということは、痛いくらい理解している。

 それでも、家族との時間くらいは、もっと取ってほしいと、そう思ってしまうのだ。


「月夜さん……」

「言わないでください。こんなのはいつものことなんですから」

「……そうか」

「用件が済んだのならもう出て行ってください。……私は、あなたの顔なんて見たくないんですから」

「……分かった。邪魔したね」


 そう言って病室から出ていくため、出口に向かって歩き始める。

 伝えるべきことは伝えたし、渡すべきものは渡したのだ。もう、この場にいてもなにもないだろう。


「……今日は、ありがとうございました。助けていただいて……」


 そんな、少しだけ気まずそうな声色で、彼女がそう言ったのを聞かなかったふりをして、病室から立ち去るのであった。

 

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未定 翊紫翔 @nahatomu

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