9月某日

私には難病がある。

1年かけてわかったことは

薬が合いにくい遺伝子型でもあること。


数年前に子どもができにくい体であることも

知らされてはいた。


そんな私のとこにきた

付き合ってもいないあなたとの小さい命。


しばらく続いている不正出血が

なんとなく嫌な予感を与えてくる。


-


あなたは喜んでくれるのだろうか、

どんな風に報告したらいいんだろうか、

あなたはそのとき、他の支店に1週間出張だった

毎朝毎晩電話はしてくれていたけど

言うタイミングが見つからなかった、



-


ちょうど前の週に晩御飯を一緒に食べていた時


“もし今子どもができて、2人の命どちらかを選択しないといけないなら、自分は迷うことなく君を選ぶ”


そう少し目をうるませながら言っていた。


私が体に入れている薬は

妊娠に適していない。


難病が寛解してない私の体にとって

妊娠そもそもが耐えられるかも定かでは無い。


そんな話をしたすぐのことだった。


-


とりあえず病院に行こう。

午後半休をとってかかりつけの婦人科に行った。


検査薬で陽性が出ていること、

ずっと出血が続いていること、


先生は

“ちょっと上手くいかなくなっちゃったみたいだね、”


そう一言伝えてくれた。


わかってた、


私がもう少し検査薬を使うのが遅かったら

気づかずに済んだ。

でも、わかってた、

わからないのはあなたの反応だけだった。


-


夜ベッドで泣き続けながら

あなたの電話を待った。


画面にあなたの名前が出ると

こんなにも幸せな気持ちになるんだと

そのときと、これを残してる今が

1番感じる。


あなたはなんとなくわかっていたのだと

そのとき教えてくれた。


“ごめん”

それしか出ない私にあなたは


“今日、今のアパートじゃ狭いと思って、もっと広いとこ探してたよ。嬉しいことも辛こともこれからはずっと一緒だよ。”


思ってもいなかった言葉が返ってきた。


“今日一旦帰るから、一緒にいよう”


そう言ってわざわざ

帰ってきてくれたあなた。


まだ付き合ってもいない私たちは

実感もないまま失った命にただ泣いた。

実際泣いていたのは私だけだけど

泣く私をひたすらあなたは抱きしめた。


そんな9月初めの出来事。


その記憶を忘れないように

私は左肩の痛みを金魚と花に変えた。


付き合うという形をとってくれないあなた、

この関係に愛なんてない、ただの遊びだ、

そう思って不安ばかり募った。


でも今ならなんとなく、

不器用なあなたの優しさと

毎日電話をしたがるあなたの愛が伝わってくる。


自分の過去の傷ばっかり押し付けないで

まだ始まる前のこのときから

あなたの心の奥の思いにも

もっと問いかけていればと今は思う。


きっと違う始まりと今があったはず。


でも私たちなりに全ての幸せと辛さに

愛があった。


なんでこのトラウマと不安をわかってくれないのかと、悟ってほしい私は何度あなたの声を詰まらせただろう。


別にあなたに、私の過去の傷を背負う責任なんて無かったのに。



-


そんなことを感じながら

会えなくなってから1ヶ月と少しが経つ今日のこの頃。


今日もあなたの声を思い出して

笑顔を思い出して、

あなたが幸せであるように願う。

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日のあなたとわたし @goldfish573711

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