第111話 どうせみんなコメディ要員
「ぴいいっ!」
「ぱううっ!」
ランとテラ。
どちらもまだ幼い竜だが、一応、ランは姉、テラは弟という扱いになるだろうか。
種族的な話ではなく、『家族』という意味で。
……ランとテラがキュウビを兄と思うかは不明だが。
ランは、アグリが座っているときは、スキニージーンズに包まれた太ももに座り、アグリが歩いているときは、頭の上に移動している。
テラは、胸に居たり首に抱き着いていたりと、すっかりアグリのことを母親の様に思っているようだ。
……もちろん、テラも、アグリが男であることは知っている。
アグリ、キュウビ、ラン、テラでお風呂に入った時、テラはアグリの『アレ』を見て、世界の法則が乱れたような顔になったが、その傍でランが深く頷いたので、おそらくこの
「良い感じに『追っ払った』と言えるかな?」
「俺様はそう思うぜ。とりあえずしばらくの間、ラトベルトとその『宗主』の組織が、この王都で活動することはないはずだ」
半袖シャツとスキニージーンズ、『普段着』のアグリが、書類を手に状況を判断する。
ラトベルトを筆頭に、『鬼』たちが暗躍したこの王都の騒動も、とりあえず一段落だ。
結局のところ、アグリはその『容姿』……そう、キュウビの努力の結晶によって全ての計画を粉々に粉砕したと言える。
「姉貴の外見がキュウビさんのアレコレってのは聞いたことがあるけど、一体何が関わってんだろうな」
「姉様はダンジョンの最奥まで行けますし、容姿をよくする『何か』があったのでしょうね」
「『何か』って何だ?」
「アティカスさんは知らないと思うけど、安全エリアの中でしか採取できず、使えないアイテムも中にはあるぞ」
「それが原因ってのは……ありえるな。姉貴はアイテムなら共有することはあるけど、安全エリアの施設は基本話さないし」
サイラス、ユキメ、アティカス、オーソンの四人で、アグリの外見について話しているわけだが、サイラスが頷いたように、十分考えられる話である。
ダンジョンと言うのは千差万別であり、中には『容姿』に関わるダンジョンがあったとしても不思議ではない。
ただし、その手のダンジョンはそもそも一般的には発見されていないか、秘匿されているはず。
強さというのは、示すために暴力が絡むために場所も限られるが、『容姿』というのは、初見で、距離に関係なく発揮される『力』だからだ。
その影響で強くなっている可能性はある上に、『人間社会のバランスを考慮しない美しさ』を、ダンジョンのラスボスを倒すことで得られる可能性は十分にある。
「ランちゃん。テラちゃん。アイスキャンディですよ」
「ぴいいっ♪」
「ぱうぅ……」
「あれ、テラちゃんは反応が弱いですね」
「ランちゃんほどパクパク食べられないかも。氷属性ではないですし」
「じゃあ何でしょうね」
「ぱううっ!」
「なんでサイラスさんが持ってるスキットルを見てるんです?」
「幼いんですからお酒は駄目ですよ」
ブルマスのポプラとセラフィナだが、女性陣で変態レベルが低いので、ランはテラに『アイツらは問題ない』と教えている。
ちなみに、ランとテラは、アグリ一人と接するときは身体に触れたがるが、他の女性が近づくとそちらに近づくことが多くなった。
アグリが『絶対的な最優先』ではなくなったということであり、まだ親離れは出来ていないが、それでも十分な進歩である。
「しかし、アレだな。酒場の相手をするのが部外者だからと不満はあったそうだが、実際に『女神』を目にすると、『後でキャバクラに行かない方が良いかも』とすら思えるな。行けたとしても短い方が良いかもしれん」
「まっ、言い分は理解できるわな。アタシもかいちょーの女神姿はびっくりしたし、演技力がものすごく高くなってる。キャバクラは楽しいかもしれねえけど、一度ハマったらヤバいかもな」
マサミツとベラルダは、『いずれアンストの地下に出来るであろうキャバクラ』に関する話をしているようだ。
アンストのどこかの地下でキャバクラが開かれて、そこでアグリがキャバ嬢になるかもしれない。という話がある。
これによって、狐組の中で性癖の活火山がグッツグツのボッコボコに煮えたぎっており、いつ噴火してもおかしくなかった。
しかし、実際に『女神』を見て、呑まれると、ハマってしまうと、ヤバい可能性を考えている様子。
「私は女神の実物が見れなかったんスよね。キャバクラができたらとりあえず一日独占したいっスよ」
「やめといた方がいいぞ」
「そうですね。馬鹿ではないが手遅れが狐組ですけど、馬鹿で手遅れになりかねないので」
「……それはそうっスけど、踏み込みたいんスよ!」
「いやまぁ、姉御も調整はしてくれると思うけどさ……」
エレノアが恍惚とした表情で言うと、べレグとデュリオが軽く止めた。
エレノアはミニスカスーツ美少女なので暴走しても今さらである。とはいえ、支援部担当課の課長であるべレグと、監査部担当班の班長であるデュリオから見ると、『本部職員の暴走』はめんどくさいことこの上ないのだ。
「……なーんだろ。なんとなく、このまま続きそうって、そんな気がするよね」
「はっはっは! 俺様もそう思うぜ。ただ……ラトベルトたちは追っ払ったし、ちょっとゆっくりできそうだ。羽を伸ばすにはちょうどいいと思うぜ」
「ふーん……海にでも行く?」
その呟きに、全員……ランとテラも含め、全ての目がアグリの方を向いた。
「そりゃいい案だぜ!」
「「「よっしゃあああああああああああああああああああっ!」」」
キュウビが頷いて、元気なメンバーが絶叫した。
結局……そう、結局、こうなる。
アグリは美しく、そして、美しい存在がセクシャリティを開放する環境を提示すると、みんな元気になるのだ。
馬鹿と言うなかれ。
これが、フォックス・ホールディングスの、紛れもない日常である。
★★★
【後書き】
この第111話で、この作品は『完結設定』となります。
もちろん、まだ、語っていない設定、回収していないこともあります。
なんなら、
★
その数日後、冒険者協会本部から、世界が驚愕する公式発表が行われた。
協会本部地下に存在する『大監獄』より。
世界中の貴族が被害にあったとされる『大泥棒』の、出所である。
★
みたいな形で続けることも不可能ではないんですが、もともと三章までしか大枠を考えていなかったので、かなり苦しくなるからです。
そのため、これを持って『完結設定』……もっと言えば『更新停止』になります。
ふと、何かのタイミングで復活するかもしれませんが、正直に言います、『今は無理』です。
最後に、ここまでご愛読された方々、ありがとうございました。
転生剣士は九尾の狐と躍進中 ~大手ギルドを隠れ蓑に『集中力強化』を鍛えていた少年。不要だと匿名部署を解体されたので、表舞台に出ます。集中力が切れた地獄の職場よ。どうなっても知らんからな~ レルクス @Rerux
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