D.誓いの証

とまぁ、あの二人はどっちもなかなかこゆーい自己紹介をしてくれちゃったんですね〜!どうも、担任の四鹿でふ。ぱふぱふ!噛んだわけじゃないですよ!わざとです。(汗)

それはさておき、私はあの二人がすごく気になりました。自己紹介が終わって、係と委員会を決めたのですが、二人とも保健委員会と黒板係で一緒になりました。というよりあれは、片方が手を挙げた結果二人以外の人が手を挙げられなくなって結果的にコンビになってしまったという感じでしたね〜。

学校が終わって、何人かにあだ名の『鹿ちゃん』って呼んでもらえて気分が良くなった頃合い。しかしあの二人は、何故かクラスに残っていました。

「おふたりとも〜、もう下校時間になっちゃいますよ?」

私は他の生徒たちみんなを返した後、戸締りに来た教室で二人に伝えました。

「あ、四鹿先生!ちょうどよかった、証人になってくれないかい?」

先生相手に敬語を使わないのは、キャラなのか私が童顔短身なせいなのか…後者の場合はふくれます。ぷくーってなります。それはさておき煤ケ谷さん、突然ですね。

「証人って?」

証人というと法廷ドラマでよく聞くくらいしか思いつきませんが、何かあったのでしょうか?

「僕と彼の、交際の証人さ!」

……満面の笑みでした。隣で頭を抱えて机に突っ伏していた志和君とは対照的だったのを覚えています。

「え、えぇ?ちょっと志和君?仲良しだとは思ってたけど手が早すぎない?」

私は、あえて志和君に話を振りました。煤ケ谷ちゃんはちょっと相手にできなさそうだったので。

「…………これは陰謀です……。」

それだけ言って、志和君はゆらゆらと教室を去って行きました。

「…煤ケ谷ちゃん、何をしたんですか。」

真剣な顔で、問い詰めてみます。

「彼に、恋人についての話を振ったんだ。そうしたら、「人付き合いはよく分からん。知人と友人の区別も分からんし、友人と恋人の線引きも分からない。」って言うから、「じゃあ僕と君は恋人かもしれない訳だね。」って言ったら、「挨拶にキスするのはそういう間柄だろう。」って…これって告白だよね?」

…話が見えてきません……。


しばらく事情を聴取したところ、どうやら志和君は先のセリフを嫌味で言ったつもりみたいですが、それを交際の申し入れと捉えた煤ケ谷ちゃんに捲し立てられて、諦めて交際すると言ってしまったようです。煤ケ谷ちゃん、恐ろしい子です。

「校則で不純異性交友は禁止ですからね。」

うちの学校、ファッションとかには緩いですがそういうところはかなり厳しい学校です。校内外に関わらず不純な交友は禁止されています。

「双方の同意の下、先生の保証があればそれは決して不純とは言えないと思ってね。」

「な、なるほど?」

それであの発言ですか。なかなか面白い考えです。ですが、尋ねなければなりません。

「なぜ彼にそこまで固執するのですか?」

彼への彼女の固執は常軌を逸していました。たった1日見ただけでもそう判断できるほどに、彼にべったりとくっついていたのです。

「んー…一目惚れしたから、かな。彼をもっと深く知りたい。彼に近づいて望まれる姿になりたい。その命〔めい〕の下で命〔いのち〕を輝かせたい。そんな想いが、彼を見るだけで溢れ出してくるんだ。」

…重症、ですね。

「初恋ですか?」

「ん〜、まぁそうなるのかな。これが恋なのかはわからないけれど。」

…確かに、彼女の望むものは交際することによって手に入れられる。そして彼はそれを肯定した。その事実だけを見ていれば、彼女の選択は正しいように思います。しかし、それを安易に認めるわけにはいきません。この多感な時期の不安定な少女を、一人の思春期男子に託すのは教育者として許せません。

「ではそうですね、私の前に、誓いの証を持ってきてください。何であっても構いません。二人が誓いの証と思うものです。」

私は、この二人を試すことにしました。


翌日。早朝に学校へ向かう通勤路の途中で、二人に会いました。

「おはよ〜です!元気でっすかー!」

「おはよう先生。元気だよ。」

「……おはようございます。」

志和君がより死にかけてる?!何があったのですか…。

「…昨日のものです。」

彼女が差し出してきたのは、髪の束。

「これは…?」

「彼女の髪です…。」

「へ?」

予想外。というか、この量。相当切ったはずです。なにが、と思って煤ケ谷ちゃんを見れば、昨日のストレートとは打って変わって、ポニーテールになっていました。

「…どういう?」

それとの関連性が思いつきません。何があったのか。

「…俺が悪いんですよ…昨日のこともあるってのに、ポニーテールって軽率に言ったせいで…。」

志和君が死にそうな形相で語り始めます。

内容は、こんな感じでした。まず、志和君の帰宅後しばらくして、家のチャイムが鳴ったそうです。出てみると、煤ケ谷ちゃんがいたと。どうやらつけてきていたようで、出てみると突然、「好きな髪型はなんですか?」と聞かれたそう。なんで、とか、そういうことを言うのが普通ですが、彼は深くは聞かずに、「ポニーテール。」、そう答えたそうです。そして朝、出て来てみれば、なんと煤ケ谷ちゃんがポニーテールで待っていると。そして気付いたそうです。耳の前、もみあげの髪が切られていることに。

「で、それがこの髪と…。」

一方的な覚悟の表示。私は苦い顔をすることしかできません。

「誓いの証を持ってこいって言ったそうですね……彼女に、その真意は伝わりませんよ。」

確かに、二人で話し合ってしっかりと結論を出すことを目的に出したのですが、失敗でした。

「…俺は、別に良いんですよ。男女交際。」

突然、志和君が言い放った言葉に、私はびっくりしました。てっきり、何かしらネガティブな印象を持っているからこその機能の反応だと思っていたからです。

「煤ケ谷とは、確かに気が合います。相性もいい。快活で社交的な人間と、陰険で閉塞的な人間が交わることは、優位な結果を生むと思います。俺は、煤ケ谷に俺の成長を牽引するだけの素養があると感じた。だからこそ、捲し立てられたとはいえ、了承したんです。呆気に取られたところはありましたが、それ自体に悔いはない。でも、この不安定な女子高生は、思慮というものを知らない。長文問題は問題から読んで勘で答えを本文から探し出すタイプの人間です。故に、突拍子もない行動をして、周囲に驚かれる。でも、だからこそ、そこを俺が補ってやるのが、交際ってもんだと思うんです。」

彼はそう言うと、背伸びをして、煤ケ谷ちゃんに向き合って、頬に、口付けを一つ。

きゃー!真っ赤です!お顔隠しちゃいました///そんな平然としないでくださいよ…私がウブみたいじゃないですか…煤ケ谷ちゃんも照れるとかしてくださいよ…。

「…先生、これでいいでしょう?」

頬を触って、その感触を感じている煤ケ谷ちゃん。志和君を見つめて、呆けています。

にしても志和君、ただの押されがち隠キャ男子ではないんですね。

「……いいでしょう。二人の交際を認めます。末永く、お幸せに、ね?だから、行きましょう。」

私は、足早に通勤路を駆け上がっていきます。

「…公衆の面前であそこまでされたらいいっていうしかないじゃないですか////」

こうして私は、二人の誓いの証の、保証人になったのでした。

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僕と君と、俺とお前と、 HerrHirsch @HerrHirsch

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