C.巡り合わせ
僕と彼との出会いは、先生の言う運命によって定められた。僕は、一目見て彼のことを友と認めたけれど、それに他意はない。
僕は、交友の範囲が狭い人間だ。今持っている中学校の同級生の連絡先は、仲良くしていた女友達が三人だけ。彼の形式的というか、真面目を具現化したような行動形式に、どこか僕に似たところを見出していた。彼も、人付き合いは得意ではなさそうだと。
それからはとんとんと言葉を交わして、それから、気が付けば彼の耳元で、ちゅっと小さく舌を鳴らしていた。
やってから気がつく。日本人の、それも異性に、この触れ方はまずいんじゃないだろうか。長く付き合っていた前述の女友達の一人は、アメリカから留学してきたフランクな人だったから、私も彼女の所作を真似て、一度だけ頬にキスをするのが癖になっていた。
「あぁっと、えーと、ごめん。」
慌てふためきながら、僕はなんとか謝罪の言葉を口にした。彼は、なんというか、うん、困ったって感じの顔をしていた。
「…いや、別に気にはしないが。」
が、と付けるからには思うところはあったのだろう。
「ほんと、ごめんね。」
僕は平謝りを繰り返す。両手を合わせて、右目を瞑って、精一杯に申し訳ないという顔をして。
「たっだいま〜!」
いいタイミングで、四鹿先生が帰ってきた。彼はそっと
「気にはしてない。」
と言って、四鹿先生の方を向く。もう少しだけ話していたいような気持ちを抑えて、僕も彼に倣う。
「そっれじゃー待ちに待った自己紹介たーいむっ!」
誰も待ってないんだけどね、と思いながら、僕は大トリを務めることになるであろう自分の紹介文を考え始める。
梓、早兼、安島、新貝、榎平、湯栗、諏訪間…たくさんの人が、自分の過ごしてきた人生を簡潔に説明していく。
「清上くんあっりがとー!じゃ次、志和君!」
四鹿先生が、我が友の名を呼ぶ。僕は頬杖をついて彼を眺めながら、その言葉を心待ちにしている。
「志和、火垂だ。宜しく。」
…彼は、それだけ言って、座った。
「はい!いい自己紹介だね!じゃあ次!」
拍子抜け…というよりは、やっぱり濃い人だと思った。これくらいの人だから、自分は友と直感できたんだろうと。
しばらく紹介が続いて、僕の番。
「最後!トリは煤ケ谷ちゃん!」
席をゆっくりと立ち、髪を梳いて、目をぱっちりと開いて、胸を張り、椅子を机の下に入れて、堂々と、口を開く。
「煤ケ谷不知です。誕生日は4月2日、身長は184cm、スリーサイズは上から101、79、82で、体重は79.8kg、髪は染めていてカラコンも嵌めています。好きなものはきゅうりの浅漬けと女の子。よく面白い人って言われるので、変なことをしても笑っていただけたら幸いです。これから一年間、よろしくお願いします。」
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